ファイアーエムブレム 聖戦の系譜 〜光を宿すもの〜 作:ロンドロ
「………えっ?」
間の抜けた自分の声が静寂を破る。
とんでもないくらいの魔力がある?
嘘だろ。
偉大なる聖戦士の、両親の血を受け継ぎながらどれだけ努力しても魔法が使えないのに。
才能などないのに。
治癒魔法しか使えないこの身に聖戦士の直系にも勝る膨大な魔力が?
「は、ははは…ご冗談を…」
そんなことあるわけがない。
きっと、気の所為だ。
実際、魔力を正確に感じ取ることはほぼ不可能である。ぼんやりとした情報が直感のように脳に送られて来るような曖昧な感覚だ。その為に、どのような魔力量なのかを詳しく比較することは容易ではない。
直系と傍系は埋める事のできない差がある。それは聖遺物の力だけではない。本人の実力であるのだ。
もしかしたらこの子の勘違いかそれとも同情なんだろう。
「ん…?どうしたの?」
紫の瞳が僕を見据える。宝石が目の前のものを反射して映すように。
「……そんな事ないですよ。」
嘘をついているようには思えない。純粋にこの子が感じたことを述べただけのように見える。
わからない。
だとしたら勘違いなのか?
「んー、おっかしいなぁ…あたしロキからすごい魔力を感じたんだけどなぁ…」
「気の所為ですって………使えないのだから。」
虚しい言葉だな。
自分自身の魔力を知ることが出来たらどれだけ簡単なことだろうか。
「……そうだ!!私がコツを教えてあげる!!」
「はい?」
叫ぶような大きな声で思わずびっくりした。コツだって?
「今魔道書持ってないから見せてあげられないんだけど…あたし、小さいころから魔法はお父様やお兄様に習ってたの。」
「小さい頃、とは?」
「えーっと、五歳くらいから?」
「ご、五歳!!??」
思わず声を荒げてしまった。こっちは十一、二歳くらいで初めて習おうとしたのに。やっぱり幼い頃から学んでいればそれなりに使えるのだろうか?
「早すぎる…」
「でもね、カンペキに使いこなせるようになったのは九歳くらい。で、お父様に教えてもらったコツってのはね。」
レプトール卿直伝の技があるのか、是非知りたい。それで魔法が使えるのならば。一体どんなものだろうか。
「本当にあるものをイメージするの。」
「あるものをイメージ、ですか。」
どういうことだ?
「あたしは雷の魔法を使うときは、雷が鳴っている景色とか、音を考えるの。お父様に聞いたら『身近なものを想像した方が魔法にハンエイされやすい』んだって。」
「はぁ…」
反映…。
想像によって生み出されるということ?じゃあ光魔法を扱うならば光を、炎魔法を扱うならば火をイメージすればいいということか。
「えーっと、まぁただのコツってだけだよ?これでちゃんとうまくいくかわかんないし…やっぱり気持ちのモンダイかなぁ?」
腕を組みながら考え込むティルテュだが「やっぱりわかんない」と先程の明るい顔に戻る。
「……少し分かったような気がします。」
「そぉ?役にたった?」
「ええ。」
笑い返すと負けじとばかりにティルテュまで笑顔になり、先程までもたれかかりながら眠っていたデューが瞼をこすりながら起きた。寝起きゆえに細い声を出す。
「ふあぁ………今どこ?」
「あっデュー、起きたんだ。」
「えっとぉ…まだまだヴェルトマー城までは遠いみたい。あと二日くらいかな?」
馬車は徒歩よりは早いがそのくらいかかるんだろう。先を急ぐ旅でもない、僕の顔や名前を知っている人間に会わなければ何だって良い。
それからヴェルトマー城に向かう道中、数々の城下街を見て回った。従者が食事を買い巡り(勿論僕たちも)夜になれば至極安全な場所で馬を止めてそのまま眠りにつく。
途中、綺麗な湖を見つけてはティルテュが沐浴したいと言い出したことも。従者も脱ぎ終わった衣服を持ったまま僕たちが覗き見しないか、常に目を光らせていた。するわけないだろ。
とまぁ、特に大したいざこざもなく。着実に馬車はヴェルトマー城へと向かっていた。
「…………う〜ん……?」
気がつけば長いこと眠っていた。横にはデューが、目の前にはティルテュが横たわっている。爆睡しているな。
ここは随分と整えられた土地らしく、馬車が揺れることも少ない。だからうたた寝してしまったのか。
こちらの二人は起きる気配がない。談笑してすっかり疲れた。魔法のことや旅の話をしたり………考えてみれば同年代というか、そう歳の変わらないような女の子とこうやって喋ったのは久しぶりだ。
最後に女の子と会話したのは昨年だったっけか、彼女が公爵家に嫁いだ以来だ。
小さい頃からずっと一緒に遊んでいた従姉。母上の兄の娘で僕の二つ年上、僕にとっては姉のような存在だった。ひ弱で体の弱い僕と反対に、活発で……それに加えてよく人をからかうのが大好きな、少し意地悪な女の子。大嫌いな芋虫を持って追いかけられたりしたこともある。
父上と母上が亡くなられてから、会うことも少なくなってしまったけれど。部屋に籠りがちになった僕を時折訪れては慰めて、励ましてくれた。
彼女が僕の心の支えになってくれた。
大切な家族として。
それが昨年、十四になったばかりに彼女から縁談の話をされた。相手はフリージ家の次期当主、ブルーム公子。なんでも、まったく乗り気ではなく家が勝手に決めた縁談だと。
『貴族の娘は家名存続のため政略結婚の道具に使われる』とはよく言ったものだなとその時思った。どうして自分自身の幸せは選ばせて貰えないんだろう。
血というものは存外面倒である。この世で生きている限り、一生ついてまわる呪いだ。
それでも僕は相槌をうつことしか出来なかった。
「自分の好きなように生きろ」などと反対する無責任なことばなんてかけられる筈もない。
あのとき何をすれば良かったのか、何か言っていれば良かったのか、今となってはもうわからない。
そういえば、ここにいるティルテュはフリージ家の公女、つまり彼女の義妹に当たる。
彼女…ヒルダは元気にやっているのだろうか。
ティルテュに聞いてみたいけれど、それを聞くのはあまりにも不自然だ。極力ボロを出さない為にも、思いは胸に秘めているほか仕方ない。
でも彼女には、これからの人生何不自由なく幸せになって欲しい。
そう考えながら再び眠りについた。
原作知ってる人からしたら皮肉な内容ですね…