一流の銅ヤロー   作:クロム・ウェルハーツ

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@119 聖地巡礼

 賑やかな街並み。通りに溢れる人のせいで歩き辛いが、これはこれでいいものだ。

 

「祭りか?」

 

 騒めく街並みを見渡しながら呟くオビトに俺は首を横に振る。

 湯の国との国境、その宿場町。小さな町ではあるものの、活気溢れた町だ。

 

「観光地だから、いつもこんな感じだよ」

 

 ゆるりゆるりと歩いて来た割に、予想よりも少し早く着いた。日が沈む頃に、この町に着いて町の喧噪を楽しみながら屋台の料理に舌鼓を打って、夜に宿に泊まる予定だったが、まあ、こういうのも旅の醍醐味だ。

 今はまだ日もそれなりに高く観光するための時間は十二分に取れるのは僥倖だと言ってもいいだろう。

 

「元々、温泉地だったけど、ここまで栄えちゃいなかった。けど、“ある事”が原因で今に至る訳だ」

「“ある事”?」

 

 オビトは首を捻る。

 分からない様子のオビトへ“ある事”を教えようとしたガイに目配せをして止めさせる。こういうのは、事前情報がない方が楽しいもんだ。

 

 と、背中にジトッとした視線が絡みついたことに気が付いた。感知してみると、チャクラの働きが弱い。写輪眼や白眼で観ると分かるだろうが、経絡系があまり発達していないだろう。

 忍じゃない。一般人だ。

 

 宿場町であることと身分を隠した今の俺たちの服装から判断すると……スリか。低確率ではあるが、忍ならばここまで自分の気配を出すことはないし、出してしまうような実力ならば下忍という所だろう。どちらにしろ、問題はない。

 

 財布へと細いチャクラ糸を絡ませる。それこそ、一般人では視認できないほどの細さだ。忍でも、上忍クラスがしっかり観察してやっと見つけられるほどの細さ。サソリに命を狙われていた時に積んだ傀儡の修行がこんな所で活きるとは、人生、何が起こるか分からない。

 

 俺を見つめる気配を背に感じつつ、俺はオビトたち三人から一人離れ、焼き鳥の屋台のカウンターに近づく。

 

「らっしゃい!」

 

 元気な声で呼び込みをする屋台のおっちゃん。

 

「オススメはなに?」

「ウチは軟骨がオススメだよ。アンタ、どこから来たんだい?」

「火の国から」

「ん? まさか、歩きで来たとか?」

「お、よく分かったね」

「旅行日和が続いてるから、そういうお客さんが多いんだ。で、お客さん……喉、乾いてないかい?」

 

 ニヤリと笑うおっちゃん。

 

「ビールも付けて100両。どうだ?」

 

 なるほど、商売人だ。客の様子から欲しいものを推察して提案する。

 おっちゃんの提案を断ることはできなかった。

 

「100両……いや、120両で枝豆も頼む」

「毎度!」

 

 財布を取り出し、120両をおっちゃんに渡す。その後、財布はポケットの中に戻すが、盗り易いよう少しポケットから出しておく。

 蛇革の高級財布であるが、貰い物なので思い入れはない。もし壊れたとしても問題はない訳だ。話は逸れてしまうが、この財布を作ったのは音隠れの里のクローン技術研究部。蛇の皮だけをクローン技術で安価に、しかも、安定して培養することに成功したということで、贈られたものだ。

 技術力の無駄遣いかとイラッとしたものの研究者が言うには、これで蛇が殺されることがなくなると喜んでいたため、面と向かって怒れなかった。

 

 昔のことを考えていると俺をターゲットにしたターゲットが俺へと近づいてくる。そのまま、流れるように俺のポケットから財布を抜き取った。

 手慣れている。常習犯だな。罰が必要だ。

 

 チャクラ糸を操り、スリの手にそっと絡みつかせる。それだけで準備は完了。

 そっと印を組んだ後、スリにチャクラを流し込んで幻術を掛ける。

 

 クルリと180度、回転したスリは俺に近づく。中肉中背の少年だ。年の頃は大体15という所か。

 若者の未来を摘み取る訳にはいかない。財布を返して貰った俺は幻術に掛けたまま少年に尋ねる。

 

「仲間はいるか?」

 

 一回、頷く少年。

 

「そうか。なら、仲間の頬を思いっきり殴ってやれ」

 

 もう一度、頷いた少年は人混みの中へと姿を消した。

 

 シナリオとしてはこうだ。悪いことをしている仲間の目を覚ますため、先ほど正義に目覚めた少年が仲間を殴ってでも止める。青春だなとほくそ笑む。

 実際は殴りに行った少年がフクロにされるだけだろうが、俺に手を出そうとした勉強代だ。

 悪しきは罰せられなくてはならない。

 

「へい、お待ち!」

「ありがとう」

「こちらこそ!」

 

 おっちゃんから商品を受け取り、缶ビール片手にオビトとガイの隣に戻る。だが、カカシの姿はない。

 と、オビトがげんなりした顔付きをしているのに気が付いた。

 

「あれ? カカシは?」

「あっちだ。ヨロイ……お前、このことを知っていてオレに教えなかったんだな?」

エサクタ(正解)!」

「本当に貴様は腹が立つな!」

 

 なんかデジャヴを感じるオビトとの遣り取りだ。

 

「これはもしや……例のあの木か? ヨロイよ! カカシは夢を叶えたのだ!」

「そっか」

 

  “夢”というものの正体、それは聖地巡礼。元々、そのためにこの町に立ち寄ったのだが、五体投地しているカカシの姿を見て思いの外、喜んでくれたのだなあと思う。

 

 イチャイチャパラダイス。

 俺の師でもある木ノ葉の三忍、自来也が執筆した18歳未満は購入できない小説だ。有り体に言うと官能小説。実は映画化までされているほどの人気作。

 弟子として自来也様に未完成の原稿を読まされたこともあったが、完成度は超高かった。しかし、あの時の俺はまだ6歳。そんな俺に官能小説を読ませるなんて、この人、大人としての完成度は低いなと子ども心に思ったものである。尤も、前世の経験まで含めたら子ども心と言えるのかという疑問が生じるが。

 

 完成度の高い小説はカカシのような熱狂的なファンを生み出す。それこそ、昔々の映画(ブルーフィルム)のロケ地を回る聖地巡礼が発生するほどに自来也様の書いたイチャイチャシリーズは凄かった。俺は嵌らなかったが。

 そもそも、映画でも漫画でも小説でも感情移入ができない俺だ。熱狂的なファンになることもないだろう。自己分析した所“根”の教育による弊害だ。心を殺す術に長けたものは、何かに入れ込むことがなくなる。時代が悪かったと言える。だからこそ、これからの時代を生きる者たちには楽しみに打ち込めるような世界にしていきたい。

 

『恥ずかしいから止めろって!』とカカシに叫ぶオビトから目を外して俺はふらりとその場を離れる。

 

 予測はついている。

 愉しみで他人を傷つける者は許されることはない。悪しきは罰せられなくてはならない。そのことを教えに行こう。けど、その前に……。

 屋台で買った缶ビールを喉に流し込みながら、旅館の飯に想いを馳せるのであった。

 


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