ある日総武高校から雪ノ下雪乃の存在が消えた。
大雑把に楽しんで頂けたら幸いです。
ある寒い日、それこそ地球をアイスピックで突っついたら良い感じに割れそうなくらいの寒い日の出来事だった。
ぼっちの俺ともなると、朝から放課後まで誰とも話さないなんて珍しくもない。
そして放課後、部活に行くかと腰を上げた。
その日に限って由比ヶ浜はどうするのかと気になり話しかける。
「由比ヶ浜」
「えっと、比企谷くんだよね?どうしたの?」
「なんだよそれ。お前、今日部活は?」
「部活?帰宅部だしもう帰るよ?」
不自然なくらい、どうにも会話が噛み合わない。
というかこいつふざけすぎじゃないか?
「そういうのはいいから。行くんだろ?奉仕部」
「なにその部活!?ほ、奉仕なんてしないし!」
「あのな、遅くなると雪ノ下に怒られるぞ」
「…雪ノ下?誰?」
流石にその反応はいくらふざけてても怒られるんじゃないですかね…。
雪ノ下にとっては唯一無二の親友だと思うぞお前。
「お前の友達だろうが。泣くぞ雪ノ下」
「えっと雪ノ下って人に心当たりないんだけど…」
「お前な…。はぁ、付き合いきれん先行くぞ」
いくらなんでもふざけすぎだ。
まるで雪ノ下が居ないみたいな扱いしやがって。
何故だか少し苛立ちを感じ足取りを速めながら特別棟の4階へと向かう。
そこで待っていたのは驚きだった。
「…なんだよこれ」
鍵が空いてないだけなら雪ノ下が珍しく先に来てないだけとも思えるだろう。
教室の扉のガラスから中を覗き込むと暗闇。
暗闇の中にはイベントごと等で使うのであろう机や椅子が所狭しと積まれている。
いつも積まれている量とは明らかに違う。
状況が理解出来ない。
平塚先生なら答えを知っているのかと思い、俺は踵を返して職員室へと向かった。
慣れたくはないが、職員室の平塚先生が座っている場所はもう知っている。
少し強めな口調で平塚先生に事の顛末を訪ねた。
「先生。奉仕部の部活どうしたんすか?」
「おぉ君は比企谷か。奉仕部?なんだそれは」
「あんた顧問でしょ。部室行ったら雪ノ下も居ないしどうなってんだ…」
「そんな如何わしそうな部活作るか!そして…雪ノ下とは誰だ?」
「はぁ?J組の雪ノ下雪乃ですよ?」
先生までまるで雪ノ下が居ないかのような口ぶり。なんだってんだこの状況は。
「2年J組の生徒は頭に入っているつもりだがそんな生徒はいないな」
「どういうことですか!ドッキリ?」
「落ち着け。J組の雪ノ下という人物なら卒業生には居るぞ。まぁ雪乃という名前ではなく陽乃だがな」
「…雪ノ下陽乃」
「なんだ心当たりあるのか?よくわからんが私はそろそろ仕事に戻らせてもらうよ」
なにがどうなってんだ。
雪ノ下雪乃はどうした?奉仕部は?
考えつくのなんて雪ノ下の存在が無くなったなんて突拍子もないことだけ。
そんなこと…そんなことあるはずがない。
だが俺に対しよそよそしかったあの由比ヶ浜の姿。
あの姿は雪ノ下が居ないせいで入学式の事故が無くなり俺と由比ヶ浜の最初の接点がなくなったと考えれば辻褄があってしまう。
くそ!否定した答えばかり考えてしまう。
俺の携帯に入っている数少ない番号、戸塚と材木座。この2人に賭けてみるしかない。
まずは材木座。戸塚はまだ部活だろうしな。
「けぷこんけぷこん。どうした我が強敵はちまんよ!」
「おい材木座。おふざけはいらん。雪ノ下雪乃という人物を知ってるか?」
「いや知らないが。なんだそれ新しいギャルゲーのキャラ?」
なんだかやけにムカついて即切った俺を誰が責めようか。
もはやけぷこんといういつもの口調でさえ苛立ってしまう。材木座め…。
夕方、戸塚に連絡を取る。
「もしもし、八幡?」
「あぁ戸塚、急に変なこと聞いて悪いんだが雪ノ下雪乃って知ってるよな?」
「ごめんね八幡、その雪ノ下さんって人はちょっとわからないかな…」
やはりと言うべきか戸塚もダメか…。
って雪ノ下が居ないならあの戸塚からの依頼もないのか。
俺と戸塚がそれ以外で仲良くなるだろうか…。
「なぁ、俺と戸塚って何で友達になったんだっけ?」
「変なこと聞くんだね八幡は。
八幡が毎日非常階段の下でお昼ご飯食べてるの見てたから気になって僕から話しかけたんだよ?」
「だ、だよな。悪りぃな変なことばっかり。さんきゅ」
「ううん!またね!」
これは本当に…?
こんな超常現象起きるのか?
いやいや理屈がつかないだろうが。
時刻はもう18時。
冬の18時といえば辺りはもう真っ暗。
とりあえず今日は帰るしかないか。
☆ ☆ ☆
「おっかえりー!」
「おう」
「どうしたのお兄ちゃん暗い顔して」
「なぁ小町、雪ノ下雪乃。この名前に聞き覚えは?」
「ないけど?誰それお兄ちゃんの彼女?」
「…ちげーよ。今日は飯いらないからちょっと1人にさせてくれるか?」
「う、うん平気だけど…。小町何かあったら力になるよ?」
「ばーか兄にいらん気遣いすんな」
今日一日、信じられないことの連続で疲れた俺を小町の優しさが胸を熱くさせる。やっぱ小町って天使だわ。
さて、考えようか。
まず一つ。
事故に遭ってないと仮定すると俺と由比ヶ浜の関係に整合性がとれる。
二つ。
雪ノ下陽乃は存在している。
最悪、何らかの形で連絡を取ろう。
三つ。
俺と戸塚は依頼ではなく普通に仲良くなったらしい。
俺にその記憶はないが、戸塚が嘘を言うはずもないだろう。
きっと小説等でありがちな修正力というやつかもな。
今日集まった情報はこんなもんか?
明日、知り合いに聞き込みするしかないか。
雪ノ下雪乃が居ない。
そう考えるだけで、ふと寂しさを覚えた。
☆ ☆ ☆
まず初めに川崎は×だった。
だが依頼は無くても小町からの経由でスカラシップを教えたらしい俺と関係は以前と変わりはない。
次にダメ元で葉山。
「なぁ、葉山」
「ん?どうしたんだいヒキタニくん」
「お前、雪ノ下雪乃って知ってるか?」
「あぁ知ってるけど…。雪乃ちゃんの知り合いかい?」
!? 雪ノ下を知っている。
よかった…。存在が無いってことはなかったか。最悪の事態は免れたか。
「いや知り合いというかなんというかだな。それで、お前連絡取れるか?」
「雪乃ちゃんに?無理だな。電話番号も知らないよ。陽乃さんや、うちの家経由なら平気かもだが。でも、まだヒキタニくんを信用したわけじゃないしな」
「だ、だよな」
ちっ。本当にこいつはどこまでも葉山隼人だな。
けど、こいつのおかげで雪ノ下が居ることを知れた。
雪ノ下が居る。それだけで俺はホッとした。
そして最後に一色。
ぶっちゃけこいつは期待薄だ。
俺とこいつなんてあの依頼以外で繋がりがあるとは思えないしなぁ。
とりあえず物は試しと一色の教室へ向かった。
「あの、一色いろは呼んでもらえるか?」
近くにいた生徒に話しかける。
俺はぼっちであってコミュ障ではないのでこれくらいは出来る。
「あれ先輩?どうしたんです?」
「お前、俺のこと知ってんの?」
「ちょっと言ってる意味がわかんないんですけど…」
「まぁちょっと来てくれ」
場所を移し、一色に話を聞いた。
要約するとこんな感じらしい。
クラスのイタズラにより生徒会長に立候補。まぁこれは同じだな。
困っているところに平塚先生登場。
平塚先生の紹介で弁がたつというか屁理屈を捏ねるのに定評のある俺を紹介され丸め込まれたと。
いや待て。ツッコミどころしかない。
もう少しどうにかならなかったのか修正力!!
「それで今日からの海浜総合とのミーティング、先輩も来てくれるんですよね?」
「はぁ?なにそれ」
「何って、クリスマスイベントですよ!」
「よくわからんがわかった。部活も無いし暇だし行ってやるよ」
「ほんと、頼みますよ…」
☆ ☆ ☆
はい、というわけでコミュニティセンター。
初めて来たぞここ…。こんな所で会議とか意外とちゃんとしてんのな。
冬だからもう結構暗くなってきてるし帰りたくなってきたのは内緒。
「先輩、これ超重いですぅ」
「わかったわかった。ほれ」
「?」
「手じゃねーよ、荷物だ荷物」
「なっ今私のこと口説こうとしましたか!?」
はいはい、長いんで以下略。
どうやら会議室に着いたのは俺たちの方が早く、海浜総合はまだ着いていなかった。
「先輩、とりあえず会議は私が話すんで余計なこと言わないでくださいね」
「じゃあなんで俺呼んだんですかね…」
「あっ来ましたよ」
俺って本当に驚いた時は声が出なくなるタイプらしい。
今が多分人生で最大の驚きだろう。
「こんにちわ。海浜総合高校 生徒会長の雪ノ下雪乃です」
「雪ノ下ぁぁ!!?」
「…どなた?」
「おま、何言ってんだ!心配させやがって!」
「何を言っているのかしら」
「先輩!どうしたんですか!」
ハッと今の状況を思い出した。
そうか、こいつ俺のこと覚えてねーんだよな。
出会った頃のような鋭い視線がそれを物語ってる。
ここ最近の雪ノ下といえば少しは認めてくれたのか毒舌も影を潜めていたし気持ち視線が丸くなっていた。
だがそれが、現実を叩きつけられたみたいで胸が痛かった。
悪い、知り合いに似てた。と下手な誤魔化しをしてその場を濁す。
会議は流石雪ノ下としか言いようがないほど恙無く終わる。
その後、会議室を出て帰ろうとしていた雪ノ下に声をかけた。
「なぁ雪ノ下…会長。ちょっと話に付き合ってくれないか?」
「貴方は確か…。なにかしら。告白なら返事はノーよ」
「ちげーよ。真面目な、話なんだ」
「…はぁ。手短に頼むわね」
会議室を出て下の階、コミュニティセンターのロビーの椅子に腰掛け、意を決して話し出した。
「なぁ奉仕部、由比ヶ浜結衣という言葉に聞き覚えはあるか?」
「ないわね」
「あーやっぱ面倒だから単刀直入に言うわ。俺が知ってるお前は、総武高校2年J組で奉仕部の部長で由比ヶ浜結衣の親友なんだよ」
「貴方、頭でもおかしいの?」
「まぁ俺も自分自身で頭がおかしいと思うが聞いてくれ。突然なんだよ。ある日突然、総武高校からお前の姿がなくなった。ずっと探してたらお前はお前じゃないし海浜総合高校だし生徒会長になってたわけだ」
「貴方が何を言ってるのか全く理解出来ないわ。帰らせてもらうわね」
「パンさんが好きで、夜は猫動画を漁って、負けず嫌いで挑発に乗りやすくてそのくせ体力はない、誕生日は1月3日。どうだ?当たってんだろ?」
「もしかして、あなたストーカー?」
「ば、ばっかその番号にかけるのだけはやめろ!!」
こいつ最初の頃のままだから本当めんどくせぇ…。今お巡りさん呼ばれたら絶対めんどくさいから本当やめろください…。
「まぁ話だけは聞くわ。いくらなんでもあなた、私に詳しすぎよ」
「ほんとな。自分でもビックリしてる」
俺自身、雪ノ下のことをこんなに知っているとは思わなかった。
けどやっぱり雪ノ下との会話はどこか俺を安心させた。
それから俺は俺が知ってる雪ノ下のこと、今起きてる状況を話した。
「つまり、あなたはパラレルワールドから来たとでも考えればいいの?」
「あぁなるほど。そういう考えもあったか」
「信じられない話だけれど、そうと仮定してあなたはどうしたいの?」
俺は、俺はどうしたいんだろうか。
そりゃあもちろん戻りたい。
やっぱりこいつには奉仕部の部長で居てもらいたい。
ふと色々と考えた時に自分の感情に気付いてしまった、嘘をつけなくなった、自分で自分の感情に蓋ができなくなってしまっていた。
俺は雪ノ下に、俺の知ってる雪ノ下に隣に居て欲しいんだ。
俺は雪ノ下と本物に…。
「俺は戻りたい。むこうでやり残したことが出来た」
「…そう。けれど残念ながら現状で戻る手がかりも何もないわよ」
「そうなんだよなぁ…」
本当、何したらいいんだか。
とりあえず雪ノ下には会えたからまだよかった。
手がかりも何もないけど、不思議となんとかなるかと前向きになった。
☆ ☆ ☆
あれから1週間。
状況に変わりはない。
いや待って。本当に何も変わりなくて焦ってくるレベルなんですけど!?
しかもあれからちゃんとミーティング参加してる俺の真面目さよ…。
まぁ雪ノ下が指揮を取ってるからか、ほとんど問題はなく後は当日、イベント成功させるだけなんだけどな。
「先輩先輩」
「ん?」
「先輩って雪ノ下会長と良い感じじゃないですか?」
「…そんなことねーよ」
「いやいやいや、ありますよ!毎日帰り一緒だし雪ノ下会長も先輩と話すときは何か穏やかそうな顔で話してますし!」
そう。あれから俺と雪ノ下は少し仲良くなった。
少しは元の世界の雪ノ下とリンクでもしているのか、俺と元の雪ノ下との関係性に近いものになっている。
「そこで先輩に良いものあげます!」
「おう、貰えるものは貰っとくぞ」
「じゃーん。ディスティニーのペアチケットです!」
「いや年間パスあるし…」
「甘いですね、先輩。このチケットを見せるとパレードを最前列で見れるんですよ!」
「…あぁそう。まぁ誘ってみるわ」
「頑張ってください!」
何が狙いで一色がこれをくれたのか知らんがせっかくだし、な?
まぁきっとほぼほぼ面白半分なんだろうなぁ。
「なぁ雪ノ下明後日ディスティニー行かね?」
「なんでまた」
「これがあるとパレード最前列で見れるんだとよ」
「行くわ」
「まぁお前パンさん好きだもんな」
「…そういうことにしとくわ」
意味深な台詞を吐く雪ノ下を尻目に俺は明後日のことを考えていた。
☆ ☆ ☆
「ごめんなさい待たせたかしら」
「いやまぁ平気だ」
舞浜駅に集まり、ディスティニーに向け歩きだす。
こいつと2人きりというのは苦手じゃないが、今日は少しだけ照れくさかった。
「何か乗りたいのはあるか?」
「パンさんのバンブーファイトね」
「俺がお前がパンさん好きだと知ってるからって開き直ってんな…」
3人乗りのコースターに2人で乗る。
意外と世界観とか凝ってんなこれ。
「結構ちゃんとしてんだなこれ」
「静かに」
まさかの私語厳禁…。
その後も少しずつアトラクションに乗りながら俺たちは楽しんでいった。
「そろそろ暗いから夜景とか見えそうだし、あれ乗るか」
「ジェ、ジェットコースターね。いいわよ」
列に並んでいる最中、雪ノ下の手が小さく震えていることに気付いた。
「お前な、苦手ならそう言えよ」
「…平気よ。昔、姉さんが色々とイタズラをしてきたのを思い出しただけだから」
「あぁ、想像つくわ」
それから程なく、機体の最前列に俺たちは乗り込み俺たちを乗せた機体は動き出した。
「手、まだバー握らなくて平気だぞ」
「わ、わかってるわ」
音が遠くなる錯覚。
ガタンゴトン、と機体の音だけが聞こえ上へ上へと登って行く。
機体は最上段に近づき落下を始めようとする間際、隣から声がかかる。
「ねぇ比企谷くんいつか私を、私達を助けてね」
☆ ☆ ☆
いつからか雪がぱらつき始めている。
パレードも見終わった俺たちは、シンデレラ城の近くまで歩いて来ていた。
「雪ノ下、聞いてもらいたいことがある」
「なにかしら」
「俺はお前のことが…」
「それは向こうの私に言って」
「ダメよそれ以上は。…諦めがつかなくなるじゃない」
「雪ノ下…。俺やっぱり学校に、奉仕部にお前が居なきゃダメだ。お前が淹れてくれた紅茶を飲んで由比ヶ浜が喋って、俺がツッコミ入れて、お前と由比ヶ浜が仲良く話してる。その光景が俺のかけがえない本物なんだと思う」
「いいのよそれで。私は、私は平気だから」
「たった1週間だけどあなたに大切なものをもらったから」
1週間毎日一緒に居た。
色々なことを話した。
向こうの雪ノ下のおかげかやけにフィーリングがあってる感じもする。
けど、やっぱり俺が知っている雪ノ下とは違う感じして、あぁこれは俺の知ってる雪ノ下では無いなって感じがする。
「比企谷くん。…最後に思い出が欲しい」
やっぱりか。薄々俺も感じていた。今日が最後だって。
今日を境に俺は元の世界に戻るんだって。
「雪ノ下、目、閉じてくれるか」
「…」
俺は雪ノ下の顔に自分の顔を近づけ、口づけを交わした。
「あなたのことを忘れない。あなたが好き、でした…」
その言葉を最後に、俺の意識はなくなった。
☆ ☆ ☆
目が覚めて、時計を見る。
日付は俺がパラレルワールドで過ごす前から1日後か。
夢かと思ったが、やけにリアルな唇の感触を思い出しその考えを否定した。
放課後が楽しみな平日なんて、初めてだ。
☆ ☆ ☆
「うっす」
「こんにちわ。紅茶淹れるわね」
「頼むわ」
「由比ヶ浜さんは?」
「三浦達とカラオケだと」
「…そう」
「なぁ、雪ノ下」
「なに?」
「好きだ」
「……。へ?」
「好きだ雪ノ下」
「…わ、私も」
「そうか。よかった…」
「なぁ、雪ノ下。これから話す話は信じなくてもいい。でもこういうことがあったんだ」
雪ノ下は信じてくれるだろうか。俺が過ごした1週間を。
いや、きっと信じてくれるだろう。
今日、やけに唇を気にしている雪ノ下なら。
了