私が魏興を討ち取った報はすぐに周りに伝わった。それにより味方は活気付き敵は及び腰になっている。だいぶ形勢がこちらに傾いた。
とはいえまだまだ人数はこちらが圧倒的に少ないわけだし死力を尽くして頑張ろう。お、新しい一団がやってきましたね。じゃあ殲滅しましょう。
兄上様の側からあまり離れすぎない場所に陣取り敵を討ち取っていく。魏興を倒したからか身体中が熱くて力が漲ってきて仕方ない。溢れ出る力は全て敵に叩き込んだ。
そうして斬って斬って斬って、敵を斬り続けているとドスンという音と共に戦場に威圧するようなオーラが現れたことを感じた。何事だと思いそちらを目を向けるとそこには怪鳥、王騎将軍が立っていた。全員の動きが一瞬止まる。
王騎将軍は笑みを浮かべるとゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。そのあまりのオーラに山の民たちも圧倒され道を開けた。
「久しいですね、凛。上から見ていましたが魏興を討つとはずいぶん強くなりました」
「何の用だ」
王騎将軍を見上げそう問いかける。王騎将軍はンフフフと笑い声を漏らした。
「あまりに可愛らしい戯れ合いが続いたので場を濁しにきたのですよォ。それに貴方に会いに来た、ですかね。成蟜の妹である貴方が大王についた理由が知りたかったからですよ」
そう王騎将軍が口にした瞬間そこにいた人々の視線が全て私に向いたことを感じた。
それは誰もが聞きたかった疑問だろう。何故、成凛は成蟜に付かず大王に味方しているのかと。個別に聞かれたら答えていたけれど公の場では口にしてなかったからね。じゃあ答えてあげるよ。私の目指すことは最初から変わらない。兄上様たちと夢を叶えることだ。
「成蟜は兄だが我が王は嬴政様だ」
その言葉に周りが騒めく。妹である私が成蟜兄さんは王に相応しくないと言ったのだからそうなるだろう。
でもぶっちゃけそうじゃない?あんな駄々っ子が王様になったら秦国滅ぶぞ?別に成蟜兄さんのことは嫌いじゃないんだけど王にはなってもらうと困る。数年後にはちゃんとイケメンになるのだから今回のことはちゃんと反省して大人になって下さい。
「コココッ、貴方にそこまで言わせるとは興味がありますね。ねえ、大王」
そういうと今度は王騎将軍の興味が兄上様に移る。
『貴方はどのような王を目指しておられます?この宝刀は不遜な答えを許しませんよォ?』という王騎将軍に『中華唯一の王だ』と兄上様が即答する。
その後いくつか会話を繰り返した後王騎将軍は引いていった。
そしてそれと入れ替わるように成蟜兄さんが戦場に飛び込んできた。遠くの方には竭氏の首を掲げるバジオウと信たちの姿が見える。どうやら無事大将首を取ることが出来たらしい。
「嬴政ーー!こやつが嬴政だっ!斬れ!斬れ!何をしているッ!凛ッ!嬴政を斬れ!!」
政兄上の存在と私を見つけた兄さんがそう叫ぶ。
兄さんの中で私はどういう立ち位置にいたのだろうか?政兄上についているということはいくらなんでも伝わっているだろう。
それでも私に政兄上を斬れというのは追い詰められた混乱?それも妹だからという信頼?
どちらにしろ私の答えは変わらない。私と兄さんはもう袂を分かっている。
「兄さん、私はこちら側なんだ。だから貴方の命令は聞けない」
「なっ、」
私の言葉に成蟜兄さんは裏切られた表情をした。まだ私を心の何処かで味方だと思っていたのだろうか?そんな顔の兄さんを見るとなんかちょっと申し訳ない気持ちになる。
私は別に成蟜兄さんのことが嫌いではないのだ。私が同母の妹だからか兄さんも私には優しかったし兄妹仲は悪くなかったと思う。
だけれども自らが王を望むのであれば兄さんは敵である。中華統一するという夢を私は叶えると決めたのだ。だからこれは自分で選んだ未来なのだ。
そして、錯乱した兄さんが政兄上に斬りかかり一騎討ちが始まる。だけれどもぬくぬくと王族として生きていた兄さんが政兄上に勝てるわけがない。
成蟜兄さんはボロボロに敗れた。戦は終わったのだ。兄上様が勝鬨を上げる。
反乱は鎮圧され兄上様が玉座を取り戻した。王宮はお祭り騒ぎとなり山の民たちと宴が行われる。
だけれども私はそれに参加せず成蟜兄さんの側にいた。兄さんは一応王族ということもあり手当てをされベッドに横たえられている。
怪我が痛むのか兄さんは魘され顔が赤くなっている。側に用意されていた水桶に手拭いを入れ濡らすとぎゅーっと絞り兄さんの額の上に乗せる。
今の時点のこの人は悪人なのだろう。罪のない人を多く殺し国を混乱させた。悪役で皆に嫌われ退場を望まれていた。
それでも私はこの人を嫌いになれない。父はあまり顔を見ることなく死んでしまったし母には会えない。私にとって家族とはこの人のことを指す。
だが道は別れてしまった。今、兄さんにとって私は裏切り者で憎むべき相手だ。それが少し悲しくもある。何度考え直したところで私が兄さんに味方する未来はなかったのだがただの兄妹でありたかったと思ってしまう。
痛みか悪夢か魘される兄さんの手をギュッと握る。どんな道を行こうと成蟜兄さんは家族である。
いつか未来でまた気安く話せる兄妹に戻れる日を夢見よう。
反乱は鎮圧された。だけれども呂氏と戦うために竭氏の陣営はそのまま残したし情報漏洩を防ぐために反乱自体がないものとされた。まだまだ王宮は忙しない。
信は原作通り家と土地をもらい地道に将軍を目指すという。漂は王宮に残って近衛兵のひとりになった。王宮の危険さを知り大王様を守るために残るという。
漂なら賢いし上品だし宮勤めでもいいんじゃないかな?兄上様の近くを力のある漂が守っていてくれるのはこちらとしても有り難い。ただ、やはり兄上様と同じ顔というのは問題なので普段は顔を隠していることとなった。
成蟜兄さんの反乱は終わったがこれはほんの始まりでしかない。まだ兄上様の最大の政敵である呂氏は多大な力を持っているわけだし財力、政治力、武力何一つ敵うものはない。これからが苦難の道だろう。
だけれども兄上様に見た夢を私は忘れない。中華を統一して人が人を殺さない世を作るという夢を本気で実現しようと思う。
私も兄上様の剣のひとりとして強くなろう。そして敵は全て排除しよう。邪魔する者がいるならすべて殺す。
さあ、平和な世を作るために皆殺しだ。