真夏日の昼、霊夢は汗だくになりながら人里へ向う道を走っていた。
なんでこんな目に、霊夢は悪態をつく。暑さを避けるために、朝から買い物を済ませたまでは良かった。だが、正午を迎える前、博麗神社に戻ってみると財布が無いことに気付いた。周囲は探したが見つからない、帰り道で財布を見た記憶も
触れた記憶も無い。霊夢は焦った。先日収入があり、いつもより多めにお金が入っている。これがなければ、ツケが溜まっている鈴奈庵の支払いもできない、何より生活に関わる。
ようやく人里に着いた。汗を拭い、まずは、最後に訪れた雑貨屋に訪れる。ここで買い物をした記憶は無いが、何かの拍子で落としたかもしれない。店主に財布の落とし物は無いか尋ねた。店主は首を捻りながら答える。
「今のところは無いね、もしあったらこちらから連絡するよ、どんな財布かな」
霊夢はお礼を言い、財布の色と種類を店主につげ、店を後にする。凹んでいる暇はない。急いで、その前に訪れたお店へ向う。
確か食料を買い終え、休憩がてらお茶屋に寄ったはずだ。
霊夢は、お茶屋を訪れ、店主に財布の落とし物が無いか尋ねた。
「もしかして、これかな――」
それは紛れもなく自分の愛用しているガマ口財布だった。霊夢は思わず満面笑みになる。
「それは良かった、この赤いガマ口財布が、お店の前に落ちていたと届けてくれた人がいてね」
「ありがとうございます。私のお財布を届けてくれた方は」
「それがね、渡すなり帰ったから、名前も顔も憶えて無くてね」
できれば拾った主に、お礼を述べたかったが、分からないものは仕方ない。ありがとうございました、改めてお礼を述べ店を後にする。
霊夢は、早速財布を確認する。拾った人を疑うわけではない。もしかしたら、既に中身を抜かれていて、拾われた可能性もある、幸い、一円も盗られていなかった。少しもどかしい。拾ってくれた人がいなければ大変な目にあうところだ。お茶の一杯でも奢りたいものだが、顔も名前も分からないのでは難しい。財布の中身をよくみると紙切れが一枚入っていた。名刺だろうか、裏返して名前を見た霊夢は思わず苦虫を噛み潰した顔になる。全く、なんであいつはいつも面倒なのか、霊夢は思わず呟いた。
数日後、霊夢の財布を拾った主は、博麗神社に訪れた。
「おはようございます、霊夢さん」
射命丸文だ、文は文々。新聞を発行する新聞記者だ。新聞を発行する新聞記者だ、情報が真実だろうと、嘘だろうと、面白ければ記事にする。嘘を書かれた人妖は数知れず、霊夢も例外ではなく、ほとほと手を焼いている。
霊夢はいつも通り、あらおはよう、と箒で掃除をしながら無関心に返事をした。文は慣れた手つきで新聞を差し出す。
「文々。新聞の最新号です、如何でしょうか」
「あら、ありがとうね」
霊夢は新聞を受け取る。文は思わず拍子抜けする。いつもなら、いらない、と言い新聞を受け取る霊夢が、素直に受け取り、お礼まで述べた。
「鳩が豆鉄砲を食ったような顔しちゃって、どうしたのかしら、文」
「ええ、霊夢さんからお礼の言葉を貰いましたので。何か悪いものでも食べたのかと考えごとをつい」
「失礼ね、たまには私もお礼ぐらい言っても良いじゃない。それは置いといて、今日はお菓子とお茶もあるのだけど、どうかしら」
文は怪訝な顔になる。
「――毒入ってませんよね」
弾幕が弾けた。
霊夢は少しみじめな気持ちになる。お財布を拾った文に、お礼したかっただけだ。なのに、軽口に乗せられて、喧嘩別れだ。素直になれたら良いのに、一人呟いた。
全く、素直じゃないんですから、私もですけど。命からがら逃げた文は、一人呟いた。霊夢との関係が浅いわけではない。お財布を拾った時点で霊夢だと気づき、手渡しできた。それなのにしなかったのは、霊夢以上に素直では無いからだ。
去っていく文を眺めながら、霊夢はお財布に入っていた名刺を改めて確認した。社会派ルポライターあや、確かにそう書かれている
来年は、もっと長いあやれいむを書きたい所存