オリジナル多し。
また、以前どこかで配布したものも含まれていますが、執筆者は同一なのであしからず。
現代、恋愛。
導入的な作品。
恋愛事情のエトセトラ
今年で高校二年生となる自分、雨森伊澄には幼馴染がいる。この幼馴染というのが、なかなか困る。悪い奴ではないのだが、困ったやつなのだ。
一人は男で、神野透というのだが、何というか、モテる。とてもモテる。幼馴染の贔屓目を抜いても恰好の良い奴ではあるし、運動神経も良いから当然と言えば当然なのかもしれない。
そう、モテるというのは別に問題ではないのだ。問題は、そこではなく、別のところにある。
――とはいえ、実のところ、幼馴染のあれこれはこの話においてあまり関係はないのだけど。
朝、自分は幼馴染と登校している。幼馴染は二人いて、先述した神野透ともう一人、日比野桜という女の子だ。見目麗しく、頭脳明晰。神野透と同じく、人気がある少女だ。
早朝の学校への道を歩く。間に神野透を挟み、三人で横並び。これがいつもの朝だ。
「やっぱり、伊澄も剣道部に来ない?」
日比野桜、神野透は剣道部に入っていて、早朝に登校するのは朝練のためだ。自分はというと、以前はやってはいたけれど高校生になってからイマイチ乗り気になれず、部活に入らずいわゆる帰宅部という形だ。
「そうそう、そしたらこうして早起きするのにも理由出来るしさ」
自分が早朝に登校することとなっているのは、日比野桜と神野透に剣道部の朝練があり、何故かそれに合わせて自分も一緒に登校することとなっているからだ。おかしい。それもあって、時折こうして二人は自分を剣道部に勧誘してくる。
「や、もう剣道はいいかなって」
そしてその度に自分はこう返す。混じりっ気ない本音だ。一昨年、中学三年生までは一心不乱に竹刀を振っていた。けれど、何となく、何も高校に入ってまで剣道を続けずともいい。そう思ったのだ。
「いっつもそう言って……」
「かと言って他の事をしているわけでもないんだろ」
神野透の言う通り、だからといって何か他にすることを見つけたわけではない。それならもう一度剣道を始めてもいいのかもしれない。だが、どうにも乗り気になれない。
「あーあ、伊澄もいれば楽しくなるのになぁ」
――神野透の、その言葉にぴくりと反応する日比野桜を、自分は見た。神野透の困った点その1、言葉が足りない。今のは文脈で判断できなくもないが、「今より」だとか「もっと」だとか、そういった言葉が足りない。そのせいで、日比野桜は「まるで自分と居るだけじゃ楽しくないみたい」だとかそんな風に捉えて不機嫌になったのだろう。そしてその不機嫌をこっちに向けてくる日比野桜。何だ、その、実に困る。幼馴染達の、特に神野透のこういう所が、困るのだ。
**
学校に着いた。神野透と日比野桜は朝練のために剣道部の部室へ向かったようだ。自分はというと、特にすることもないので、中庭にある大きなベンチで仮眠をとるつもりだ。毎朝毎朝、幼馴染の朝練のためにする必要もない早起きをしているおかげで、どうにも寝不足だ。早めに寝るようにはしているが、それでも課題に追われ遅くまで起きてしまうことも多い。そのため、学校に着いたら少しでも仮眠をとるようにしている。教室で寝られるなら教室で寝たいが、生憎と教室はまだ開けられない。溜息を一つ零し、中庭へと足を踏み入れる。お昼休みになると生徒たちが集まりがちな中庭も早朝の今はがらんとしていて、どこか物寂しく感じられる。毎朝の光景。いつもの光景。中庭の中央では大きな樹――何の樹かは忘れてしまったが――風に揺れており、その樹を囲むように大きなベンチが幾つか置かれている。そのうちの一つに仰向けに寝転がる。両手を頭の下で組み、枕の代わりにする。起きた時に手が痺れていることもあるが、仕方ない。そして自分は、しばしの夢の中へと旅立った。
微睡。はっきりと目が覚めることもあるが、意識が浮上してきてそれでもうとうととしているこのふわふわとした気持ち良さはどうにも抗いがたい。頭の片隅で考える、今は何時だろうか。こうして意識が浮上しつつあるということは、いつも通りであるならそろそろちょうどいい時間のはずだ。だがしかし、もう少しだけ微睡に身を任せて――
「雨森さん?」
――一気に目が覚めた。ゆっくりと起き上り、声の主を見やる。黒い長髪を首の後ろで束ねた背の高い少女。クラスで見たことがある、気がする。名前は確か、朝比奈結花。
「あー……起こしてくれてありがとう」
腕時計を見ると、始業の10分前。あのまま微睡んでいたら、多分遅刻していただろう。それは流石に困る。伸びをして、立ち上がる。
「いえ、礼を言われるほどの事でもありませんけど……毎朝ここで寝ていますよね?」
「うん、そうだけど」
少し変なものを見るような目で見られているような気がするが、奇異であることは否定できない。学校に早く来て寝ているくらいなら家でもっとゆっくり寝てこればいいとは誰だって思うだろう。自分だってそう思う。
「何でまたそんなことを?」
「うーん、幼馴染達の我儘のせい、かな」
遅刻してはまずいと、教室まで歩きながら事情を簡単に説明する。他人に説明するために整理していると改めて思う。何故わざわざ毎朝早起きして付き合わねばならないのかと。その辺りも含めて、軽い雑談のように話す。
「……お人好しですねぇ」
「や、違う違う。どうしてもと言われたからってだけだし、そういうわけではないって」
朝比奈結花の声色には呆れが含まれていたように思う。そう言われても仕方ない、とは思う。思っているはずなのだが、口から零れるのはそれを否定しようとする言い訳にもならない戯言で。
「どうしても、と言われたからって自分に利のないことをやり続けられるのは、お人好しだからですよ」
そしてそんな戯言が通じるわけもなく、クスクスと笑みを零しながらの朝比奈結花の言葉に、自分は何も言い返すことができない。できたのは、両手を揚げて降参の意を示すことと、あまりに綺麗な、朝比奈結花の笑顔から目を背けることだけだった。
**
教室に着くと幼馴染二人が呆れたように自分を見ていた。見抜かれているのかもしれない。朝比奈結花にもう一度礼を言い、自分の席に着く。時間は始業の3分前といったところか。一息つくと、隣の席の男子が肘で小突いてくる。何なのだ、と見るとニヤニヤと気味の悪い表情をしている。
「朝比奈さんと登校とかやるなぁ」
「登校って言っても中庭からここまで一緒に来ただけなんだけど」
中学生か、と言いたくなるようなからかいだった。とはいえ、からかいたくなる気持ちも分からなくもないが。朝比奈結花は、可愛いし。ふと思い浮かぶ先ほどの笑顔を思い出して、それを忘れようと溜息を一つ。どうにもこうにも、頭から離れない。綺麗どころの笑顔というだけなら、日比野桜のものや、神野透の周りにいる人たちのものを何度も見ているはずだというのに。彼女らの笑顔に、こんな風に思ったことは、ないというのに。
「あー、一限目の数学なんだが、先生が体調崩したため自習とする」
始業チャイムが鳴り、担任が教室に入ってきたと思うと、それだけ告げて再度出て行ってしまった。自習。気持ちを落ち着けるのには丁度良いのかもしれない。周りの席の人達は、各々別の席の友人達と話をするために席を離れた。とりあえず頬杖をついて窓の外を見やる。グラウンドでは体育の授業が始まろうとしていて、十数人が準備体操を行っている。運動部らしき面々がはきはきと体操しているのに対し、やる気がなさそうにだらだらとメリハリなく体操している面々が見える。自分たちの体育も、あんな風に対比が見えるのだろう。そんなどうでもいいことに思考を回し、溜息をまた一つ。幼馴染達の方へ視線をちらりとやると、三人ほどの女子と、一人の男子に囲まれてなかなかに楽しそうだ。真ん中の神野透はやや困り顔で、日比野桜はふくれっ面をしている。
また何かやらかしたのだろうか。あるいは、純粋に構ってもらえないのを拗ねているのか。どちらにしても、あまり関わりに行く気は起きない。やはり外でも眺めていよう。今度は空でも、と再度外に目を向けたとき、自分の前の席に誰かが座る。それも、わざわざ椅子をこちらへ向けて。仕方なく、そちらを見やる。
「どうも、先ほどぶりですね」
「……何か用?」
座ったのは、朝比奈結花。先ほどまで、自身の友人と話していたろうに、何故わざわざこちらへ来たのだろうか。そんな思いを言葉に乗せて、朝比奈結花に尋ねる。どこか素っ気なくなってしまったのは、いつものことである。
「いえ、特にはありません。ただ、一人でぼーっとしているのが気になったもので」
納得がいった。自習といえども、今の教室は休み時間のようなものだ。隣の教室に迷惑にならない程度には騒がしく、誰も彼もが友人らと話していたり、スマートフォンや携帯電話を弄っていたりしている。そんな中で、ただボーっとあちこちを見ているだけの自分は、どうにも浮いた存在だろう。
「いやまぁ、特にすることもないしね。スマホも使いすぎると、通信量の制限に引っかかってしまうし」
「件の幼馴染さん達と話せばいいのでは?」
「あの中に、入りたいと思う?」
そう言い、指さした先では、神野透の周りにいた女子達が睨み合い、遠い目をした神野透を男子が指さしながら笑っている。控えめに言っても、関わりたくない。主に女子が怖い。
「……いえ。失言でしたね」
多分誰にでも態度を変えないように見受けられる朝比奈結花でさえ、苦笑いだ。自分は肩を竦め、どうしようもないと首を横に振る。神野透とはもう十年以上の付き合いになるが、あれはもう、どうしようもないのだ。
「苦労しているようで」
「人間関係なんて、どれもこれも苦労するものだよ」
「それは否定しませんけれど。それにしたって、と」
先ほど軽く話しただけだというのに、どうも朝比奈結花は自分に同情的だ。今まで特に話したことがあるわけでもなく、クラスで特段目立つわけでもない自分に対して。何故だろうか。軽く考えるが、どうにも答えは出そうにない。朝比奈結花のことをまだ全然知らないのだから、当然と言えば当然であるのだけれど。
「まぁ、もう慣れたよ。巻き込まれるのも、こうやって眺めているのも」
**
自習が終わった後、三つの授業を受け、お昼休み。いつもの通り、神野透に誘われての昼食。と、思ったのだが、面倒だったので誘われるより先にふらりと食堂へ。今あの幼馴染達に捕まったら、朝比奈結花とのことを根掘り葉掘り聞かれそうだ。実は、あの後も休み時間の度に自分の席を訪れて、話しかけてきたのだ。本当に驚いた。そして、あまりこういうことは考えたくはないが、どうにも裏を感じる。とはいえそれが何であるのかは、自分には想像もつかないのだが。と、食堂で頼んだラーメンを両手に、席に着く。久しぶりに、一人で昼食をとる。それをゆっくり食べながら、考える。何故朝比奈結花は、自分に急に絡んできたのか。毎朝のように中庭で寝ているのが気になったから? しかし、それは軽くとはいえ事情を話したし、それだけでああも話しかけに来るようになるとは考えにくい。とすれば、思いつくのは幼馴染、神野透に近づきたいため。しかし、これも違うような気がする。確かに今まで、神野透に近づくために自分と仲良くなろうとした女子はいるし、そのために告白されたこともある。が、はっきり言って、遠回りすぎるし確実性に欠ける。それをするくらいなら、自分から突貫した方が、多分仲良くなれるだろうと思う。では、何故か。幾つか筋道の通りそうな説を考えては、自ら否定する。そんな折、ふと声が聞こえた。
「いえ、ですから私は行きませんってば……」
「えー、結花ちゃんも一緒に行こうよー」
困ったような、朝比奈結花の声。その声のする方向を見ると、案外近くのテーブルで昼食をとりながら、誰かと話しているようだ。話し相手が誰かはわからないが、悪い仲ではなさそうだ。何となく、二人の雰囲気からそう感じられる。
「何で貴方と永田君が遊ぶのに私も行かなきゃいけないんですか……」
「結花と一緒の方が楽しいし……」
趣味が悪いのはわかっているが、聞こえてきた会話から察するに、話し相手さんと永田君とやらのデートに、何故か朝比奈結花も誘われているのだろう。まるでうちの幼馴染のようだ。幼馴染、神野透の困った点、その2。デートであろうと何であろうと、八割方自分を誘ってくる点だ。
「何か用事でもあるの?」
「えーっと、ですね……」
朝比奈結花は大変そうだ。そういう問題ではないと言っても、多分話し相手さんには通じないだろうというのが見て取れる。それ故に、どうも説得し難い。行きたくない、とはっきりと言っても、多分理由を追及されて面倒くさいことになるのだろう。自分の経験談からの想像でしかないが。
「……ん?」
そうこう考えながらラーメンを食べる合間に眺めていると、朝比奈結花と目が合った。気がする。実に、嫌な予感がする。具体的に言えば、巻き込まれそうな、そんな予感が。
「実はですね、雨森さんと遊びに行く予定がありまして」
「えー⁉ そっかぁ、なら仕方ないよね……」
ないよそんな予定。思わず口から出そうになった声を何とか押し留める。今、声を上げれば、朝比奈結花の邪魔をすることになる。そして、盗み聞きという悪趣味なことをしているのが、ばれる。いや、単に聞こえてきているだけであるのだが。何にしても、困ったことになったものである。溜息を一つ零し、ラーメンの最後の一口を、飲み込んだ。
**
今日は五限で終わりだった。部活のある者は颯爽と教室を出て行き、部活のない者も多少ゆっくりとはいえ教室を出て帰宅していく。自分はというと、五限目の授業が終わった途端に自分の席へと訪れてきた朝比奈結花に連れられ、中庭に来ている。放課後の中庭は、お昼休みほどではないとはいえそこそこ生徒が多い。ベンチも埋まっているかと思ったが、たまたま一つだけ空いていた。そこに朝比奈結花と並んで座る。
「さて、要件ですが……その」
「うんまぁ、言わなくても大体わかってる。お昼休みの件だよね」
自分がそういうと、コクリと小さく頷く朝比奈結花。顔に申し訳なさが浮かんでいる。流石に、あの巻き込みは人としてどうなのか、と突っ込もうかと思っていたが、流石に反省している様子のうかがえる人に追撃を加えるのは趣味ではないので、何も責めないでおこうと思う。
「えぇ、目線が合いましたし、どうやら聞こえているようでしたので、つい……」
「いや、構わないんだけどね、何となく事情は分かったし……」
これくらいなら別に協力する、と告げるも朝比奈結花は余計に申し訳なさげというか、何とも言えない顔をする。何か間違っただろうか、と首を傾げると、何か言いたげな表情になってしまった。
「そういう所が、お人好しと言われるんですよ」
勝手にあのような約束をされては怒るのが普通で、怒らなければいいように使われてしまうだけだ。と朝比奈結花は言う。正に使おうとしている側の朝比奈結花が言っていい言葉でないような気はするが、とりあえず言いたいことはわかったし、先ほど責めまいとしたところなので何も言わないでおく。
「まぁ、ほら、こっちとしても、得がないわけではないし」
「得、ですか?」
「休日、確実に幼馴染達が突撃してくるからね。それを避ける名目ができるのはありがたい」
それに朝比奈結花と出かけられるのは悪くないと思う。これは言わないけれど。何にしても、こちらにも利点がある以上特に拒否する理由もないのだ。それもあるのだろう、朝比奈結花を責める気になれないのは。
「……なるほど。……お互い苦労しますね」
「お互い、慣れたものだよね」
嫌な慣れではあるが、仕方ない。恐らく、朝比奈結花も同じことを考えているのだろう、その表情は苦笑いだ。溜息を一つ零し、空を見上げる。まだまだ空は青く明るい。ふと思いついたことがあった。
「朝比奈、これから暇?」
「えぇ、特に用事はありませんけど……」
「ちょっと出かけない?」
「え?」
遊びに行く予定にしても、どこに行くかだとか詳細を考えておいた方がいいだろうし、それをするにしても中庭のベンチでずっと座っているのもどうなのだろうか。そう思い、どこかへ出かけないと提案したのだが、おかしかっただろうか、朝比奈結花は困った顔をした。やや頬も赤い。
「その、それは構いませんけど、雨森さん、そんな方でしたっけ?」
「そんながどんなかはわからないけど……まぁ、昔からこんな感じだよ」
よくわからない、と首を傾げる。何にしても、出かけることに異論はないみたいなので、ベンチから立ち上がる。とりあえず、喫茶店かカラオケか、どちらにしてもゆっくりできるところがいい。話もしやすいだろうし。そう考えながら、朝比奈結花と二人、ゆっくりと歩みを進めていった。
**
結局、入ったのは喫茶店。ここならば、周りを気にせず会話することができる。中庭は、生徒からの視線を集め始めていたのだ。訪れた喫茶店は自分がよく来る店で、少なくとも学生はあまり来店しない。マスターに自分はコーヒーを、朝比奈結花はカフェオレを頼み、端の方のテーブル席に向かい合って着席する。
「まぁ、それじゃ、予定を詰めていこうか」
「はい」
コーヒーを飲みながら予定を組んでいく。日程は次の日曜日で、なるべく夜まで出かけていたいらしい。それならば、と昼食は軽めにして夕食をしっかりと食べよう、という形にした。それまでの間どうするのか、という話になり、適当にウインドウショッピングしようということになった。とはいえ、自分も朝比奈結花も、あまりあちこちウロウロとするのは好まないので喫茶店やらでのんびりとするのも視野に入れている。
「こんなところかな」
「そうですね。予算といいますか、私たちの手持ちの問題もありますし」
自分も朝比奈結花も、まだ高校生だ。お小遣いにしても自分でバイトで稼いでいるにしても使えるお金には限りがある。しかし、自分はあまりお金を使う方ではないし、そこそこに余裕はある。朝比奈結花はわからないが、曲がりなりにもデートだ。ある程度は自分が多めに払った方がよいだろう。
「……雨森さん」
「ん?」
予定も決まったため、ゆっくりとコーヒーを啜る。朝比奈結花も、カフェオレを飲んでいたのだが、ふと思いついたように口を開いた。朝比奈結花の顔を見るが、どうにも言葉に窮しているように見える。それに首を傾げると、やや言いにくそうに、言葉を紡いだ。
「……私と、付き合いませんか?」
「……はい?」
唐突なその言葉に、呆けてしまったが、その真意を考える。付き合う。多分、恋愛的な意味の方だろう。とはいっても、朝比奈結花が自分に恋愛感情を抱いているとは考えにくい。そのため、何かしら考えがあるのだろう。考えられるのは、互いに今後も協力してそれぞれの幼馴染からの干渉をのらりくらりと躱す、だとか、その程度だ。
「いえ、今回のこの件が終わっても、色々と互いに名を借りることが増えてしまいそうですし、それならいっそ、付き合っていることにしてしまえば妙な詮索も減らせるでしょうし」
「付き合っているとなればそれはそれで色々訊かれそうだけど……まぁ、それは一時的で収まるか」
「えぇ。なので、その、付き合っていることにすれば、互いに色々と利点があると思うのですが……」
なるほど。と納得し頷く。朝比奈結花の言わんとすることはよくわかった。確かに、互いに利点も多くなる。幼馴染達に毎度毎度付き合う必要がなくなるのは大きい。強いて言うなら、周りからあれこれ詮索されたりするのが面倒くさいが、それだけだ。
「まぁ、確かに、俺もいい案だとは思うけど。もし、俺か君のどっちかに好きな人とかできたら、どうする?」
「……その時は、互いに正直に話して、この関係を終えます」
と、なると、ますます提案を呑まない理由がなくなる。朝比奈結花は、やや緊張した面もちでこちらを見ている。頬はやや赤い。可愛い。仮の関係であるのはやや残念であるが、朝比奈結花と付き合えるというのは、利点云々抜きで割りと嬉しいことではある。その程度には、自分は一般的な男子高校生である。
「それで、どうです?」
「……うん、その申し出、受けさせてもらうよ」
自分の受諾の言葉に、安堵の息を吐き、軽く微笑んでこちらに手を伸ばす朝比奈結花。
「……では、これからよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく」
差し伸べられた手を握り、微笑み返す。自分と朝比奈結花の関係は、ここから始まった。自分も朝比奈結花も、この時は予想だにしていなかったのだ。互いに、想像している以上に入れ込んでしまうことを。そして、お互いが想像している以上に、様々なことに巻き込まれることを。そして、互いに互いが大事な存在となるのに、そう時間はかからなかった。
END
そのうち手直しをする予定。