それぞれの憂鬱~深海棲艦大戦の軌跡~《完結》 作:とらんらん
後、一度ミスって夜中に投稿してしまいました。タイトルの所でエンターキー押すと、投稿されるとは思わなかった。
6月18日、一部の訂正を行いました。具体的にはアーロン氏の乗る車が軍用車両から改装車両に変更され、更に護衛が付きました。でも結末は変わりません。
2019年4月1日、早朝。アメリカメディアが流す情報は、鎮守府に対する同時多発的な爆破テロ一色になっていた。アメリカ各地に点在する600近くある鎮守府の内、標的となったのは100以上。30か所近くが迎撃に失敗して爆破テロの被害に遭い、7名の提督がドローンによる爆撃によって死亡し、負傷者も多数確認されていると報道されている。まだテロ発生から数時間程度という事で情報が錯綜しており、未だに詳細な情報は不明ではあるものの、その歴史上類を見ない程の大規模テロにほぼ全てのアメリカ国民の目が向けられていた。
そんな加熱する報道を、テロを起こした張本人である艦娘排斥派過激派組織「人類解放戦線」の主要メンバーたちは、事前に用意していたアジトのとある一室で歓声を上げながら聴いていた。
「やりましたな!」
「我々の勝利だ!」
これまで深海棲艦との戦いで提督が戦死する事はままあったが、人類の手で7名もの提督をほぼ同時に倒した例はこれまでなかった。彼らにとってまさに快挙だった。
「各地の実行メンバーたちも、その殆どが離脱に成功したとの連絡も入っています」
「よしよし。作戦通りだ」
多数の死傷者を出した提督側に対して、人類解放戦線のメンバーは無傷と言っても良いレベルにあった。攻撃手段がドローンによる遠隔攻撃であるため現場から逃走しやすかったのもあるが、市街地に比較的近い鎮守府をターゲットにする事により、都市の雑踏に紛れて逃げやすかったのも要因の一つだった。
そんな完全勝利と言っても良い人類解放戦線だが、この戦果を前にただ喜んでいるだけでいるつもりはない。これらを有効活用するつもりであった。
「さて、宣伝部長。行けそうか?」
「はい。先程同志から動画ファイルが届きました。確認しましたがインパクトは十分です」
「よろしい。すぐさま作成に掛かってくれ」
「了解です。ではお先に失礼します」
宣伝部長と呼ばれた男が部屋から出ていく。今回多大な戦果を挙げる事の出来た人類解放戦線だが、今後継続的に戦い続けるためにもメンバーを募る必要がある。
そしてその勧誘だが、現代社会では欠かせないSNSを活用する事にした。手軽にかつ全世界に人類解放戦線の思想を広めるにはこれほど有効なツールはない。特に今回は事件に関わる動画――ドローン視点によるテロの瞬間の映像があるため拡散するのは確実だ。勿論、その様な動画など直ぐに政府が規制するだろうが、そのインパクト故に拡散を止める事はまず不可能である。
「さて、これからの作戦行動についてだが……、予定に変更はないのだな?」
「ああ、そうだ。我々も実行メンバーも予定に変更はない」
「分かった。しかしまあ、いささか勿体無くもあるな」
「仕方ないだろう。いつまでも一か所に留まっていれば、政府に感づかれる」
爆破テロなど起こせば、警察や軍が自分たちを捕まえようと動くのは当然だ。組織の主要メンバーたる彼らは、現在いるアジトを放棄し、別に用意した隠れ家に移るつもりである。
そして現場にいる実行メンバーだが、主要メンバーと同じく逃走するのは変わりないのだが、その前にもう一つ仕事があった。
「だが実行メンバーは大丈夫か? あそこまで大きな作戦行動で疲弊しているはずだ。失敗する可能性もあるぞ」
「分かっている。だが敵にダメージを与えるには今しかない」
彼らにとって時間は敵であった。人類解放戦線の設立宣言と同時に行った奇襲攻撃により、相手は混乱している。組織としては極々小規模な彼らにとって、その混乱に乗じて更なる追撃を行う必要があるのだ。
「次の攻撃目標は、仮にも軍事基地である鎮守府への攻撃より難易度は低い。成功確率は十分にある」
「実行メンバーが現地の警察に捕まるリスクがあるぞ」
「勿論リスクは承知の上だ。実行メンバーもその事は理解している。だがチャンスなんた。今を逃せば、攻撃難易度が跳ね上がる」
「……」
「今我々に出来るのは、実行メンバーの成功を祈る事だけだ」
こうして人類解放戦線は、混乱するアメリカに更なる武力を叩きつけようと動き始めた。
4月1日正午。ニューヨークのとあるビルにて、アメリカンジャスティスの幹部たちは急遽集結していた。その原因は勿論、アメリカンジャスティスから離脱し、テロを行った人類解放戦線についてだ。与野党議員や有名企業の経営者と言った早々たる顔ぶれが揃っているが、その顔色は例外なく青い。
「奴らめ、なんという事をしてくれたんだ!」
幹部の一人である有名企業のCEOは絞り出すように呻いた。彼らの手には部下から上げられた人類解放戦線についての報告書がある。短期間で上げられた物ゆえに情報の精度はいささか不安が残る物ではあるが、誰もがその様な事を気にせず、食い入るように読んでいた。
「アメリカンジャスティスを養分兼隠れ蓑にして成長し、機を見て独立か。まるで寄生虫だ」
「問題はその養分が我々の金だという事だ。奴らめ。器用な事をする」
「判明した分だけでも相当額だな。しかし問題はそこではない……」
ある男が言い淀む。彼らの地位を活用すれば、横領された金など直ぐにでも補てんする事は出来る。組織の金を持ちだされた事は憤慨物ではあるのは変わらないが、横領など彼らに襲い掛かっている諸問題の中では小さい物だ。
「朝一番に大統領から嫌みの電話が掛かってきたぞ。『君たちは内部統制も碌に出来ないのか?』と、ほざきおった」
「調子に乗りおって」
「……だが残念な事に、今回の件は我々の落ち度である事には変わりない」
マックレア暗殺事件以降、アメリカンジャスティスに所属する企業家、政治家の実質的な地位は低下していた。本来ならば社会的地位を追われても可笑しくない状況だったのを、大統領の介入によって生き永らえる事が出来たのだ。クーリッジ大統領と言うただ貧乏くじを引かされた者に、頭が上がらないのは仕方のない事であった。
「他は何かあるか?」
「鎮守府へのテロを受けて、複数の艦娘兵器派系組織が非難声明を出している」
「……人類解放戦線へか? それとも排斥派へか?」
「残念な事に後者だ。連中は排斥派を危険思想とまで言い切っている」
「言いたい放題だな」
「だがこのままでは、アメリカの世論は我々排斥派を危険思想の持ち主であると認識しかねないぞ」
この呻くような呟きに、誰もが沈黙するしかなかった。
「悪貨は良貨を駆逐する」この故事は思想面でも適応される。アメリカンジャスティスがいくら合法的、平和的に活動した所で、人類解放戦線の悪行が目立つ分、排斥派への悪い印象が残ってしまうだろう。
仮に排斥派が危険思想とされてしまえば、排斥派を公言している彼らはその地位を追われる事となる。それだけは、何としてでも避けなければならない。
「しかしどうすれば良い?」
「……最善は我々の手で、人類解放戦線を壊滅させる事だな。自らの手で奴らを打ち倒す事で自浄能力がある事をアピール出来る」
「不可能だな。我々は武装組織を保有していない。ギャングとは違うんだ」
「ならば次善策だ。人類解放戦線への非難を続けつつ、警察や軍に積極的に協力して行こう。特に軍は今回の件で面子を潰されている。こちらの思惑に乗って来るはずだ」
「それしかないか」
ため息が会議室のあちらこちらから漏れる。状況はかなり悪いにも関わらず、自分たちの採れる行動が限られているのだ。ため息の一つも吐きたくはなる。
「ともかく今は耐えるしかない。……我々の将来のためにも」
その言葉に誰もが頷き、彼らも動き出す事になる。だがこの時、人類解放戦線による更なる事件が起こっていた事を知るのは、暫くしてからの事だった。
4月1日正午過ぎ。カリフォルニア州サンディエゴは、昨夜の鎮守府へのテロの影響か、どことなく普段の活気は失っていた。海軍の街であるサンディエゴにも当然の事ながら鎮守府は存在しており、その鎮守府にもテロに合っていたのだ。幸いな事にドローンの迎撃は間に合ったため鎮守府への被害は無かったものの、周囲の民間人への影響は計り知れない物があった。
そんなサンディエゴ市内の大通りを一台の軍用に改装された車両と護衛の車両が赤信号により停車していた。車の行き先はサンディエゴ近郊の鎮守府。太平洋艦隊のトップがテロの被害を視察するためだった。
「死者7名、負傷者16名か……」
改装車両の後部座席にて、アメリカ太平洋艦隊司令官であるアーロンは、手にしたタブレット端末を前に顔を顰めていた。
事件発生からある程度時間が経過した事により、この未曽有のテロの被害の全容が明らかになって来ていた。
襲撃された鎮守府はアメリカ全土に跨っており、調査の結果、118か所が爆発物を搭載したドローンによって襲撃されたのだ。多くは迎撃に成功したのだが、不運な事に33の鎮守府が迎撃に失敗し鎮守府施設に被害を出した。ドローンの攻撃目標は工廠や弾薬庫といった鎮守府の重要施設を狙わず、庁舎や宿舎と言った提督が居る可能性の高い施設に攻撃を仕掛けていった。この事により、最終的に死者7名、負傷者16名と言う、未曽有の大惨事となってしまったのだった。
「負傷者の方はともかく、死者が7名も出たのは不味い」
負傷しても提督が生きてさえいれば、鎮守府を運用する事自体は可能だ。マックレアが各地で公演していた頃は、彼の初期艦のアイオワが提督代理として問題なく鎮守府を運用していたのだ。その様な事例もあり、余程鎮守府内で不和がある場合を除けば、本土の防衛には問題は無いだろう。
だが、提督が死亡した場合は軍にとって大きな打撃となる。現在のアメリカの提督一人当たりの保有する艦娘の人数は、大よそ75名。つまり単純計算で、525名の艦娘が消滅する事となるのだ。この喪失数は国防に大きな影響を与えかねない。
「出来れば、他の鎮守府に移籍して欲しい所だが……、難しいな」
艦娘という存在は建造した提督に執着するものだ。勿論、艦娘が提督を嫌っているケースも存在しているが、それは例外と分類できる程度には事例は少ない。
建造されたばかりで提督に対して執着心の無い艦娘ならともかく、提督の下で戦い続けて来た熟練の艦娘は消滅する事を望むだろう。こればかりは、親艦娘派の人間が必死に説得しても、消滅を止める事は出来なかった
「しかし鎮守府が内側からの攻撃はこれほど脆かったとは……。いや味方からの攻撃を想定していなかったから必然か?」
鎮守府は武装が第二次世界大戦クラスとはいえ重武装の軍事基地だ。しかし飽くまでも海からやって来る深海棲艦と戦うための施設なのだ。鎮守府内の武装の配置もそれに特化している。味方であるはずの陸側からの攻撃は想定していないのだ。これは排斥派が鎮守府の前でデモはあっても攻撃されるような事態は無かった事、また鎮守府に手を出されたとしても個人の嫌がらせレベルに留まっていた事が起因している。
「ともかく、鎮守府警備の見直しを促すしかないな。手っ取り早いのは陸地側にドローンに対応出来る様に機銃を配置する事か。……排斥派と兵器派が人間に反抗しかねないとうるさくなりそうだ」
小さくため息を吐くアーロン。そんな時、ポケットに入れていた携帯端末から通話の着信音が鳴り響いた。着信先を確認すると、相手は太平洋艦隊の副司令官だ。
『司令官! 急いで司令部へお戻りください!』
副司令官の焦った様な声が端末から響く。その様子に只ならぬ事が起きた事をアーロンは直ぐに察した。
「どうした」
『アメリカ各地で、人類解放戦線によるものと思われる銃撃及び爆破事件が発生しています! 標的となったのは全て親艦娘派を公言している議員や企業、団体です!』
「……なんだと!?」
副司令官からの報告に思わず叫ぶアーロン。そんな時、ふと彼の視線の端にある物が映り込んだ。
黒のライダースーツとフルフェイスマスク姿、そして大きなカバンを肩に掛けた人物で大型のバイクにまたがっていた。体つきから見るに男なのだろう。そんな人物がいつの間にかアーロンの乗る車の横に着いていたのだ。近くに付けている護衛車両から、護衛担当の兵士が下りようとしている。だが男の方が素早かった。
「……」
バイクの人物がカバンをアーロンの乗る車に投げつけた。ゴンっという鈍い音と共に車にぶつかり地面に落ちる肩掛けカバン。それと同時にバイクの人物は未だに赤信号にも関わらず、護衛を振り切り急発進してその場を離れていく。まるで、何かから逃げくかのように。
副司令官からもたらされた親艦娘派への攻撃。そして今のバイクの男の行動。全てを察し、アーロンは思わず叫んだ。
「不味い、逃げ――」
しかし全て言い切る事は出来なかった。次の瞬間――カバンは大爆発と共に周囲を圧倒的な破壊力で薙ぎ払った。
排斥過激派にとって、親艦娘派とか悪魔崇拝者だからね。仕方ないね。