『
気を取り直して、顔合わせが始まる。
この教室はオカルト研究部最後の一人であるギャスパーの住まいとして使われており、悪魔の契約の仕事に使うパソコンや、娯楽のための各種ゲーム機器、オーディオ機器、ぬいぐるみや本などが所狭しと並んでいる。しかし整理整頓されているせいか狭さは感じず、散らかってる印象はなかった。
教室中央に置かれたテーブルの上には、すでに飲み物とお菓子が用意されており、それらを銘々が味わいつつ、隼人、ゼノヴィア、アーシア、一誠の四人が、簡単な自己紹介をする。
「ギャスパー・ヴラディ……グレモリー眷属の
ギャスパーもオドオドした態度ではあるが、自己紹介する。
「あ、あの……さっきは本当にすいませんでした……新しく入ってきた方々と顔合わせするって聞かされてたけど、いざ知らない人たちと会ってみたら、こ、怖くなっちゃって……」
「大丈夫、俺は気にしてないよギャスパーちゃん! それに時間を止めるなんて素晴らしい能力じゃないか! 何かあっても君はこの俺が守ってあげるからね!」
一誠がギャスパーの隣に移動して、熱い眼差しで語りかける。鼻の穴がプクッと膨らんでいた。
──コイツ、今絶対変なこと考えてるな
それを見た部員たちは大同小異そう思った。
「イッセー。言っておくけれどその子、男よ」
「──ハイ?」
リアスの言葉に、一誠は裏返った声を漏らした。
チラリと、隼人が朱乃の方を見る。
「ええ、そうです。ギャスパーくんは女装が趣味なのですよ。とてもよく似合ってるでしょう?」
「…………嘘だぁぁぁあああっっ!!」
一誠が絶叫した。
「こっこここ、こんなに似合ってるのに! こんなに可愛いのに! お、お、お、男だなんて! チ◯コついてるなんてぇぇえええっっ!!」
思わず口走った単語に、アーシアが頬を赤らめた。
ギャスパーは突然絶叫する上級生にすくみ上がり、リアスの背後に隠れる。
「そ、そ、そ、そ、それじゃあ俺の夢は! ダブル金髪美少女ビショップ揃い踏みという俺の夢はどうなるんだよぉぉぉおおおおっっ!! 返せ、俺のときめきを返せ! 俺の愛しさと切なさと心強さをぉぉぉおおおおっっ!!」
──最後の「心強さを」の部分は、旧校舎の外で響き渡った。隼人が神足通で一誠を外に飛ばしたのだ。
すぐに一誠は、足音を乱暴に響かせながら、走って戻ってきた。
「佐久間テメェ! 人を勝手に飛ばすんじゃねえ!」
「そりゃ悪かった。次は一言入れてから飛ばすわ」
「そういう問題じゃねえんだよ!」
「お黙り、イッセー」
鋼鉄のような暗く冷たいものを含んだ声で、リアスがたしなめた。一誠はその声色にすくみ上がり、思わず『気を付け』の体勢となる。
「私、言ったわよね……ギャスパーは対人恐怖症だって……なのにあなたはさっきから大声で喚き散らしてこの子を怖がらせてばかり……」
「い、いや、あの、その……」
「私が良いと言うまで、お口にチャックしてなさい。わかったわね」
「い、い、い、イエッサー!」
何故か敬礼までして答えた一誠は、大袈裟な身振りで口のチャックを閉める仕草をして、半ば逃げるように、少し離れた席に座った。
一瞬、気まずい沈黙が漂ったが、
「さ、切り替えていきましょう。ギャスパー、音楽をお願い出来るかしら?」
「は、はいぃ……」
ギャスパーは壁際の棚にまでパタパタと駆け寄ると、そこに置いてあるリモコンを操作した。
教室の四隅に設置されたスピーカーから、ピアノのメロディが流れてくる。会話の妨げにならない控えめな音量だが、それを聞いた隼人がポツリとつぶやいた。
「蒼いノクターンか」
「佐久間くん、知ってるのかい?」
祐斗が尋ねる。
「母さんがポール・モーリア好きでしょっちゅう聞いてるんでな。いくつかの曲とタイトルくらいはわかるようになっちまったよ」
「今隼人が練習してる曲だな」
隼人の隣でゼノヴィアが言う。
「あら。佐久間くん、ピアノでもやってるの?」
リアスが問い掛けた。
その瞬間、隼人はジロリとゼノヴィアを睨み、睨まれた彼女は、今更ながら口を手で押さえた。
「──どうかなさったんですか?」
アーシアが小首を傾げて、二人に尋ねる。
「あらあら、ウフフ……佐久間くん、別に隠すようなことでもないでしょう?」
朱乃がそう言った。何となく、ここでは一上級生として振る舞った方が良いように思えた。
少しの間を置いて、隼人は両手を上げた。
「自分、ハーモニカをやってます」
「あら素敵」
「……隠さなくても良いのに」
「是非聞かせてください!」
リアスのあとに小猫が続き、アーシアがリクエストする。
ギャスパーがリアスに命じられて、音楽を止めてしまったので、もう逃げられない。
観念した隼人は、自宅の部屋にしまってある愛用のハーモニカを神足通でこの場に呼び出すと、収納ケースから取り出して、唇を当てた。
おぼろ月夜。
ふるさと。
夏は来ぬ。
ラヴァーズ・コンチェルト。
ゼノヴィアや朱乃によく聞かせる曲を緩やかに奏でていく。
部員たちはそれを、ある者は目を閉じて、ある者はリズムに合わせて小さく身体を揺らしながら、聞き入っていた……。