女性同士の争いに男が首を突っ込むとロクな事にならないのが世の常である。
これは長年に渡り女性中心の組織を率いてきた自分でなくとも理解しているはずだ。ロクな事にならないようにするにはいち早く異変に気付くこと、これが肝要。
普段はソリが合わずに避けている両者があえて近づいたら危険信号、ってああこれは始まるなあくるなあ。
そもそも争いにならないようにするのが指揮官の務めだろ?ああそれは第三者だから言える意見なんですよ。例えるならここは油田地帯、揮発した油の匂いがプンプンと立ち込めている。燃え上がる準備はいつでも万端、あとは些細なきっかけでいい。雷が落ちるなんて大層なものでなくてもOK、尖った金属を互いに軽くこすり合わせるだけで簡単に火がつく。
ああーこれはやばい、一見笑顔で話し合っているように見えるけど声のトーンが半音下がるんだよね。そしてそこから少しずつ音程が高くなっていったら爆発3秒前。あれれ?なんだか不穏な空気だな、と察知したら巻き込まれないようにひっそりと距離を取るのがベスト、ふむ……指揮官ちょっとお花詰みに行ってきま……。ん?なんでみんなそんな目でこっちを見るの?えっ?指揮官喧嘩止めて下さいって、ははそりゃ無理だよ。ちょっと押さないでよジャベリンさん無理だって。やめてよ。
さて……もしもだけれど女性の喧嘩に首を突っ込むことになったらどうすればいいかというと、終始どちらにもつかないような玉虫色の回答でお茶を濁すべきです。決してどちらの肩も持ってはいけない、指揮官は常に公平であれ。「ああそうかもしれないね」「それも分かるよ」と己を殺して曖昧な同意を口から垂れ流す機械に私はなる。
今日中にやらなきゃいけない書類があるんだけどなあと思うが私がここで事態の収拾を計ろうとするのは全くの愚作。何が問題で言い合っていて、そしてどうすれば解決するのか。互いに策を出し合い妥協点を探る。と男性の思考はそのように向かう傾向があるようだが残念ながら目の前の子達はそうではないらしい。
事実、顔を真っ赤にして睨み合っている彼女たちの口から出ているのはもはや日頃の鬱憤である。この間早朝にも関わらず洗濯機を回してうるさかっただとか、あんたの方こそ勝手に家具の配置を変えて知らんぷりしているだとか。それを言うならあんたの艤装煙突から出た排煙が目に入っただとか。
うんあのね途中から巻き込まれた私は争いの種が何であったか知らないの……もはや彼女たちも覚えていないんじゃないかな。
ふう……過去の経験から言って怒りの感情は長続きしない、非常に疲れるからだ。実際黒髪の方の子は激しい罵倒を止めて静かに相手を煽るスタイルにシフトチェンジした。そしてそれが功を奏したかブロンドのちみっこい方は目の端に涙を浮かべている。唇を噛み締めて体を震わせるのが精一杯のようで言葉が出てこない様子。そこで黒髪の方が勝利を確信したかのように言葉をまくし立て怒涛の追撃をかける、あらら容赦ないなあこの人。
もうこうなったらしょうがないね。口でやりあっている分にはいいけれどそろそろ手が出そうなので終わりにしましょうね。ハイハイおわりおわり、喧嘩はここまで。明日も早いんだから早く寝なさい、と両者を諌めようとしたところでちみっこい方が部屋に響き渡るように叫んだ。
「あんたなんかとは絶交よっ!!!」
そう、こうして残念ながら我が組織は分裂し2つに分かたれた。
アズールレーンとレッドアクシズに
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さてさて私は各国の艦船少女を統合しセイレーンなる敵勢力を撃滅するために生まれた部隊の指揮官です。はじめまして。なんの因果かこんな仕事をするようになりました。
そうそう先に言っておくけどセイレーンって何?って質問はしないで下さい。現時点ではよく分かってないとしか言えません。
ともあれ被害は全世界的に出ているのでなんとかしなきゃならない。最初は各国で独自の対策を打っていたのだけれど中々うまくいかない。島国は海を封鎖されて阿鼻叫喚、対して内陸国はまあいいんじゃないのウチはあんまり被害ないし、みたいな感じで足並みが揃わず。けれども時代はグローバル経済、海を使っての物流ができないと豊かな暮らしは望めないので偉い人たちが各国で戦力を出し合ってセイレーンを叩きましょう、と話し合ったみたい。こうして主要4か国、ユニオン、ロイヤル、重桜、鉄血を軸として各国で連携して戦うことになりました……と真面目な話はここまで。
あーなんつうんスかねえ。やばいんスよ。マジ洒落にならねえっていうか。んーセイレーンとの戦いは順調なんスよ。みんな出撃すればちゃんと成果は出して無事に帰ってくるんでそこは問題ないんスよ。帰って来てからがちょっとね。この間の喧嘩騒ぎから雰囲気があんまりよろしくない。これがねギスギスしてるとか険悪なムードって感じじゃなくて、なんて言えばいいかな。
そう、まるで『敵』同士みたいな……あっちょっと指揮官失言でしたごめんなさい。うーんでもこれ言い過ぎかなと思うけど他に当てはまる言葉が見つからないんだよね。
とりあえず彼女たちがアズールレーンとレッドアクシズという派閥に分かれたという事はおおむね理解した。ここまでは分かる。どんな組織でも一枚岩ってわけにはいかないよね。ましてや各国の艦船少女たちはそれぞれ文化も違えば生活習慣も異なる。だから多少は仕方ないと思っていたんだ。けどね食事時間をずらしたり寮を別々にしたりしなくてもいいと思わない?なるべく顔を合わしたくないんで国単位で艦隊を組んで下さいって要望が上がってきたときは流石に指揮官腰を抜かしそうになっちゃった。
もうね「こんなんじゃダメ!みんな仲良くしようよ!」とか「これは命令である。各国協力して敵を撃滅せよ」とか言える段階じゃないの。私もしょうがないから「皆の自主性に任せる」って思わず言っちゃった。ここ一応軍隊だよね。不味かったかなあ?それでにっちもさっちもいかないんで上役、大本運営に相談することにしたんだ。ちょっとこんな感じなもんでなんとかして貰えませんか?って。
うん?艦船少女をうまくまとめるのがお前の仕事だろ?自分でも分かってるんだけどもうどうしようもないんだもん。
電話だと『たかが喧嘩でしょ?あんたなんとかしなさいよ』と言われるのがオチなので大本運営の問い合わせにメールを送ることに。文面には現状の悲惨さを伝えるために少しだけ演出をトッピングして、そして自分の無能さを隠すために出来る限り頑張りましたのアピールを欠かさない。
後は送信ボタンを押すだけとなった時、私には何か大きな過ちを犯しているのではないかという自制心がかまげてきた。よくよく考えてみると大本運営でも有効な対策を打てるとは思えない。ちょくちょく大目に資材をくれたり新たな艦船少女やイベントの予告周知を怠らないので有能だとは認識しているが。やはり自分でなんとかするしかないかと一瞬踏みとどまったが、遠くから聞こえてくる少女同士の言い争う声に背中を押されて私の陳情書は電子の世界へと旅立った。
ピロリーン
メールガトドキマシタ
『大本運営 発 指揮官 宛』
『当指揮官はアズールレーン、レッドアクシズのどちらに付くのが有益か判断し速やかに大本運営に報告せよ』
あはははは、結果がこれですよ。どうしましょ。
(多分続く)
次回「重桜」