ホント月1更新中ですね・・・。
一日30時間位にならないかな(遠い目
「ではこれより、ISの基本的な基本操縦を実践してもらう」
そう言いながらジャージ姿の千冬姉がこの場に居る全員を見渡した。
今から始まるのは、入学して初となるISの実機演習だ。
その為クラスの全員が演習用グラウンドに集合している。
通常の体育の授業だけでなく、IS使用も前提に入れた場所なので、かなり広大な広さを誇っている。
そこに40人近くが集合したわけだが、まぁ中々に視線が動かし辛くて困っている。
というのも、ISへ搭乗する際、乗り手はISスーツというものを着る。
それがどう考えても水着にしか思えないような薄さなのだ。
水着に似ているといってもスクール水着とかの上下一体型のものだが、普通にモデルさんとかが着ていそうなデザインの物が多く、何が言いたいかというと、身体のラインが出ていたり切れ目があったりで目のやり場に困るのだ。あれだ、体操選手が着るレオタードを際どくした感じだ。
一応対面上はキリっとした表情をしている。
幸いにも一番前の列に並んでいるため、前に居る千冬姉さえ見ていれば視界外の情報はシャットアウトできる。
千冬姉はそんな俺を時折、物理ダメージを感じさせるぐらい鋭い視線で見ているが。
「実際に全員が搭乗するのはマダだ。その前に、お前たちにはISで行える動きというものを実際に見てもらう。織斑にオルコット、前へ出てISを装着しろ」
「はいですわ」
「お、おう」
いきなりの事だったのでいつもの調子で返事をしてしまったため千冬姉からギロリと睨まれるが、授業の進行を優先したのかそれで終わった。
とはいえこのままここに居ても、それこそぶん殴られるので、セシリアに倣って前へと出る。
だがその時には、セシリアは既にISを纏っていた。
息をするように、自然な流れでセシリアは行うことができていた。
流石、としか言いようがない。
「よしオルコット、そのまま飛べ」
「はい!!」
千冬姉が言葉少なに告げると、セシリアもすぐに空へと舞い上がる。
あっという間だった。
ほんの数日前には戦っただけだというのに、実際にはそれだけの差があったのだ。
あそこまで追いすがれたのは、偏に油断してくれていたから。
悔しい、もっと精進しないとな。
「どうした織斑、早くしろ。熟練の操縦者は0.1秒もあれば展開できるぞ」
「ぐぬ」
淡々とそう告げられ、慌てて俺はISを呼び出そうとする。
だが、今になってISの装着方法が分からない。
よくよく考えれば先日のセシリアとの試合時は、既に機体がある状態の所に乗り込んだ。
しかし今は待機状態で、右手首にある腕輪となっている。
何がどうなったらコレがアレになるのか、いつから人類は質量保存の法則をボイコットしてしまったのか俺にはわからない。
原因は分かるが・・・・・・。
ともかく今は装着方法だ。
この腕輪の状態から展開する必要がある。
そのためには―――
「呼び掛けてください。それだけでその子は力を貸してくれます」
「虎子?」
どうしたものかと思っていたら、掛かる声があった。
そちらを見れば、いつも通り無表情の虎子だ。
その虎子は、声は俺へと掛けつつも視線は俺の右腕、正確に言えば腕輪へと注がれていた。
俺はその視線を追う様に、白式へと目をやる。
「白式?」
そう呟いた瞬間、視界を光が包んだ。
心なしか歓喜を感じさせる光の渦。
それは一瞬の間の出来事で、気づけば俺は白式に身を委ねていた。
あまりにもあっさりと白式を呼びだせてしまったことに、というか若干食い気味に白式は出てきたようにも思うが、それだけ
待機状態ではなく、全身を守るために展開されたその装甲を見る。
曇り一つない白。
それを身に纏い、ISの持つ機能によって押し上げられた感覚系が、全能感にも似た力強さを与えてくれている。
「遅い、いつまで掛かっている。早く行け」
どこかワクワクするような感覚を持っていると、千冬姉から淡々とした口調で言われてしまった。
この口調の時の千冬姉はかなりまずい。
本気でキレかけている時の千冬姉だ。
「お、おう、じゃなかった、はい!」
俺はすぐに地を蹴るようにして空へと身を乗り出す。
勢い余ってふらつくも、前回で何となくつかんだ感覚を思い出し、空中で待機していたセシリアと並ぶ。
「何やら手間取っていたようですが大丈夫ですの?」
「まあ何とかなったよ。虎子に助言を貰ったおかげでさ」
「あら、虎子さんが・・・・・・」
俺の言葉にセシリアが少し意外そうな表情をした。
というのも、あのクラス代表決定戦以降はセシリアも虎子と話すようになっていた。
しかしだからといって虎子に何か変化が起こる訳でもなく、変わらず無表情で淡々としていた。
だからこそ、自ら虎子が動くというイメージが湧かないのだ。
最近になってようやく分かってきたのだが、思いやりが無いとかそういうわけではなく、聞かれれば普通に教えてくれるが能動的に動くことが無いのだ。
『何をしている。次は空中機動だ』
おっと、今は私語を慎まないとだな。後で出席簿アタックされてしまう。
俺はセシリアへと目配せし、同時に向こうもこちらを向いたところで、互いに頷く。
「先行しますわ」
「助かる」
セシリアはそう言うなり、再び空を切る。
俺もすかさずその後ろを追い縋る。
正直助かった。
空中機動といっても何をすれば良いのか分からないが、こうして前を行ってくれれば何とか追うことができる。
とはいえギリギリ追えているだけであるし、向こうが迷いなく滑らかに動くのに対して自身は余計な動作が目立つのを自覚できる。
それに、セシリアは恐らく速度を緩めて追いやすいようにしてくれている。
淀みない動きから、こういった曲芸飛行とでも言うのか、空中でのIS操作を見せることになれている様子だ。
だから俺の拙い動きで追えているということは、そういうことなのだと思う。
「やっぱり難しいな。でも、負けてられない!」
確か空中での機動を行う際は前方に円錐の盾を作るイメージで飛行することが効率的だと授業でやっていた。
それを思いだし、イメージする。
「円錐形・・・・・・円錐形・・・・・・」
特に早くもならなかった。
「ちくしょう」
・
・
・
『それでは二人とも、次は空中からの急速降下だ。目標は地面から10cm以内』
「了解ですわ」
「・・・・・・了解」
いきなりそんな無茶を言われてもできる気がしない。
しかしやらなければ千冬姉に何をされるかわかったもんじゃない。
まぁ、やる前から諦める気は更々無いけどさ。
けれどイメージがわかないのは事実だ。
IS操作においては操縦者のイメージがそのままIS自体にフィードバックされるため、明確な成功をイメージする必要がある。
勿論それだけではなく、その動作を行うための体捌きなども必要となってくるが、先ずはどのようにして地面すれすれで止まることができるかだ。
「一夏さん、宜しければ参考にどうぞ見てくださいませ」
悩んでいると、いつのまにか横に並んでいたセシリアが言うなり身を捻り、進行方向を下へと向けた。
落下中にもスラスターを使っての加速をし、そこへ重力加速度が追加される。
しかし、あと一歩で地面・・・・・・というところで再びくるりと身を捻り、危なげなく身体を立て直した。
そして下方へと向いたスラスターによって慣性を殺し、すんなりと地面ギリギリで止まった。
『ほう、流石に候補生ともなれば違うか。約5cm、その調子で精進しろ』
『はいですわ!』
セシリアの産み出した結果に千冬姉も及第点とでも言うように笑みを浮かべた。
それを見てセシリアが嬉しそうに返事をする。
世界1位になったこともあるヴァルキリーに、誉められれば嬉しくもなるだろう。
特に千冬姉は滅多に誉めたりはしないから尚のことだ。
負けていられないな。
そう思い、気合いを入れ直す。
イメージは先程のセシリアを参考にさせてもらう。
加速を行いつつも地面が近づいたら身を翻す、だ。
それをイメージして・・・・・・イメージして・・・・・。
『白銀、防げ』
『承知しました』
結果だけを言うと、俺は再び空を舞うことになりました。
◆◆◆
「この前のやつ、どうやったんだ? 盾だけ出してたが」
「部分装備です。熟練のIS操縦者は誰でも出来る技術ですね」
「へぇ、そんなのがあるのか」
「あれなら人目を気にする必要もありませんので」
「・・・・・・その結果俺は盛大に宙を舞った訳だが」
「ダメージは極力出ないように加減した筈ですが?」
「いや、うん、何でもない」
休み時間に昨日の事について聞いてみたのだが、少しばかり悲しくなる。
もうちょっと優しく止めてくれてもよかったのにと思うのだ。
まあ落ち度はこちらにあるわけだから仕方ないのだが、地面を守るために俺が吹っ飛ばされたというのが結末なのでなんとも言えぬ寂寥感が・・・・・・。
だってこのお隣さん、ISシールドがあるから大丈夫ですよねって真顔で言うんだよ。ついでにうちの姉もそうだったけどさ。
はあ、深く考えても仕方ない。
少しばかり素直すぎるきらいがあるだけだ。
「ねぇねぇ聞いた聞いた!?」
「隣のクラスに中国からの転校生だって!」
「おりむー、いったいどんな娘だと思うー?」
虎子と話していたら、クラスの中でもよく話す方の3人組が話し掛けてきてくれた。
夜竹さゆかさんに谷本癒子さん、そしてのほほんさんだ。
いつも仲良く3人で居ることが多く、いつしか食堂で話すようになって以来の関係だ。
・・・・・・?
のほほんさんはのほほんさんだろう?
さておき、隣に転校生か。
中国というと
中学2年の終わり位に中国へ帰ることになってしまった幼馴染みだ。
初めて会ったのは小学5年生の頃、あいつが中国から転校してきた時だ。
初対面の時は突然殴られたりとあまり良い仲ではなかったが、いつだったかあいつがクラスのやつに苛められているのを見て、思わずかっとなって飛び出してしまってからは何かとよくつるむ様になった。
あいつも最初は日本語がうまく話せなかったりとクラスにもあまり馴染めていなかったが、その辺りからクラスの皆とも仲良く出来るようになってたっけか。
そういえば、苛めてたやつらの保護者から苦情が来て学校に呼び出されたりもしたけど、小さい方の姉が「ほぅ・・・・・・」なんて珍しく真剣な顔をしてどこかへ行ったと思いきや、苛めてたやつらが次の日からなんか良い奴になっていたりなんてのもあったなぁ。コウ姉は映画版ジャイ〇ンがどうとか言っていたっけ。
うん、本当に懐かしい。
そんな風に昔を思い出していると、虎子がジーッと何かを見ていることに気付いた。
いや他の皆もどうやらそちらを見ていた。
何だろうか、そう思いそちらを見ていると、皆に見られてビクビクッと挙動不審になっている子がいた。
というか、すごく見覚えのある子だった。
「中国代表候補生、凰鈴音かと思われます」
「やっぱり鈴か!!」
注釈のごとく虎子が言った言葉に、間違いではなかったと席を立ち近付く。
そして手を伸ばし―――たところで鈴が猫の如くズザァッと後ろへ飛びのいた。
うん、やっぱり鈴だ。
相変わらずちっこいので持ち上げてやろうと思ったのだが、すんなり躱されてしまう。
コウ姉がいつも鈴にやっていたものだから気付いたら自分もやるようになってしまったのだが、こんなに簡単に避けられるようになるだなんて成長したなぁ鈴。
「あ、あんたはいつもいつも! そう軽々しく触りに来るんじゃないわよ!!」
「なんだよつれないな、幼なじみのスキンシップじゃないか。コウ姉の時は喜ぶくせに」
「コウジュさんは良いのよ! ちょっと
言いながら目線を下げる鈴。
何というか目が死んでいるのだが、何を肖りたいのだろうか?
しかしこういう雰囲気の時に内容を尋ねると碌なことにならないというのは十分に身に染みているため、話題を反らすことにした。
「そういえば2組に転校したってことだけど、えらく中途半端な時期だよな」
今は4月の半ばを過ぎた頃だ。
中途編入にしても、時期が入学式からそれほど経っていないこの時期に行うというのは何とも不思議だった。
IS学園の様な世界各国から入学者が集まる学校ならではと言われてしまえばそれまでだが。
「ああ、それは簡単よ。私も最初はここに入学するつもりは無かったんだけど、入る理由が出来ちゃったから慌てて手続きをしたの」
そう言いながら、フフンと俺を見上げる鈴。
こちらに関してはどうやら聞いてほしそうな感じであった。
「それって―――、」
「一夏、知り合いか?」
「誰よあんた」
俺が聞こうと口を開いたところで、今まで静かだった箒が話に加わった。
しかし、加わったとは言うが何やら二人して剣呑な雰囲気となっている。
こう、背後に虎と龍が見える感じの。
いや柴犬と猫か?
どちらにしろこのまま放置というわけにもいかない。
そう思い二人の間を取り持とうと口を開いたところで新たな乱入者が居た。
「何をしている。チャイムは鳴ったはずだが?」
その声が響いた瞬間、その場に居た全員がビクンっと身体を震わせた。
見れば、教室へと千冬姉が入ってこようとしている所だった。
鈴に至っては扉を背にしていた為、油の切れた機械のようにギギギと首をそちらへと向けた。
「ち、千冬さん・・・・・・痛ぁっ!?」
「織斑先生だ馬鹿者め。そしてお前のクラスは隣だ。もう一発欲しいのか?」
「はぃぃいっ!!!」
凜が千冬姉の名を呼ぶとすかさず振り下ろされる出席簿。
スパーンと凛の頭で良い音を響かせる。
そしてすかさず千冬姉から言われた言葉に慌てて走り去る鈴。
そういえば鈴は昔から千冬姉のことは苦手そうにしていたなと思い出す。
コウ姉とは仲良くゲームをしていたのに、千冬姉を前にすると途端に借りてきた猫のようになる。
今も猫の如く逃げたところだしな。
などと、のんびり考えているのがいけなかった。
「ほう、大した度胸じゃないか織斑」
今度は俺が、ギギギと動きの悪い首を回す番だった。
気づけば他のクラスメイトは皆既に席へと戻っている。
裏切られた!?
それを理解した直後、先程よりも心なしか大きく、スパーンッと教室に音が響くのであった。
◆◆◆
「ただいま戻りました」
出掛けていた虎子・E・白銀は、自室に戻ると同時にそう口にした。
返答は、無い。
しかしそれはいつもの事だ。
虎子が言葉として発しているのも、それが常識であると教えられたために行っている
同室者は居るが、“おかえり”と返されることはほぼない。
ただ、虎子もその同室者も寡黙ではあるが常識を弁えており最低限の礼儀は返す。
同室者の返答が無いのはただその余裕が無いだけだ。
中へ入れば、カタカタと小気味良く打ち続けられるキーボードの音が響く。
今の時代キーボード入力というものはアナログ扱いされる時代ではあるが、一部の科学者にとってはそうではない。
思考入力と直接入力、その双方を用いての並行作業により時間を短縮しているのだ。
当然それが効率のいい方法かは異論あるだろう。
ただ、彼女にとっては何よりも早く、少しでも早く
故に彼女はそれ以外の事に思考を裂く余裕が無い。
だから誰かが部屋に入ってきた程度では気付けない。
それは彼女の家系から考えれば致命的な失態であろう。
だがその程度の落ち度、気にもならない位に彼女は今産みだそうとしているモノに執心していた。
「そこ、上と逆の方が0.03秒効率が上がりますが」
「っ!?!?!?!?!?」
虎子が少女・・・・・・
そしてその驚きから慌てて立ち上がろうとするもタイヤ付きの椅子の足部分の上で立ち上がってしまい、彼女が踏む勢いのままタイヤは滑り、結局手と腹部を机に強打してしまう。
「~~~~~っ!?」
「おや、大丈夫ですか?」
「きゅ、急に声を掛けないでくださいって前にも言いましたよね!?」
「はい。なので数秒待ってから声を掛けましたが」
「そうじゃないです!!!!」
簪の言葉にはて・・・とでも言わんばかりに首を捻る。
そんな風に首を捻ろうとも相変わらず無表情なままの虎子に、悪気はないのだと理解はしていてもやりきれない感情のまま拳を握る簪。
ここ最近ではこのようなやり取りの繰り返しだ。
簪としては自らの目標の為に静かに只管作業へと没頭したいのだが、この同居人がそれを許さない。
「やはりコミュニケーションというものはどうにも難しいですね」
「確かに難しいですけど、あなたの場合はコミュニケーションの前に色々と知るべきことがあると思います!!」
「成程、ではやはりあなたからコミュニケーションについて教えて頂くべきですね。そもそも円滑なコミュニケーションを人と取るためにはどうすれば良いのでしょうか?」
「え、いや、えっと」
ズズイっと身体を寄せる虎子。
しかし簪はそんな虎子への返答に困る。
先程からコミュニケーションの取り方について言ってしまったが、それが分かれば苦労はしない。
ぶっちゃけていえば簪は姉への引け目などもあってその性格は内気な方である。
円滑なコミュニケーション方法?
簪の方が知りたい位であった。
「やはり依頼には報酬が必要でしょうか? 現状私が最優先で会得するべき分野だと感じていますので、私が提示できる報酬であれば何でも仰ってください」
しかしそんな簪の心内など知らずに虎子は話を進める。
実際虎子は至急コミュニケーション能力というものを得たいと感じていた。
母に当たるコウジュからは焦らなくても構わないと言われているが、クラスという集団に加わってからというもの多くを学び、しかし学べば学ぶほど悩むことが増えた。
悩み、疑問、それはとてもいい傾向だと言われた。
だがそれをそのままにするのはいけないことだとも言われた。
更に言えば、虎子が話せば話すほど、相手が苦笑したり返答を悩むことが多いということに気付いた。
それは彼女が判断するに“遠慮”というものだと推測出来た。
しかし問題は何故それを自分がされるのか、ということだ。
そこの答えこそがコミュニケーション能力というものに隠れていると虎子は思ったのだ。
だからこそ、虎子は早くコミュニケーション能力というものを獲得したかった。
その為の努力は惜しまないつもりだ。
しかし、簪の表情は芳しいものではない。
それほどに難易度の高い物なのか、自身にはそれを獲得することが難しいだろうという判断なのか、それを得るためには多大なる代償が必要だと言うのか、虎子は簪の表情を見ながら思考する。
「・・・・・・あ、そうだ!!」
難しい表情をしていた簪が、突如何かを思い出したようで机の引き出しを漁りだした。
そして少しして、その中から取り出されたのは一冊の本であった。
「これでも使って自分で勉強してください!」
簪は自身の身代わりとなるであろうそれを渡した。
「『誰でも出来るコミュニケーション方法。話せないあなたも明日から人気者』ですか。確かにこれは今まさに私が求めていたものです」
ペラペラと中身を見る虎子。
印刷年月日を見れば2000年代と少しばかり年季の入ったものだ。
更に言えば中の文章などにはマーカーや付箋が張られ、分かりやすく要点がまとめられている。
こういったものは現在主流である電子書籍ではし辛い部分であるが、紙媒体はそのあたり扱いやすい。
しかしそうなると、今の時代、紙媒体は逆に貴重なものとなっている。
買う者が少ない為、一部雑誌を除きこういった特殊なジャンルの本というものは世に出回る数が当然少なくなる。
虎子が受け取った本は既に使用感も出ているが、それでも丁寧に扱われてきたのが分かる綺麗さだ。
それだけ大事にされてきたものだと分かる。
「しかし宜しいのですが? 紙媒体ということは貴重な物なのでは?」
そう思っての質問であったが、何故か簪は慌てだした。
「い、良いの! 私には効果がな・・・・・・もう必要無いから! あっても一緒というか・・・・・・」
「成程、簪は既に極められているということですね。素晴らしい。見習いたいものです」
虎子は感心する。
確かに軽く目を通しただけでも事細かにコミュニケーションの取り方について学んだ跡がある。
これだけ熱心に学習したのであれば内容など熟知していてもおかしくは無い。
そしてそんな参考書を貸して貰えるとは思ってもみなかった虎子は喜んだ(当社比)。
だが、それに対しても簪は何故かワタワタとするばかりだ。
「ち、ちが、あ、いや、その・・・・・・」
そんな彼女へ、ここ最近同室者として見てきた虎子は彼女へと慣れないながらもアドバイスというものをしてみることにした。
「どうしました? あなたは謙遜しすぎるきらいがある。あなたから学ぶものはとても多い。授業が終わってからもあれほど熱心に勉学を勤しむなどそうできるものではないと思います。その様な姿勢で臨むあなたはとても好ましい。聞けば教室でも休み時間なども級友とコミュニケーションを取る時間も惜しみ作業を行い続け、食事も効率よく時間を掛けないためにか食堂ではなく部屋で取ることが多いと聞きます。成程、コミュニケーションを極めたあなたにとって級友との会話はすでにクリアしたステージに他ならない。さらに先へと我武者羅に進むあなたの姿勢はやはり好ましく思います」
「やめて死んじゃうからそれ以上はやめて下さいお願いします!」
何故か顔を真っ赤にしながら泣き叫ぶようにやめてと言う簪。
とりあえず虎子としてはやめてと言われたことをするつもりは毛頭ない。
そして前情報として日本人は奥ゆかしい性格の者が多いと聞いていた。
そこで虎子は合点がいった。
「・・・・・・? ふむ、あなたは恥ずかしがり屋なのですね。分かりました。無為に褒めるのは好ましくない訳ですね」
「もうそれで良いです・・・・・・」
やはりあれほど鬼気迫る勢いで勉学を励んでいた加減か、虎子は簪が疲れているように見えた。
なので一端話を終わらせて、食事を取り休憩するように勧めることにした。
「どうやら簪は疲れている様子です。ここは一旦休息を取るように勧めさせていただきます。食事を摂り、睡眠を取ることを推奨します。この本の報酬は何かまた考えておいてください」
「・・・・・・ご飯も保存食がありますので放って置いて。あなたこそ自分の食事を摂りに行ってください」
溜息を一つ吐いた後、簪は疲れた声でそう言った。
つい虎子に構ってしまったが、簪にはそんなことに感けている時間は無かった。
ただ早く作業に戻りたい、だから邪魔をしないで、そんな気持ちで椅子へと再び座る。
そして、その際につい、疲れもあって口走ってしまった。
「良いよねあなたは。あの魔女が母親なんだし。専用機にも装備にも困らない」
その言葉には様々な感情が含まれていた。
自身の境遇や環境への苦悩、他者への嫉妬、そして疎外感。
簪には優秀すぎる姉が居て、家系のこともあってずっと比べられ続けてきた。
自身の専用機すら開発し、ロシア代表まで上り詰めた姉。
対して自身は専用機の開発すら思うようにいかず、肩書きも代表候補生止まり。
一般的に言えば開発も出来、候補生とはいえ国家代表に近い位置にあるというのは十分なのだが、彼女に妥協は許されなかった。
元々内向的な彼女は、そんな環境下にあって自分の中に様々な感情を貯めこんで来た。
ドロドロとこびりつくような暗い感情。
誰かを傷つけるような外向きのもではなく、自分で自分を否定し続ける様な、自分で自分を追いつめて行くような、そんな哀しみしか生まない感情。
その一部が、つい漏れ出てしまった。
簪は口にしてから、ハッと口を塞ぐ。
そして虎子の方を見た。
そして安堵する。
内容までは聞かれていなかったのか、無表情ながらも首を傾げている虎子。
そんな姿を見て、何をしているんだかと簪は自分を内心で嗤う。
「母上は開発が大の苦手ですのでいつも装備は困っていますが?」
聞かれていた!? と、慌てる簪。
近いとはいえ数かに漏れ出ただけなのにどうして? と内心で右往左往する。
目の前の少女をただ羨むだけの汚い言葉だ。
それを聞かれていただなんて羞恥だけではなく自嘲も伴いつつ、やはり今日はどうかしていると嘆く。
そこでふと、先程虎子が言った言葉が気に掛かった。
あの魔女が開発を苦手としている?
銀虎を作成し、開発分野でこそ有名とされているあのコウジュスフィールが?
しかし虎子に嘘を言っている様子は見えない。
家の事もあって人の感情を窺うという部分に関してはそこそこ自信がある簪はそう感じていた。
「開発が苦手って、本当なの?」
「はい。開発も苦手ですし、IS適正もSですがISへとまともに搭乗することも出来ていません」
「・・・・・・え?」
まさかの情報に、簪はそう口にするのが精いっぱいであった。
いかがだったでしょうか?
かんちゃんの口調が難しいです。
いやそもそも何故か勝手になるギャグ時空のせいでキャラ全員迷走している気がせんでもないですが。
そういえば短編として書かせて頂いていますが、どこまでが短編の範疇なのでしょうか、単行本一冊分位? 2,3話で完結? 細かい事ですがどうしたものやら・・・。
まぁともかくとしてまずは続けることですよね。
一応銀の福音までは行きたいなぁと思っております。
流れはほぼほぼ原作準拠にはなると思いますが、ギャグ時空ISを楽しんで頂けるように頑張りたいと思います。
ではではまた次話で!
P.S.
今期のアニメをあまり見れていないのですが、何か皆さんのおススメとかってありますかね? とりあえずオバロとゆるきゃんは絶対見るようにしているのですが・・・。
P.S.2
FGOイベが全然進められない;;
ガチャはふじのんを何とか当てて撤退、剣式は流石に重ねられませんでした。
最近色々出費が重なっているから自重ちゅうなんです。
モンハンワールドも欲しいのですけどね(´・ω・`)