鎮守府島の喫茶店   作:ある介

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本年最後の更新はちょっと短いですが
あの深海少女視点での箸休めをお送りします
幼女の方ではなく少女(なのか?)の方です



箸休め14:ある日の深海少女

 

「ラーララー、ラーララー……」

 

 海岸通りの堤防の上をある女の子が歩いていた。手を広げて、最近覚えたばかりの歌を口ずさみながら、楽しそうに。

 

 すると、それを見つけた島民の女性が声をかけた。

 

「おーい、ミナミちゃん。お昼まだでしょ?新商品作って見たんだけど、試してみる気はないかい?安くしとくよ」

 

「アリガトーオバチャン。アトデイクワネー」

 

「あいよ、待ってるからね」

 

 そんな会話を交わして『オバチャン』と呼ばれた女性は去っていった。そして残された女の子……ミナミこと南方棲鬼はひょいと堤防から飛び降りると、再び歌いながら商店街の方向へと歩き始めた。

 

 彼女がこの島へ来てからしばらく経ったが、その間何をしていたかと言うと、鎮守府に紹介してもらった島内活動任務ーー艦娘達はお手伝い任務と呼んだりもしているーーをこなして報酬を得ながら、島民達との関係を深めていった。その結果、今では先程のように気軽に会話を交わす仲になったというわけだ。

 

 また、深海棲艦の力の源である負の感情から開放された彼女は、艦娘を撃沈させられるような攻撃はできなくなったものの、基本性能はそのままに、艤装の運用と演習弾の装備はできるので、ときおり艦娘達の演習にも駆り出されていた。

 

「オバチャンノミセノサツマアゲハオイシイカラ、タノシミダワー」

 

 そんなことをつぶやきながら歩いていると、いつしか彼女の思考は先日食べた『美味しいもの』のことに移っていった。

 

(ソウイエバ、ナンニチカマエニヒデトノミセデタベタ、サンマトカイウサカナモオイシカッタワネ)

 

 艦娘たちによる秋刀魚漁も定期的に行われるようになり、入荷が安定したことで秀人の店でもいろいろな秋刀魚料理が出されるようになっていた。

 

(ナンダッタカシラ?マリネ?サッパリシテイテイクラデモタベラレソウダッタワ)

 

 まず彼女が思い出したのは秋刀魚のマリネ。三枚におろして塩を振ってしばらく置いたら、水気を拭き取り白ワインビネガーに漬ける。5分ほど浸した後、皮を引いてレモンスライスで挟み込んだら2・30分冷蔵庫で寝かせる。最後にそぎ切りにして皿に並べて玉ねぎスライス・ケーパー・刻みパセリを乗せて、オリーブオイルを回しかければ完成だ。

 

 彼女が言うようにビネガーとレモンの酸味と香りが、脂の乗った秋刀魚をさっぱりとさせてくれて思わず口に運ぶ手が止まらない一品である。おまけにワインにも合うということで、初めて秀人の店で酒を飲んで以来、すっかり飲ん兵衛になってしまった彼女にはたまらないものだったようだ。

 

(アトハナントイッテモパスタカシラ。アレモオイシカッタワ)

 

 続いて頭に思い浮かべたのは秋刀魚のパスタ。このとき秀人が作ったのはトマトソースだった。

 

 三枚におろして適当な大きさに切った秋刀魚の身としめじに、にんにくの香りを移したオリーブオイルで焼き色をつけたところにいつも使っているトマトソースを合わせ、そこへ茹で上がったパスタを絡める。

 

 秀人にしてみれば簡単に仕上げた一品だったが、もともとトマトと青魚との相性がいいので、あまり奇をてらわずとも旨味あふれるものが出来上がる。

 

(オサケモオイシイシ、ソレニコノマエノクリスマストイウイベントモ……ホント、コノシマニツレテキテクレタヤマトニハカンシャシテモシキレナイワネ)

 

 そんなふうに今まで食べて来たものを思い出すと、今こうしてのんびりと過ごせていることがとてもありがたく思えてきた。

 

 鹵獲されたときはこれで終わりかと、ある種諦めと安堵が入り混じった感覚を覚えた彼女だったが、その後本部で出会った大和に『放っておけないから』とあれこれ世話を焼かれ、あれよあれよという間にこの島に来ることになってしまっていた。

 

 その当時はただただ流されてしまったが、こうして穏やかな日々を重ねるにつれ、大和への感謝の気持ちというものがむくむくと湧き上がって来たというわけだ。

 

(トハイエ、イマノワタシニナニガデキルトイウワケデモナイノヨネ……トリアエズハ、コノシマノコトカラネ……ヒデトニモナニカシテアゲタイシ)

 

 本土にいる大和に直接何かをできるというわけではないが、とりあえず今はこの島の人々や、鎮守府の手伝いをしながら、自分の周りの人たちに少しでも恩返しをしていこう。特にいつも美味しいものを作ってくれる秀人にはなおさら……そんなふうに考えて顔を上げたところで、ミナミの目にある艦娘の姿が写った。向こうもミナミに気がついたようで、彼女に向かって手を振りながら声をかけてきた。

 

「おーい、ミナミ!こんなところで珍しいな、散歩か?」

 

「ソンナトコロヨ。アナタハコレカラチンジュフカシラ?テンリュウ」

 

「あぁ、ちと早めに行って準備やらちび共のお守りやらしなきゃなんねぇからな。龍田はなんか準備があるからって後からくるぜ」

 

 ミナミに声をかけたのはこれから鎮守府に向かうという天龍だった。「ちび共のお守り」などと言葉は悪いが、その表情は全く嫌そうではないあたり、天龍の性格が伺えるというものだ。

 

 そのことに気がついているミナミもまた「ショウガナイナァ」とでも言いたげに笑みを浮かべた。そんな彼女に天龍は言葉を続ける。

 

「そういやミナミも今日の鎮守府の忘年会来るんだろ?ほっぽも来るっつってたし……まぁ、大将が来るから当たり前だとは思うけど……一緒にいくか?」

 

「エェ、オジャマサセテモラウワ。デモ、コレカラチョットイクトコロガアルカラ、アトデネ。ネリモノヤノオバチャンニヨバレテイルノ」

 

「そっかそっか、んじゃ後でだな。にしても練物屋かー、あそこのさつま揚げ美味いからなぁ……軽く炙って生姜醤油でってのが一番だな。ビールに合うんだあれ」

 

「アラ、オダシデタクノモオイシイワヨ?トクニイマノジキニハ、チョットアツメニオカンシタニホンシュトアイショウバツグンヨ」

 

 何気ない一言からそんな世間話に花が咲く。それもまた今のミナミにとっては日常の楽しみの一つだった。

 

 それからしばらく練物屋のアレが美味い。ビールに合わせるなら惣菜屋のアレもいいなどと、他愛もない話をしてから二人は別れた。

 

 そして再びミナミは商店街に向かって歩き出した。

 

「ソウダ、オバチャンノトコロデオミヤゲニイロイロカッテイコウカシラ。テンリュウノセイデアブッタサツマアゲガタベタクナッタワ……フフフ、キョウハドンナオイシイモノガタベラレルノカシラ……」

 

 今日鎮守府で行われるという忘年会……秀人はきっと今回も美味しいものをたくさん作ってくれるのだろう。そして来年もそれは変わらずに……。

 

 自分でも気が付かないうちに、ミナミの足取りは軽くなっていた。

 




というわけでミナミこと南方棲鬼さんのある日のお話で今年は締めたいと思います
前回からいろいろイベントをすっ飛ばして
年末に無理やり追いつかせた感はありますが
何卒お目こぼしを……

そして、今年一年お付き合いいただきありがとうございました
途中リアルのほうがバタバタして以降不定期の更新になってしまいましたが
来年もネタが続く限り更新していきたいと思いますので
どうぞよろしくお願いいたします
それでは皆様良いお年を
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