俺は一度だけ、母親から褒められた記憶がある。
それはちょっとした荷物を運ぶとき、『空間置換』を使って見せた時だ。
ただ、その頃から魔法を扱えることがあまり世間体として良くは無かったので。
あまり外では使わないように、とも諭されたけど。
俺は一度だけ、父親から褒められた記憶がある。
それは俺が自分の部屋に、妹の本を置くことを許した時だ。
何も言わず、ただ頭の上に、手を置かれただけだけど。
***
両親は白い肌に日があたらないようにと、常に妹に気を使っていた。
妹は一度出血するような怪我をしたら血が止まらなくなるので、一人にならないように、俺を含めた家族の誰かが、常に傍にいた。
今住んでいる家を買う切っ掛けも、妹が生まれたからだった。
あまり外に出れない妹の為に。
普通の学校に通えない妹の為に。
出来得る限り妹が欲しがるものを。
家の中に籠っていても退屈しないように。
必要なものは買い与えていた。
何時も、何時だって、両親は妹を優先していた。
そんな妹の事を俺はどう思っているか。
両親から、常に見て貰えている妹をずるいと思わないのか。
両親から、常に見て貰えている妹を羨ましいと思わないのか。
思う。
思うに決まっている。
何故なら俺も、両親の子供なのだから。
妹から、俺の部屋に本を置かせて欲しいと言われたとき、本当は断りたかった。
だけど出来なかった。
自分の居場所が、妹に侵食されて、失っていく気がする。
ただ、それだけが理由だったから。
自分の部屋に何か別の物を置けていれば、もう少し言い訳も出来たのだろう。
だけど出来なかった。
だから俺は条件を付けた。
そして部屋を満たしていく本の山を見ても、俺は虚しさしか感じなかった。
本当は、我儘を言いたかった。
ああしてほしい、こうしてほしい、あれがほしい、あれはいやだ。
そう言えたら良かったのかもしれないけど、出来なかった。
叱られると判った行動が出来なかった。
欲しい感情を、どうやったら貰えるか判らなかった。
そして俺は、それ以外に欲しいものが思いつかなかった。
だから出来なかった。
嘘は言えなかった。
理由のない子供の我儘は、見破られることが判っていたから。
妹が外出するとき、基本的には俺も傍について行く。
母親は家事であまり手を離せず。
父親は偶に車を出して一緒に外出することもあるが、基本的には仕事で疲れているので、頻度は月に一度あるかないか。
なのでそういう役目は、大体俺に周ってくる。
だけど俺は、ほぼ毎回、道中で妹と別行動をしている。
必ず妹と別行動をすれば、もし何かあったとき、それは未来を見ることで察知することが出来るから。
その何かあった日にだけ、妹から離れないようにしていたのだ。
そんな妹を突き放すような態度をとっていたにも関わらず、妹は俺に懐いていた。
妹も、一人になりたかったからだ。
一人になって、自由になりたがったからだ。
妹の頼みを聞いて、心中を察して願いを叶えてくれていると思っているからか、妹は俺に懐いていた。
そんな妹を、俺は好きにはなれなかった。
***
両親が俺に小言を言うようになったのは、小学校五年生になって半年がたったぐらいの頃だ。
その頃の俺は、妹の付き添い以外で、あまり私情で外出することが無くなっていた。
妹は妹で反抗期が終わり、精神も安定して自分のやりたいことが見つかって、その為か両親にも余裕ができていて。
外に出ることを望まなくなっていた俺を見て、両親は初めて、俺の将来を危惧したのだ。
もしかしたら、その頃の俺は反抗期だったのかもしれない。
両親は外に出ることを望んだけど、俺は理由もなしに外に出たいとは思えなかった。
妹と別行動しているときは、星や月を見ながら未来を予測したり本を読んだりと暇を潰す事は出来たけど、それをプライベートでやりたいとは思えなかった。
自分の能力で何ができるのかという実験も、その頃には試したいものが思いつかなくなっていた。
お小遣いは月に千円ほど。
誕生日や年始には五千円ほど貰っていた。
だけど昔から欲しいものが無かったので、ただ俺の口座の残高が増えていくだけだった。
教材で必要な端末機器や、生活で必要な衣類などは両親や妹が勝手に買っていたので、特にそこで消費することもなかった。
一度だけ父親に。
「何か欲しいものでもあるのか?」
と聞かれたことがあったけど。
「特に何も無いよ?」
と答えて以来、貯金をしている事に疑問を持たれることはなかった。
そして俺は、本を読み続けた。
暇つぶしに妹の読み古した本を読み続けた。
そのことについては、言葉に出来ないような複雑な思いを抱いていたけど。
少なくとも、虚しいとは思わなかった。
以降のお話は、しばらくオリジナルが続くと思います。
このままだと主人公が九校戦に出れないのと。
二次創作ですが、一応はオリキャラのお話なので、ご了承して頂けると助かります。