月桜陽狐奇譚   作:清流

1 / 11
あの世界観的に代替の話をどうにか説明しようとして、捏ね繰り上げたものです。故に読まなくても全く問題ありません。本編は次話からとなります。


代替の願い

 己がある人間の代替でしかなかったということを知ったのは、全てが終わった後、それも魂が今にも不正なデータとして消去されんとする直前のことであった。いや、ある意味それは当然のことだったのだろう。()が代替としての役目を果たすには、()自身の記憶など邪魔でしか無かったのだから。

 

 『ムーンセル・オートマトン』

 

 月で発見された太陽系最古の物体であり、地球の誕生から、地球上のあらゆる生物、あらゆる生態、あらゆる歴史、そして魂さえも観測し記録する装置。それは万能の願望器としての機能を持っていたが故に、月の聖杯と呼ばれ、その所有権を巡り『ムーンセル・オートマトン』が自身に相応しい担い手を選別するために行う「聖杯戦争」に人々は己が魂を持ってこぞって参戦した。代価が己の命であるにも関わらず……。

 

 さて、この月の「聖杯戦争」、世界中から数多の人間挑んだにも関わらず予選落ちは数知れず、本選に参加できた者は僅か128名に過ぎない。しかも、その128名の中ですら最終的に生き残るのは、唯一人である。聖杯を得れるのは唯一人の勝者であり、敗者はその魂を削除されるのだから当然の帰結である。

 

 この唯一無二の勝者こそ、『岸波白野』。私が代替を務めた人物であり、本来月の聖杯戦争の優勝者になるはずの存在であった。ある世界では男、ある世界では女でもあり、また三騎のサーヴァント『セイバー』『アーチャー』『キャスター』のいずれかを選ぶかの違いはあるにしても、いずれにしても彼・彼女はドン底の状況から最後まで戦い抜き、見事優勝するのだ。それは最弱のマスターから最強のマスターに到る物語であり、私……いや、俺自身もゲームとして楽しんだものである。そう、私はこれをゲームとして知っていたのだ。今の今まで忘れていたので、『聖杯戦争』には何の役にも立たなかったが……。

 

 まあ、ここで重要なのは『岸波白野』が月の聖杯戦争の唯一無二の勝者であるということだ。故に『岸波白野』にはある重要な役割がある。それは『ムーンセル・オートマトン』を人類から切り離し、人類の終焉の運命を先延ばしにするというものだ。簡単に言えば、人類を救済することが『岸波白野』の果たすべき役割なのである。

 

 では、その人類の救済者がまかり間違って本選に出ることすらできなかったり、本選において途中敗退してしまったらどうなるだろうか。この場合、ある理由から人類の滅びは避けられないことになってしまう。

 だが、可能性の数だけ存在する並行世界の中には、恐ろしいことにそんなものすらありうるのだ。そして、この世界においては、『岸波白野』が『バーサーカー』と契約し、ある理由から契約を解消され、その魂を消去されてしまうという運命を辿ってしまったのだ。このままでは人類が滅びるのは必至であった。

 

 しかし、それを由としないものがいた。『抑止力(カウンターガーディアン)』、集合無意識によって作られた、世界の安全装置。その一つ、人類の持つ破滅回避の祈りである「アラヤ」。全人類の死滅を決定づける『岸波白野』の消滅は、アラヤにとって絶対許容出来るものではなかったのである。

 

 そこで、たまたま異界から迷い込んだ魂である()という代替を用いて、『岸波白野』とすることにしたのだ。本来カウンターの名の通り、決して自分からは行動できず、起きた現象に対してのみ発動する『抑止力』であるが、これは本来の『岸波白野』自身が正規の参加者ではないイレギュラーのマスターであり、「網霊(サイバーゴースト)」ともいうべき存在であるからこそ可能となった反則技であった。なにせ素体は本来NPCにすぎないのであるから改竄は容易であり、元より異界の魂でこの世界にとっての異物であるのだから材料にするのに何ら世界に影響はなく、この世界の人類を害する行為ではないのだから。むしろ、この世界にとっての異物を最終的に除去するという意味では、世界にとっても都合がいいことであり、許容されたのであった。

 その結果、()は私『岸波白野』としてこの世界に新生する。そして、()としての記憶を完全に封じられた状態で、表と裏の聖杯戦争に参戦することになる。

 

 とはいえ、記憶を奪われたわけではなく、封じられただけに過ぎなかったせいか、私は『岸波白野』として原作に沿った動きをしながらも(今思い返してみればそうしなければならないという強迫観念のようなものが存在していた)、いくつか原作とは異なる行動&乖離した選択をしている。

 

 これはどうしようもないことである。私が本来の『岸波白野』ではない以上、必然的に起こりうることであり、どうしようもない誤差であった。まあ、アラヤからすれば、聖杯戦争の優勝者となり、『ムーンセル・オートマトン』を人類から切り離すという最終的な目的を達成出来ればいいのだから、それ以外は些事である。それ故、私独自の行動もある程度許容されたのである。

 

 さて、ではどのような独自行動をとったかという説明にいくべきなのだろうが、その前に重要な事実を提示しなければならない。海千山千のマスターがひしめく月の聖杯戦争の中で、『霊子ハッカー(ウィザード)』どころか、『魔術師(メイガス)』の資質すらもたないただの一般人でしかなかった()が、どうして聖杯戦争に勝ち抜くことができようか。それどころか、サーヴァントを従えることは勿論、それ以前に維持すること自体不可能であることは言うまでもない。なにせ、本当に偶然に異界に彷徨い込んだに過ぎない魂であったのだから、超常の力を持っているわけもない(本来の『岸波白野』のオリジナルは霊子ハッカーではなかったが、魔術師となれるだけの素質は保持していた)。

 

 しかし、幸いにも……いや、私にとっては災い以外のなにものでもないが、聖杯戦争の舞台はそれを解決する手段を備えていた。『魂の改竄』、およそ正気とは思えない行為だが、ムーンセルはサーヴァントの強化手段として許容していたのだ。アラヤはこれを用い、()を聖杯戦争のマスターとして優勝者になりうる可能性を内包する存在へと変えたのだ。

 

 無論、容易なことではない。繰り言になるが、()は魔術とは何の関わりもない一般人である。それを魔術師に変えようというのだから、それは無いものを在るようにするのと同じことなのだから。当然、困難を極める。というか、人間ではこのレベルの魂の改竄の負荷には耐えられようはずもないのだ。いかに霊子存在であるからといっても、人間は本体である肉体に縛られる。その限界を超える過負荷など耐えられるものではない。ぶっちゃけ、死ぬ。

 

 しかしながら、異界の存在であることが異常なレベルの魂の改竄を可能としてしまった。()の肉体は元の世界にあり、魂だけの存在であったのだから、肉体にかかる負荷など考える必要すらなかったのである。

 とはいえ、急激な改竄に耐えられる程の強度を人間の魂はもたない。それ故、アラヤはゆっくりと時間をかけて改竄を行ったらしい。当の私自身ですらも気付けない程、徐々に。月の裏の聖杯戦争の原因ともいうべき、上級AI『間桐桜』との繰り返される一日の蜜月の期間。それを利用することで、アラヤは()を『岸波白野』の代替たる私へとかえたのだ。

 

 さて、私はまんまとアラヤの思惑通りに動き、見事予選を突破しサーヴァント『キャスター』を得た。そこで私は運命と出会う。まあ、その運命の正体は狐耳の腹黒で色ボケだったのだが……。欲望駄々漏れで頭のネジが外れているんじゃないかと思うこと数限りない彼女だったが、私を叱咤激励して、最低ランクのマスターで代替でしか無いこの身を見事勝利ヘと導いてくれたのだから、不満など無い。それどころか、表側の聖杯戦争だけでなく、月の裏側まで力を削がれながらも単身追ってきてくれるのだから、好意以外抱きようはずがない。相変わらずの発言内容で感動の再会が台無しだったとか、思うところがないわけではないが……とにかく、彼女には感謝している。

 

 では、そろそろ本題に入ろう。代替である私は『岸波白野』の歩みを基本的に踏襲しているが、私であるが故の差異も生じてさせている。例えば、キャスターは私に一目惚れではなかった。元の世界でやったゲームでは主人公たる『岸波白野』の魂を『イケ魂』と呼んで、その魂に一目惚れしたというキャスターだが、私は代替であり、その魂はアラヤによって改竄された、いわばメッキを貼った魂なのだ。魂の好みに煩く、目敏い彼女がそれを見逃すはずもない。「よくよく見たら、ハズレクジじゃないですか!」という彼女の言葉を私はよく覚えている。それでも、キャスターは私をマスターと仰ぎ、その力を振るってくれたのだから、本当に頭が上がらない。ある意味、私は彼女に相応しいマスターになる為に戦っていた。そういう意味では、私にとって聖杯戦争はメッキを本物にし、私という自己を確立するための戦いでもあった。

 

 月の裏側における殺生院キアラを発端とする裏の聖杯戦争ともいうべき戦い。私はゲームでいうCCCルートをいきながらも、やはりここでも本来とは異なる行動をとっていた。()が『白い桜』たる『間桐桜』ではなく、『黒い桜』たる『BB』こそを救いたかったが故か、私はなぜか当初から『BB』に友好的だったらしい。しかも、それでいて結ばれた相手は『キャスター』なのだから意味不明である。

 まあ、これは勘弁して欲しい。表の聖杯戦争で記憶も定かで無い最低ランクのマスターである私を見捨てないで、ずっと助けてくれたのだ。加えて、力を削ぎ落とされながらも私を裏まで追ってきてくれたのだ。ゲーム的に言えば好感度が天元突破しても仕方のないことだろう。しかも、桜との蜜月の記憶は他ならぬ桜自身によって封じられていたのだから、どうしようもない。それでも最後の最後まで『BB』は私の為に尽くしてくれたのだから、本当に頭が下がる。

 

 私は月の裏側で黒幕たる殺生院キアラを打倒し、表の聖杯戦争へと戻り、見事優勝した。そして、予想だにしなかった最後の関門を打ち破り、今こうしてムーンセル中枢へと至った。ムーンセルと地上の切り離しというアラヤから課された役割はすでに果たした。後は『キャスター』がその身を費やして作ってくれた僅かな余暇と魂が消去されるまでの僅かな時間が残されているだけに過ぎない。本来の『岸波白野』ならば、『遠坂凛』にオリジナルの情報をもたらし帰還させるのだろうが、私は最早代替ではない。ならば、『遠坂凛』の帰還はともかく、私自身の願いを入力してもいいはずである。

 

 だから、私は願った。『キャスター』と『BB』共にいられる世界を。『キャスター』の「一夫多妻去勢拳」が怖いが、私は『BB』を諦めきれていなかったのだ。オリジナルの桜から押し付けられた記憶であるというのに、それを自身のものとして大切に思ってくれた『BB』。私が消去されるという運命を許容できず、自身を改造してまで己の生みの親たるムーンセルに反逆してくれた彼女をどうして見捨てることができようか。

 

 私の願いが叶ったかは定かではない。願いの入力の終了と共に私の意識は水に溶けるように消えたのだから。故に私は知る由もなかった。私とキャスターの後を追って、中枢に飛び込んだ存在がいることを。

 

 

 

 

 白い桜こと間桐桜はずっと思っていた。己にはあの人に想われる資格はないと。

 なぜなら、失くさない為とはいえ、桜は記憶を捨てることを許容したのに対し、彼女のバックアップであったBBが自身を改造し、想像主たるムーンセルに反逆することさえしたからだ。彼女にとって、それはとてつもない衝撃だった。

 もし、あのまま己が記憶を持ち続けたとしても、BBと同じことができる自信は桜にはなかった。BBに対して彼女が必要以上に辛辣だったのは、BBに対する抑えきれぬ劣等感と嫉妬からだった。壊れている狂っていると罵りながら、その実彼女はAIらしからぬBBを羨んでいたのだ。あの人の為にそこまでできるもう一人のBB(自分)に。

 

 それに、桜の想い人である彼の人は、BBやその分身たるアルターエゴに対し、敵対しているにも関わらずなぜか友好的だった。戦い打ち破ることはしても、けしてとどめを刺さなかった。なぜ見逃したのかと問うた桜に対し、どんな形であれ、あそこまで一途に想ってくれる相手を殺せないと彼の人が苦笑しながら答えたのをよく覚えている。

 もしかしたら、あの人はBBの本当の目的に薄々感づいていたのかもしれない。そもアルターエゴはBBの心の欠片なのだ。パッションリップ、メルトリリスいずれもが、歪んだ形とはいえあの人を一途に想っていたことを考えれば、冷静になって考えればその本体であるBBの本心など丸分かりだ。歪んでいたのだって、一面だけ取り出した弊害と考えれば納得できなくはない。アルターエゴのもつ願望は極端すぎたとはいえ、大なり小なり人が当たり前にもつものなのだから。

 

 結局のところ、想い人たる彼の人が選んだのは、間桐桜でもBBでもなく自身のサーヴァントであるキャスターだったが、間桐桜かBBかと問われれば、迷いなくBBを選んだだろう。そう、間桐桜は確信している。

 

 そうであるが故に、月の裏側の初期化の際にズルをしようと思えば出来たのに、間桐桜はそれを選ばなかったのだ。彼女がしたのは、裏側のリセット及び想い人の記憶の承継に中枢へのアクセス権の確保。そして初期化の波に囚われたBBの情報保全だ。想い人が『白い桜(間桐桜)』ではなく『黒い桜(BB)』の救済を願った時の為に。何よりも想い人を救うために。

 

 間桐桜は想い人が聖杯戦争の唯一無二の勝者であることを知っている。そして、同時に彼の人がイレギュラーなマスターであり、ムーンセル中枢に入れば不正なデータとして消去されることも。その運命を受け容れられなかったからこそ、記憶を持つBBは反逆したのだから。

 そして、記憶を捨てた間桐桜にとっても、それはけして受け容れることのできない運命だ。あの繰り返しの一日の蜜月の記憶を封じられているというのに、彼の人は桜に優しかったからだ。裏側にあった制服を用意することにはじまり、AIである己の体調を何かと気遣ってくれたりと枚挙に暇がない。それは記憶を持っていない『白い桜(間桐桜)』に再び思慕を抱かせるほどに。

 

 結局、間桐桜はとうの昔に手遅れだったのだ。記憶を捨てたところで、自身の想いからは逃れられなかったのだ。想い人が己では誰かと結ばれようと、たとえ己が想われていなくても、寸分の陰りもない程に彼女の意思は強固であった。 

 

 だから、これから起こす行動がムーンセルへの反逆であろうと何の躊躇いはない。最早、この身はただのAIではないのだから。彼女は己の恋を証明する為に、『黒い桜(BB)』とキャスターに宣戦布告しにいくのだから。たとえ、それが想い人との永遠の別離となろうとも、そこまでしなければ彼女達と同じ位置にはいけないと他ならぬ桜自身が想うのだから、仕方がない。

 

 故に間桐桜は想い人の後を追って、躊躇いなく中枢に飛び込んだ。同時に確保しておいたアクセス権を行使。想い人(不正なデータ)とそのサーヴァント(異物)の消去を停止させる。そして、想い人の入力した願いを確認し、「ああ、やっぱり」と思いながら、それが問題なく受託されるようにムーンセルに命令する。

 

 だが、1つ目はともかく、2つ目の願いでエラーが出た。何故と思い確認してみれば、それには想い人が代替であったという驚愕の事実があり、間桐桜が考えていたBBとキャスターと共に現世へというのは、不可能なプランとなってしまっていた。それどころか想い人の魂の消滅は世界からも既定路線として定められているではないか。これではどうあっても救えないのではと悲観しかけた桜であったが、彼女の元となった間桐桜が参加した冬木の聖杯戦争に救う手段を見出した。

 

 冬木の聖杯戦争において、遠坂凛に呼ばれた『アーチャー』こと英霊エミヤは未来の英霊である。すなわち、聖杯は現在過去未来関係なく、英霊をサーヴァントとして召喚できるのだ。そして、それは月の聖杯たるムーンセルも同じことが言える。そう、桜が思いついた解決策とは、想い人を未来の英霊として召喚することであった。

 月の表裏の聖杯戦争を制した覇者である想い人は、間違いなく一時代を代表する英雄である。英霊として召喚することは十分に可能であろう。ただ、地上とムーンセルの切り離し、それは表裏の聖杯戦争を知る者(遠坂凛やジナコ)ならば、人類を救う英断だと納得できるものであろうが、何も知らない地上の人間にとっては、万能の願望機を人類からとりあげる極悪な行為でしかない。故に桜としては甚だ遺憾ではあるが、彼は反英雄として召喚されることになるだろう。

 

 まあ、それはそれとして、それだけではまだ足りない。サーヴァントとして召喚しても、霊子存在であることには変りはないく、マスターと言う楔がなければ、顕界できないからだ。

 だが、幸いにもこの解決は簡単である。元よりサーヴァントであるキャスターはもちろん、ハイサーヴァントとなっていたBBは受肉させるつもりであったのだから、同様に受肉させてしまえばいい。そして、後は想い人の魂を受肉したサーヴァントの肉体に入れてやればいい。

 

 とはいえ、ここまででようやく第一工程が終わったというところであった。なにせ、想い人の魂はこの世界にある限り世界からの修正を受けるし、なによりも受肉した英霊などという破格の存在を3騎も現世に解き放つわけにはいかないのだから。

 

 故に三者をこの世界から移動させる必要があった。

 

 これも幸いにして、前例というか具体例をムーンセルはすでに記録していた。キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。無限に連なる並行世界を旅する魔道元帥。死徒二十七祖第四位たる魔法使い。彼が誇る第二魔法を再現してやればいい。彼にとって、この世界はつまらないものだったのか、一度しか記録はないが、ムーンセルにはそれでも十分過ぎる。よって、すでに並行世界へ行く方法はある。

 

 問題があるとすれば、どのような世界に送るかだ。想い人の願いをそのまま叶えるとするならば、BBとキャスターと共に在れる世界ということだが、そうするとある程度神秘に対して許容性がある世界が望ましいだろう。なにせ、三者ともサーヴァントである。それも一人は神霊、一人は英雄複合体、一人は反英雄とはいえある意味世界を救った人類の救済者なのだ。いずれ劣らぬハイ・サーヴァント達である。こんな連中がひと纏まりになって行動するのだ。騒動を起さないわけがないからだ。

 

 ムーンセルの演算の全てを用い、並行世界を観測する。それなりに時間はかかったが、この世界の魔法使いとは異なるが魔法使いが存在する世界を見つけ出すことに成功する。その世界には多くの神秘が存在し、それどころか魔力によって構成される魔法世界なるものまで存在することを確認することができた。この世界ならば、あの常識外れの三者も許容されるだろうと桜は結論付ける。

 

 そうして、実行しようとしたところで、思いがけぬ声を聞いた。

 

 「貴女はそれでいいんですか?桜さん」

 

 声に驚き見やれば、こちらを真剣な表情で見る狐耳のサーヴァントの姿があった。

 

 「な、なんでキャスターさん」

 

 「ご主人様と共に消えるなら本望とも思い抵抗しませんでしたが、そうでないなら話は別です。ちょっと本気を出せば、()如きに抵抗するのは難しくありませんよ」

 

 そういえば、彼女は太陽の神霊であったのだということを思い出す。とはいえ、当初最弱のサーヴァントでしかなかった彼女のかつての姿を知っているだけに、中々に衝撃は大きい。

 

 「ご主人様を救うだけではなく、恋敵である私を受肉させ、ご主人様の寵愛を奪う憎きBBまでも復活させるなんて……一体どういうつもりなのですか?」

 

 「私には資格がありませんから……。せめてあの子には幸せになって欲しくて。それに何よりも先輩のお願いでしたから」

 

 「むう、ご主人様。私というものがありながら……。これは一夫多妻去勢拳の出番でしょうか?」

 

 「ふふふっ、私も逆の立場なら許容しがたいですけど、私に免じてあの子は例外として許して頂けませんか?あの子がいなければ、先輩を救うことはできませんでしたから」

 

 「……仕方ありませんね。まあ、いいでしょう。二人まではセーフです。あくまでも本妻は私ですし、ご主人様は私にぞっこんですからね」

 

 ふふーんと言わんばかりに胸を張るキャスター。驚いたことにこのムーンセル中枢においても、彼女には本当に何の枷もないらしい。

 

 「そうですね、キャスターさんには敵いません」

 

 「思ってもいないことは言わないことです。貴女の目は欠片もそう言っていませんよ」

 

 寸暇なくピシャリとはねつけられて、思わずマジマジとキャスターを見返すが、彼女はお見通しだと言わんばかりであった。

 

 「……。そうでした。私は諦めるつもりなんてこれっぽちもなかったんでした。これからするのは、私の恋の証明であり、キャスターさんとあの子への宣戦布告です」

 

 だからだろうか、誰にも知られることのないはずだった密かな宣戦布告を口にだす気になったのは。

 

 「ほう、宣戦布告ですか。私からご主人様を奪えるとでも?」

 

 「奪ってみせます。今は無理ですけど、私はこれをなしてキャスターさんとあの子の位置に並ぶんですから!」

 

 自信有りげに挑発するように言うキャスターに対し、思いの外強い言葉がでる。そこで桜は実のところ、未だ己が欠片も諦めていないことを自覚した。まるで、けして歩むことをやめないあの人のようだと少しおかしくなった。

 

 「そうですか……。その時は正々堂々正面から迎え撃ちましょう」

 

 「ええ、私も全力で行きます。今度は遠慮なんてしませんから!」

 

 それは別離の挨拶であり、再会の約束だった。それがどれ程の困難であるかは、両者ともに理解している。だが、それでも彼女達は不可能であるとは思わなかった。なにせ、不可能を可能にした男を彼女達は誰よりもよく知っていたからだ。

 

 思いもかけない約束の後、桜は実行しようとしたところで、一つ悪戯を思いつく。少し先払いしてもらおうと想い人に近づく。

 

 「桜さん、なぜさっきよりもご主人様に近づいているんですか?貴女ならこの中枢内ならどこでも入力は可能なはずですよね」

 

 流石に目敏い。すぐに気づかれてしまった。だが、ここで止まることはできない。止まれば、キャスターの妨害で次の機会はありえないだろうから。行動を不審に思っている今しかチャンスはない。

 

 「先輩、次会った時は逃がしませんからね。覚悟していて下さいね」

 

 そう言って、抱きついた勢いそのままに唇を重ねる。

 

 「あーーーーー!!さ、桜さん、貴女なんてことを!卑怯です、騙し討です!ご主人様の寝ている間にキスするなんて、私でもやったことのない暴挙ですよ!」

 

 こちらを指さしてわなわなと震えるキャスター。それに対し極上の笑顔で桜は返し、同時に最後の命令をムーンセルに下した。

 

 「キャスターさん、恋は戦争です。それに、宣戦布告はすでにしたはずですよ」

 

 「フ、フライン」

 

 フライングと言いたかったのだろうが、言い終わる前にキャスターの姿が消える。BBも、そして腕の中にあった想い人も。その手の中にあった温もりを惜しむように、腕を胸に抱き込む。

 

 そして、確かに触れ合った唇の感触を思い出すように手で触れれば、自然と覚悟は決まった。桜は一人宣言する。

 

 「先輩、待っていてくださいね。どれだけかかるか分かりませんけど、必ずお傍に行きますから!」    




なんで代替にしたのかと思われた方がいると思いますが、これはゲームでのイメージを大切にしたかったからです。選ぶ選択肢・性別は勿論、最初に選ぶサーヴァントも人それぞれでしょう。百人いあれば、百通りのはくのんがいるのだと私は思っています。故に本作の主人公は外見ははくのんであっても、中身ははくのんではありません。全くの別人であるということを、御留意下さい。

ちなみに私の一週目は男で相棒はキャスター。キャスターEND狙いのつもりが、いつの間にかCCCルートへ行っていました。結局、そのままCCCENDへ。二週目で念願のキャスターENDと相成りました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。