燦々と照りつける太陽の光に爽やかな風がそよぐ。ここは新オスティア。亡国ウェスペルタティア王国の王都オスティアの名を継ぐ新都市である。ちょうど、終戦を記念とした祭が開かれている真っ最中であり、人ごみでごった返している。拳闘大会なんてものまで開かれているあたり、復興期にあってもこの魔法世界の住人達は強く逞しく生きているようである。そんな中、人々の耳目を集める者達がいた。男1に女2の組み合わせ。しかも、とびきりの美女二人が一人の男を取り合うように間に挟んで抱きしめるように腕を組んでいるのだから、注目も集めようというものである。
「とてもいい天気ですね。絶好の行楽日和だとは思いませんか、ご主人様?」
「本当ですよね。まるで、私達を祝福しているみたいですよね、センパイ?」
狐耳の妖艶な美女と清楚なのにどこか小悪魔を思わせる美女は輝くような笑みを浮かべて、腕を組んでいる男の顔を覗き込んだ。両者はその豊満な肉体を押し付けるようにしており、彼等がどういう間柄であるのか一目瞭然であった。これが、それぞれ別人に対するものだったらまだ微笑ましいものだが、同一の男性に対してとなると周囲の目は変わってくる。男性側からは嫉妬9割羨望1割の視線を。女性からは軽蔑9割不明1割の視線を。まかり間違っても中心にいる男に好意的な視線など向けられることはない。本当の意味で、社会的に両手に花やハーレムが許されるのは、経済的事情等の例外を除けば物語の中だけなのだ。
「ああ、そうだな」
二人の美女に挟まれたうらやまけしからん男は、それに心ここにあらずといったかんじで相槌をうつだけであった。周囲の目がさらに厳しくなった。男性側は「なんだよその態度、俺と代われよ!」という感じだし、女性側は「あんな美人二人も侍らせて、何が不満なのか」と言わんばかりであった。
「ご主人様、ちょ~っと態度がおざなりじゃないですか?」
「そうですよ、センパイ。きっちり構ってください!釣った魚には餌を与えるべきです」
狐耳もとい玉藻と、小悪魔もとい桜は不満げに頬を膨らませる。周囲ももっともだと心中で頷いていた。もっとも、周囲の心情は次の瞬間変更を余儀なくされたのだった。
「誰のせいだと思っている……お前らのせいだろうが!二人がかりで一晩中とかアホか!いくら私でも、太陽が黄色く見えるわ!」
うがー!と人目を憚らずぶちまける男。そういえば、男は心なしかやつれて見えるし、美女二人は妙に肌にツヤがあるように見える。つまり、これはあれか。周囲の察しのいい者は男の言わんとすることの意味を即座に理解した。理解した大半の女性側の視線が同情と好奇にかわったが、理解した一部の男側は逆にもっと酷くなった。「モゲロ」とか「爆ぜろ」とか、声に出しているものすらいる始末だ。
「もう、ご主人様ったら、こんな白昼堂々と……玉藻困っちゃいます~」
いやいやと恥ずかしそうに身をくねらす玉藻。その様子に一段と周囲の男の目がきつくなる。
「センパイったら大胆なんですから!」
それにトドメを刺すようにバシバシと徹を叩く桜。そうしながらも顔を桜色に染めているので、それは誰がどう見ても照れ隠しであった。これで察しの悪い者達も完全に事情を理解した。女連中の反応は先ほどの反応に若干の呆れが混じった程度だったが、男連中のそれは劇的だった。嫉妬とか羨望とか通り越して、最早憎悪の域になりつつあった。
渦中の男、徹は周囲の空気の変化を敏感に感じ取っていたが、どうにもできない。客観的に見て、白眼視されても仕方がないことは理解しているからだ。逆の立場なら、己だって褒められたものではない感情を抱くと予想できるだけに甘受するほかなかった。
だが、周囲の者達は別である。当然、溜まりに溜まった鬱憤を八つ当たりと僻みをこめて晴らそうとする輩も存在した。獲物である女性二人が極上の美人であるだけに、祭の熱に浮かれたのも手伝って、それは加速度的に数を増していった。気づけば、それなりに多くの荒くれが集まっていた。
魔法世界における英雄ジャック・ラカンが彼らに意識を向けたのはそんな時であった。サウザンドマスターの仲間として先の大戦で名を馳せた彼は、終戦記念祭の際に開かれる拳闘大会の裏の出資者であった。元を辿れば戦奴であるが故か、
(なんか不穏な気配を感じてきてみりゃ、なんだくだらねえ。リア充野郎に僻みでからもうとしているだけかよ。あー、来るんじゃなかったぜ)
少し開けた場所で荒くれ達が3人を囲んでいるのを横目で見ながら、早々にラカンは後悔していた。正直、助ける意欲がどんどん減退していた。
(とはいえ、あのひょろい男はともかく、あの狐耳の姉ちゃんと紫髪の嬢ちゃんがいいようにされるのは見逃せねえな……仕方ねえ、助けてやるか)
ジャック・ラカン、戦闘狂で基本に粗野で脳筋でおっさん思考だが、彼は女子供には荒っぽいが優しい男である。あのうらやまけしからん男がどうなろうと知ったことではないが、流石に美女の危機は見逃せなかった。
しかし、その心配が無用のものであったことを、すぐにラカンは知ることになった。
「ようよう兄ちゃんよー、見せつけてくれんじゃねえか!」
そんなテンプレのセリフでいかにもチンピラという風情の男が、私達に声をかけてきた。今現在の場所がちょっと大通りから外れた場所であることを考えると、人の目が少なくなるのを待っていたのだろう。
「何か用だろうか?」
周囲を囲むように集まった荒くれ&チンピラ共のだらしのない顔と玉藻と桜をなめまわすように見ているところ見ると愚問だろうが、こちらから手を出すのは頂けない。いくらうっとおしくても、あくまで正当防衛でなければならない。余計な疑いを避ける為にも、いらぬトラブルを自ら起こすのは得策ではない。なにせ、ただでさえこちらは火力が過剰なのだ。こちらから先制攻撃を加えれば、間違いなく一方的なものでやり過ぎにになる。私達が力をふるうには、せめて自衛の為という大義名分が必要なのだ。
「極上の美人を両手に花とはいい御身分だな。一人占めしてないで、俺らにも一人譲ってくれてもばちはあたらねえんじゃねえか?なあ、皆もそう思うよな」
「「「「「おう!!!!!」」」」」
周囲に声をかけ、これみよがしに数を誇示して恫喝してくるチンピラ。一人でいいとか言っているが、実際には玉藻も桜も見逃す気はないに違いない。ようするにこれは、お前は見逃してやるから二人を置いていてけと、言外に私に要求しているのだ。
当然、私がそんな要求をのむわけがない。故に一顧だにせず、即答してやった。
「寝言は寝てから言ってくれ。なんで貴様らに私の大切な女性を委ねなければならない」
「なっ、テメエ状況分ってんのか?!」
傍から見れば絶体絶命の状況で、まさか荒事に不向きそうなひょろっとした男に即座に断られるなど予想だにしなかったのだろう。驚愕と困惑が見て取れる。
あ、玉藻と桜は大切な女性はどっちかとかで喧嘩しない。どちらも大切だからね。
「人間に獣人に亜人。よくもまあ数だけは集まったものだ。そんなに暇なのか?」
流石は魔法世界というだけあって、私達の周囲を囲む人種というか種族は様々だ。それにしても亜人や獣人まで釣れるとは思わなかった。玉藻目当てだろうか?
「数だけとは言ってくれるじゃねえか兄ちゃん。この状況で、それだけ強がれるのは大したもんだが、腕っぷしも大したことなさそうな上に魔力もてんで感じねえ。はったりはそこらへんにしておくんだな」
なんと目の前のチンピラは希少な感知タイプだったらしい。なんという才能の無駄遣いだろうか。まあ、私だけに意識が向いて、私よりも恐るべき二人についてなんら感じ取れていない辺り程度が知れるが……。それに何より、私の魔力も能力もサーヴァントとしてのスキル「名もなき英雄EX」で、完全に隠蔽秘匿されているのだ。つまり、とんだ見当違いでしかないのだ。
「はったりかどうか試してみるか?」
「テメエ、後悔するなよ!やっちまえ!」
私の余裕が余程癇に障ったのだろう。チンピラは周囲に呼びかけると、そのまま殴りかかってくる。そうだ、そうきてくれないと困る。
────でなければ、わざわざ襲いやすい場所へ誘った意味がなくなるのだから!
とはいえ、数の暴力というのは中々に厄介である。まあ、彼我の実力差からして能力にものを言わせて無双することも十分に可能であるが、あまりことを大きくはしたくはないし、過剰防衛だのなんだのでいらん文句をつけられるのも面白くない。何よりも
迫りくる拳を他人事のように見る。サーヴァントの攻撃に比すれば、それは止まって見える程度のものでしかない。まして、私の眼は聖杯戦争において私を優勝者へと押し上げた自ら戦うことのできない私に備わった唯一の武器なのだ。聖杯にもスキルとして認められ評価されたものが、この程度の攻撃見切れないわけがない。
だが、私はかわさない。この場で最大の効果をだすならば、それでは足りないからだ。故に私が選んだのは迎撃だった。
「壱の太刀 疾風」
かつては礼装『空気撃ち/一の太刀』を用いて使用することのできる
「お、俺の腕がーーーーー!」
周囲の者達も突然の惨劇に足を止める。狙いどおりである。駄目押しに馬鹿みたいな量の魔力を身内から放出し、この場にいる者達に教えてやることにした。自分達が狙っていたのが、狩られる兎ではなく獰猛な獅子であることを!
「どうした?腕の一本や二本でピーピー喚くなよ。私に対して数を頼みに恫喝した揚句、喧嘩を売ったんだ。このくらいの覚悟はできてたんじゃないのか?」
こともなげにそう言ってやる。目の前の男の惨状には眉ひとつ動かしてやらない。人の死など何度看取ってきたことか。けして逃れることのできない月でのそれに比べれば、この程度児戯にも等しい。ただ、静かに冷たい目で周囲を睥睨した。それだけで、周囲の者達は後ずさった。一罰百戒、思いのほかうまくいったようだ。初撃で腕を落とすのはやり過ぎとも思わないでもなかったが、連中の私に対する侮り具合から、目の前の男だけでなく全員の認識を覆すには少々過激にする必要があると判断した。
「あああ、う、嘘だ!さっきまで微塵も魔力なんて感じなかったのに?!」
隻腕となったチンピラは必死に切断面を抑えながら、恐怖に顔を歪めながら叫ぶ。
「アホか?わざわざ自分がどれだけの魔力をもっているかどうかなんて、表にだすわけないだろう。能ある鷹は爪を隠す。そんなことも見抜けなかった己の間抜けさを呪うんだな」
「そ、そんな!わ、悪かったよ。許してくれ!」
私のたれ流す莫大な魔力から、感知タイプであるが故に余計に力の差を理解できてしまったのだろう。チンピラの顔は痛みと恐怖で凄いことになっていた。
「人の女に手にを出そうとして、それで済むとでも思っているのか?」
私の言葉に玉藻と桜が、「ご主人様の女」「センパイの女」とか呟きながら陶酔しているが、見なかったことにする。
「わ、悪かったよ。許してくれ、この通りだ!」
さて、どうしたものか。土下座までしたこの男には悪いが、そんなものなんの足しにもならない。正直、玉藻と桜に何をしようとしていたかを考えれば、はらわたが煮えくりかえるし、許し難い。二人の強さからして万が一にもありえないことは分っているが、それでもである。
だが、まあここまでやれば威圧としては十分だろうし、今後ちょかいを出すことはないだろう。やり過ぎた感がないわけでもなし、玉藻と桜の意識が向けられる前にてうちにすべきだろう。
とはいえ、この男と近場にいた者はともかく、周囲の連中の中には未だ虎視眈眈と玉藻達を狙っている者がいる。ここは念押しにもう一手必要だろう。
「壱の太刀 は……」
念押しに周囲へと当たらない風刃を拡散させようとした時だった。凄まじいとしかいいようのない気配が接近するのを感じたのは。
「ご主人様!」「センパイ!」
それが、どれ程のものであったかは、陶酔していた玉藻と桜が瞬時に我を取り戻し、警戒を促したことから明らかであろう。
すなわち、目の前の巨漢の男はそれ程の脅威ということだ。
ラカンがとんだ思い違いをしていたことに気づいたのは、徹によってチンピラの片腕が切断されるより前である。歴戦の強者である彼は、早々に男に侍っている二人の美女が只者ではないことを見抜いたのだ。
(ヒュー、あの嬢ちゃん達何者だ?只者じゃねえ。かなりの使い手だ。特に狐耳の姉ちゃんはヤベえ。あれは手を出しちゃいけねえ部類の女だ。こりゃ、いらんお節介だったか)
スキルの関係で徹のことこそ見抜けなかったものの、玉藻と桜の脅威を正確にラカンは見抜く。特に玉藻についてなどはその本性すら感じ取っているあたり、大したものである。
(これは静観して良さそうだな。これじゃあ、万が一はありえねえだろうしな。あの兄ちゃんがどうだかはいまいち分らねえが、あの二人を侍らせてるんだ。それなりにやれるだろう……なっ!)
ラカンは驚愕させられた。ちょっかいをかけたチンピラの腕が突如舞ったことではない。無気力だった男の変化にである。眼が違う。覇気が違う。鋭く周囲を絶対零度の視線で睥睨するその様は、最早完全に別人である。何よりも垂れ流しにしているに過ぎないというのに、その魔力量は異常であった。なにせ、英雄である彼の仲間達にも勝るとも劣らないのだから。
(おいおい、マジかよ……。この俺が見抜けなかったっていうのか?あれ程の脅威を、あれだけの使い手を!そんな馬鹿な、ありえねえ!)
ラカンは自身の実力に絶対の自信を持っている。造物主にこそ遅れはとったが、彼と互角に渡り合えるものなどそうはいないのだから、当然だ。そして、その圧倒的な実力と数多の戦闘経験によって培われた観察眼と戦闘勘にも、相応の信頼を置いていた。だというのに、その自分があれ程の脅威を見抜けなかったというのだから、ラカンの受けた衝撃はもっともなものであった。
(とっ、いつまでも驚いている場合じゃねえな。俺に見抜けないレベルで擬態しやがる奴がいるとは驚かされたが、別に悪い事じゃねえ。むしろ、おもしれじゃねえか!まだ見ぬ強者が世界にはいるってことだ。こりゃ拳闘大会も期待できそうだぜ)
そんなことすら思い、最早無用な心配をしたと踵を返そうとした時、ラカンは再び魔力の高まりを感じた。普段の彼ならば、放っておいたであろう。徒党を組んで人の女を襲おうとした揚句、返り討ちにされようが自業自得であり、彼の知ったことではないからだ。
だが、生憎と場所と時期が悪かった。仲間の妻で、ラカン自身も多少なりとも惚れていたウェスペルタティア王国女王アリカが守ろうとしたオスティアの名を継ぐ都市であり、彼自身が裏で出資する終戦記念祭の最中なのだ。小競り合いのちょっとした流血ぐらいならともかく、無用な人死には個人としても避けたいのが本音であった。
「チッ!」
ラカンは忌々しげに舌打ちすると、今にも振り下ろされんとする風の刃を防がんと高速で移動した。
「いい反応だ。やっぱりただもんじゃねえな」
「貴方は?」
褐色の肌の巨漢はやれやれといった感じで、そんなことをのたまった。見た目は粗野で荒くれといった感じだが、けしてそれだけではない。玉藻と桜が警戒しているのはもちろん、私自身も魔術を中断せざるをえなかった。何よりも、その身から発せられる荒ぶる覇気が、周囲をとりまくチンピラなどとは格が違う存在であることを雄弁に語っていた。
「あ、あんたはラカン?!千の刃のジャック・ラカン!」
それに答えたのは当の本人ではなく、周囲を囲んでいた荒くれの一人だった。驚愕と畏怖がまざまざと浮かんでいた。聞き覚えのある名である。桜が調べてくれたこの世界の情報の中にあった名前だ。先の大戦の英雄「紅き翼」の一員であり、その身一つで戦艦を落としてのける規格外の実力者。『千の刃』の異名は、彼のアーティファクトに由来するらしい。
「おう、俺様を知っている奴がいようとはな。それより分るな?もう、馬鹿騒ぎは終わりだ。本来、テメエらがどうなろうとしったこっちゃねえが、今はそういうわけにもいかねえ。折角の祭をテメエらの血で汚したくないんでな」
流石は英雄、言うことが違う。だが、なぜこのタイミングできたのだろうか。助けるつもりなら、もっと早く割り込んできたはずだ。
本当のところ、静観するつもりだったということか。人死にがでそうだから介入してきたということだろうか。こちらとしてはそんなつもりはさらさらなかったのだが、まあ初手で腕を切り落としたことを見れば、次手は殺害だと思われても仕方がないか。
────仕方がない。不満は残るが、ここはひいておこう。わざわざ、この世界の英雄を敵にまわす愚は犯したくないからな。
「いいだろう。貴方が責任を持つというなら、これ以上こちらとしても手を出す理由はない」
「おうよ、任せときな!テメエらもいいな?これ以上やるってんなら、この俺様が相手だぜ」
「ヒイイイ、し、失礼しましたーーー」
這う這うの体で、隻腕になった男が逃げだし、周囲の連中も脱兎の如く一目散に逃げ出した。あっという間にその場に残るのは、私達3人とラカンさんだけになった。
「わりいな、余計なお世話とは思ったんだが、個人的にちょっとした感傷があってな」
意外なことにラカンさんはすんなり頭を下げてきた。余計な世話と言っているあたり、私達の力量を見抜いているようだ。流石は英雄というべきか。
「いや、折角のめでたい祭だ。私としても、いらぬ騒動で水をさしたくはない。まあ、最後は念押しに脅かすくらいのつもりだったのだがな」
私が苦笑してそう応じると、ラカンさんは己の早とちりを悟ったのかバツが悪そうに頭をかいた。
「あー、そうか。すまん、こりゃ本当に余計なお世話だったな。初っ端に腕を落としたからよ、てっきりなっ……」
「いや、いいさ。そう思われても仕方のないことをしたしな。正直、やり過ぎた感は否めないしな」
「ご主人様、何をおっしゃられますか!ご主人様をなめくさって馬鹿にした罪は、万死にに値します。私をあの汚らわしい目で視姦しやがったこともあわせて、呪殺してやろうかとどんなに思ったことか。ご主人様はお優しすぎます!」
玉藻さん、視姦とかいうなら、その露出の多い格好はどうにかなりませんかね?ご主人様に見てもらう為って、そら嬉しいですけど結構目の毒なんですよ。それに君、その方が良かったとはいえ対処私任せでしたよね。
「そうですよ。あんな塵屑がセンパイと言葉を交わすどころか、見下すなんてあってはいけないことです。今すぐにでも、リップでペチャンコに潰してやりたいところですよ!」
桜さん、君もアウトー!私のことを大切に思ってくれるのは嬉しいけど、リップでペチャンコとか玉藻の呪殺なみに洒落になってないから。生きたまま不可逆圧縮されるとか地獄だからね。
「ははは、二人とも気持ちは嬉しいけど、少しおちついて。思考が物騒になってるから。ラカンさんがドン引きしているから」
ラカンさんが見てはいけないものを見たという感じで思わず後ずさりしているのを見て、愛が重いと思いつつ必死に宥める。
「……お前、苦労しているんだな」
そんな私に何かを悟ったような顔で、しみじみと肩をポンと叩くラカンさん。
────同情などいらぬわ!同情するぐらいなら、私に平穏をくれ!
「はっ、いけません。
「ちょっ、この駄狐!全て私のせいにする気ですか?今更猫被っても遅いですよ。大体、貴女はあっちが本性でしょうが!」
ああ、分っていたさ。分っているとも。この二人を選んだ時点で、私の人生に平穏などないことを。なにせ、筋金入りの呪い系ヤンデレである。平穏などという言葉は、もとより縁の遠い言葉だったのだから。
「あー、なんだ。もてて羨ましいことだな」
それ、本気で言っているのかラカンさんよー。欠片も羨ましくなさそうな顔で言われても説得力皆無なんだが。それどころか、自分はごめんだって顔じゃないか。
「それ本気で言ってる?」
「すまん、悪かった」
私のどすのきいた声にラカンさんはあっさり白旗を上げた。そうだ、分ればいいのだ。
「ご主人様、それどういう意味ですか?」「センパイ?」
君達、現在進行形で言い争っていたはずなのに、こういう時は仲良いよね。というか、なんという地獄耳か……。
「……」
ラカンさんは巻き込むなという顔で、知らん風を装っている。くっ、薄情者め!
「美人な奥さんが二人もいて、私は幸せ者だなあという話だよ」
「おや、そんなこといってましたっけ?」
「そうですよね、もっと違う話でしたよね?」
むう、この程度では誤魔化されてくれないらしい。仕方がない。気はすすまないが、たまには本音を出すとしよう。
「二人を選んだことに後悔はないし、私は幸せ者だというのも嘘はない。心からそう思っているよ」
「ご主人様……」「センパイ……」
頬を朱に染めてこちらを見つめる玉藻と桜。うっ、そんな目で見ないでくれ。想像以上に破壊力が高い。いかん、人前だというのに欲情しては駄目だ。
「ワ、ワンモアプリーズ。い、いまの言葉、もう一度お願いしますっ……!」
しかし、その空気をぶち壊した者がいた。蚊帳の外にされたラカンさんではなく、他でもない玉藻であった。相変わらずシリアスブレイカ―というか、あれな娘である。
「イチャつくなら、お前らだけでやってくれねえか」
青筋を立てながらラカンさんも苦言を呈してきた。これは失礼した。今回ばかりは、玉藻に感謝である。
「すまない、とんだ失礼をした」
「いや、いいさ。だが、その様子じゃ俺の詫びは必要なさそうだな」
「詫びですか?筋肉達磨さん」
ちょっ、玉藻。確かにその通りだが、遠慮なさすぎだろ!
「きんに……いや、いい。いらんお節介をした詫びだ。俺が出資している拳闘大会っでも特等席で見せてやろうかと思ったんだが……いるか?」
「拳闘大会ですか?それはどんなものなのですか?」
ラカンの申し出に食いついたのは、意外にも一番縁が遠そうな桜であった。
「おっ、興味があるかい嬢ちゃん?魔法世界中の猛者が集まって、トーナメント方式でやりあうのさ。まあ、俺ほどじゃないがな」
トーナメント方式とは、表の聖杯戦争を思い出すな。あれも特殊な形式ではあったが、トーナメント方式だったし。
「センパイ、私見てみたいです!」
「ご主人様、桜さんもこう言っていることだし見てみませんか?私としても、この世界の強者に興味があります」
勢い込んで言う桜に玉藻が同調する。
「二人がそう望むなら、私は構わないよ。ラカンさん頼めるかな?」
二人が望むなら、私に否はない。それに私としても、純粋に見る方に回るのは前世以来だ。興味が無いわけではない。
「おうよ、任せときな。最高の席を用意してやるよ。それから、さんはいらねえ。ラカンでいいぜ。そういや、お前らの名は?」
ラカンに問われ、そういえば自己紹介すらしていなかったことに今更気づいた。
「これは失礼した。私は黒桐徹、賞金稼ぎをしている。先の大戦の英雄『千の刃』の異名をとるジャック・ラカンに会えて光栄だ」
「私はその妻の黒桐玉藻です。わけあって、本名は身内にしか許していません。非礼は承知ですが、どうかキャスターとお呼びください」
ちゃっかり、自分の名前の前に黒桐をつけて妻となのる玉藻。自己紹介の中にさらりと自己主張してのけるとは、流石は権謀術数に長けたと言われる金毛白面九尾である。自分だけの特権が侵されたのに桜が歯噛みしているが、この場では負けを認めたのか苦々しい顔で自己紹介した。
「なっ、玉藻さん!くっ、同じく妻の黒桐桜です。私も同じくです。BBとでもお呼び下さい」
「おう、よろしくな!徹にキャスターにBBだな。覚えたぜ」
しっかり玉藻と桜の本名を避けるあたり、この男見た目に反して意外に紳士的な男なのかもしれない。
「じゃあ、ついてきな。案内するぜ」
こうして、私達はラカンと知り合った。この出会いが、さらなる波乱を起こそうとはこの時の私達には知る由もなかったのである。
ラカンの口調がうろ覚えでかなり怪しいです。オレ様であってたでしょうか?今、手元に原作がなく確認のしようがないので、後で自分でも確認するつもりですが、何かおかしいところがあったら、御指摘頂けると助かります。
後、何気にチンピラの口調に苦戦しました。テンプレのチンピラってどんなんなんでしょうか?なんというか、前時代的というか、世代が違うチンピラになってしまった気がします。