月桜陽狐奇譚   作:清流

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原作でバグキャラといわれてるだけあって、使いやすいラカンさん。普通なら信じられないことでも、ラカンならやりかねない。そんな感じで納得できてしまう。まあ、聖杯持ってる主人公もバグキャラと大差ないかもしれませんが……。


第四話 バグキャラ対決

 「準備はいいな?」

 

 「ああ、こちらはできている」

 

 「よし、なら始めるぜ!血わき肉躍る闘争をな!」

 

 そう言って、魔法世界の誇る英雄ジャック・ラカンはこちらへと駆け出した。何の技巧をこらしたでもない真っ直ぐで単純な拳。だが、極限まで鍛え抜かれた肉体から繰り出されたその速度は恐るべきもので、その巨躯も相まって秘めた破壊力は底知れない。

 

 「……!」

 

 先のチンピラなどとは比べるのもおこがましい。その速度と威力は、私の知るサーヴァント達にも比肩しよう。故に、私が選べたのは回避だけだった。直撃は絶対に避けねばならない。でなければ終わる。そんな確信すらあったほどだ。

 

 ────そして、それはなんら間違っていないかった。

 私が先ほどまで立っていた大地を深々と抉り取ったことが、その証左であった。

 

 「へへへ、そうこなくちゃなっ!」

 

 常人、いや並の使い手ならば、必殺といえる一撃を躱されたというのに、ラカンの顔に浮かぶのは落胆ではなく、むしろ、心の底から楽しそうな笑みを浮かべていた。

 

 「当たり所が悪かったら、死んでたかもしれんというのに……この戦闘狂(バトルジャンキー)め!」

 

 私は毒づく。信じられないことだが、ラカンはサーヴァントSTにして、筋力B敏捷C+はある。そして、突き抜けた能力によって繰り出された拳の破壊力たるや、確実にBランク以上の威力である。生身で、英霊たるサーヴァントの領域に至るとは、流石はこのトンデモ世界の英雄である。極限まで鍛え抜かれた肉体と数多の戦闘経験の成せる技なのだろうが、正直異常である。この世界に座が存在するとしたら、確実に召し上げられるのは間違いないだろう。

 

 「そうは言うがな。お前は、曲がりなりにも俺の本気の一撃を躱した。気での強化なしとはいえ、俺の本気だぜ。それも初見で何の強化もなくだぜ。これで血が滾らねえなんてことがあるわけねえだろ!」

 

 「貴方に分からないように強化しているかもしれないだろう。それに……初見じゃない」

 

 「なんだと?」

 

 「貴方が割り込んできたときだ。その時、貴方の動きは見せてもらった」

 

 そうでなければ、初手で様子見を選択した私には完全な回避は困難だったはずだ。

 

 「……あん時にすでに俺の動きを見切ってやがったのかよ」

 

 「まさか、そんなことができるなら苦労しないさ。ただ、私は目には自身があってね。それに速い攻撃には慣れているというだけの話だ」

 

 「おもしれえ……お前がどこまでついてこられるか、見せてもらおうじゃねえか!」

 

 ラカンの全身に生気が滾り、覇気が発散される。

 

 ────来る!初撃とは比べ物にならない一撃が!

 

 無論、私も座して見ているわけではない。

 

 「迅雷!」

 

 『迅雷』礼装『強化スパイク』を用いて使う魔術(CODECAST)[move_speed]は、自身で戦うことができないかつ手の時は精々アリーナ内での移動速度を上げるものでしかなかった。しかし、自ら戦うことのできる今は、私自身の身体能力を上げる強化魔法として作用する。今や、私の敏捷はA-相当であり、ラカンとの能力差は明らかであった。

 だが、魔法世界の英雄はそんなものを楽々と飛び越える。いや、それができるが故に彼は英雄と呼ばれるのかもしれない……。

 

 莫大な生命力によって、全身を強化したラカンは易々と私の動きについてくきたのだ。私の動きをある程度予測しているというのもあるだろうが、それ以上に根本的に能力差を縮められているのだ。今のラカンを評価するなら筋力A敏捷B+というところだろうか。なんと概算で3ランクも上がっているのだ。私の魔術では最大2ランク上昇どまりだというのに、なんという強化率であろうか。少し理不尽なものを感じる。

 

 「オラー!」

 

 雄叫びと共に振るわれる剛拳。我流でありながら洗練されたそれは、破壊力を余さずインパクトの瞬間に伝え、全てを粉砕するだろう。間違いなくAランククラスの攻撃。先のものとは違い、動けなくなる程度は済まないだろう。直撃すれば確実に即死だ。

 

 しかし、一手遅かった。もし、これで勝負を決めるつもりなら、初手でラカンはそうするべきだったのだ。威力・スピードこそ違えど、私はすでにその拳撃を見ているのだから。そして、この身は人ならざるサーヴァントなれば、かつての人の身では見えていても反応が間に合わなかったろうが、今の私には見えている以上反応することができる。

 

 「壱の太刀 疾風」

 

 チンピラの時とは違うかけねなしの全力の風刃が、ラカンの拳とぶつかり鬩ぎ合う。が、それも僅かのことであった。ラカンの拳は風刃とほんの少しの間拮抗したが、最終的にあっさりと風刃をぶち抜き、標的たる私へと迫る。

 

 『疾風』によりできた僅かの間に『迅雷』で上がった敏捷により直撃を避け、かつ無詠唱で『守護符』を使い、耐久を1ランク上昇させて護りをかためる。

 

 「がああっ!」

 

 だが、それでもこの世界の英雄の拳は重かった。拳を受け止めた両腕から、メキボキという嫌な音が響く。なんのことはない、打点を外した上に両腕でガードしたというのにあっさりと両腕を折られたのだ。ラカンは明らかに秩序に属する男ではない。故に『無辜の大罪人』によるダメージ補正はない。すなわち、ラカンは素で、サーヴァントのSTにして耐久A-をぶち抜いて、私にこれだけのダメージを与えたということに他ならない。

 

 そして、何よりも接近戦はラカンの本分なのだ。ならば、ここで終わりなはずがない。当然の如く追撃の拳が迫る。

 

 このままでは間に合わないと私は判断する。今の私の敏捷はA-、ラカンはB+といったところだが、その1ランク差をラカンは戦闘者としての経験と勘で埋めてきている。速いというよりは巧い。彼は適確に私の逃げ道を潰しながら、追撃を加えているのだ。

 これはある意味、どうしようもないことだ。私の戦闘経験の大半は玉藻に護られながらのものである。その密度や過酷さはラカンにも劣ることはないだろうが、純粋な意味での戦闘者としての経験はこの魔法世界でのものだけだ。戦奴からその腕一つで英雄まで成り上がったラカンとは、厳然たる差があるのは当然だ。

 しかし、だからといってこのままやられるのは御免である。

 

 ────仕方がない。少し無茶をすることにしよう。

 

 「疾風迅雷!」

 

 『迅雷』による身体能力強化に『疾風』によって風の加速を与える。瞬間的にではあるが、Aの敏捷を得ることができる。魔術(CODECAST)の多重行使など、本来ならかなりの負荷だが、私には関係ない。1ランク差は埋められても、2ランク差を埋めるのは容易なものではない。私はすんでのところで、ラカンの魔手から逃れることに成功する。

 

 「おおっ!」

 

 だというのに、盛大に空振った張本人であるラカンは落胆するどころか、喜悦も露わに感嘆の声を上げたのだ。どうやら、避けられたのが嬉しかったらしい。この男、骨の髄まで戦闘狂(バトルジャンキー)のようだ。もっと見せてくれと言わんばかりの顔で、まだまだやる気いっぱいだった。

 

 ────こっちは一応奥の手である多重行使まで出したというのに、冗談じゃない!

 

 それにしても、予想していたことではあったが、こちらが明らかに不利だ。戦闘者としての差が如実に現れてしまっている。こちらにきてから(ユリウス)のサーヴァントであるアサシンに請うて、それなりに腕を磨いてきたつもりだったが、ラカン相手には全くと言っていい程に通用しない。これはアサシンがラカンに劣るというわけではない。偏に私の未熟さが原因だ。アサシンに言わせれば、功夫が足りないといったところだろうか。

 

 だが、そんなのは当然だ。私は本来一人で戦う者ではない。それどころか、本質的に戦闘者ではない。それは私の宝具が玉藻であることが何よりの証明だ。結局、私にできることは意志を曲げることなく己の道を貫徹することだけなのだ。そう、この身はけして歩みを止めることはない。相手が誰であろうともだ。

 

 考えてみれば、この世界に来て本来の自分を見失っていたように思う。自分が戦えると言う事実に浮かれて、サーヴァントの圧倒的能力に甘えて。玉藻と桜には不甲斐ないところ見られてしまったものだ。夫として、男として情けない限りである。ここへきて、ようやく私は自分の愚かさに気づくことができた。先の家族会議で指摘されたと言うのに、自覚が足りなかったらしい。まったく汗顔の至りである。

 

 ────だが、ここからは違う。本来の私に立ち返ろう。あの二人が愛してくれた本当の意味での私に! 

 

 

 

 

 

 「ご主人様、ようやく気づかれたのですね!」

 

 主の眼が、表情が変わったのを玉藻は見逃さなかった。とはいえ、それはライバル()も同じだったようだ。

 

 「センパイ!」

 

 桜が輝かんばかりの笑みを浮かべていた。

 

 「やはり貴女も気づいていましたか、BB?」

 

 主の前ではその意を汲んで桜と呼ぶようにしているが、玉藻にとって桜とは『白い桜』のことだ。唯一、直接宣戦布告もされたこともあるし、主がいない時はBBと呼ぶようにしている。それに応じてか、桜も玉藻のことをサーヴァントとしてのクラスで呼ぶ。これは主の知らない二人の秘密である。

 

 「ええ、キャスターさん。そんなの当然のことでしょう」

 

 玉藻の問にあっさりと答える桜。玉藻からすれば少々癪ではあるが、彼女もまた主に想いを寄せる者であり、主をずっと見守ってきた者だ。それは当然なのかもしれない。

 

 「あの筋肉達磨とご主人様には厳然たる差が存在しますからね。最初から、ご主人様に勝ち目などありません」

 

 「センパイもそれは理解していたでしょうに、それでもセンパイは勝負を受けた」

 

 呆れたように嘆息する玉藻に、桜も同調する。実のところ、彼女達は怒っていたのだ。自分達を伴わないで単独で戦いに挑んだ想い人に。

 

 「ご主人様の本領は補助と先読みによる戦術指揮だというのに」

 

 「私もキャスターさんも連れて行かないんですから……」

 

 そう、二人の言うように聖杯戦争の覇者たる徹の強みは、戦闘者としての単独での強さではない。彼の真価は共に戦う者がいて、初めて発揮されるものなのだ。だというのに、ラカンという生身でサーヴァントに迫る圧倒的強者に対して、単独で挑んだというのだからそれは自殺行為に他ならない(彼だけに許された究極宝具を用いれば話は別だが、あれはそもそも使えばそれで全てが終わるという反則技だし、当の本人が本来の形ではけして用いないと宣言しているので、除外する)。

 

 それを理解していながら、玉藻と桜がその暴挙を静観したのは、徹の眼が覚めることを願ってのものだ。

 

 「流石は筋肉達磨。あの見た目は伊達ではないということですね。おかげご主人様も、本来のご自分を思い出されたようです。ただ、ご主人様の両腕をへし折ったことは断じて許すまじ!」

 

 ほっとしたような声で主の目覚めを喜ぶ玉藻。ただ、後半部分は底冷えのするような声色だったりするあたり、それとこれとは話が別のようである。 

 

 「キャスターさん、落ち着いてください!私だって、必死に抑えているんですから」

 

 そんな玉藻を宥める桜だったが、その実自分に言い聞かせているようで、彼女もかなりきているようだ。

 

 「さて、ご主人様いかがされますか?相手は強敵。生身でサーヴァントに匹敵するバグキャラです。今まではうまくいなされていましたが、いつまでも続きませんよ。如何にご主人様といえど、単独では勝利はありませんよ。であれば……」

 

 「そうですね。いくらセンパイでも、いつまでもこんなやり方では続きません。打てる手は……」

 

 二人がそうこう言っている間にも、戦いは続いている。距離を離して、風刃を連発し近づけまいとする徹に対し、拳でそれを打ち砕き確実にその距離を詰めていくラカン。状況は圧倒的にラカンが押していた。

 

 とはいえ、徹もただ接近を許しているわけではない。

 

 「弐の太刀 烈風!参の太刀 轟風!」

 

 『疾風』よりも強力な『烈風』に『轟風』をも織り交ぜて行使し、ラカンの行く手を阻む。されど、ラカンは適確にそれを見切り、それぞれに見合った威力で相殺し、歩みを止めることはない。

 

 「ご主人様、そのバグキャラに小手先の魔術では対抗できませんよ。早く私を!」

 

 「センパイ、気づいているはずなのになんで?!」

 

 未だ一人で戦うことをやめない徹に、玉藻と桜は疑問の声を上げる。気づいているのになぜと……。そんな二人の思いを知ってか知らずか、徹は切り札の一つを切ろうとしていた。

 

 「終の太刀 黄泉風」

 

 今までとは段違いの風が収束し、巨大な風の刃と変化し、ラカンへと迫る。速度、破壊力共に最速・最強の一撃。これぞ、徹の切り札である最強の風の攻撃魔術『黄泉風』である。『疾風』『烈風』『轟風』の多重同時行使。同系列のそれらを一まとめにして収束し振るわれるそれは、EXの魔力と相まってAランク以上の威力となって、敵を切り裂く。

 

 「確かにそれならば……ですが?!」

 

 「センパイ?!」

 

 ラカンが黄泉風を正面から受け止めるのを横目で見ながら、玉藻と桜は徹の真の狙いに気づき、思わず二人して抗議の叫びを上げた。

 

 

 

 「「なんで私じゃなくて、その娘なんですか!!」」 

 

 

 

 

 

 「終の風 黄泉風」

 

 今までとは格の違う風の攻撃魔法が来ることをラカンは悟った。風は基本的に不可視であるため、肉弾戦を主体とする彼にとっては厄介な攻撃である。しかし、尋常ならざる戦闘経験と勘によって、ラカンはそれをある程度察知できるのだ。

 

 (これがこいつの切り札か。本当にびっくり箱みたいな奴だぜ。……なめてたのは俺の方か。3対1だったら、ヤバかったかもしれねえ)

 

 ラカンは思いの外、この戦闘を楽しんでいる自分に驚いていた。元を辿れば、徹達三人組の力量を見て、拳闘大会にラカンが期待し過ぎたのが原因である。それは例年よりも少しレベルが低い程度のものだったのだが、過剰に期待していたが故にラカンの落胆は大きかった。はっきりいってしまえば、ラカンは不完全燃焼であった。その熱をどうにか吐き出そうと、徹達に手合わせを申し込んだのだがこの戦いの発端である。

 

 当初、ラカンはあまり期待していなかった。3対1を想定していたのに、なにをトチ狂ったのか徹が1対1を申し出たからだ。完全な後衛型の魔法使いが、護衛役なしにガチの前衛近接型のラカンに敵うはずがないと考えていたからだ。ラカンの仲間であるナギやアルといった例外中の例外を除けば、それは当然の結論である。

 

 だが、それはとんだ思い違いであることをすぐに教えられた。意識を刈り取るつもりで放った初撃をあっさりと躱されたからだ。気での強化がないとはいえ、手加減抜きの己の本気の拳をである。否応無く血が滾るのをラカンは感じた。

 

 だから、次は正真正銘の本気だ。気で強化された全力の一撃。並の人間ならば、ミンチどころか跡形もなく吹き飛ぶ威力のそれを両腕を犠牲にするだけで防ぎきったのだ。大した奴だとラカンは本気で感嘆した。

 しかも、あろうことか、ダメ押しの追撃をも躱してみせたというのだから、最早ラカンはたまらなかった。思わず喜悦の声が出たのも無理は無い。

 

 そこからさらに相手の雰囲気が変わったのだ。何よりも眼が違う。何かわやらかす者の眼だとラカンは本能的に察し、そして悟った。この男はまだまだ自分を楽しませてくれるのだと。

 その答が目前に迫る巨大な風の刃だ。密度や込められた魔力が、今までとは文字通り桁が違う。

 

 (こいつは流石に腰を据えて、迎撃しねえと俺でも腕が飛ぶな。だが、これさえ凌げば野郎に後はねえ。白兵戦では俺に分があるのは明らかだし、俺との接近戦を嫌って、距離を離したのは間違いねえからな。もう、次は距離なんぞとらせねえ。これで決める!)

 

 「ウオオオーーーー!」

 

 全身に力を込め、それでも足りぬと言わんばかりに気による強化を施し、巨大な風刃に相対する。抱きしめるように抱え込み、消滅させんと力をこめる。肩口に風刃がめり込むのを感じるが、知ったことかと無視して力を注ぐ。

 

 ラカンは驚いたことにその巨大な風刃をその身一つで、見事受け止めて見せたのだ。足が大地にめり込んでいるが、後ろへさがることはけしてなかった。 

 

 「ぬうううううん、セイッ!」

 

 そして、あろうことかついには打ち勝った。莫大な魔力が込められた風の刃をラカンはついには己の身一つで打ち消して見せたのっだった。当然、ラカンも相応に消耗したが、それでも未だ十全に力を振るえる。

 とはいえ、休んでいる暇はない。徹が追撃も邪魔もしてこなかったのは、次撃の用意をしている為だと魔力の高まりから、ラカンは考えていたからだ。故に、すかさず距離を詰めようとして────彼は止まらざるをえなかった。

 

 先ほどまで存在しなかった気配を感じたが故に。

 

 「お前は何者だ?」

 

 

 

 

 

 

 「終の太刀 黄泉風」

 

 荒れ狂う風の刃の嵐をものともせずに向かってくるラカンに対し、私は躊躇いなく奥の手をきる。これならば、多少の時間は稼げるはずだ。このままでは勝てない。元より私の真価は一人では発揮できないのだから。

 故に召喚する必要がある。己と共に戦ってくれるの者を。

 

 宝具である玉藻及び従者である桜ならば瞬時に召喚できるが、それでは玉藻と桜の力を借りないと言った手前、情けなさすぎる。とはいえ、あまり縁が薄いサーヴァントだと召喚に応じてくれるかも不明だし、何より時間がかかる。故に、ここは彼女に頼もうと思う。私と縁深き、短い間とはいえ命を預けたことのある彼女に。

 

 「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。祖には偉大なる同朋たる朱き月。

  降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 「閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

  繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

 

 ラカンが全身で巨大な風刃を受け止めるのが見えた。なんという化物か。掛け値なしの本気の一撃だったというのに。いや、今はそんなことはどうでもいい。今は彼女をここへと到る道を創り出すのが先決である。

 

 「――――告げる。

  汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

  我が聖杯の記述に従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 「誓いを此処に。

  我は常世総ての善と成る者、

  我は常世総ての悪を敷く者」

 

  

 ラカンが全身に力をこめるのがわかる。あれを生身の肉体で力ずくで打ち消そうとか、本気で頭おかしいと思う。とはいえ、急がなければならない。このままではギリギリ間に合うかどうかといったところだ。高速詠唱、仕事してくれよ!

 

  「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 七天の聖杯(セブンスヘブン・アートグラフ)の一部機能を用いた縁の深いサーヴァントの限定召喚。聖杯を所持する私だけに許された反則技だ。右手の甲に三画の令呪が刻まれるのを感じる。どうやら、成功したようだ。同時に、黄泉風が消し飛ばされたのを感じとる。

 

 ――――本当にやってのけるとは、信じられない男だ。いや、なればこそ、こちらも全力で応えよう。

 

 「もういいように召喚してくれちゃって……。私、そんなに安い女じゃないのよ。マスター?」

 

 鮮血を思わせる紅の髪に、白磁の肌に途轍もない美声。だが、その髪から突き出る二本の角とその背からでている竜尾が、彼女がただの人間ではないと主張している。

 

 「急な召喚ですまない。悪いが力を貸してもらうぞ、ランサー」

 

 「もう、しょうがないわね。売れっ子アイドルの辛いところだわ。いいわ、貴方が望むなら、今一度ステージに登ってあげるわ!」

 

 私の言葉に応えるように高らかに叫ぶと、その特徴的な槍を構え、私の前に降り立った。

 鮮血魔嬢エリザベート=バートリー。かつて月の裏の聖杯戦争において、ランサーとして2度、バーサーカーとして1度、都合3度敵として戦い、最後には一時的とはいえ私の矛として働いてくれた彼女は、私との縁の深さは折り紙付きである。

 

 玉藻と桜を除けば、数多いるサーヴァントの中でも一度組んだこともあるだけにこちらとしてもやりやすい。だから、私としてはベストな選択だと思っている。

 

 「「なんで私じゃなくて、その娘なんですか!!」」

 

 そんな叫びが聞こえたが、私は努めて聞こえないフリをする。下手に反応すると、後で余計に酷いことになることが分かっているからだ。

 

 「ホーホッホッ、嫉妬の視線と言葉がきもちいいいわ!腹黒狐と黒い桜はそこで見ているといいわ。私とマスターの晴れ舞台を!」

 

 あのー、エリザさん。あんまり煽らないでくれます。後で、酷いめにあうの私なんですけど……。

 

 「お前は何者だ?」

 

 流石はラカン。見た目に惑わされず、エリザの本質を見抜いたようだ。警戒も露に問う。

 

 「知りたい?知りたいわよね!いいわ、教えてあげる!鮮血魔嬢エリザベート=バートリー、我が主の槍として、ここに推参よ!」

 

 無い胸を張って、高らかに名乗りをあげるエリザ。まあ、この世界で知られたところで、どうということはないだろうから、構わないとはいえ……世界広しといえど、いきなり真名を堂々と明かすのは彼女くらいのものではないだろうか。

 なにはともあれ、ここからが本番である。

 

 ――――魔法世界の英雄ジャック・ラカンよ、貴方の力はとくと見せてもらった。そのおかげで私は本来の己を取り戻すことができた。心から感謝しよう。

 故に、今度は私の真価をお見せしよう。それが私にできる貴方への最大の返礼だと思うから……。




ついに第三の呪い系ヤンデレ登場です。彼女は書いていて楽しいですね。改心済なので、ブラッドバスはやりませんし、主人公達を子豚呼ばわりはしません。彼女の活躍にご期待下さい!
ちなみに作中で真名を明かすのはエリザくらいとか言ってますが、これは彼が征服王や英雄王を知らないというか、忘れているからです。

※術技解説
『壱の太刀 疾風』 
原作での必要礼装は『空気撃ち/一の太刀』で使用可能になるrelease_mgi(c)が元。フィールドアタックでスタンを起こし、敵を避けるなどの用途に使用する。MP消費は10。
こちらの魔法として変換されて、疾風と名付けられる。風というか大気を操る魔法であり、風の刃だけでなく、風弾や移動補佐にも使用可能。

『弐の太刀 烈風』 
原作での必要礼装は『空気撃ち/二の太刀』で使用可能になるrel_mgi(b)が元。フィールドアタックで2手スタンを起こし、低レベルなら敵撃破も可能。MP消費は15。
こちらの魔法として変換されて、烈風と名付けられる。速度・威力・効果等は疾風より上。後は疾風と同様。

『参の太刀 轟風』 
原作での必要礼装は『空気撃ち/三の太刀』で使用可能になるrel_mgi(b)が元。フィールドアタックでスタンを起こし、低レベルなら敵撃破も可能。MP消費はなし。
こちらの魔法として変換されて、轟風と名付けられる。速度・威力・効果等は烈風より上。後は疾風と同様。

『終の太刀 黄泉風』
原作での該当はなし。本作オリジナル魔法。
『疾風』『烈風』『轟風』の多重同時行使。これらを収束し一度に放つ。霊格の差と魔力量に比例して威力が向上する。LV99、魔力EXの徹ならば、Aランク相当の威力。

『迅雷』
原作での必要礼装は『強化スパイク』で使用可能になるmove_speed()が元。フィールド上での移動速度を上昇させる。MP消費は20。
こちらの魔法として変換されて、迅雷と名付けられる。単なる移動速度強化ではなく全身の身体能力強化の魔法となった。敏捷を1ランクアップさせる。ネギま!でいう魔力による肉体強化がこれにあたる。

『疾風迅雷』
原作での該当はなし。本作オリジナル魔法。
その名の通り、『疾風』と『迅雷』の多重行使。瞬間的に敏捷を2ランク上げる。すでに『迅雷』を行使している場合は1ランク。簡単に言えば、風にのるといった感じになる。

『守護符』
原作での必要礼装は『守りの護符』で使用可能になるgain_con(16)が元。サーヴァントの耐久を強化す。MP消費は20。
こちらの魔法として変換されて、守護符と名付けられる。耐久を1ランク上げる。肉体を強化するのではなく霊格自体を強化するものであり、それに伴い肉体的強度が上がる。
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