クリスマスも近いある日、イシュタルがロンドンに行きたいと言い出した。

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The Starry Nights -イシュタルと聖夜の時計塔-

「へえ、ここがロンドンなの!」

 

 すっかり日も落ちて暗く、街灯や店の灯りばかりが頼りになった街中で、物珍しそうにきょろきょろとあたりを見回しながら、イシュタルが言う。立香は苦笑を浮かべ、

 

「あんまり目立つようなことしないでよ。一応お忍びなんだから」

「わかってるわよ。見張り役も着いてきてることだし、大人しくするわ」

 じろっと責め立てるような視線を、立香の後ろに立っていたエミヤは「なんのことやら」といった様子で受け流す。

 クリスマスが近いこともあり、ロンドンの街中はすっかりそれらしいムードに包まれている。立香は日本人だからイギリス人がクリスマスに抱く感情はわからないが、それでもこの気合の入れようを見るに、彼らにとって特別なものであるらしい。

 今日こうしてロンドンに来ているのは、イシュタルのいつものわがままが発端だ。

 つい三日ほど前に、何の前触れもなく「ロンドンに行きたいの!」とイシュタルが言い出した。はじめはダ・ヴィンチちゃんもマシュも大反対だったし、立香も賛成はしなかった。人類史を取り戻したカルデアは、現在、国連の監視下にある。サーヴァント、それもイシュタルのような神霊級の存在を気安く外部に連れ出すことはできないのだ。それに、彼女のことだからなにをしでかすかわからないというのもあった。

 ただ、イシュタルはどうやら本当にロンドンを見に行きたいだけらしく、立香としても自分たちの手で救った外の世界の様子を見に行きたかった。どうにかならないかとダ・ヴィンチちゃんに交渉してみたところ、条件付きでイシュタルの外出が許可された。

 その条件というのが、「最小限の魔力供給」「他一体の同行サーヴァント」「外部に絶対に露呈しないこと」というものだ。

 魔力供給については、サーヴァントが現界できる程度に留めることで、危険な行為の抑止を図ったわけだ。同行サーヴァントは信頼がおけて、かつイシュタルが暴走したときの対策となるような人物。今回はエミヤが名乗りをあげてくれた。

 最後のひとつが最も重要な条件だ。外部にサーヴァントの連れ出しがバレれば当然カルデアの立場は危うくなる。今後の存続すら怪しいものとなるだろう。それを承知の上で立香はじめカルデアの面々がイシュタルの外出を取り計らったのは、彼女の熱意があればこそ、だ。理由は教えてくれなかったが、絶対にロンドン時計塔を見るんだ! と言って聞かなかった。

 お忍びということもあって、イシュタルはいつもの露出度の高い格好ではなく(当然マアンナも没収)、クリスマスツリーチックなスカートを除けば外見相応な格好だ。それに付き添う立香とエミヤも目立たないように当たり障りのない服を着込んでいる。三人とも、顔立ちが日本人らしいということもあって、観光客と思われているようだ。

 

「それにしても、イシュタルはどうしてロンドンに来たかったの?」

 

 先をてくてくと歩くイシュタルに問いかける。カルデアにいるときには答えてくれなかったが、いまなら教えてくれるかもしれないと淡い期待を抱いてのことだった。

 

「あー、それね」

 

 イシュタルはこちらを振り向くことはなく、声だけが飛んでくる。

 

「なんだかロンドンの時計塔が急に見たくなっちゃって。本当に、それだけよ」

「ふうん」

 

 イシュタルの依代となった人間――その人のことを立香は知らないが、時計塔に縁のあった人物なのだろう。

 

「こんな話をしてても仕方ないし、さ、行きましょ」

 

 いま歩いているこの市街からでも時計塔はよく見える。しかし、イシュタルの足は時計塔を目指して進んでいて、きっともっと近くから眺めてみたいのだろう。

 ととと、と駆け始めるイシュタルに歩調を合わせるように、立香とエミヤも足を早めた。

 

「エミヤも、ありがとうね。面倒事かもしれないけど、来てくれて助かったよ」

「構わないさ。実を言うと、私もここには来たかった」

 

 意外な言葉をエミヤが言ったので、立香は驚いたような顔になる。

 

「へえ、どうして?」

「ロンドンは、私にとっても縁のある場所だからな。……それに」

「それに?」

「……いいや、やめておこう。ほら、急がないと彼女を見失うぞ」

 

 聞くが、エミヤは言葉を継ぐことはない。これ以上は無駄だろうから、立香もそこで話を中断する。

 そういえば、イシュタルの依代の女性とエミヤは、生前関係があるんだったか。以前エミヤがそんなことを漏らしていたような気がする。今回のことを引き受けてくれたのも、きっとそれがあってのことなのだろう。

 いつの間にか、時計塔のすぐ傍まで来ていた。

 先を歩いていたイシュタルが、夜闇の中光る時計塔を背にするようにふとこちらを振り返る。

 

「ほら見て、アーチャー!」

 

 はしゃぐ彼女は十代の女の子のよう。その姿に見惚れていると、ルビーのように紅かったはずのその瞳が青色になっているのに気がついた。

 見間違いかと思って、立香は両眼をこすってみる。再び彼女を見るが、やはりその瞳はいつもの紅色だ。

 

「ねえエミ――」

 

 自分だけが錯覚したのかと思ってエミヤに声をかけたが、彼の表情を見てそれ以上の言葉が続かなかった。

 何か大切なものを思い出したような、嬉しさと僅かな苦しみが綯い交ぜになった表情を浮かべていた。

 

「……? なによ、変な表情して」

「いいや、なんでもないさ。それで、満足したのか?」

「ええ、もうすっかり!」

 

 イシュタルとエミヤ。カルデアでいくらでも聞いた二人の会話が、いまの立香にはどこか遠く、それでいて尊いものに感じられた。




 最近更新できてなくてすみません。騒動聞いて、とあるツイート見かけて面白そうだから一発書き。あのシチュにはエミヤがいないとな。

 なんかあの礼装の時計塔、トロントのやつらしいっすね。
 一時間で書いたので雑なのはユルシテ……ユルシテ……

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