『自称神(笑)』と『転生者(笑)』を赤屍さんに皆殺しにしてもらうだけの話 作:世紀末ドクター
―――翌朝、TVでニュースを見て俺は愕然としていた。
(何だよ、これ…)
27人の子供がバラバラ死体で発見されるというとんでもない大事件。
海鳴市全体、いや、それどころか日本中がその大事件に騒然となっていた。
ニュースに映っている現場は、俺にも見覚えがあった。
――海鳴市、槙原動物病院――
間違いなく『原作』で主人公が初めて魔法に目覚める現場となった場所だ。
TV画面を見ると『KEEP OUT』のテープが現場一帯を囲んでおり、完全に警察に封鎖されているようだ。
しかも、事件が発覚してから殆ど時間が経っていないこともあって、まだ現場検証すら満足に終わっていない状態のようだった。
(子供ばかりが殺された!? 27人も!? しかもあの動物病院って―――)
高町なのはが魔法に目覚める場所で殺された27人の小学生。
恐らく、殺された27人というのは『原作』に関わろうとした転生者たちだろう。
そうでなければ、小学生の子供が27人も夜中に同じ場所で殺されるなんていう不自然なことがある訳がない。
「何て物騒な…」
「え?ちょっと待って。ねえアナタ、これって割とウチの近くじゃない!?」
「え、本当か!?」
ニュースを見たこの世界での自分の両親の反応。
俺は報道される内容を愕然とした気持ちで見ていた。
もしも昨日のユーノの広域念話が聞こえた時、興味本位で『原作』の見物にでも出掛けていたらと思うとゾッとする。
そして、ニュースを見た俺が脳裏に真っ先に浮かんだのは、昨日、帰宅途中に出会った『黒い男』と『白い少女』のことだった。
(まさか、アイツらが…?)
何となくだが、俺は直感的に確信できた。
この事件の犯人は、間違いなくあの二人だ。
そして、もしもあの二人が『原作』に関わろうとした転生者たちを選択的に殺したのだとしたら―――
(やっぱり、アイツらも転生者…、なのか?)
昨夜、ぼんやりと考えていた予想が現実味を帯びてくる。
あの男が原作介入を狙う転生者だというならば、やはり、介入の邪魔になりそうな転生者たちを殺すことが目的なのだろうか?
俺はニュースを見ながら思考を巡らせていたが、どうやら自分で思っていた以上に深く考え込んでいたらしい。
「…! ……! ねえったら!」
ふと母親に名前を呼ばれて我に返る。
「…え? ゴメン母さん、聞いてなかった」
「大丈夫? 顔、真っ青よ?」
自覚は無かったがそんなに深刻な顔をして考えていたのか。
母親は心配した様子で訊ねて来る。
「ホントに大丈夫? 学校、行ける? あ、でも、こんな事件が起こったら学校も休校になるんじゃないかしら?」
母親の言うことはもっともだ。
これだけの大事件が起きれば休校になったとしても何ら不思議は無い。
しかし、事件が発覚したのがまだ昨夜に過ぎないこともあり、学校側も碌に事件の全容を掴めていなかったのが現状であった。
そのため学校もどう対応したらいいのか決めかねており、今日は休校にはならなかった。その旨を伝える連絡網が回って来たとき、俺は一瞬、学校側の正気を疑ったが、考えてみれば学校の敷地内で起こった事件という訳でもないし、学校側がどう判断するかは微妙なところだろう。
もっとも、登校に際しては可能な限り集団登校あるいは保護者の同伴ありでお願いしますということであったが。
(一体…何が起こってる…?)
このとき、俺は何とも言えない漠然とした不安を感じていた。
しかし、そんな不安に対しても自分に出来ることなど何もない。
「お父さんが送ってくれるってさ」
「あ…ああ、分かったよ」
俺は漠然とした不安を胸に抱えながらも、父親に連れられて学校へと登校して行ったのだった。
◆
そうして、学校に到着したが当然、学校中は騒然となっていた。
教室の生徒達も話題は昨夜に発覚した事件のことで持ちきりだった。
子供ばかりが27人も殺されたと言っても被害者は同じ学校の生徒だけという訳でもなく、複数の学校に跨って被害者が出ているようだ。
(この分だと、別の街からわざわざやって来て殺されたような奴も居そうだな…)
生徒達の噂話を聞き流しながら、俺はそんなことを思う。
この学校の生徒の中にも被害者が出ているという噂もあり、周りの生徒達も気が気じゃないようだ。
教師陣も朝から職員会議で対応について話し合っているところであり、朝からずっと自習時間が続いている。
しかし、この分だと確実に午後からは休校になりそうだし、事件の全容がある程度分かるまでは休校が続きそうな雰囲気だ。
「…なあ、ちょっといいか?」
同じクラスメイトの女生徒。
俺は同じ転生者仲間でもある佐倉未来に声を掛けた。
俺と同様、彼女自身も『原作』には関わるつもりがないと言っていたヤツだ。
だから、昨晩のユーノの念話が聞こえた時、彼女も『原作』の見物などには行っていないのだろう。
もしも、見物に行っていたら恐らく彼女はここには居なかったはずだ。
「…やっぱり『原作』と『転生者』がらみの事件だと思うか?」
「…多分そうだろうね」
俺と佐倉は屋上に移動してから、事件について話し出した。
恐らく殺された27人というのは『原作』に関わろうとしたか、『原作』を見物しようとした転生者たちだろう。
そうでなければ、小学生の子供が27人も夜中に同じ場所で殺されるなんていう不自然なことがある訳がないからだ。
「でも、そうだとしたら、事件の犯人も『転生者』なのかな…?」
やはり佐倉も俺と同じ考えに行き着いていた。
生徒達の噂話の中には、殺された27人の他に、たった一人だけ無傷で現場に残された少女が居たという噂も存在した。
無傷で現場に残された少女が主人公である『高町なのは』であるのなら、尚更、これが自然な考えであるように思える。原作介入を狙う『転生者』が事件の犯人で、介入の邪魔になりそうな転生者たちを片っ端から殺した、というのが一番ありそうな考えだとこの時の俺達は考えていた。
そして、佐倉の意見を聞いた俺は、昨日の下校途中に出会った『白い少女』と『黒い男』の二人組についても彼女に話してみることにした。
――命拾いしましたね。アナタは『対象外』だそうですよ――
下校途中に出会った黒い男が去り際に言い残した『対象外』という言葉。
俺は昨日の校途中に出会った『白い少女』と『黒い男』の二人組について、自分が経験したことをそのまま語った。
正直、俺はあの二人が事件の犯人だと半ば確信していたが、俺の話を聞いた彼女がどう判断するのかはまた別問題だろう。
「『対象外』…か」
俺の話を聞いた佐倉は口元に手を当てて何か深く考え事をしている。
特にあの黒い男が言い残した『対象外』という言葉に引っ掛かっている様子である。
「普通に考えたら、原作に関わろうとしてる連中が『対象者』ってことなんじゃねえの?」
「あ、うん、私もそう思うんだけど…。何か引っ掛かるっていうか…」
「何が?」
「うーん…」
腕を組んだ姿勢で考え込む佐倉。
しかし、考えても今の時点では答えは出ない。
彼女はひとまず疑問を棚に上げると、一つ息を吐いてから言った。
「けど、これが『転生者』がやらかした事件だとしたらマジでヤバいよね…。これまでにも転生者同士の小競り合いはいくらかあったけど、こんなトンデモナイ殺し方をする奴は一人も居なかったのに…」
明らかに他の転生者の連中とは一線を画している。
チート能力を貰っているであろう転生者たちを皆殺しにしたという事実。
その事実とは、つまり、この事件の犯人は他の転生者27人がまるで相手にならない程の圧倒的な実力者だということだ。
今回の事件の犯人が『転生者』だとしても、間違いなく普通の『転生者』じゃない。ここまで来ると、むしろ最初から殺すことを前提とした能力を修めている可能性が高い。
そして、それに加えて、おそらくは―――
「多分、殺人に対する認識が私達とは根本から違う気がする」
佐倉はそう言ったが、それは俺も最初から思っていたことだ。
覚悟云々の話ではなく、ただ敵だから殺す。『殺す覚悟』とか『殺される覚悟』とかの低次元なところで喚いている連中とは、精神構造の在り方が根本的に違う。
この事件の犯人が、平気で殺人が出来る人間―――いわゆるサイコパスに近い相手であることは恐らく間違いない。
だから、俺も彼女に同意の言葉を返す。
「…ああ、俺も同感だよ。今回の事件の犯人は、いちいち『覚悟』なんて言葉を使わなくても人殺しが出来る本物の『殺戮者』だ」
この事件の犯人は間違いなく異常者・外道の類である。
ある意味、『殺す覚悟』とか『殺される覚悟』などとほざいている地雷オリ主の方が『殺人=出来るだけ忌避すべきもの』という認識を持っているだけマシかもしれない。
もっとも、実際に『殺される側』からしたら、どちらであったとしても結果が変わらないことを考えると殺人を犯すという時点でどっちもどっちということかもしれないが…。
そして、俺がそんなことを考えていると、ふと佐倉が訊いてきた。
「…ひょっとして、キミも前世ではネットで二次創作のSSを読んでたクチ?」
「まあ、割と読んでた方だと思うけど。何で?」
「いや、『覚悟』なんて言葉が出て来たし、ひょっとしてそうなのかなって」
佐倉の答えを聞いた俺は「なるほど」と少し納得する。
実際、一昔前の二次創作の界隈では『殺す覚悟』とか『殺される覚悟』とか喚くオリ主が山ほど存在していたのは確かだ。
もっとも、やや拗らせ気味の「高二病」である俺にしてみれば、ああいう『殺す覚悟』云々というSEKKYOUはどうしても馴染めなかったし、的外れだとも思っていたが。
「へえ? 的外れってのはどういう意味?」
少し興味深そうに彼女は俺に訊ねてきた。
そして、俺はその問いに全く迷うことなく次のように即答した。
「そもそも覚悟があるからって、人殺しが肯定される訳がないって話だよ」
どこぞのブリタニアの皇子は「撃って良いのは撃たれる覚悟のあるヤツだけだ」という言葉を残している。
実際、その言葉は一定の正しさはあると思うし、相手を殺す気でいながら、自分が死ぬ事を考えないなど虫が良すぎる。
だが、その覚悟があるからと言って、別に人を殺すことの罪が免除されるという訳ではないだろう。俺がそう答えると、佐倉は何か思い当ることがあったのかポンと手を叩いた。
「あ、それ、私が通ってる道場の先生も言ってたよ。いわゆる『戦う者としての覚悟』っていうのは、いざそういう事態に直面しても自分が動揺せずに平静を保つための心構えに過ぎないものなんだってさ。自分が傷ついても冷静さを保って、相手を殺傷してもそれに動揺せずに次の相手に備えるための『心の技術』に過ぎないんだって」
戦う者としての覚悟と罪の免除は全く別の問題だと佐倉は言った。
彼女の通っている道場の先生の言葉だそうだが、俺はその言葉に全面的に賛成したい。
「ふーん? じゃあ、もしも本当に正しい『殺す覚悟』ってのがあるとしたらキミは何だと思う?」
本当にそんなモノがあるとしたら、それは一体何だろう。
そう言えば以前、『殺す覚悟』『殺される覚悟』のことを、『いつか自分に降りかかる報いや罰から逃げないこと』だと言い換えた二次小説作品も読んだことがある。
おそらく世界観や状況によっても変わってくるのだろうが、それらを踏まえて考えると、少なくとも現代日本社会においてはこう答えるのが正しいはずだ。
「少なくとも現代日本においては、『殺す覚悟』=『殺したら即座に警察に出頭・自首する覚悟』だろ」
我ながら身も蓋もない、皮肉まみれの答えだと思う。
だが、佐倉にとっては全く予想していない答えだったらしい。
ポカンとした表情をして数秒ほど動きを止めていた佐倉だったが、何かがツボにはまったのか突然にプッと息を吹き出して、大きな声で笑い出した。
「アッハッハッハ!じゃあ、キミに言わせれば、気に入らない奴を片っ端から殺してるようなオリ主の大半は、『殺す覚悟』なんて全く出来てないってことだね!」
実際、『リリカルなのは』の二次小説作品で、殺したから警察に自首しましたというオリ主は見たことが無い。
彼女は口元を押さえたまま、ふるふると肩を震わせており、俺はそんな彼女に少し呆れながら、ジト目で睨んだ。
「……笑い過ぎだぞ、佐倉」
「ふふっ、いや、ゴメンゴメン。余りにも予想外な答えだったから可笑しくってさ」
そうして、俺と佐倉の他愛のないやり取りはしばらく続いた。
だが、後になって思えば、この時の俺達は完全に楽観していたと言って良い。
―――鍵を握るのは、昨日、俺が出会った『黒い男』が言い残した『対象外』という言葉。
この時の俺達は、単純に『原作に関わろうとする者』=『対象者』と考えていた。
だから、原作に関わろうとしなければ安全のはずだと思い込み、その言葉が本当に意味しているところを俺達は全く理解していなかったのだった。
あとがき:
最近は減った印象はありますが、人殺しがある程度当たり前の戦国時代や中世ファンタジー系の世界観ならともかく、現代日本で『殺す覚悟』なんて的外れなこと言ってる連中が以前の二次小説の界隈で山ほど居て、イライラして仕方なかったです。
そもそも、転生オリ主の連中が免罪符のように掲げる『殺す覚悟』というのが何を指しているのか自分にはさっぱり分からない。現代日本で通用する『殺す覚悟』って一体何だよと自分なりに理詰めで考えた結果、少なくとも現代日本においては『殺す覚悟』=『殺したら即座に警察に出頭・自首する覚悟』だろうという結論になりました。
以前、『殺す覚悟』『殺される覚悟』のことを、『いつか自分に降りかかる報いや罰から逃げないこと』だと言い換えてる作品も読んだこともありますが、本当に『自分に降りかかる報いや罰から逃げないこと』を覚悟しているというのであれば、殺したらさっさと警察へ自首すべきだと思います。
ちなみにこの理屈を適応すると地雷オリ主の大半は『覚悟』という言葉を都合よく使っているだけの『無法者』であるという結論にも至ります。もっとも法律・ルールを無視する『無法者』であるという点については、赤屍は言うに及ばず、蛮や銀次だって全く同じな訳なんですけどね。