僕が響になったから   作:灯火011

24 / 28
時間が出来たのでようやっと響イイイイイイイイイ!

ちょっと横須賀にお出かけです。


Bolero (1)

 ここは鉄底海峡。敵も味方も、今死ぬし、明日死ぬ。1週間生きれば英雄だ。

 

 そして今日も今日とて、艦娘が、深海棲艦が、死にに来る。

 

「前方15000に深海棲艦群視認。駆逐4、軽巡2、戦艦2、空母2の中規模艦隊です」

「ヤー。私と島風はこのまま速力全開で吶喊。10000時点で魚雷は半数を投入。半数は待機」

「了解」

「赤城と加賀は爆撃機を上げて混乱した敵空母を喰え」

「了解」

「長門と陸奥は敵戦艦のどてっぱらにデカい穴を一つ頼む」

「任された」

「仕留めきれなかった艦は残りの魚雷で仕留める。以上。説明終わり」

「響、後ろについて。風よけになるよ」

「了解。島風。では…全艦」

「「「「「吶喊!」」」」

 

 缶の圧力を上げる。煙筒からは黒煙が一瞬上がり、タービンが唸りを上げ、シャフトが捻れ、ペラが空気を巻き込みながら海水を吐き出す。それらが全て推力に変換され、響と島風は敵艦隊の横っ腹に吶喊していく。後方では赤城と加賀が次々に流星――加賀は雷撃、赤城は爆装であるが――を発艦させていく。

 そこまですれば相手もこちらに気づくもので、軽巡、駆逐からの発砲光がちらりちらりと散見される。無論、船の速力よりも砲弾の速力の方が速い。

 

「敵の発砲光確認」

「ヤー。こちらは発砲禁止。引き付けろ。バイタル抜かれなけりゃいいよ」

「合点承知の助!」

「魚雷発射管を左舷へ。このまま肉薄して面舵で側面を敵船団に向けたら魚雷投下。私たちの船体は船団の後方を掠めるルートで往くよ」

「後方で丁字だね。痺れるぅ!」

「ヤー。一筋縄ではいかないけれど、魚雷で数隻喰えればこちらのもんだよ」

 

 そう言った響の船体が爆ぜる。敵弾が破壊した場所は艦橋だ。響本人の額からも血が流れ始める。

 

「なかなかやるね」

「フラグシップかな?でも、今のダメージじゃかすり傷だね」

「当然。いくらでも弾は喰らうけど、奴らを喰い破るのは我々さ」

「もちろん。…酸素魚雷有効射程まで残り20秒」

「ヤー。さぁ、食い破ろうか島風。魑魅魍魎に戦い方というものを教育してやろう」

 

 そういった響の頭上を、長門と陸奥が放った弾丸が、赤城と加賀が送り出した航空機が埋め尽くす。

 

「戦いは始まった時に終わっているのだ。さぁ、深海棲艦共。海の藻屑となるがよい」

 

 にやりと口角を上げた響の船体が再度爆ぜる。今度は前方の主砲だ。本人の胸のあたりから出血が起きるが、だがしかし、響は特にそれを意に介していない。むしろ笑みを強くするだけだ。自身の船体を燃え上がらせながら、しかし大胆な笑みを浮かべるその姿はまさに修羅と言って良いだろう。

 

「よろしい、非常によろしい。だが、その程度の怨嗟で私達を喰えると思っているのかな?」

「あっははははー。甘いよねー。甘いよねー。…魚雷投下位置まで10秒」

「面舵。回頭!喰うよ。島風」

「合点」

 

 魚雷が海面へと落ちる。敵との距離は既に5000を切っている。砲弾は次々と響を、島風を襲うがどこ吹く風。逆に深海棲艦の空母と戦艦が、航空機と41cm砲弾になすすべもなくどてっぱらに大穴を開けられていく。そして島風と響が放った魚雷たちはそんな空母と戦艦を尻目に駆逐艦と軽巡へと襲い掛かる。この時間、戦闘下知からわずかに10分という早業だ。

 

「敵艦隊沈黙。救出艦は暁型。鎮守府にて精査しないと艦名は不明」

「お、いいなー。響の船体だったら部品入れ替えできるじゃん」

「確かにね。それに私たち姉妹はオーバーホールの時期だからね。誰の船体であってもあり難いよ」

「島風型は本当でないからねー。缶のストックがそろそろ切れるんだよね」

「それは島風が無茶しすぎ。ああ、あと曳航は長門さん、よろしくお願いします」

 

 にこやかに談笑する艦娘たち。その海面には、深海棲艦の残骸と、真新しい駆逐艦の船体が浮かぶのみである。

 

 

「……………うぉぉおおう!?」

 

 布団を跳ねのけて体を起こしてみれば、まだ世界は真っ暗。チビのレ級は寝ているし、時計の針は2時を指している。

 

「すごい夢だったな…。もしかして、この体の記憶なのかな?」

 

 砲撃をしている感覚とか、傷を受けた感覚とかなかなかリアルだった。というか、正直頭のネジが飛んでいるような戦い方だと思う。…ま、とりあえず、寝なおそう。

 

「いや寝るなよ。横須賀行くぞ。すぐ行くぞ。ほら行くぞ。用意しろ響」

 

「…うぃー」

 

 今日はバイトが休み。ということで、朝はちょっとのんびり…という訳でもない。なぜかというと、レ級が『横須賀に出かけたい』と伝えてきたからだ。

 

 

「横須賀…?」

「そう。横須賀。あっちの世界じゃ艦娘の拠点だから近寄れなかったんだけどさ、こっちの世界でも基地ではあるけれど、一等の観光地という情報をネットで見てね。一度、行ってみたかったんだよ」

 

 そういうレ級は良い笑顔だ。ついつい冗談めいてこんなことを聞いてしまう。

 

「へぇ…ねぇ、もしかして、船が多い横須賀に出かけて、この世界の護衛艦を使って何かしようとか企んで無いよね?」

 

 言うや否や尻尾で手を叩かれた。小さい割に、結構いたい。

 

「響がポテチをくれなくなったら企んでやるよ」

 

 そういいながらレ級はため息をついていた。

 

「まぁ、そう思われても仕方がないとは思っているが。その、私たち船にとっては戦艦三笠はやはり憧れなんだ。私の世界では見に行けなかったからなぁ。あとは今日、護衛艦の公開もやっているだろう?だから行きたいんだ」

 

 何か企んでるのかと思ったけれど、どうやらそうでもないらしい。というか艦艇公開なんてやっていたのか。

 

「艦艇公開、やっているんですか?」

「うむ。ホームページで確認したから間違いない。それに、ちょっと確認したいことがあるしな」

「パソコン使いこなしてますねー…。で、確認したいことというのは?」

 

 レ級はにやりと口角を上げる。本人的には悪顔なのだろうけど、小さい分小憎らしい笑顔になっている。というか艦娘の世界のものはかわいいのが基本なのだろうか?

 

「響が艦娘かどうかの最終チェックってところだよ」

「それは…どういうことです?」

「それは護衛艦に乗ってからのお楽しみさ。さぁさぁ、それよりも早くいこうぜ」

 

 レ級はそういいながら尻尾を地面になんどか叩きつけていた。なんか、エサを待ちきれない小動物みたいで可愛い。ま、そうだな。

 

「判ったよ。まぁ、明日はバイトも無いし、暇だし…行こうか」

 

 

 といった具合で、何か企んでいるようなレ級を連れて横須賀に行くことになっている。未だに尻尾をぱたつかせているレ級を見ながら、横須賀行きの服装を決める。…ま、ポニーテールにスカート、あとはニーソに猫耳パーカーでいいだろう。足元は編み上げの靴。動きやすい、かつ、僕の心に刺さる服装だ。

 

「…元男という割には随分と可愛い服装じゃないか」

 

 ぽつりと呟かれたけれど、当然じゃないか。

 

「元男だからこそ、だよ。可愛い女の子にはかわいい服、じゃないともったいないと思うんだ」

「なるほどな。艦娘は確かに整っているからなー」

「でしょう?」

 

 私はどや顔でそう言った。

 

 

 JR線を乗り継ぎ、私とレ級はなんとか横須賀の駅に到着した。護衛艦の一般公開の日というだけあって、休みだというのに電車はすし詰めだ。

 

「…電車はもう勘弁だ」

「同感です」

 

 レ級は私の服にある内ポケットに入れていたので、混雑する電車ではむんぎゅと潰れていた。特にけがはしていないようだ。そして、レ級はちらりと私の首元から顔だけを出してキョロキョロと周りを見渡している。

 

「いやしかし、ここが横須賀か。ここが憧れの横須賀か。…拍子抜けだ、普通の街だなぁ。もっとこう、要塞化されているものかと…」

 

 横須賀は自衛隊と米軍の基地がある街だけれど、かといって別に軍色が強いわけじゃあない。商店街があるし、ホテルもあるし、遊び場もあるし、公園もある。実に、普通の町だ。だけれど、今日はそういう日じゃない。

 

「そちらと違って戦乱のない日本ですしね。ただ、駅を出たら軍艦が見えるっていう町はそうそうないですよ」

「おぉ!本当だ。いやー、インターネットでは写真を見ていたが…変わった形をしているなぁ。砲なんて一門しかないじゃないか」

「現代の船はあれで貫通力も命中力も連射性も世界大戦の時の船より上ですからねぇ」

「ほー…っていうかよく知っているな?」

「そりゃあもう。艦これも軍艦好きが高じてやり始めたもんですよ」

「なるほどな。にしても強い船か。一度手合わせしてほしいもんだ」

「あはは」

 

 他愛もない会話をしながら、横須賀の駅からヴェルニー公園へと歩みを進める。

 

「じゃあとりあえずは三笠へ向かいますよ」

「ああ、頼む。それにしても、こちらの横須賀はずいぶんとドックが少ないな」

「そうですか?」

「うむ。なんどか偵察の写真で見たことがあるが、もっとドックが多かったはずなんだが…こんな公園なんてなかったぞ」

「ドックを潰して平和利用ってやつです。多くはショッピングモールや野球場になってますよ」

 

 ほー、と感心するレ級を差し置き、私も周囲を見回している。何せ横須賀はなかなか来れる街ではないし、更に土方をやっていた時は日曜日もあってなかったようなものだし。こんな風に出歩くのは久しぶり過ぎて新鮮だ。

 それに今日はいつもの視線は感じない。なぜかと言えば、艦隊これくしょんのキャラクターのコスプレをしている方々が街中を闊歩しているからだ。…ちょっと私もコスプレをしてくればよかった、なんて思ったけれど、良くも悪くも目立つので今日は私服で正解だったかもしれない。

 

「艦娘の仮装ねぇ…。面白いけど、面白くは無いな」

「そういわずに。こちらの世界ではこういう仮装、つまりコスプレが流行りなんです」

「ほー。…お!ありゃあ私たちの仮装じゃないか!」

 

 そういったレ級の視線の先にはまさにレ級のコスプレの一団が歩いていた。一瞬嬉しそうな顔をしていたレ級だが、次の瞬間には顔が曇る。そして何を言うかと思えば。

 

「…私よりも胸がありすぎるな。ちくしょう」

「そこは嫉妬するんですね」

 

 うん。横須賀は今日も平和だ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。