「あー、君達。遂にこの日がやってきた……そう、アルシーヴ……様が禁忌の魔法『オーダー』で召喚を行うを日であーる!」
「くー!」
「くー!」
「くー!」
壇上に立つはアルシーヴ直属臣下『七賢者』の一人シュガーの親衛部隊長たる俺ことクロウである。
真っ赤なハチマキに真っ赤の特攻服、そして背中には『シュガーLOVE』の文字。
それを真似するかの如く、壇下にいる俺の可愛い部下ことクロモンの本来なら無地無模様の紫色一辺倒の部分も真っ赤に染まっていた。
俺が手塩に掛けて鍛えた結果、何故か赤く変色したのだ。
そして本日、アルシーヴが行う段取りの説明をしていた。
「それでだ、我等の天使且つアイドル……シュガーちゃんがその作戦の先鋒を担う事と相成った!!」
「くーー!!」
「くーー!!」
「くーー!!」
そもそもシュガーちゃんとは何者なのか、それは我々の天使でありアイドルである天才美幼女なのだ。
まだ直感と直情だけで動くから若干危なっかしいが、それもまた魅力の一つにある。
「……まあ、正直な話オーダーなんて魔法かなりのパチモン臭するけど」
「……くー」
「……くー」
「……くー」
キャラクターを強制的に呼び出し、更にはかなり面倒な規程付きという聞くからにやった後ロクな事にならなさそうな魔法である。
と言うか実際ロクな事にならない事を俺は知っている。
実際見た訳では無い……そう、俺の前世のアプリで見てきた情報なのだ。
俺は前世じゃ三十代前半、平々凡々なサラリーマンだったが幼女に見とれてた余りホームに真っ逆さま、そのまま超高速で通過する新幹線によりミンチよりひでえや状態になり気付けば転生していた。
んで転生先がまさかのシュガー姉妹のとこだったという。
そして元より『その気』があった俺はシュガーちゃんを溺愛し、シュガーちゃんも俺をお兄ちゃんとすり寄ってくるくらいに仲も良好になった。
但し実の兄ではない、近所のお兄さんみたいな存在である。
と、まあそんな訳で可愛い子には旅をさせろとよく言われるが旅をさせるにもまだ危なっかしい精神だから俺が積極的に守っていくという作戦になっている。
話が大きく逸れたが、つまりはオーダーはハイリスクハイリターンのギャンブルをしているのだ。
オーダーの説明を簡単にすると『コール』より強化された状態で『聖典』の一作品に置けるメインキャラを呼び出す事が出来るが、一人が召喚者の半径50m以内に現れ、他のキャラクター達は半径10キロ以内の地点でペアで呼び出される……というのが大まかな流れになっている。
と、アルシーヴが説明していた。
んで次に主人公たるきららが使う『コール』の説明だ。
これに関してもアルシーヴからの説明ではあるが、オーダーはキャラ自身をその世界に現界させるもので、コールは一時的に力を借りて終われば自動的に消える魔法……らしい。
呼び出せるのは一度に三~五人までで完全にランダムで呼び出されるとか。
因みにキャラ自身の肉体を呼び出すのではなく、寝ている時間帯に魂だけこっちに来る仕様らしい。
アプリじゃそこまで細かい説明無かったけど、オーダーとコールでメリット、デメリットの差が明確にあって中々良い話を聞けたと感心した。
「つーかアルシーヴも面倒な事するよなあ」
確かに、と言った様に紅いクロモン軍団が頷く。
このアプリやってた当初全く気にしてなかったからこっちで説明されようと記憶にもほぼ残ってないが、世界を支配する為とか何とか言っていた、しかも上司を封印してまで。
「まあ『聖典』の女の子達可愛くて好きだけどね、まあ俺達にはシュガーちゃんいるしな」
「くー」
それにオーダー召喚されると何かしら悪影響が召喚されたクリエメイトに生じる可能性があるとかなんとかって前世で聞いた事あるし、出来れば好きなキャラ達の苦しんでる姿は見たくないんだよなあ…
「でもまあ、俺達はシュガーちゃん親衛隊だ。シュガーちゃんが捕らえろって言ったらやる事はそれに従う事、慈悲は見せたら負けだと思えよ」
「くー……」
「……俺だって出来ればしたかねえけど、シュガーちゃんに責任がのし掛かるのはもっとダメだ、分かるだろ?」
俺もコイツ等も、ちょっと優しすぎるのが欠点だ。
だからこそ、後悔しない選択を取らないといけない。
「――その必要は無いよ、おにーちゃん!」
「――っ!? そ、その声はっ!?」
「くー!?」
とうっという掛け声と共にちょっと高い塔からジャンプを決め、華麗に着地してきたケモミミ美幼女。
ロリータファッションに身を包んだその姿は正に天性の可愛さ、誰もを癒す可愛さ。
そう、彼女こそ俺達が何より第一に守るべきシュガーちゃんなのである。
「シュガーちゃんさんじょーっ!」
「い、今の聞いてたのか……ぐぬぬ、秘密の会合にしようと思ってたんだが」
「シュガーちゃんはしんえーたいのみんなの事大好きだから分からない事なんてめったに無いの! だからかくし事なんてダメっ!」
くぅぅ……大好きなんて言われて泣かない親衛隊はいませんぞ……!
ってそれはともかく最初の言葉の真意を聞かないといけない、何とか正気に戻らなくては。
「そ、それはそうとさっきの言葉の意味は……」
「オーダーで呼び出すのって昔からおにーちゃんに読んでもらった本の人達だよね?」
「そうだけど……」
昔から読み聞かせる事で少しでも俺との共通の趣味をもってもらいたかった……何て言う些細な理由で俺がシュガーちゃんに読んでいた本は専ら聖典だった。
その甲斐あってか今やシュガーちゃんはランプちゃんに匹敵するくらいの聖典(きらら)ヲタクと化した。
「シュガーも聖典にのってた女の子あんまり傷付けたく無いから今回だけだけどソルトから鷹の爪団一番隊貸してもらえたんだ! これでそーさく範囲が広がってパパッと見つけられるよ!」
「おおっ!」
どうやら大量のクロモン部隊を借りれたらしい、流石はウチのアイドルは天才です。
これで間違いなく原作より早めにゆのっち以外の誰か一人くらいは保護出来るだろう、どんなイレギュラーがあるとも分からない上最初に保護するだろうゆのっちは寂しがり屋、一人でもいればクリエを全く徴収出来ないという原作のアルシーヴがやらかしてた様な失態は起きないはずだ。
少なくともオーダーで強化された分のクリエパワーを数人分はいただける、完全失敗はあり得ない。
「だからおにーちゃん、安心して全力でクリエメイトをほごしてきてね!」
「任せとけ! テメー等、聞いたな? そう言う事だから全力挙げてけ! 手柄挙げてシュガーちゃんに褒めてもらうぞ!!」
「くー!」
「くー!」
「くー!」
俺達は真っ赤な特攻服より真っ赤に燃え上がっていた。
そしてそれはシュガーちゃんと俺のイチャラブとちょっとした波乱の物語の幕開けでもあった。
あってほしいなあ……
多分続かない…と思ったけどもうちょっとだけ続く