強力な魔眼の個性を得た人間が、個性社会でヒーローになる話。
空の境界のAbemaTVでの一挙放送を見て面白すぎて書いた。
やっぱ空の境界は最高だなって思いました。
ねえ、貴方こんな噂を知ってる?個性をくれる個性屋の話! あ、個性って言ってもね。眼に関する個性なんだけど……。
それでね、その個性屋は暗ーい暗ーい路地裏に一人で立っているんだって。男か女かもわからない、仮面のニンゲンが。そう、察しがいいわね。その人が個性屋さん。眼の部分だけ、穴が開いている赤い仮面を被って路地裏に佇んでいるのよ。普通、そんな変な風貌をしたニンゲンに誰も近づきたがらないわ。私もそうだし、君もそうでしょう? だってあからさまな変質者なんだもの。
でもね、ある女の子が何を思ったか声をかけちゃったんだって。貴方は誰ですかってね。仮面を付けているから、まあヒーローにでも勘違いしたのでしょう。仮面を付けているヒーローもいるしね。現実にも、アニメにも、映画にも。マーベルのヒーローとか、仮面ライダーとかがいい例ね。私はどちらも詳しくはないのだけれど。
そうしたら仮面の個性屋が突然こう言ってきたらしいの。おまえ、無個性だなってね。勿論、個性屋と女の子は初対面よ。ん? 個性屋は仮面を付けてたのだからわからないだろうって?まあ、その辺は噂だから尾ひれでもついたんじゃないかしら。私にはわかりようが無いわね。
で、突然そう言われた女の子は怯えた。何故かって?それはもうわかりきったことじゃない。今の世の中は個性社会よ。個性個性個性個性、個性!そう、個性を持っているのが普通で当たり前なのよ。普通じゃない異常は普通の中でどうなるか、わかりきったことよね。ましてや幼く力を持たない異常は。ま、当たり前のように排斥されたわ。その女の子は。その女の子がヒーローに憧れていたのが、それはもう残酷なことね。
その排斥の結果、女の子は路地裏に住み着くことになった。親からも、友からも、そして社会からも排斥されたモノはそこに行くしか無かった。そうして、そこで物乞いのように、コソ泥のように生きた。
死にたく無かったから。ヒトの持つ根源的な恐怖──死という虚無から逃れたかったから。ここで、冒頭の場面に戻るわ。個性屋から無個性だと言う事を言い当てられた女の子は怯えた。嬲られる、犯される、また、殺されるってね!
ふふ、だけどね。個性屋さんは今までのニンゲンとは違ったのよ。ニンゲンの中でたった一人、手を差し伸べてくれたの。そうしてね、とてもとてもとても優しく嗤いながら、個性が欲しいかと問いかけてくれた。
個性が欲しいかどうか。勿論、女の子は個性が欲しい。個性さえあれば、少しでいいから個性さえあれば──こんな事にならなかったのに!常日頃そう思って居たから。だから、頷いた。
そうしたらね、個性屋さんは、ニコリと微笑みながら女の子の両眼を潰したの。え? 仮面を付けてるのにそんな事わからないだろうって?いや、仮面なんか関係ないわ。女の子がそう思ったのだからそうなのよ。
それで、女の子は余りの痛みに悲鳴を上げた。痛い、痛い、イタイ──ってね。そりゃそうよ。いきなり眼を潰されたら誰だってそうなるわ。個性屋さんも酷い人間よね。
だけど、その女の子が痛みに耐えて無くして筈の眼を開いたら、そこには暗闇ではなくて、明るい世界が広がっていたの。女の子は痛みと引き換えに、力を手に入れた。劣等感に、憎悪に、悲しみに、恐怖。それらに追われて生きてきた女の子は、そうして力を手に入れたの。
女の子は喜んだ。これで私もヒーローになれるってね。だけど、今更力を得ても帰る場所なんて何処にもない。
だって、女の子はその得た力で女の子を排斥したニンゲンを殺してしまったのだから。だから女の子はこっそりと路地裏に住み着いたまま、見かけたヴィランを殺した。ヴィランは生きてちゃいけないから。ヒーローとして、殺さなきゃいけないから。
そしてたぶん、殺しを愉むようになってしまったのね。力を得て家族を殺したその日から。或いは個性屋さんに会ったその時から。
そうして。殺して。殺して。殺して。
殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して。
殺して。殺して──貴方の前にいるの。
たぶん、途中からヴィラン以外も殺した気がするけど、ニンゲンであるなら別に構わないわね。有名な荀子も性悪説とか言ってるし。
悪いニンゲンを
だから、貴方も殺してあげる。
「まがれまがれまがれ──
主人公は魔眼屋さんなんやで。
無個性の女の子は魔眼屋さんになんかされて、歪曲の魔眼を貰っただけです。