マダラ様の話が読みたいと思ったのですが、少なかったので自分で書きました。
ただ私の東方知識が少ないため東方ファンの方には間違い等あればそっと指摘して頂きたく思います。
注意
この話にはあなたの嫁が異なる人物像で表現されている可能性があります。その場合は即座にブラウザバックし、記憶を消去してください。
強烈な日の光が照り付ける昼下がりの午後。日の射さない屋内であってもその熱がもたらす茹だるような暑さは変わりない。額を伝う汗を拭い私は空のコップを片手に気怠さを訴える体に鞭打ち台所へと向かう。
駄目だ…何か飲まなきゃ死ぬ。
台所には久しく使っていないコンロに皿の積みあがったシンク。でもそんなことはどうだっていい。私が求めているものは冷蔵庫の中にこそある。だが今日の私はとことんついてないというか、日頃の堕落の付けが回ったというか。冷蔵庫を開けて私は愕然とする。そこにあるのはがらんどうな空間のみ。なんで?今の私にはそれが何かの悪い冗談にしか思えない。多少冷気で冷やされた頭で記憶を探る。昨日は冷蔵庫にあったカレーの残りを食べて…いつ作ったやつ?あれ?
…そういえば前に買い物行ったのっていつだっけ?
思い返せばここ最近境内の掃除しかしてない気がする。突然やってきた現実に深いため息が漏れる。そういえば2ヶ月前の仕事の報酬もそろそろ底つきそうなんだっけ。
やばいなぁ。早く新しい仕事受けなきゃ…。
ため息交じりに冷蔵庫の戸を閉める。その日暮しはいつものことだ。蛇口をひねり水道水を一息に飲み干す。ぬるい…。
「おーい。いるかー?」
この声は魔理沙?
「あら、久しぶりね。最近見かけなかったけど何してたのよ?」
縁側に出てみればやっぱり。金髪の魔女っ娘さん。まぁ本人にこんなこと言ったら箒でぶん殴られるんだけど…。
「あぁ、面白いものが手に入ってね。しばらく引きこもってたんだよ。」
「出てきたってことは一段落ついたの?」
「いや、まだだけど流石に息詰まっちゃってさ。気分転換に来た。」
屈託のない笑顔でそういう彼女は私の友人、好奇心の強い性格のおかげで私の仕事柄よく会うことになるのだ。ふらっと来ては面白い話題を提供してくれる。ただ現在の問題は…。
「お茶でも出してあげたいところだけど生憎冷蔵庫の中空っぽなのよね。」
一瞬、話が呑み込めないといった表情を浮かべていた魔理沙だったが納得した様子で私の顔を見つめる。やめて。露骨にかわいそうなものを見る目を向けるのはやめて。
「別にいいよ。ちょっと話しに来ただけだから。それとも一緒に買い出しにでも行くか?」
魔理沙はそう言って人里の方を指さす。ごめんなさい。あなたが思うほど私の懐に余裕はないの…。
「マジかよ。もしかして結構前の一件以来仕事受けてないとか?」
ご名答です。私がうなずくと魔理沙はしょうがないといった様子でため息をつく。
「手に職とは言うけどよ。もうちょっとやり方考えた方がいいんじゃないか?」
「まず珍品ばっかり売ってるあんたがなんで懐に余裕があるのよって話なのよね。」
「そりゃこっちは固定客がいるからな。変わりがきかない点も大きい。」
「そう、私はこれがいつも通りだからいいのよ。また何とかするわ。」
考えてもどうしようもないんだから考えるだけ無駄だ。
「そういや昨日だか一昨日だかに届いた新聞に外来人の話が載ってたぜ。仕事に繋がるかもだし調べてみたらどうだ?」
「外来人?新聞って天狗の?まだこっちには来てないけど妖怪にでも食われたのかしら?」
「いや、どうやらこっちに住み着いたらしいぜ?なんでも東の山の頂に家を構えたとか。」
山の頂?人里じゃなくて?
「それ本当に人なの?実は新手の妖魔だったり、月からやってきてたりしない?」
「私も新聞で読んだだけだから何とも…。」
だいたいあそこの新聞だからあんまり鵜呑みにするのもねぇ。
「本人がそれでいいならいいんじゃない。天狗に会ったんだから私のことも聞いてるでしょうし必要になったら向こうから来るでしょ。」
「霊夢ももうちょっと宣伝って言葉を覚えた方がいいぜ…。」
あんまりそういうの得意じゃないんだよなぁ。東の山っていうと…。
「もしかして、あの炊事の煙っぽいのその人のかな?」
見渡せる景色の内の一つの山から一筋の煙が上がっている。
「あー、ぽいな。結構こっから近いんだ。」
そういえばもうお昼時…私今日何も食べてないじゃん…。あ、冷蔵庫空なんだった。
「あー、お腹空いたー。お金ないー。」
伸び―とした勢いで後ろに倒れこむ。
「だらしないなぁ。私のおごりでいいから何か食いに行こうぜ。」
魔理沙が優しい。逆に心に刺さる。
「貸しにしといて頂戴。」
魔理沙の差し出した手に掴まり勢い良く立ち上がる。さて…と、どこへ行こうかと口を開いた時だ。私の視界が白く焼けた。続く轟音。振り向けば先程炊事の煙が上がっていた場所の木々がなぎ倒され燃えている。
「霊夢!」
驚いたのも束の間。魔理沙の呼びかけに私は力強く頷く。決まっている。これこそ私の仕事なのだから。
私たちが件の場所に駆けつけてみればそこには夥しい数の妖怪の死骸が転がっていた。どの死体もオーブンで焼かれたように真っ黒だ。どこもかしこも吐き気を催すような臭気で満ちている。
「なんだぁ?こいつら縄張り争いでもしてたのか?」
「多分巻き込まれたわよね。ここにいた人。大丈夫かしら?」
自分で言っておいて全くそうとは思えない。
「人がいる。」
私がいい加減帰ろうかと思っていた頃だ。魔理沙が私の服を引くと小声で私に囁いた。魔理沙の指さす方を見れば本当だ。何やってんだあれ?妖怪を切ってる?
「じゃ、行ってこい。」
え、私?
「いやよ。なんであんな危なそうな人に態々こっちからお近づきにならなきゃいけないのよ。」
「さっき自信満々で事件解決に乗り出してたじゃん。」
「それとこれは別よ。」
「でもこの惨状について聞いた方がいいだろ?」
確かに…。でもなぁ。
「俺に用ならさっさと出てこい。」
突然声が響く。心臓が止まるかと思った。私が物陰に身を隠したのと裏腹に、魔理沙が堂々と姿を表す。
「何だよ。気づいてたのに知らんぷりなんていい性格してんじゃねーか。」
初対面の人間に開口一番皮肉で返すとはこの御仁は何を考えているのだろう。魔理沙は辺りを見渡す。
「見ての通りの有様だが、何か知ってるか?」
視線につられ男も辺りを見渡すがそこにあるのは妖怪の骸のみ。
「これか。大したことじゃない。昼飯にこいつらの一匹を狩ったのだがその報復に来たらしい。」
男は折角作った屋敷が台無しだなどと悪態をついているが、果たしてそれが本意なのか表情を忘れてしまったかのように動かないその顔から私は読み取ることができない。
「え、じゃあこいつら全部お前が処理したのか?」
「その通りだが?」
だが?じゃないよ。辺り一面死屍累々なんだけど。軽く地獄絵図よ。
「なるほどね。で、どうするつもりなのこの状況。まさか放置するなんて言わないでしょうね。」
「取り敢えず全部保存食にするつもりだ。」
魔理沙はなぜ納得してるの?そしてこの人はなぜあくまで妖怪を食べる前提なの?
「えっと、なぜあなたは妖怪を食べようと?」
物陰から顔を覗かせ引っ込みそうな声で問いかける。あ、だめだ。魔理沙の様なコミュ力がほしい。
「昼時に飯でも食おうと思ったところにこいつがいたからだが、まずかったか?」
まずいっていうかこの如何にも形容しがたい物体をなぜ食えると判断したし。
「普通は危険だからそんな理由で妖怪に手出しするやついないぜ?」
「なら何を食べればいい?」
「妖怪以外。」
なんて単純明快な解答だろう。
「まぁいい。こいつらはもう死骸だ。俺が貰って構わないだろ。それともまだ他に何かあるのか?」
そういうと不意にある方向に指を向けたかと思えば、その指先から火花が走り先に用意されていた焚き木に着火した。ここでは大して驚くようなことじゃないけどこの人外から来た人なのよね?
…まぁ外にも魔法を使える人くらいいるか。
妖怪の肉を焼き始めた男に魔理沙は口を開く。
「あんた外来人なんだろ?ここにはここのしきたりがあるんだ。知らないからとあまり好き勝手されるとあんたにとっても私たちにとっても不都合しかないんだよ。」
「つまるところ妖怪を狩ることはここでは問題ということか。」
「そーいうこと。別にとやかく言うつもりはないけど変なのに絡まれるのはあんただって御免だろ?」
特に男からの返事はなかったが納得してくれたと受け取っていいだろう。魔理沙のおかげで大事にはならずに済みそうね。…周りの景色には目を瞑るとして。
「さて、なんか問題なかったみたいだし私たちも昼食べに行くか。」
そういえば私たちもお昼を食べに行こうとしたところだった。思い出したとたんおなかが空いてきた。これじゃ腹の虫が鳴き出すのも時間の問題だ。でもその前に私からも一言言っておかなくては。
「も、もし妖怪がらみの問題が起こったときは私を呼んでください。私はここで博麗の巫女として事件の収拾に務めている博麗霊夢…です。向かいの山の峠に見える神社に普段います。それと…、一応…名前を聞いていいですか。」
少し早口になりつつそう告げる。緊張で震える手で動悸の早まった胸を抑え返事を待つ。少し間があった。俯いていた私には空白の時間に彼が何を考えていたのか知る術はなかったが、答えは帰ってきた。
「うちは、…マダラだ。」
何か後ろめたさを含ませるような物言いに、私には珍しく人の顔をまっすぐに見つめてしまった。そこにあったのは黒く大きな瞳。その目は暗く濁っていて…。
どうしてこんなに心がざわつくのだろう。
あれから数日経った。これまで特に変わったことはない。少なくとも私の周りでは。おかげてここ暫くとても順調だ。事件は起きないし、仕事の依頼はきたし。私はそんな感じで上機嫌で注文したパフェを口に運んでいた。
あーちょー美味しー
私が口惜しげに最後の一口を食べようとしたときだ。向かいの席に誰かが腰かけた。私の手が止まる。今日私は誰とも待ち合わせなどしていない。
「どうした。さっさと食べろ。話ができないだろうが。」
私の緩やかな時間が終わりを告げたのを耳にした気がした。今最も私の平穏を破壊しうる爆弾が目の前にいる。機械的に飲みこんだパフェにもはや味などない。
「話って何ですか?」
伏し目がちに見つめる先には先日会った男がいる。
「妖怪がらみの問題はお前に言えとお前が言っただろう。」
その言葉に私は内心深いため息をつく。正直その件の妖怪を速攻で見つけてこんな迷惑ごとを作ったあて当てつけにぶっ飛ばしてやりたい。だがいつまでもうだうだしてはいられない。これも仕事だ。スイッチを切り替えなくては。
「じゃあ問題が?」
私の問いに男は頷く。
「二日ほど前からだ。何者かが俺を監視している。」
話を聞くと家とその周辺において時たま気配を感じるという。今のところ危害を加える様子がないため私に相談した次第らしい。
「そういうことならあなたの家に行ってみるしかないわね。」
私は立ち上がると伝票を片手にレジへと向かった。
「えっと…マダラさん?これがあなたの家なの?」
山道を登り現れたのは奇妙な家だった。家には違いない。まるで豪邸のように大きく構えられた造りは一見私の社よりも大きいのではないかと思える。だがそれはまるで木がそのまま家を形作っているかのような奇妙なつくりをしている。マダラは適当に返事をすると玄関を開け、私を招き入れた。
「さて、本題だ。」
机を挟むような形で事の詳細が話される。妖怪の検討を付けようと外見など正体に関する手がかりを聞いてはみたが、マダラ自身実体は見ていないらしい。正直その時点でこちらには対策のしょうがない。ただ無策にここでその妖怪が現れるのを待つしかない。曰くマダラを監視しているというそれが現れるのはちょうど今頃だという。だが、その妖怪が現れるようすがまるでない。暇を持て余したマダラは晩御飯の準備をしだす始末だ。帰りたい…。机に肘をついて呆けていると目の前に料理が出される。顔を上げてみれば何故か三人分の料理がテーブルに並べられていた。
「え、あ、ごめんなさい。私の分まで用意してもらっちゃって。」
よくよく考えてみれば私は客人だ。家の人が料理をしているんだから手伝いますの一言でも言えばよかった…。恥ずかしいなぁ全く。赤面しているのを感じつつ自分の席の隣に置かれたもう一人分の料理に目を向ける。これってそういうことだよね?
「妖怪は今日来ると?」
私が視線をマダラに移して訊ねると合わせた手を下ろしさも当然のように告げた。
「何を言っている。もういるだろ。」
その言葉に私は混乱せざるを得ない。私には全くその者に気が付いていないからだ。私はあたふたと辺りを見回すがどこにも誰もいない。混乱した頭でマダラを見直すとその視線は私の傍ら、料理の置かれた空席へと向けられている。私は慎重に横を向く。
「おもてなしまでされてしまってはちゃんと顔を見せないと失礼かしらね。」
目の前から発せられたのは馴染みの声。目の前の空間に亀裂が走ると扉を開くがごとく異界の通路が現れ、そこから一人の者が姿を見せた。
「紫…。」
私がそう呼ぶその女性は笑みを手で覆うようにして凛と立つ。
「始めまして異界人さん。私は八雲紫。この世界の管理人よ。」
二人の間には殺意も疑念も、ましてや敵対心もなく、ただ互いを値踏みするような視線だけが交錯していた。
「あなただったの。覗きとはいい趣味してるじゃない。」
ここにきて顔見知りの登場にほっと息をつきついつい皮肉が口をついて出てしまった。
「失礼ね。私だって別に暇でこの人見ていたわけじゃないのよ。それにしてもあなたが来ていたのは驚いたけどそういうことだったのね。どうりで妙に目が合うはずよ。」
紫は不満げに私に答えると私の隣に座る。私の発言からだいぶ状況に察しがついたようだ。そりゃ驚くわよね。境界の向こうから見ていて気付かれるなんて思わないもの。
「世界の管理者とは随分と大物が出てきたな。して貴様は俺に何のようだ?」
私たちのやりとりが一区切りしたのを確認し、マダラが早速核心に迫る問いを投げる。
「あなたここに来てから随分派手にやってくれちゃったじゃない。妖怪の間であなたが何て呼ばれているか知ってる?“妖喰らいの悪鬼”よ。人には不相応な通り名だと思わない?」
半分正しいからなんとも言えないわね。疲れた様に話しているところを見るに、紫はだいぶこの問題に頭を悩ませたようだ。
「ここでは妖怪を狩るのは不味かったらしいからな。だが今更どうにもすることは出来ないだろう。」
「いいえ。あなたが起こした一番の問題は人間が必要以上に妖怪の驚異となったことなのよ。ならこの問題を初めからなかったことにする方法があると思わない?」
紫は口元に意地の悪い笑みを浮かべてそういう。この表情をしているってことは今言わんといていることがよっぽどの名案なのだろう。まぁそれが私にとっての名案とは限らないのだけど。
「回りくどい言い方は止めろ。つまりは俺に人間を止めろと言いたいわけか?」
「その必要はないんじゃないかしら。だって持っているんでしょあなた。神の力を。」
先程からどうも私の理解を越えたところで会話が行われている気がする。神の力ってことはマダラって神様なの?私が唖然とした表情で会話から置き去りにされる中、話は続く。
「物知りなやつだ。お前が言っているのは六道の力のことだな。言っても俺に残されているのはその残照とこの瞳だけだがな。」
マダラの瞳が紫色の光を湛え波紋模様がその目に広がる。
「その目で私を直視するのはやめてちょうだい。」
私が物珍しさにマダラの瞳をまじまじと見つめていると、紫が心底いやがる様子で言ったものだから紫に目を移してみれば、目を細めて嫌なものでも見たような表情をしている。紫がこんな表情を浮かべるのも珍しい。
「あの眼ってそんなに危険なの?」
「まぁそうね。腐っても神の眼だから。それにあなただって包丁向けられたらいい気はしないでしょ?そういうものよ。」
なるほど。じゃああの眼は紫を傷つけ得るものなのか。もう一度その眼を見ようとマダラに向き直ったが、既にマダラの瞳はいつもの黒色に戻っていた。
「だがするとお前は俺にここで神として振る舞えと言うのか?」
「それも少し違うわ。あなたにはここで博麗神社の神になってほしいのよ。」
え?ちょっと何言ってるか分かんない。家に神様?
「神になれだと?ここの神の価値とはそんなに安いのか。」
マダラの疑問も最もだ。言ってもここじゃ実際神様のバーゲンセールだけど。
「そりゃ。普通は無理よ。でもあなたは普通じゃないでしょ?別に大した話じゃないのよ。あなたが人だと問題だから博麗神社の神様になってもらうってだけの話。神様相手なら妖怪が恐れるのも当然だから。あなたにはなんのデメリットもないわ。」
「周りがどう認識するかなど俺にはどうでもいいことだ。神にでも仏にでも…、仏は無理だな。まぁ好きにするといい。」
「あらありがとう。なら事は簡単だわ。じゃあ霊夢、明日にはこの人が博麗の神様だと周知になると思ってね。」
この妖怪、私が今いやだって言ったらやめてくれるのかな。私が文句を言うのを分かっていながらこのこの対応なんだもの。
「でも絶対周りで文句を言いだす奴が出るわよ。特に守矢とか…。」
ただでさえ有名なうちが神様雇ったらまた営業妨害だ何だと騒ぎ出しかねない。
「そこはあなたが何とかして頂戴。」
丸投げですか。ええそうですか。いつも通りですね。
「じゃあ私の用は済んだからね。ごちそうさまでした。おいしかったわよ夕飯。」
そういったかと思えばすっと姿が消える。見れば既に椅子にできた空間の裂け目が閉じかけているところだ。私置いて帰っちゃうんだ…。私の前には未だ手つかずの料理。取り敢えずこれ頂いて帰るか。何を思ってかマダラが私を見つめてくるが気にしてはいられない。箸をとり料理に手を付ける。普通にうまい。いや、手の込みようからして私より料理ができるのでは?悶々と考えごとにのめりこんでいると不意に前から声がかかる。
「お前は俺を祀る者。部下のようなものだな。」
真顔でいうものだから一瞬納得しかけちゃったよ。
「え、いや確かに形式上はそうだけど。私は誰の下にも付く気はないわよ。大体あなただって大して乗り気じゃなかったじゃん。」
「言ってみただけだ。」
素っ気無くそういうとマダラは台所で洗い物を始めた。え、もしかして私からかわれたの?
私は自分が特別だなんて思いませんけど、普通の人ともまた違うのは自覚しています。だって神様と一緒に暮らしている人なんて他にいないでしょうし。でもそれを羨ましがるのは間違いってものですよ。神様と暮らすのも楽じゃないってことです。今だって二柱の命でお使いに出てるわけですし。
「ごめんくださーい。」
目的の地、博麗神社。社兼家として作られた縁側に降り、ここの主に声をかける。
いや、いよいよここにも神様が来たのなら今の主はそっちなのかな?
中を覗けば目を引く赤白の巫女衣装。霊夢がだるそうにちゃぶ台に頬杖をついている。
「こんな炎天下の中ご苦労ね。早苗、あなたが来た目的は大体分かっているわ。」
一方的に告げる彼女だが、おそらくそれは外れだ。もっともそれは、私の目的が、であるのだけど。
「そう冷たくあしらわないで下さいよ。私はただここに新しく来たという神様を近所の巫女として挨拶に来ただけです。」
私の言葉に霊夢は意外だと言わんばかりの顔をする。私たちの信用も随分と堕ちたものだ。元々無いようなものだったか。
「てっきり前みたくクレームでもつけに来るものだと思ってた。そういうことなら構わないわ。と言ってもあいつがいるのはここじゃなくて向こうの山の頂なんだけど。」
指差す方をつられてみるが、おかしなものだ。
「ここが神の社のはずなのに肝心の神様は別のところに住んでいるんですか。」
「だってここは神社以前に私の家よ。誰かと一緒に住むなんてごめんだわ。」
「てことは霊夢さんがその神様にお願いしてここの祭神になってもらった訳じゃないんですね。」
「当たり前よ。これは紫の要求。私は面倒事を抱えた輩のお守りを任されたってだけの話。だからあなたたちの心配することは何一つ無いわ。」
当たり前、ね。私が前から彼女に感じていたこと。それは相変わらずのようだ。
「では案内していただけますか?私一人だけだと外敵と見なされかねませんので。」
私の発言はどうやら的を射ていたようで、霊夢は何かを予想したのか大層ばつの悪そうな顔を浮かべる。不意に立ち上がると付いてきてと私を促した。
森の中、私の前には木をねじ曲げて作られた立派な大家が聳えている。これも件の主の能力なのか。あまり力の強い神だと信仰云々以前にこちらの脅威となりかねない。主命もあるが、私もここで相手を見極める必要がある。慎重に今後の出方を考える私を意に介す様子もなく、霊夢は一歩出ると玄関とおぼしき扉を叩く。
「マダラさん。いますか。」
どうもよそよそしいその様子から霊夢さんはそのマダラという神をあまり信用していない、もしくは苦手としているのだろうか。暫くすると戸が開かれ、中から一人の男が顔を覗かせた。男は私を一瞥すると戸を開け放ち中へと戻っていく。
「前に通した客間で待ってろ。」
そう言い残し奥に姿を消すマダラを見て私は納得する。なるほど、霊夢さんの苦手なタイプだ。
「お初にお目にかかります。私、守矢神社にて巫女を務めております、早苗と申します。」
客間に通された後のことだ。茶をもって再び現れたマダラに敬意をもって自己紹介した。他所の神様に頭を下げるのもどうかとは思うけど、取引先の上役みたいなものだしこっちの方が何かと都合がいいでしょ。
「礼儀の出来た娘だな。こちらの巫女とは大違いだ。」
マダラの言いぐさに霊夢は不満げに目を反らす。
「俺の名は霊夢から聞いているな。俺は神と銘打ってはいるが、神の力の一部を持っているに過ぎん。よその神社にちょっかい掛けるつもりはないから安心しろ。」
「そんな気遣いまでしていただけるなんて嬉しいですね。その発言から察するにあなたは元人間なのですか?」
「今でも俺は人間だ。この程度で神を自称するほど俺は思いあがってはいない。」
意外と面倒くさい立ち位置だ。というか私ですら現人神なんて呼ばれてたりするんだけど、実際どの程度の人なんですかね?
「でも一応ここでは神様やっていくんですよね。力の強い人間なんて面倒なだけっていう紫さんの考えなんでしょうけど。それはそれで大変ですよ。なんといっても高名な博麗神社の神様になるんですから面倒な客が増えますよ。」
「厄介払いはこっちの仕事だ。」
突然話を振られ驚き縮こまる彼女。これでもうちの神様を筆頭に各所の実力者の起こす問題を解決しているというのだから驚きだ。
「霊夢さん。いくら本意じゃないとはいえもう少しマダラさんとコミュニケーションをとった方がいいいと思いますよ。これからの異変解決にも役立ってくれるんじゃないですか?」
「別にいいわよ。今までだって私一人でできてたし。」
この人は相変わらずだな。自信過剰なのか、人を信用していないのか知らないけど。まぁこの人の場合後者でしょう。妖怪と対立してばかりで協力って言葉を忘れてでもしちゃったんでしょうね。
「仮にも巫女さんがそんなんでどうするんですか。でもまぁ私が気にすることではありませんでしたね。マダラさんも不本意とはいえ霊夢さんとうまく付き合ってくださいね。」
言ってみたものの案の定マダラは曖昧な返事しかしない。これには私も苦笑いを浮かべざるを得ない。しかしそれが私にあることを気が付かせた。そうか、ならこの状況は好都合ではないか。
「本日はお時間いただきありがとうございました。そろそろお暇させて頂きます。」
私は内心ほくそえみながら立ち上がる。我ながら罰当たりなことを考えるものだと思うけどまぁ、面白そうだし。私が帰る旨を伝えるとマダラは霊夢に後のことを任せ奥へと消えていった。
「やっと帰れるのね。」
くたびれたように霊夢はそういうけどあなた、大して何もしてないじゃないですか。霊夢に見送られながら私は考える。これからつく私の嘘はかなりの被害を幻想郷にもたらすでしょう。それでもこの嘘にはそれだけの価値がある。つまらない幻想に囚われた彼女をどれだけ未熟か知らしめるために。
私たちは見つめる。地平線からようやく姿を見せた太陽を背に。小さな神社。それが今回の忠告、ひいては神罰の対象。ふと気になってもう一柱の神の表情を伺ってみれば随分つまらなそうな顔を浮かべている。こんな大それたことをするのは久々なんだからもうちょっと楽しんだらいいのに。
「では始めようか。」
彼女の言葉に私は小さく頷き、片手を天高く伸ばす。
「残念だよ。あなたには早苗の友達になってほしかったんだけどね。霊夢。」
大地がその形を変え博麗神社へと襲いかかった。
気が付くと私は宙を舞っていた。私の周りを瓦礫も一緒に飛んでいる。うまく頭が回らず呆けて辺りを眺めているのも刹那、したたかに体を地面に叩き付けられ、これが現実の出来事であると痛みが私に伝える。激痛に視界が赤く染まる。痛みに乱れる呼吸を押さえ、立ち上がった私の目に映った光景は支柱の根本だけを残して更地と化した私の家だった。折角回り始めた私の脳みそもあまりの出来事に着いていけない。
「いつまで呆けているつもりかね。博麗の巫女よ。」
突然空から声をかけられる。驚き見上げてみれば二人の姿が私を見下ろしている。事態が飲み込めたことで今度は家を破壊された怒りがこみ上げる。
「あんたたちか。家をこんな風にしやがって、どういうつもりよ。」
「私たちにとって不要な神が一柱増えたようだ。しかも私たちを差し置いてその神は信仰を集めようと言うではないか。それはあってはならない。よってここに粛清を行った。」
「意味の分からないことをペラペラと。素直に謝る気がないのなら覚悟しなさいよ。」
天に佇み私を見下ろしているのは守矢のところの神。名を八坂神奈子、洩矢諏訪子といったか。以前にも会ってはいるけど、相変わらずの信仰基地のようね。早苗は昨日あんなことを言っておきながら結局あれも嘘だったのか。
…どいつもこいつも。
怒りに身を任せ空に飛び出す。こちとら寝起きなんだ。もちろん丸腰だし格好だってパジャマだよ。だったらもうぶん殴るしかない。腕を振りかぶり今にもその高慢な面に拳を叩きつけようという瞬間、私の体を強烈な突風が包んだ。咄嗟に周りを結界で覆うが抵抗むなしく地面に逆戻りされてしまった。
「惜しかったわね。でも次はないよ。私たちを本気で殴りたいなら…。」
神奈子の意地悪い笑みの裏で空はいよいよ嵐の様相となり雷鳴が響く。
「例の神を呼べ。」
神奈子の言わんとしていることは容易に分かる。私に神降ろしをしろというのだ。準備もできないこの状況。呼べるのは神奈子の言う通り博麗神社の祭神であるマダラをおいて他にいない。おそらくはそれを狙った奇襲なのだろう。どういうつもりかは知らないが。私は目を伏せる。私にはどうしてもその行為がためらわれた。
「何をためらう。そうでもしなければお前に勝ち目はない。もっとも、このまま引き下がると言うのならばその必要もないが。」
引き下がる?ここまでこけにされて?
私の中で何かの糸が切れたのを感じた。それは多分、私を縛り守っていたもの。ゆらりと立ち上がり、私は両の手を前へとつき出す。
「そんなに見たいなら見せてあげるわよ。後悔しても知らないんだから。」
軽い文言を口ずさみ、簡易的な祈祷を行う。それは神を呼ぶにはあまりに粗末なものだがそれでも十分。彼が答えてくれるか半信半疑だったけど、神霊が体の中に流れ込んでくることから協力はしてくれるみたいだ。でもこれで後戻りできない。見たくないのに、彼の心が、記憶が私の意識の中に映し出された。
ゆらりと立ち上がる霊夢を見て私はことの成功を確信した。そもそもの目的が博麗神社の破壊及びそこの神へ私たちとの力の差を見せつけることである。ここで霊夢が神降ろしを行いそれを見事私たちが討ち取れば、博麗側に私たちへ口出しできるものはスキマ妖怪の他にいない。その妖怪もいまだ姿を見せないところをみるにとっくに勝機がないことを見越したのだろう。
もう誰も私たちの邪魔は出来ない。
「いい気分ね。」
不意に俯く霊夢が何事か呟いた。その様子に私は奇妙な感覚を覚えた。神霊が入ったことで醸す雰囲気が変わったのか。見つめる先の中、霊夢がこちらに視線を戻す。その右目は禍々しく光り波紋模様を形成している。漏れ出ている邪悪としか形容できない力の流れ。あれが霊夢の降ろした神霊の力の片鱗。いや、神というにはあれはあまりにも穢れすぎた代物ではないか。
「お前。どっちだ?」
私の問いかけに表情を変えず、ただじっと私を見返す。昇る日が私の影を霊夢へと落とした。陰る彼女の顔はいまだに感情の色を見せなかったがその口が開く。
「見ての通りよ。まさか神霊に体を奪われたとでも思った?」
腕を組み私たちを見上げるその様はこれまでの彼女の様子とは明らかに違う。おびえる心を虚栄心で塗りつぶしていた彼女。霊夢は隠せているつもりみたいだったけど、私から見ればバレバレだった。それが今は虚栄など微塵もない。確かな自信を全身に滲ませている。
「確かに今の私はマダラの神霊の影響で妙に気分がいいのよね。あいつ元々好戦的だからこのいざこざを見てうずうずしているみたい。カッコつけて手は出さないみたいだけど。」
呆れた様子で話す霊夢に私たちは警戒を解けない。元々彼女の力は強い。心が弱いせいで空回っているいるのだ。それが今はない。神降ろしがこのような影響を生むとは。今の霊夢は私たちの脅威だ。
「いい加減始めるか。まずは…。」
霊夢の目が細まる。
「いつまでも上から見下して目障りよ。降りてきなさい。」
途端腹部に強烈な衝撃が走った。痛みに頭が揺らぎ、目がちらつく。意識が朦朧とする間に地面へと叩き付けられた。何が起こったのか分からない。隣を見れば神奈子も同様に倒れている。神奈子すらも気づけない攻撃とは何なのか。霊夢は一歩も動いていない。
「くそ、なめやがって。」
呆然とする私を余所に神奈子が罵倒と共に力を揮う。空が歪み、真空波、雷がそこかしこに生まれ、力の奔流が霊夢を飲み込んだ。あんなことをしては霊夢が死にかねない。止めるよう言おうと神奈子を見ればその顔は不満げな表情に満ちている。何事かと思えば局地的な嵐が止みその中で悠然と立つ霊夢の姿があった。
「絶対防御なんて言う割には受け流すだけで精一杯じゃない。」
霊夢は自分の衣服に目を落とす。服には少々焼け焦げた跡があった。今の言葉を聞く限りでは降ろした神の能力で神奈子の攻撃を防いだようだ。霊夢は結果に不満の様だがこちらとしては十分驚きだ。仮にも神の一撃を正面から受け切ったのだ。霊夢の結界だってそんなことはできないだろう。いや、できてたまるものか。思ったよりも力のある神が相手の様だ。ならばこちらもそれなりの対応をしなければならない。立ち上がり先に体勢を立て直していた神奈子の横に並ぶ。私たちの様子に霊夢が薄く笑った。
「ようやくやる気になった?でももう遅いよ。」
戦慄した。最後に聞こえた声。それは私の横から聞こえた。咄嗟に振り向くも目の前にはエネルギーを貯める筒。光が視界を覆いつくす刹那、視界の端におそらくは自分と同じ表情を浮かべている神奈子の姿があった。
マダラの神霊が体から抜けていく。一つ息をつくと随分冷静さが頭に戻ってきた。辺りを見渡せばどこどこもかしこも滅茶苦茶だ。半分は自分でやったことだから苦笑を浮かべるしかない。ふと視界の端に何か異質なものが映った。よく見てみようと目を凝らすと砂ぼこりの中に横たわり気を失った諏訪子の姿があるじゃないか。自分のやったことを思い出し血の気が引く。怪我をさせてしまったかもしれない。急いで駆け寄ろうとする私の背後。私に影がかかった。振り向く私の目に映ったのは腕を振り上げる神奈子の姿。殺意の籠った表情に体が委縮する。
殺される。
そう私が確信した瞬間、よくわからないうなり声の様なものが聞こえたと同時に神奈子が横に吹き飛んだ。唖然とする私の前に立っていたのは息を切らした魔理沙だった。
「魔理沙。どうして?」
まさか私を助けに?私の疑問に対し魔理沙は遅れてやってきた箒をつかみ、箒を杖代わりにして息を整えると私に好奇心の籠った笑みを向ける。
「面白そうなことやってるじゃんか。私も混ぜろよ。」
その彼女の言葉に私は苦笑せざるを得ない。彼女はこういう人なのだ。ある意味普段通りの彼女の登場に少し落ち着きを取り戻す。
「よくやった。俺の巫女を守ったことは称賛に値するぞ。」
突然頭上から声がかかり驚き振り向けば、マダラが着地したところだった。来て早々のマダラの言葉に魔理沙はきつくにらみつける。
「お前が霊夢んとこの祭神になったとは聞いているけどよ。霊夢はお前のじゃねえよ。大体、そんなこと言う前に霊夢を守るくらいしたらどうだ。」
だいぶ魔理沙はいらだっているようだ。確かにマダラはあまり協力的ではなかったけど、力を貸すくらいはしてくれたし、何もそこまで怒ることはないと思うんだけど。魔理沙の豹変ぶりにおどおどしている私に対し、攻められている本人はあざ笑うような表情で魔理沙を見返している。
「なに、お前が随分必死そうな顔をしていたからな。よっぽどあそこにぶっ倒れているやつを殴りたかったのだろう?」
マダラの言葉に魔理沙を見返せば顔を見られたくないのか鍔で顔を隠している。マダラの言葉が本当ならやっぱり魔理沙は…。私たちが呑気に会話をしている最中、遠くで耳をつんざくようにバチリと鋭い音が鳴る。そこには肘をつき立ち上がろうとしている神奈子の姿があった。
「人一人、神一柱増えた程度些細なこと。私たちの道にお前らは邪魔だ。」
辺りの大気が渦巻き、放電が生じている。こけにされて大分苛立っているようだ。勝手な言いがかりで家まで吹き飛ばされた私からしてみれば逆上もいいとこだけど。私たちが身構える中、神奈子はずかずかとこちこちらに近づいてくる。
「あんたなんかにこれ以上好き勝手させないわ。」
私は堂々と言い放つ。怒った神奈子の表情は怖いけど、今の私の決意は揺るがない。私の言葉に少しは動揺してくれたようだ。神奈子の足が止まる。何か私のことを探るように見つめていたが、すぐによ様子が苛立ったものに戻った。
「神奈子。」
張り詰めた空気を裂くように落ち着いた声が響く。声の元へ目を移すと上半身のみを起こした諏訪子の姿があった。
「私たちの負けだよ。」
言葉とは裏腹に朗らかな笑みを浮かべる諏訪子の姿を見てか神奈子の狼狽が伺える。
「こ、こんな状況大したことないわよ。私たちならやれる。」
まるで何かにすがるように嘆願する神奈子に対し、諏訪子は尚笑みをうかべたまま。
「私たちが欲しいのは信仰だよ。でも今の私たちじゃその願いには程遠そう。神奈子だって気づいてたでしょ?」
諏訪子が私を見つめる。諏訪子の目に私はどう映っているのだろう?
「それに切り札も切っちゃったし、それも含めて後で説教だよ、早苗。」
「な、何のことか私には皆目見当が付きませんね。」
諏訪子の背後、森の木陰から早苗が姿を現す。目を泳がせとぼけて見せてはいるが随分くたびれた様子が見て取れる。
「博麗神社の神が幻想郷の覇権を狙っているなんて法螺を吹いたのはどこのどいつだい。それにわざわざわざ切り札として用意させておいた奇跡をあんなことに使うなんて。至近距離で攻撃を受けたからってあの程度なら戦闘不能にはならないよ。」
あぁ、あの時か。頭の中で私の代わり身作戦が思い出される。あの時は完全に思考がハイになっていたからあまり考えていなかったけどあれは危険すぎだったわ。にしてもあれを平気と言う辺り流石本物の神様ってところなのかな。
「そんなこと言って後で看病することになるのは誰だと思っているんですか。余裕かまして不意を突かれる方が悪いです。」
突き放すように言う早苗に諏訪子は頬を膨らませる。
「でもやりますね、霊夢さん。マダラさんの協力があったとはいえ家の神様の本気に打ち勝って見せたのですから。どうですか?助けてもらうというのも悪くないでしょ?」
早苗に言われ私ははたと気が付く。そうだ、私は助けられた。救われた。振り向く先、二人の命の恩人。彼らが何を思って私を助けたのか、やはり腹の中はわからない。でも、私は思いだす。その時私は嬉しかったのだ。
「意外と早い解決だったわね。マダラの能力も垣間見えたし上々ね。」
紫だ。もはや顔を向けるまでもない。彼女はいつだってスキマから突然現れる。
「マダラもだけどよ。お前も霊夢がピンチだってのに何やってたんだよ。口ぶりからして霊夢を出汁にマダラが出てくるのを待っていたみたいだが、まさか霊夢を見限る算段なんてつけて無かったろうな。」
「失礼しちゃうわね。これでも私霊夢は結構私のお気に入りの部類なのよ。」
そういうと私の頭をポンポンと叩く。
「霊夢」
声を発したのはマダラだ。やはり彼と言葉を交わすのは、目を合わせるのが躊躇われる。覗いてしまったから。彼の心を。死体の山、彼に最初に会った時よりも更に酷い惨劇がそこには広がっていた。左には弟の死体が、右には親友の死体が、目の前には無数の同胞の死体が横たわっている。ただその虚ろな目は涙も流さず。俯く私の肩に手が添えられた。見上げる先、マダラの顔があった。その目はやはり暗く濁っていて、私みたい。
「お前が俺の心に何を見たかは知らない。その顔を見る限りいいものではなかったようだが…。確かに俺の人生は後悔を残すばかりだった。だがそんな俺にも救ってくれた友がいた。既に俺は救われているんだ。お前が気に病むことではない。」
私にはそれは驚きの言葉であった。マダラを見ると何か言い知れぬ恐怖があった。おそらくそれは彼が私に似ていたから。猜疑心に沈んだ彼の目が。いずれ自分がこの人のように他の誰をも受け付けない存在となってしまうことを恐れて。だが彼は言った。友がいたと。
「あなたは…友人を…信じているの?」
「あぁ」
頷く彼の目に少し光が灯ったように見えた。その友人のことを思い出したのだろうか。
「ありがとう。皆私を助けてくれて、ありがとう。」
ぼそりとつぶやいた声は皆に届いただろうか。私はいつも一人だと思っていた。みんな自分勝手で人のことなんて、私のことなんてどうでもいいんだって思っていた。でも今なら私にも分かる。考えていることは別々だけど心の片隅でも私のことを想ってくれていて、それがこんなにも私の心を温かくするのだから。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
ログインされている方のみとはなりますが(荒らしとか怖いので)よかった点、工夫すべき点等教えて頂ければ幸いです。