八幡、捻くれたままNEWゲーム   作:nyasu

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俺の同級生がこんなに出来が悪い訳がない

調理実習の授業をやり終えた俺は、そう言えば昔は調理実習をサボったなと思い出す。

あの頃は、というか将来もだが人と一緒にいるのが苦痛で仕方なかった。

でもね、悟りを開けば良いんだよ。

それほど人は他人に興味が無いんだから、自分が気にしなきゃ良いの。

料理っていうのはね、科学実験と一緒だから誰だってレシピ通りにすれば出来るのよ。

味が違うとしたら、それは食べる側が問題なの。

 

「っべーわ、これって所謂手作りって奴じゃね!」

「あぁ、そうだな」

「優美子、マジいい奥さんって奴でしょ!ワンチャンあるっしょ!」

「べ、別に普通だし」

「あぁ、そうだな」

「隼人……」

 

モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず自由でなんというか救われてなきゃダメなんだ。

独りで静かで豊かで……つまりリア充うるせぇよ、黙って喰え。

あと、あーしさんは奥さんじゃなくてオカンな。

あぁ、そうだなだけでラブコメの波動を感じる……。

 

「旨っ」

「普通に美味い」

「ま、負けた……」

 

俺の班員の口から声が漏れる。

そうだろう、一人暮らしが長いと嫌でも料理が美味くなるんだ。

俺なんか特にやること無いから、料理研究しちゃうしな。

 

「そ、そうか。あの牛肉に小麦粉を付ける工程が美味しさの秘訣か」

「それだけじゃないわ、野菜を炒める前にレンジに入れてたわ」

「ルウを溶かす時、火を止めていた。俺でなきゃ見逃しちゃうね」

 

…………あれだな、意外と他人のことみんな見てるのな。

やべぇ、超恥ずかしい。なんなの、お前らのやれば出来るじゃんって視線。

アレだから、ジャイアンが映画版のときカッコイイのと一緒、ギャップ効果だっての。

若者達の視線に、何だかこそばゆいおじさんであった。

 

「うん?」

「ッ!?」

「……気のせいか」

 

まさか、俺の回りに傭兵がいたり……なわけないか、何か見られてる気がしたのは被害妄想って奴だ。

 

 

 

放課後、奉仕部で読書をしていると部屋を開ける人間がいた。

ノック音と共にドアを開けたのは由比ヶ浜結衣であった。

肩まで伸びる茶髪が左右に揺れて、探るように動く視線は落ち着かず、極めつけに俺と目が合うとひぃと小さく悲鳴が漏れた。

やめてよね、俺が抜け毛を見つけたときみたいな声を出すの。

 

「な、なんでヒッキーがここにいんのよ!」

「おいおい、誰が引きこもりだ。酷い渾名を付けるんじゃない」

「くふっ……」

「笑うなよ、タイキックするぞ」

 

やってきた女子は、俺と前の世界線で奉仕部だった由比ヶ浜だ。

前の世界線とか言っちゃうと、ちょっとカッコイイな。

なお、俺から言わせれば可愛いけど校則を守れよ小娘と言いたくなる。

因みに今後大きくなるとは言え、結構デカイ。

いや、今気付いたんだよ本当だよ。

 

「同じクラスだが、会話するのは初めてだろう。比企谷八幡です、よろしく」

「わぁ、なんかクラスの時と全然違うんだね……なんかキモい」

「罵倒されるのが趣味なんてやっぱりドMなの?」

「俺が言わせたみたいに言うなよ、あと由比ヶ浜は無自覚に人を傷付けるからそういうこと言うなよ」

「あっ、ごめん……」

「あと、脱色は校則違反だ。アクセサリーの着用も、あとブラウスのボタン3つも開けるんじゃない、スカートも膝頭まで伸ばしなさい。ウチの校則じゃ、色付きや柄の靴下はダメだぞ」

「うわぁ……やっぱキモい」

「注意するのを理由に、然りげ無く下卑た視線を送るなんて人として最低だと思わないかしら、セクハラ谷君?」

「俺の名前は比企谷だ、あと疚しい気持ちはない」

 

本当だよ、ちょっとだけしかないよ。

こうしてみると、意外と小さくて可愛いとか思ったけど、この可愛いは子犬を見た時の女子の可愛いと一緒だからな。

 

「あのさあのさ、ここって平塚先生から聞いたけど願いを叶えてくれるんだよね」

「そのためには、俺達が用意した七つの球を集める必要があるんだが知ってたか」

「なにそれ聞いてない!?」

「嘘よ、騙されないで由比ヶ浜さん」

「騙されたよ、もう!もうもう、ヒッキー最低っ!」

 

やめ、やめろよ、近付いてくんないい香りするだろうありがとうございます。

ふう、危ないところだったぜ。危うく条例違反になるところだった。

 

「奉仕部は手助けをするだけよ、叶うかどうかはアナタ次第」

「どゆこと?」

「クッキーを作ってやるんじゃなくて、作れるようにするって事だ」

「なるほどー」

 

守りたいこの笑顔、にぱぁと由比ヶ浜は笑顔だった。

こういう子って教えがいあるんだよな、理解できるけど納得いかないんですけどとかいう奴より楽だ。

 

「あ、あのね……」

「比企谷君」

「俺がいると言い辛い感じか、じゃあ売店行ってくるけどお前ら何かいるか」

「えっ、いいよ、悪いし」

「野菜生活100いちごヨーグルトミックス」

「学園都市ぐらいにしかないだろ、なんだそのゲテモノ」

 

クッキーを作る話をするんだろうなと思いながら、売店に買い物に行くんだった。

 

「あったよ」

 

商品開発部が度重なるストレスの中で気が狂って作ったんだろうかと思うような商品が並んでいやがった。

マジであんのかよ、っていうか美味いのこれ。

まぁ、安定のMAXコーヒーをチョイス、由比ヶ浜は無難に、なーにお茶を買っておく。

なんで返事してんだよ、おーいお茶と並べたいなこれ。

 

 

 

教室に帰ると鋭い視線が俺に送られる。

そして、雪ノ下が可愛らしい口から叱責の声を上げた。

 

「遅い」

「悪かったよ、ほら。由比ヶ浜もやるよ」

「えっ、悪いよ。はい、これ」

「いや、アレだよ。最近の自販機は当たりとかあるんだよ、だからそういう感じでいらねぇよ」

「でも、そういうわけには」

 

たかが飲み物代、学生に取っては大きい額だと思うがオッサンになるとな。

後輩に奢る時とか、大人の金銭感覚からするともうね。

数百円で女の子と喋れる、キャバクラよりエコだよ。

つまり、貰わなくても十分ということがここに証明される。

QED、証明完了な。

 

困った顔する由比ヶ浜をスルーして自分の席に座る。

暫く俺の事を見つめて、小さい声でありがとうと零す由比ヶ浜にほっこりする。

昔はビッチとか言ってたけど、ちゃんと返事挨拶出来るんだから親御さんが素晴らしい人達だと実感する。

そんな由比ヶ浜も将来は幼稚園の先生だからな、今からでも溢れ出る包容力。

あの包容力は男の子からも大人気だった、変な意味じゃないよ。

 

「それでなにすんの」

「家庭科室に行くわ」

「なにすんの?」

「ク、クッキーを焼くの」

「由比ヶ浜さんは手作りクッキーを食べてほしい人がいるのだそうよ。でも、自信がないから手伝ってほしい、というのが彼女のお願いよ」

 

ふむふむ、知ってた。

という訳で家庭科室に移動する。

俺が特に理由も聞かないのに驚いてないで、お前らも行くぞ。

 

 

 

家庭科室はバニラエッセンスの香りに包まれていた。

雪ノ下が牛乳やら卵やらを手早く持ってきて料理しているからだ。

難なく料理しちゃうとか、この完璧超人め。

女子力とかそういうこと言うやつは、料理くらい出来るようになればいいと思う。

なお、意外と女子高生は料理が出来ない。

必要に迫られるような年齢じゃないしな。

 

「おい、エプロン曲がってるぞ」

「ごめん、あり……ヒッキー!マジキモイ!?」

「悪かったよ、セクハラだったな」

 

ばっと、料理器具を持ちながら胸元を隠す由比ヶ浜。

あの、俺が指摘したのは後ろの部分で胸ではないんですが、すいませんセクハラでしたね。

 

「由比ヶ浜さん、遊ばないの。比企谷くんみたいに取り返しがつかないことになるわよ」

「おい、人を躾の道具に使うな、なまはげかよ」

「初めて人の役にたったのだから喜びなさいよ……あぁ、別に頭皮に対して含む所があるわけじゃないから安心して」

「そうか、安心した。答えは得たよ、雪ノ下……」

 

まだだ、まだ俺の頭皮は大丈夫。

一応ね、気にしてるんだからやめろよな。

おい、なんだその優しそうな微笑みは、見るんじゃねぇよ。

 

「ふふっ、ふふふ」

「んんっ、由比ヶ浜さん。何をしているの、それとも結べないのかしら。もう、仕方ないわね」

「えっ、あっ、雪ノ下さん」

「早く」

 

苛立ち混じりの指示におっかなびっくりしながら由比ヶ浜が従う。

そうか、まだゆきのんではなく雪ノ下なんだよな。

尊い、尊いでござるなぁと俺の中の黒ひげが囁いてやがった。

 

「なんか……お姉ちゃんみたいだね」

「私の妹がこんなに出来が悪いわけがないけれどね」

「夜に人生相談しそうだな、それだと」

「えっ?」

「えっ?」

「えっ?」

 

ごめん、今の発言は忘れて下さい。

 

 

 

 

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