名を【I am dead! so die!】。『死んだ!死ね!』という意味の言葉を冠するそのスコードロンのやることはただ1つ……
カップルの、抹殺だ。
とりあえず、クレイジー。
GGOは、ロマンと荒廃とカオスと殺し合いでできている。
殺しあえプレイヤーども、それは運営からも言われている通りだろう。存分に殺しあおうじゃないか。
だがそこのクソバカカップルどもォ!周りに構わずラブラブオーラをまき散らすな死ね!
こっちは独り身なんだ!少しは遠慮しろ!辛過ぎて死ぬわ!
───スコードロン【I am dead! so die!】結成時の茶番
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「ヒャハハハハハハハハハハ!死ね!」
「思考が短絡的過ぎるよモズさん!もっとやれ!」
「
人が生きて行けそうにないほどに荒れた荒野の中、5人乗りのジープに乗って爆走する集団が1つあった。
彼らの名は【I am dead! so die!】。死んだ!だから死ね!という何をやっているかが非常に分かりやすい名前を持つ彼らがやることは1つ。
ロマンと荒廃とカオスと殺し合いが満ちているはずのGGO……ガンゲイル・オンラインの世界の秩序を乱す不穏分子を取り締まるというお題目の元、非情かつ残虐な手段で殺害して引退に至らせるという行為を行っている、GGO内で最近話題になっているスコードロンだ。
その理念はただ1つ。いや、むしろそれは理念とすら言えないのかもしれない……そう、なんせ【I am dead! so die!】の理念は『GGOにいらんイチャイチャとかラブラブオーラまき散らす奴は死ね』なのだから。
……あぁ、どうも。自己紹介が遅れたが、俺はエイブモズ。綴りはEibmozだ。名前の由来はこの名前を逆に読むと非常に分かりやすいだろう。ゾンビである。
ちなみに【I am dead! so die!】の創始者であり、現状最も活発にカップルを狙った犯行を行っているのも俺である……やってることが陰湿?知るか。GGOみたいなところでイチャイチャしてるやつが悪い。
「モズさん!あっちの方に獲物ですぜ!男1人女3人……あとはよく分からねえのが1人いるけど、あの様子からしてどう考えてもハーレムパーティだ!」
……というか、GGOにきてまでイチャイチャするなよ!と、俺は声を大にして叫びたい。
リアルでイチャイチャする分には無差別爆撃をかましたくなる程度だが、俺みたいなぼっちがフリーダムにやれるヴァーチャルの中でまでイチャイチャされるとなると我慢がならない。
そんなわけで、謎の義務感というか、よく分からない怒りに突き動かされて作り上げたのがこのスコードロンなのだが……なぜか今では総員30名以上の一大スコードロンになっているのだ。
きっとこれもGGOの風紀が乱れているからだろう……あぁ、嘆かわしい。これは誰かがどうにかしなければいけない。
その結果が今のカップル狩りである。
「さぁお前ら!この世界の風紀を乱す不穏分子を取り締まるぞ!いや、そんな言葉で飾る必要はない!リア充を爆発させたいかお前ら!」
「「「「ばーくはつ!ばーくはつ!」」」」」
「よろしい!それでは皆殺しタイムの始まりだ!」
……まぁ、正直なところ俺たちにとってこれ以上過ごしやすいスコードロンがないから続いている、というのもあるのかもしれない。
なんせ全員が日ごろの鬱憤を全部『お前らのせいだ!』とか言って適当に発散できているもんだから、諍いがまったくない。そしてみんな筋金入りのゲーマーだから、パーティメンバーを募集してもプレイヤースキルに偏りが出にくい。
今更だが、酷い名前と酷い実態に反してさりげなく素晴らしいスコードロンだなぁと思う。
これまでいくつかのスコードロンを渡り歩いてきた俺だが、所属メンバー全員がここまで信頼しあっているスコードロンは他にないだろう。
俺はそんなことを考えながら、メンバーの運転するジープがハーレムパーティと思わしきパーティに近づいていくにつれ、段々と興奮していっている仲間たちを見てニヤリと笑い、そして敵に向かって宣言するように叫ぶ。
「オタノシミのところ悪いなぁ!命と有り金と装備を置いていけェ!【I am dead! so die!】だ!死ね!」
もはや自分が何を言っているかすらもよく分かっていない。だが問題はない。
何を言っているかはわからずとも、両の手で抱えた機関銃の銃口を向け、なんとなくで照準を合わせてから初めて引き金に触れ、撃つ。ただそれだけでほとんどの敵は沈んでいく。
一部の奴はこれをシステム外スキルだのなんだの言うが、単純に直感と運に任せて撃っているだけなので、そんなかっこいい呼び方をしないでもらいたいものだが。
とにかく、俺の攻撃は当たりさえすれば予測線が出ないため、回避は困難を極めてしまうわけだ。
だからこそ俺たちはこれまでカップル狩りなんてことを続けてこられたわけだが……
「……なぁモズさん、俺アイツに見覚えがあるんだが」
「奇遇だな、俺もだよ」
「俺も」「俺も」「俺も」
「「「「どうぞどうぞ……じゃねぇ!」」」」
しかし、今回ばかりは相手が悪そうだ。
敵の中でも性別の分からなかった1人が取り出したのは、GGOに存在する中でも有数の凶悪さを誇るミニガン。そしてそんな凶悪な武器を使うプレイヤーの中に1人、俺たちのような
あれぇ……?アイツ、確か最近狙撃手にやられて傷心なのか出てこなくなってたはずなんだけどなぁ?
そんなことを考えつつも、俺はミニガン使い……ベヒモスが準備を終える前に倒してしまおうと、
先手必勝、やられる前にやれ、やられてもタダでは死んでやるな、が信条の(今考えた)俺たちにとって欠かせないそれは、つまるところ大きめのプラズマ・グレネード。通称デカネード。
高威力だがロクに投げ飛ばせる奴がいないので使い手の少ないアイテムだが……幸いなことに、俺はAGI特化型が流行る前の黎明期からのプレイヤーなのでさりげなくパワー重視型だ。
普通は投げようもないこのデカネードを、あっさり投げてやることができる。
「まぁあれだ!死ね!」
俺は非常に短絡的ともとれる思考回路が導き出した結論に基づいて叫びながら、デカネードを投擲してベヒモスの抹殺を企てる。
しかしすでに奴はミニガンのセットを完了していて……
「「「「「あ」」」」」
奴のセットしたミニガンから爆音とも言える発砲音が鳴り響いた次の瞬間、俺たちは閃光に包まれていた。
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「HAHAHAHAHA、まさか自分で投げたデカネードに弾が当たって全員死ぬなんてな」
「いや笑うとこじゃないだろモズさん。危うく装備を失うところだったんだぞ?」
「まぁいいだろ?こういう時のためにシノブさんを裏で待たせてるわけなんだから」
ベヒモスとの死闘()から数時間。俺たちはリスポーンしてから今までの時間を、先ほどの笑いを取れる死にざまを語り合うことで過ごしていた。
あの時俺たちが包まれた光の正体は、デカネードの爆発によるものだったようで、偶然ベヒモスのミニガンによる連射が当たって全員が死ぬという結果になってしまったらしい。もはやギャグか何かの類ではないだろうか。
……まぁ、こんな全員がくたばってしまった場合に備えて俺たちはメンバーの中でも有数の実力を持つスナイパーであるシノブさんを待機させていたのだが。
シノブさんは常に一言も喋らず、名前すら教えてくれないが、やたらと長いライフルで1キロ以上先からでも敵を打ち抜ける超腕利きのスナイパーだ。
そんなシノブさんには、敵を仕留めきれなかった場合に消耗した敵の残党狩りをお願いしている。
俺たちがまず戦い、倒し切れなければシノブさんが残党を狩り、みんなで勝利をかみしめる。
ただそれだけだ。
ちなみにシノブさんは俺たちがやられた時のドロップ回収をお願いしてあるので、実質的にシノブさんさえ生き残れば俺たちはほぼノーリスクで戦えている。本当に感謝感謝、だ。
『モズさんは本当に狙撃手遣いが荒い。遺憾の意を表明する』
そんなことを考えていると、不意にシノブさんからメッセージが送られてきた。
……たしかに、この戦法はシノブさんに負担が行くけどさ……いや、本当に感謝しているんだってば。
「いや本当にそうだよなー、モズさんってばマジで人使い荒いし」
「うるさいし」
「そのくせPSだけは高いからバカにもできない」
「「「なんなのさモズさんって」」」
「うるせぇよお前ら!?」
しかも他の奴らまで便乗してきやがった……覚えてろよお前ら。
……と、まぁこれが俺たち【I am dead! so die!】の日常だ。
最後に一言。
GGOに来るリア充は悉く死ね!
爆発オチなんて、サイテー!
……続くかもしれないし、続かないかもしれない。