僕には子供の頃からずっと一緒にいる親友がいる。とても優しくて、とても意地悪で。それでいて一緒に居るとどこか安心するような雰囲気の親友が。……近い未来訪れる“戦争”には絶対に巻き込みたくないと思う親友が。


 私には幼馴染がいる。どこか抜けていて、それでいて他者を労ることに特化しているような馬鹿な友人。……近い未来、自分の身を犠牲にする底なしのバカ。


 ――――僕は彼を巻き込まないよう全力を尽くそう。

 ――――私はキミが死なないように全力を尽くそう。


 それまでは、

 優しい世界に浸りたいものだよね。



※短編……短文小説です。続きません。そんな拙作ですが、ほっこり和んでいただけたのなら幸いです。

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日常

「おはよう、ロマニ。いい夢は見れたかい?」

 

 耳朶を打つ柔らかく優しい声に覚醒しかけていた意識が浮上していく。それと同時にシャーっとカーテンの開く音が聞こえて、陽の光が顔に当たったことにより意識が完全に覚醒した。

 しかし、自他共に認める呑気なこの身体はそれでも起きることを拒もうと、小さく呻き声をあげながら陽の光が顔に当たらないように寝返りをうった。――――いや、正直に言えばこの後の展開を予想して居るから。

 

「はぁ……まったく、何時も何時も君というヤツは……」

 

 言葉の節々から感じる面倒くさそうな響きに、恐らく今頭に手を当てて呆れたような仕草をしてるんだろうなと想像する。それが少しだけ可笑しくて、小さく、本当に小さく笑ってしまった。

 

「むっ……こーら、ロマニ。ロマニ・アーキマン? 起きてるのは分かってるぞー。というか笑う暇があったら起きなさい」

 

 僕を起こそうとしている下手人はそんな小さな笑い声すらも耳ざとく聞いてしまったようで……これはそろそろ起きないとな、と渋々を装いながら上半身を起こす。ついでに、ほわほわとした声でおはよう、というのも忘れない。

 

「ん、おはよう。そら、もうご飯は出来てるからそろそろ下に降りてこいよ? レフとマリーが待ちくたびれてる」

 

 おぉ、それはマズイ。早く行かないとね、なんて笑いながら目の前にいる“彼”の言葉に頷く。

 そしてふと、なんでレフとマリーがいるんだっけと考えて……その答えは僕の考えを見透かしてるかのように彼から出てきた。

 

「君、もう忘れたのか……。昨日私とレフと君とマリーではしご酒して、レフと君が面白いぐらいベロベロに酔ったからマリーの家に泊まらせてもらったんじゃないか。……あぁいや、そうかその時君は“出来上がって”いたのだったね。ならしょうがない。……レフはしっかり覚えていたんだけどなぁ……?」

 

 彼は綺麗に整った顔を嗜虐的に歪ませて笑みをつくる。その顔に長年一緒にいた経験から警笛が出され、背中に冷や汗がブワッと出てくる。――――これは、不味いぞ……!

 心の中でそう思いながら、頭で必死にこの場での打開策を考える。何が何でも彼をS(サディズム)からN(ノーマル)にしないとマリーやレフも巻き込んでこの後何時間か僕はからかわれる事になってしまうのだ。それだけは、避けたい。マリーは言わずもがな毒舌だし、レフはあの見た目でドSだし、目の前の彼もドSだからそんな状況になったら最後、僕のライフはあっという間に0にされてしまう。

 頭の中であーだこーだ考えて結局僕は……打開策が浮かばない絶望感に支配された。端的に言うなら、もうダメだ……おしまいだぁ……というヤツだ。

 

「くふっ……しょうがない。今回は君のその面白い顔に免じて忘れていたことはマリーやレフに黙っておこう。その代わり、マリーにはしっかりお礼を言うんだよ?」

 

 助かった……と大きく息を吐いて、勿論と返答する。彼は先程まで浮かべていた嗜虐的な笑みを引っ込めて、優しく、楽しそうに笑っていた。それに釣られて僕も笑みを浮かべる。――――小さく、こんな日常が続けばいいのにな。と思いながら。

 

 

 広い食堂の中で僕を含めてマリー、レフ、彼の4人で仲良く座りながら豪勢な、しかし重すぎない絶妙なバランスの朝ごはんを食べる。……何時もは適当にパンを焼いて食べているだけなので、美味しさに涙が出てきそうだ。

 

「それにしても、貴方達は飲み過ぎなのよ。日本にある言葉で、酒は飲んでも呑まれるなって知ってる?」

 

 溢れてきそうな涙を堪えていると、目の前に座っているマリーが呆れたように言う。その言葉は初めて知ったが、成る程。まさに僕とレフには現状ピッタリな言葉だ。

 ……いや、でもねマリー。そういう君だって結構酔ってたように記憶してるんだけど――――

 

「黙らっしゃい。それに私はいいのよ、貴方みたいに記憶が無くなるほど酔っても居なかったし、奇行にも走ってないし」

 

 奇行?ㅤマリーに言われて首を傾げる。はて、僕の記憶の中にはそんなものはなかったが……。そう考えたのが読まれたのか、マリーはちょっと怒ったように早口で説明し始めた。

 

「貴方、突然服を脱ぎ出したのよっ!?ㅤこれを奇行と言わずなんて言うのよっ!」

 

 そんな、まさか……っ!?ㅤ思わず口から驚愕の声が出る。だってそうだろう。記憶が無くなるくらい酔っていたのは彼に言われて自覚していたけれど、まさかそんなことになってただなんて思いもしなかったんだから。

 慌てて事実確認をしようと彼にも目線を向けてみるが、彼は嗜虐的な笑みで僕とレフを見ているだけで全く動かない。……ん?ㅤレフも?

 

「因みにだけど、まず真っ先に脱ぎ始めたのはレフの方だよ。確か――――『暑い!ㅤなぜ私はこんなものを着ているのだっ!』……って。まあ、あんなに酒飲んだ後にそんなピッチリスーツ着てたらそうなるよね」

「そして、その後にロマニが『そうだね。こんなもの脱いでしまおうっ』って言って服を脱ぎ始めたのよね」

 

 彼の口から放たれた恐ろしいほど精度の高い声真似と、次にマリーから放たれたその言葉は爆弾だった。主に僕とレフを集中的に爆撃するような。思わず口元が引き攣り背中から冷や汗がぶわっと出てくる。先程の怒りは何処へやら。いつの間にかマリーも彼と同じような嗜虐的な笑みを浮かべ、こちらを見据えているのだから。

 チラッとレフと目配せをする。視線だけで会話をした。

 

 ――――どちらが犠牲になる?ㅤ私はゴメンだっ!

 

 ――――そんなの僕だってゴメンだ!ㅤ二人の話からレフが最初に脱ぎ始めたんだからレフが犠牲になってくれっ!

 

 ――――私に死ねという気かっ!?ㅤそもそも脱いだ時点でキミも共犯だろうっ!?

 

 ――――逆にこっちが聞きたい!ㅤ僕に死ねっていうことかいっ!?

 

 不毛な争い。しかし僕らにとっては決死の争いだった。……そう思うほどに、あの二人の責め苦はキツいんだ。呑気な僕が思わず自殺を思い浮かべてしまうくらいに。

 

「あははっ、二人共何考えてるかわかるけど――――」

「ふふっ、貴方達が何考えてるかわかるけど――――」

 

 二人が同時に同じような言葉を話し出す。それだけで僕とレフの背筋は凍った。そして、直感する。

 

 「「逃がさないよ?」」

 

 あぁ。これ、ダメなやつだ……。

 

 

 地獄の責め苦を耐えるのに一時間。レフとお互いに慰め合うこと一時間。合計二時間経過した後、僕達は買い物に出かけていた。とは言え、主に彼とマリーの買い物の付き添い、という感じだけど。何故かと言えば簡単で、僕とレフの奇行を大事になる前に止めたその対価という事だ。

 それにしても、改めて見てみると彼の髪はすごく長い。僕も人のことは言えないけれど、なんというのだろう?ㅤ彼のはなんというか色気があって、綺麗だと思ってしまう。

 なんて考えていたからか、先を歩いていた彼が突然振り返って僕のことを睨み付けてきた。

 

「……あのさ、ロマニ。考えるのは自由だと思うけど、せめて口に出さないようにしてくれないかなぁ?」

 

 あれ?ㅤ声が出てた?ㅤと問い返すと、彼は僕を睨み付けたまま、小さくこくりと頷いた。

 それは、なんというか恥ずかしいな……。羞恥を押し隠すように右手で後頭部を掻きながら苦笑い。それに毒気を抜かれたのか、呆れたのか。彼は溜息を吐いてまた前に向かって歩き出した。

 僕も小さくふぅ、と溜息を吐く。正直声に出していたとは思わなくってすごく焦った。彼は男なのに、たまに可愛らしい反応をするから困る。もう一度小さく溜息を吐きながら僕はホモじゃない、と自分に言い聞かせる。それでも中々収まってくれない早鐘としばらく格闘することになった。

 

 そうこうしている内にお目当ての服飾店へと辿り着いた。ファンシーな建物に、これまたファンシーな小物などが飾ってある女性専門店。下着等も売っている為男には入りづらい場所だ。

 

「私達三人は入口で待っているから、マリーはゆっくり買ってきたまえ」

 

 レフはそう言うと無駄に似合っているシルクハットを深く被り直す。それに対しマリーはキョトンとした顔で言った。

 

「何言ってるのよ?ㅤかの……彼は勿論の事、あなた達にも付いてきてもらうわよ?ㅤそれを含めての罰なのだし」

 

 そんな……まさか、ここに入れって……?ㅤ自分でも情けないくらい上擦った声が出た。レフもマリーの言葉が予想外だったのか、いつも優しげに上がっている口角をヒクヒクと痙攣させている。聞き間違いでは、と思いたいけれど、目の前で嗜虐的に笑っているマリーを見ると聞き間違いという線は吐き捨てられる。……いや、元々マリーは冗談や嘘を好まないから、本気で言っているのはわかるけど……。

 

「ほら、さっさと行くわよ。時間は有限なんだから」

 

 そう言いながら僕達の意見も聞かず慣れたようにお店に入ったマリーを呆然と見つめ、次いで助けを求めるように彼を見る。レフも助けを求めるように彼を見るけれど、彼は小さく苦笑いをするだけでだった。

 

「何事も諦めが肝心。マリーを待たせちゃ悪いから早く行こう」

 

 あぁ……神は死んだ……。そう思いながら本日何度めかの絶望を含んだ溜息を吐きながら僕とレフは彼の後ろに付いていく。早く終わればいいなと心の底から思いながら。

 

 

 

 ――――因みに買い物は数時間かかり、僕とレフは案の定荷物持ちになったのだった。


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