うちの魔法科高校の劣等生にはオリ主転生が多すぎる   作:madamu

108 / 127
会議!


四葉から独立

光夜との会談を検討し始めた矢先、俺は佐伯さんに呼び出された。

国防軍101旅団の団長、責任者、佐伯広海少将。

 

この9月下旬から12月上旬までは平和だったのだ。

俺の内心以外は。

好奇心から始まった四葉真夜の息子の問題は、転生云々を抜きにして世界の軍事バランスに直結するヤバい件だ。

ストレスで食事の量は少しだけ減った。

 

いつもの市ヶ谷の国防軍施設。流石に将官ということもあり、応接用のソファもある執務室が与えられている。

少将閣下の執務室は意外とモノが溢れていた。

何でも、前の部屋から移ったばかりで片付けまでは手が回っていないらしい。

ソファは一応使えるが備え付けの木製風の本棚には本が埋まり、あぶれた本が棚の前に積んである。

 

辞書や魔法の専門書、オカルト半分の古式魔法の書物。

非魔法師でこの蔵書量を読破しているなら、佐伯さんの見識はそれなりと見て良いんだろう。

 

うわ、「ムーの真実」だ。

20年くらい前に出た紙の雑誌で「月刊ムー」の記事の中で真実があったかどうか、精査しまとめた稀少本だ。欲しい。

 

「関少佐、君に司波兄弟妹のDNAサンプルを確保して貰いたい」

嫌ですー、と言えないのが宮仕えのつらさである。

俺はポーカーフェイスで質問をした。

「お答えをいただけるなら、その理由をお聞かせ願えますか」

 

佐伯さんが少し嫌な顔をする。普段は穏やかさと規律が混ざったようなタフネゴシエイターな空気を纏うが今は違う。

なんだ?焦っているのか?う~ん、俺に向ける視線と眉間のシワ。そして心配を示す手元の動き。

彼女(佐伯さんは女性だ)の心理状態を想像するに、俺に対して「秘密」、そして何かを「心配」があるのだろう。

秘密?俺への隠し事、いや俺には言えないこと、つまりは俺への信頼の低下。

つまりは【俺の裏切り】を心配しているのか?

 

「命令を復唱しなさい」

「当てましょうか」

彼女の言葉に背く。佐伯さんの表情が更に厳しくなる。わかってる。誰だって好奇心は抑えられない。

「タツヤ・クドウ・シールズのDNAを四葉のDNAデータバンクと照合しましたね。そして更なる確証が欲しいと」

 

おお、怖い。佐伯さんの視線が俺を殺そうとする。

彼女が行ったのは明らかな越権行為であり、違法であり、自殺行為だ。なんだ俺と同じじゃないか。

 

魔法師の遺伝子情報は宝の山だ。

完全に分析し、同様のDNA情報を再現すれば魔法師一族を製造可能になる。

そして魔法師は現在戦略、戦術兵器の側面を持つ。

十師族を中心とした百家のDNA情報は高度にプロテクトされている。

少将の権限で勝手にのぞけるものではない。

特に四葉となると、軍閥や政治関係の派閥、旧第四研究所のつながりと、クリアすべき関門はあまりにも多い。

何よりも、下手に四葉のDNA情報にアクセスしたことがバレたら四葉に殺される。

一族の秘密をのぞこうとするのだ。そりゃ暗殺者の1ダースや2ダースを送り込んだっておかしくない。

 

心配はそれだったか。俺が佐伯さんの真意を見抜き、その情報を外に売るのではないか?

諜報、スパイ、工作員はのぞき屋で最低の畜生だが、真の「裏切者」ではない。

信頼に応えるために、他の信頼を裏切るのだ。忠誠心が高いと言ってもらいたい。

 

「復唱」

彼女は意図的に声を固くし命令する。

「タツヤ・クドウ・シールズは四葉の血縁者ですよ。確認しました」

俺の言葉に佐伯さんは椅子から立ち上がる。

表情は怒り、驚き、う~んそのあたりか。

 

「貴官は、それを独断で行ったのか」

「行いました。切り札作りですよ。それと好奇心に負けまして」

俺は軽く舌を出す。可愛いでしょ。すいません。冗談です。

 

佐伯さんはたっぷり1分俺を睨み、そして溜息をついた。

勝利したのは俺だ。

 

「貴官は命令違反が多いようだな」

「前の上官をストレスで禿げさせた程度には」

 

いや、村井大佐は意図的に脱毛していた。小さな嘘も積み上げれば「苦労人の村井大佐」のイメージがつく。

佐伯さんは薄く笑い、命令を出した。

同情や哀れみ、侮りなどは組織内の情報収集には役に立つ。

 

「関少佐、協力者を連れてきなさい」

上司というより同じ穴のムジナといった感じだ。

俺、そっちの方が好きだぜ。佐伯さん。

 

 

俺は協力者の雪光と、雪光の保護者である司波達也を連れて市ヶ谷の駅を降りた。

学校終了後、各自自宅に戻り着替えてからの集合だ。

流石に市ヶ谷を一校の制服で歩くのは目立つ。

 

一転生者の暴走によるタッちゃんのDNA調査から、高級軍人による違法行為へと事態は変わった。

ここまで来ると上官と部下というより秘密を共有する仲といった感じだ。

「今日はどういうことだ」

「楽しい話じゃない」

俺はすまなさそうに司波達也に答える。雪光は黙っている。

 

国防軍施設内の一画。101旅団用に割り当てられた会議室。専用会議室とかやっぱ扱いが違うな、101は。

盗聴防止は機械的、ネットワーク的なものから、魔法による盗聴も防止する。

国内でも最高度ののぞき見防止の会議室だ。この会議室から情報を抜き出すのは、会議に参加するのが一番早い。

 

ノックをし入室。

あまり広くない部屋の中にはすでに佐伯さんと風間さんがいる。

司波達也が敬礼をしようとするのを風間さんが抑える。

「今日はいい。私人としてだ」

 

今日はこの五人だけ。

注釈しておくと、俺と佐伯さんは風間さんにこっぴどく叱られた。

旅団を危機にさらした、自殺願望でもあるのか、達也のプライバシーに触れる可能性もあった、etc

今回の件に関して言えば風間さんがバランサーでストッパーで司波達也の味方であることの表明だ。

 

俺も別に誰かの味方なつもりはないが、結局はのぞき屋としての好奇心に負けた出歯亀である。

先の計画もなく、好奇心と希望的観測で調査を行った愚か者でもある。

別に意図的に上官をディスっているわけではない。

 

「達也、雪光。座ってくれ」

風間さんに勧められ、席に着く二人。俺も席に着く。

今回は円卓だ。まあ101旅団は円卓で対等に意見を言う習慣があるらしいので、風間さんも佐伯さんもあまり上官としての圧力は出していない。

 

「まず、先に謝罪をさせてもらう」

佐伯さんはそう言いながら立ちあがる。俺も席を立つ。

「独断で四葉のDNAデータベースとあるDNAの鑑定を行った。それは四葉の血縁者という結果だった。君らの個人情報や血族への干渉を秘密裏に行ったことを謝罪する」

佐伯さんと俺は司波達也と雪光に頭を下げる。

雪光は表情を変えず、司波達也は眼を細める。

 

風間さんに向かって司波達也がうなずくと風間さんは俺たちに二人に着席を進めた。

俺と佐伯さんが着席すると風間さんが経緯を説明する。

司波達也は怒りというか呆れ、弟の悪さを聞かされる兄の顔でもある。

 

「雪光、お前はどういった理由で協力を?」

まず司波達也が質問したのは実弟だ。

「確認したくて。タツヤ・クドウ・シールズが達也兄さんと瓜二つであること、多大な魔法力を有していること、分解に似た魔法を使用すること、アイツは精霊の眼に近い異能を持っていた。達也兄さんとの近似項目が多いから。そういう意味ではアラタからの誘いは渡りに船だった」

 

雪光は少しだけ笑って答えた。叱られるのを誤魔化すように。

 

「関少佐は?」

「雪光と同意見だ。外見の近似以上に能力的に近しいモノがある事が不思議でならなかった」

 

司波達也の目を見つつ、自分の思慮の浅さを自虐するような態度で答える。

ホントのところ、神のメモに【悲喜劇】の文字が無ければ無視していたけどね。

 

 

「今回の議題は二つだ。俺と佐伯さんの謝罪と今後のこの情報の取り扱いについて」

「謝罪については受け入れよう」

俺の言葉に司波達也は答える。

申し訳ないが、俺と佐伯さんの行動は軽率だが重要じゃない。確認された情報の方が果てしなく問題なのだ。

司波達也も同じ認識なのだろう。だからこそ、謝罪の件を簡単に受けた。

俺は深雪ちゃんに氷漬けされないか心配していた。氷漬けでお腹壊したくない。

 

「問題は俺たち二人が、タツヤ・クドウ・シールズの鑑定結果について呼び出されたということだ。どの程度の血縁関係が疑われている?」

 

俺から視線を外さない。そうだよな。雪光が関係したうえで、二人が呼び出されるんだ。何かあるか疑うよな。

「従兄弟だよ」

司波達也が雪光の言葉に息をのむ。

「司波三兄弟妹の従兄弟。可能性としては叔母さんの系図」

さらっと答える。

この事実は今いるこの場では司波達也以外が共有している。

このことを伝えたときの佐伯さんはたっぷり5分間沈黙した。

 

司波三兄弟妹と四葉光夜、それに対しての四葉真夜。

この対立構造はこの場の人間は承知している。

 

四葉真夜の人生に関わる情報。

この情報は火種なのかデウス・エクス・マキナ(時の氏神)なのか判断がつかない。

 

ちなみに七草の血筋については誰にも言っていない。

四葉というだけで十二分です。もう勘弁してください。

これ以上タッちゃんに血筋設定があると完全にオリ主設定だ。

 

もっと言えば、七草の血筋という事実は大したことはない。

なぜなら七草の方が四葉より幾分もまともだからだ。

 

それを俺が話すことは一生ない。証拠もない。この事実はカナデにも伝えていないし、鑑定したデータも機械も全て灰にした。手元に残した服の切れ端も処分した。

佐伯さんも「四葉のDNAデータベースの照合」だけで止まっている。

最初の照合先として四葉を選んでヒットさせるんだ。

強運だな。

最初に疑った先が最高難易度のプロテクト情報だ。

二度も十師族のDNAデータバンクへアクセスするのは、失敗の機会を増やすだけだ。

最初に最高難易度を試して成功したら、二度目の幸運は狙わない。

 

唯一ある証拠は司波雪光とタツヤクドウシールズを「従兄弟」と判断したデータを印刷した一枚だけだ。

スキャンや複写をすると情報端末上では文字が潰れるように特殊印刷された紙。

俺はこの鑑定を行うのに、情報部工作員として裏で貯めた財産の半分を投入した。

一人の人間が40年は楽に暮らせるほどの金額だ。

 

「鑑定協力は君個人の判断で?」

風間さんの質問が雪光に飛ぶ。

「兄はこういった企て事は上手いわけではないですし、深雪は正直すぎる」

司波達也は黙り込む。

確かに司波達也は鉄面皮で感情が読み辛い。だが反面、会話による交渉が決して上手いわけでも無い。

俺の行為に乗ってくれた雪光は時折渋い表情はするものの、日常では血液提供の秘匿についてストレス受けている素振りを一切見せていない。

自宅で兄妹に囲まれた時でも、何ら変わらなかった。

断言できるのは、この時まで司波達也が雪光の内心を推察していなかったことが証明している。

 

「雪光、君の求めることは?」

「僕ら四人の独立に関して起きる四葉の混乱の収束をお願いしたい」

風間さんの追加の質問に雪光が言葉を返した。

雪光が求めたのは「軍が味方になること」なのだ。

 

雪光の言葉を受けてか、それとも話の流れを変えるべく佐伯さんが話し始める。

「国防軍の、いや私の認識を言おう。四葉は強大になり過ぎた。勿論我々101旅団の存在がそうさせた側面はある。だが、司波達也、深雪、君、四葉光夜、この四名が世界に牙を向けば、それはすなわち煉獄が世に顕現する」

佐伯さん、デカく出たね。

 

煉獄なんて単語が出るんだから佐伯さんもオタクの素質は高そうだ。

 

真面目な話、一校にいる四葉の血縁者だけで下手な国の魔法戦力と同等以上だ。

彼らのコントロールというのは非人道的な側面がありつつもやらなければいけない命題でもある。

 

「閣下、自分は四葉ではありますが軍人でもあります。その懸念に関しては心配されなくとも」

を司波達也が自分の存念をオブラートに包んで言うのを遮るのは雪光だ。

「勿論、誰一人世の中をめちゃくちゃにしようとは思いません。ただ管理されるならをもう少し配慮ある管理が望ましい。僕らと四葉との間に起こるメンテナンスは余波がデカイですから」

雪光が話を元に戻す。

 

「君の考えでは、これから起こそうとするのはメンテナンスだと」

「今までが歪すぎたんですよ。人命と人権を軽視しすぎて」

雪光が最後の言葉で目を伏せる。

司波達也も雪光を優しい視線で見ている。

 

四葉真夜の人生がどれだけを暴力と哀しみに彩られようと、司波達也、司波深雪の人生が操り人形の如く使われて良いという道理は存在しない。

 

「雪光。君たちは四葉から即時独立し、正式に軍属となることを希望するかね」

答えはノーだ。余りにも事態がデカすぎる。

だが誰かが言葉にして確認しなければいけないことを風間さんは聞いた。

出来もしないことを聞いたことで、言われた相手から罵声を浴びようと。

 

四葉から四人の世界レベルの魔法師を引き抜く。

十師族からは肯定と否定が吹き出し、軍内でも戦力配置で大騒動だし、諸外国との調整は年単位になるかもしれない。

 

少なくともこの場にいる軍人では簡単に四人の身柄を引き受ける承諾は出来ない。

「それが無理なことは承知しています」

答えたのは司波達也だ。

流石に長兄として、この質問に答えた。

その声には動揺も無い。諦観とも違う。自分の周りの事実を受け止めている声だ。

「風間中佐、佐伯閣下、司波家の人間は今回のタツヤクドウシールズの件については、衝撃的ではありますがそれについて何か行動を起こすことはありません」

司波達也は暗に四葉真夜との対立が将来起こること告げる。

 

「自分たちが自立するまでにはまだ時間が必要と考えています。実力でも人脈でも財力でもまだまだ高校生レベルです」

 

反対意見はすぐそばから出た。

「ぼくはそう思わない。可能なら現段階から四葉解体を検討してもらいたい」

「雪光!」

「兄さんは我慢強すぎる!今はいい。だけど高校を出たら僕らは四葉の人形だ。僕は重用されない反面自由がある。だけどね、達也兄さんや深雪はあの人の操り人形になるだけだよ!」

 

操り人形になった後に、その地獄から抜け出せるのか。

断言しよう。無理だ。

 

人間は地獄に慣れる。特に生殺与奪が背中合わせにある世界の住人は、心のどこかで諦めを覚える。

人殺しの業に潰されなくとも「人殺しである」という平穏との差異は、心に軋みをもたらす。

だから開き直る。諦めるのだ。

 

世界の大半の人々は人を殺したことがない。だが人殺しは違う。人を殺したのだ。

感情的に、事務的に、強要されて、自主的に。

個々人で背負うものは違うが、心が軋むのは同じだ。

 

司波三兄弟は人殺しだ。今は若さがその業を忘れさせてくれる。だが年を取ると業は、重みを増し、存在が大きくなり、いつしか巨大な荷物となる。必ず心は軋む。

 

幼少のころから「操り人形」であることを求められ、そして操り人形の位置に置かれた人間は

軋んだ心を抱えながら地獄を抜け出せるのか。抜け出そうともがけるのか。

もう一度言おう。無理だ。

 

司波達也の唯一の希望であり、生きる理由である司波深雪も操り人形として生きる。

それは希望の形をした餌であり、枷であり、操り人形の操り糸だ。

 

糸の先には四葉真夜がいる。

 

雪光は渡りに船と言ったが、実際は藁をもつかむ気持ちだったのかも知れない。

今、高校生のうちに抜け出すしかないのだ。その時期を越えると、操り人形として箱にしまわれる。

 

「今、この瞬間、僕らは佐伯さんたちに無茶が言える。この人たちが行った違法行為の弱みを握ったんだ!それに助けを求めるのは何か間違っているの!?」

 

声は荒げているが雪光は冷静だ。

自分たちの自由に時限があり、それを覆すには味方が必要だ。

しかし、自由を求めるには戦う必要がある。

 

四葉対国防軍。

血を見る以外方法はなさそうだ。

 

「雪光。それに関しては我々も考えている」

既に俺たち軍人三人は落としどころを考えている。

「君たちの卒業を迎える頃には、君たちの行動は予想する未来より自由なはずだ」

佐伯さんの声は優しく会議室に響く。

 

これから半年程度で「四葉拡大を嫌う閥」と連携し、「反十師族」の軍閥にも「十師族の弱体化」を餌に連帯を求め

九島辺りを唆し、十師族間で圧力を高める。

 

最高に上手くいけば四葉弱体と4人の魔法大&防衛大の進学による猶予期間の延長、そして

雪光、光夜の軍属による一定の自由あたりを求めることも可能そうだ。

 

最低でも4人を魔法大や防衛大に送り込み、猶予期間を手に入れる。

そこを狙って行動する。

そのためにも「タツヤ・クドウ・シールズ」の存在が四葉真夜にどう影響をあたえるか知りたい。

俺の当初の思惑は幸運だよりの想像だが、佐伯さんが描くのはもう少し具体的な交渉戦略だ。

 

佐伯さんの声に、腰を浮かし司波達也を睨んでいた雪光が腰を下ろす。

「君らの置かれる状況は把握している。国防の面でも、人権の面でも、その状況は看過できない」

俺は雪光の顔を見る。驚いている。

あ、お前大人は無能だっていう既知未来知識に囚われていただろう。

このお兄様至上主義者め。

 

「もちろん、即時行動は難しい。根回しや連帯するべき相手の見極め。何よりも、四葉との折衝には時間がかかる。だから我々はまず君らを魔法大なり、防衛大への進学を第一の目標としている」

風間さんが最初の戦略を伝える。

 

司波達也は我慢した先に未来を見、司波雪光は即時行動に未来を期待した。

おじさんたちは猶予期間という道具を使う。

若者よ、おじさんたちは先送りを上手く使うのだ。

 

「1年で話がまとまらないなら更に4年足せばいい」

俺は言葉と共に雪光にウインクする。

雪光の目に少しだけ涙が見える。

あいつの中で時限が延び、国防軍の少なくとも3人の軍人が味方に付き、言葉で伝えられたことで未来が見えたのだろう。

 

家族の未来を救える未来が。

雪光は既知未来知識を駆使する大人びた少年だが、やっぱり家族を愛する少年でもある。

 

「佐伯閣下、風間中佐、関少佐。感謝いたします」

司波達也は立ち上がり頭を垂れた。

 

「ですが、光夜は我々と目的が異なる部分があります」

席に座った司波達也は、軍人三名に唯一にして最大の懸念点を伝える。

 

「光夜は四葉真夜を害することを求めている」

俺の言葉に頷く司波達也。

「その通りだ。光夜は常に復讐心を抑え込んでいる。いつ爆発してもおかしくない」

 

その言葉には迫真の感情が込められている。

感情の方向性を定められている司波達也でさえ、四葉光夜の復讐心を危惧しているのだ。

 

「この事実を知ったとき光夜は暴走すると?」

俺は達也に問うた。あの窒息系男子が暴走する?

どんな感じで暴走するのだ。

「鑑定結果を持ってして、四葉真夜と対決するだろう」

「それには何か彼なりの理屈でもあるのか」

俺の質問を引き継いだのは風間さんだ。

 

「どういった理屈かは判断つきかねます。ただ四葉真夜への攻撃材料になり得る情報ならば、アイツの中ではそれは復讐を正当化する理由になる。そしてその情報は四葉当主を刺す剣になる恐れがあります」

 

四葉真夜と四葉光夜。

 

片や極東の女王、片や「完璧」と呼ばれる魔法師。

 

光夜は先の横浜騒乱での姿から大亜軍から「因陀羅」

つまりは帝釈天、インドの神話における雷の神の名で呼ばれているらしい。

 

俺を含めた三人の軍人は溜息をついた。

 

司波達也たちが3年生後半のタイミングで最初のリークをし、そこから四葉との折衝を行い、卒業時点で「折衝の猶予期間として他の十師族を仲介に4人を魔法大に進学させる。後の4年をかけて処遇改善案を詰める」といった交渉戦略を光夜に適用させるのか、それをあいつが求めるのか。

光夜はどうなのだ?

 

司波家とは違う。だが司波三兄弟とは運命共同体でもある。

この情報を共有していいのか。

四葉光夜の復讐心は、司波達也をもってしても苦慮する、いや対応できないほどのものなのか。

 

あいつは「復讐」をするのか。

いや、きっとあいつは四葉真夜を殺さない。もっと酷い何かをするだろう。

 

そんなことを実行させる情報を見つけ提供したと思うと、なんとも惨憺たる気持ちになる。

この時俺はなぜ、ここまでおセンチなったか理解した。

俺は光夜を本当に友達と思っているからだ。

俺の心にも軍神の加護の及ばぬ友誼の部分があったのだ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。