ベル・クラネルが復讐者なのは間違っているだろうか   作:日本人

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どうも、お久しぶりです。一月近く遅れた理由は風邪で寝込んだり溜めていたデータが吹っ飛んだりしてモチベが上がらなかったりしたからです。申し訳ないです。

取り敢えず色々と報告。

その1,我がカルデアに沖田さん参入。
出た時は軽く意識が飛びかけた。オストリア以来だよこんなに驚いたの。
その2,二つ名関係について。悪食皇イビルジョー様の案を採用させて頂きました。案、ありがとうございました。
その3,学校の委員会の知り合いにこの小説書いてる事がバレた。穴があったら入りたいってこういう気持ちのこと言うんだろうなぁ⋯⋯。




では本編。何気に1万字超えてた。



2018年6月24日 1部修正。


二つ名と 同胞(アヴェンジャー)

────摩天楼(バベル) 最上階 フレイヤの私室

 

オラリオ全体を一望出来る摩天楼(バベル)最上階。そこにフレイヤと護衛のオッタルはいる。

但し、今日はいつもとは様子が違う。いつもは基本フレイヤの後方で待機している筈のオッタルが彼女に跪いているのだ。対するフレイヤは涼しい顔──否、明らかに怒っている。傍目から見てもわかるくらいにはフレイヤは不機嫌だった。

「⋯⋯⋯⋯オッタル」

「はっ」

ずしり、とフレイヤが口を開いた瞬間に空気が重くなったような錯覚に陥る、というより実際空気が重い。そんな中でもオッタルは表情を変えない。

「何故、私が怒っているのか⋯⋯わかるかしら?」

「⋯⋯⋯あの、小僧のことでしょう」

「あら、わかってるじゃない。なら────」

さらに一段階、空気が重くなる。普段その身に隠している『神威』を、フレイヤはオッタルに向けて放っていた。これには流石のオッタルも冷や汗をかく。

「────どうしてあの子を殺そうとしたのかしら?私が彼を気にかけていることは貴方も知っているでしょう?どうして私の命に背くのかしら⋯⋯ねぇ、オッタル?」

まるで巨大な岩に押し潰されるような錯覚を覚える。Lv.6冒険者程度では立っていられない程の重圧を放つフレイヤに対して、オッタルはゆっくりと口を開いた。

「⋯⋯()()()と、15年前と同じです」

「⋯⋯ミアがまだ居た頃の?という事は⋯⋯⋯ジオと同じ理由かしら?」

ジオ、という名が出た瞬間、オッタルは猛烈な勢いで立ち上がり、フレイヤの前である事も忘れ己の想いを一気捲したてた。

「あの男は!貴方様に見初められておきながら!!高々ヒューマンの醜女如きに魂を売った!!!息子であるあの小僧も然り!!私はっ!!()()っ!!!」

そこで言葉を切り、フレイヤの双眼を鋭い眼差しで凝視し言い放った。

()()()()()()()()()()()()()()()!!!!!!!」

⋯⋯⋯沈黙が場を支配する。オッタルは自分が言った事に呆然としており、フレイヤですら目を丸くしている。オッタルが言ったことは身の程知らずなどというものではない。目上の、それも『神』に対して「お前を独占したい」などと言い放ったのだ。そんな言動が許されるのは真なる英雄のみ。間違ってもこのような男が言っていい事ではない。

────が、そんなことを気にしないくらいにはフレイヤという女神は歪んでいた。

やがて、オッタルは頭を垂れ、跪く。

「⋯⋯⋯⋯申し訳ございません。身の程に過ぎた事を言いました⋯⋯」

「ふ、ふふふふふっ」

「⋯?」

謝罪するオッタルを見てクスクスと笑い始めるフレイヤ。やがて耐えきれなくなったのか大声を上げて笑い出す。オッタルはそんな主神の様子に唖然としていた。

「あはははははははっ!!ま、まさか⋯くふっ。お、オッタルとあろう者が⋯⋯し、嫉妬するなんて⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯」

困惑するオッタルを他所に笑い続けるフレイヤ。暫くして、ようやく収まったのか軽く涙目になったままオッタルに語りかける。

「ねぇ、オッタル。私は自分が情の多い女だと自覚しているわ。貴方もそうでしょう?私がこういう女だと知っていてここに居る」

「⋯⋯⋯は」

「それでも⋯⋯⋯ふふっ。貴方のそういう所、嫌いじゃないわ」

「⋯!⋯勿体なきお言葉⋯⋯!!」

オッタルは滲み出る歓喜を隠せなかった。

己が崇拝する主神からの言葉は、冷酷な彼の心さえも蕩かす至高の甘露だ。これを喜ばないものは世界広しと言えど彼女に憎しみを抱いている者達ぐらいであろう。

「このまま貴方と楽しむのもいいけど⋯⋯⋯今はあの子の事が聞きたいわ。オッタル。今のあの子──ベルは貴方から見てどうだったの?」

「⋯⋯⋯⋯どこまでもあの男に──ジオ・クラネルに似ている。忌々しい小僧です。ですが────」

オッタルはそう言って肩部の鎧を外す。

「───やはり、あの男の息子でした」

そこには、痛々しい痣が刻まれている。その事実にフレイヤは目を丸くした。まさか事実上の都市最強であるオッタルに手傷を負わせる等とは思わなかった。

「⋯⋯⋯あの小僧は、強くなる。間違いなく奴の牙は私に手が届くでしょう。それ程の才を、奴は有しています」

「貴方がそこまで言うなんて⋯⋯⋯⋯やっぱり欲しいわね⋯⋯」

「⋯⋯⋯貴方様の御心のままに」

「ふふっ、ありがとうオッタル」

妖艶な微笑をオッタルに向けたフレイヤは突然服を脱ぎ出した。その美しい裸体が顕になり、オッタルは目を奪われるも必死に目をそらす。

「ふ、フレイヤ様⋯⋯お戯れを」

「戯れなんかじゃないわ。オッタル⋯⋯⋯来て?」

両手を迎え入れる様に広げ言い放つ。その一言は、オッタルの理性を砕くのに充分過ぎた。

「ッ!!し、失礼⋯⋯致します」

オッタルはゆっくりとフレイヤに覆い被さる。

その顔におぞましい笑みと狂愛を貼り付けて。

 

 

 

 

────オッタルの狂愛(あい)は歪み続ける。しかし、それを止める事も。正す事も。

出来るものは存在しない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────摩天楼(バベル) 神会(デナトゥス)会場

 

「────第ウン千回!二つ名会議ーー!!」

『『『『イェーーーーーイ!!!!』』』』

「⋯⋯⋯いつもこんな調子なのかい?」

「諦めなさい。ロキが司会な以上、どうしようもないわ」

「⋯⋯来るんじゃなかったかなぁ⋯⋯」

「貴女の子にアホみたいな二つ名が付けられるのを良しとするなら構わないけど」

「冗談じゃないよ!?」

ロキが会議の始まりを宣言するとともに沸き立つ 神達(アホども)。その様子をへスティアやヘファイストス

らまともな神々は呆れ顔で見ていた。

「んー?何でドチビがおるんや?お前の所団員なんておったっけ?」

「居るよ!数ばっかり集めただけの癖して調子に乗らないでもらえるかな!?」

「なんやとコラァ!万年チビの癖して!!」

「ハッ!流石万年絶壁のロキ様は言うことが違うねぇ!?」

「よっしゃ殺すぅ!」

「ふぎゅっ!?ほっへをふまむなぁ〜〜!!」

「⋯⋯⋯⋯仲良いわねあんた達」

「何処がや(さ)!!」

見ての通り、ロキとへスティアは相当仲が悪い。互いが互いに 胸と眷属無し(持たざる者)である上に根本的に馬が合わない。一度この二人が出逢えば大喧嘩が始まり、周りの神はそれを囃し立て、ヘファイストスがそれを収めるというのが一連の流れになっていた。

「へんっ!それじゃあドチビはほっといて早速二つ名決めに入ろか」

「だから誰がドチビだよっ!?」

しかしロキ、これをスルー。何事も無かったかのように司会を進めた。配られた資料を手に取る。

「んじゃあ最初は⋯⋯⋯セトの所のセティっちゅう子からやな!」

「た、頼むからどうかまともな二つ名をっ⋯⋯!?」

『『『『だが断る』』』』

「ィィィィィヤァァァァァ!!!!?」

「惨すぎる⋯⋯」

「私も最初はあんなもんだったわよ⋯⋯」

戦慄するへスティアと遠い目をするヘファイストス。中小規模のファミリアは大体神々の悪ふざけにより被害を被りやすい。その最たるものがこの二つ名決めである。神々は自らの娯楽の為に痛い二つ名────自らの腹筋に会心の一撃を食らわす名を大量生産するのだ。

「よし決定、セティ・セルティ、

暁の聖龍騎士(バーニング・ファイテング・ファイター)』」

『『『『イテェェェェェェエエエエエエエッ!!!!?』』』』

「あぁぁぁんまりだぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!??」

まさに地獄である。自らの子に泣きながら詫びる神とそれを笑う性根の腐った 神々(外道)。目を覆いたくなる光景にへスティアは目眩を覚える。

「次はタケミカヅチんとこのヤマト・命⋯⋯おおぅ、この子かいな」

「お?ロキ様この子知ってんの?」

「前に色々あってなぁ⋯⋯⋯出来ればいい感じの二つ名を付けてやりたいんやが」

「ほ、本当かっ!!?」

自らの眷属があわや神々の餌食になろうかと言うところで見えてきた希望に、 角髪(みずら)の男神、タケミカヅチが声を上げる。

「でもタケミカヅチやしなぁ⋯⋯⋯」

「よし、ヤるぞ」

「ジゴロ死すべし慈悲は無い」

「どうせ届かないならいっその事⋯⋯⋯フヒッ」

「まっ!?待ってくれ!どうかっ!どうか命だけは勘弁してくれぇっ!?」

「よし、美侍(ビュティ・ザ・サムライ)!」

「恨むなら己の主神を恨んでくれ。 対魔忍(アサギ)!」

「お願いだっ!?命だけはっ!命だけはぁぁぁぁぁあっ!?」

狐巫女(ミコット)

「狐要素ねーよ」

「でもなんかしっくりくるなぁ⋯」

「「「それな」」」

必死に阻止しようとするタケミカヅチなど何処吹く風、本人をよそに最高潮の盛り上がりを見せる 神会(デナトゥス)。やがて、タケミカヅチにとっての死刑宣告が下された。

「じゃ、命ちゃんの称号は⋯⋯【絶†影】で決定!」

「「「異議なし」」」

「ぐぉおおおおおおおおおおお!!!?」

神友(しんゆう)の血涙を流しながらの絶望の雄叫びに戦々恐々のへスティア。あまりの惨状に言葉も出ない。

その後も次々と食いつぶされてゆく中小ファミリア。悲鳴と怒号、笑いが飛び交い一刻も早くこの空間から逃げ出したくなる。が、運命は非情である。

「っしゃ!次はドチビのとこやな〜っと」

「っくぅ⋯⋯」

逃げ出せなかった!?と顔面蒼白になるへスティア。覚悟を決め、まるで刑の執行を待つ死刑囚の様だ。

「⋯⋯⋯⋯」

「ん?ロキ様どったの?」

何故か無言になるロキ。訝しげに思った神の1柱が話しかける。

「お前ら、ドチビの眷属の資料見てみぃ」

「んん?お、可愛い子!レベル高いなぁ」

「アホ!見るのは容姿やのうてランクアップにかかった期間や!」

「へ?なんかおかしいことでも⋯⋯⋯は?」

やばい。と更に顔を青ざめさせるヘスティア。ロキの言葉を切っ掛けにざわめきが神会全体に広がって行くのを感じる。やがてロキが険しい顔で口を開いた。

「ドチビ。たった2()()()恩恵(ファルナ)を昇華させたってのはなんの冗談や?」

「⋯⋯⋯生憎と真実だよ」

へスティア・ファミリアの団員のプロフィールにはランクアップまでの期間が14日、つまり2週間でLv.2に到達したと書かれている。ロキは何かの間違いかと確認をとったがへスティアは真実だと言う。それを聞いてますますロキの顔が険しくなる。

「ドチビ。お前 神の力(アルカナム)使ったんか?」

「⋯ボクが彼女を()()したって言いたいのかい?」

「出なきゃこんなアホみたいな早さ説明がつかんやろがい」

「⋯⋯⋯ロキ、それは貴女の眷属にも言える事じゃないかしら?」

唐突にヘファイストスが口を開く。手にはランクアップしたロキ・ファミリアの団員の名簿がある。

「⋯⋯なんやファイたん。ウチがこのドチビと同じ事したって言いたいんか?」

「この()()()()()()()という少年、約1ヶ月でランクアップしてるじゃない。これも充分異常な早さだと思うのだけど?」

その名が出た瞬間

「え!?ベルくんってロキの所の子だったのかい!?」

「おい待てやドチビが何でベルたんの事知っとんねん」

「いやだってウチの店の常連客だし⋯⋯」

ヘファイストスも思い出したようにハッと声を上げる。

「⋯⋯よく見たらこの子うちの店で喧嘩騒ぎ起こしてた子じゃない」

「ちょいまちファイたん。初耳なんやけど?」

「貴女の所の冒険者だって知らなかったのよ⋯。まぁ、今はいいわ。ランクアップの早さ云々に関しては貴女達で話し合って頂戴。残りは私達で決めとくから」

「⋯⋯⋯⋯しゃーないか。オイドチビ。ついてこいや」

「⋯⋯言われなくても」

そのまま2人は神会(デナトゥス)の会場を出ていき、人気のない 摩天楼(バベル)の一室に辿り着く。

意外にも先に口を開いたのはへスティアだった。

「ロキ、もしかしてベルくんは成長促進系のスキルを持ってるのかい?」

「⋯⋯⋯⋯何でそう思った?」

「君のとこのヴァレン某ですらランクアップに1年かかったんだ。それ以上の早さとなるとスキルかもしくは『神の力』以外考えられない。キミの性格からして後者は無いだろうと思ってね。その様子だと図星みたいだけど」

「カマかけてたんかいな⋯⋯⋯ドチビの癖に頭がまわるのぉ」

「それもあるけど⋯⋯⋯ボクの所も()()だからね。正直隠すよりも協力出来る奴が欲しかったんだよ」

「チッ、やっぱりかいな。まぁ 神会(あんな所)で言ったら他のアホ神共の餌食やしな⋯⋯言えんのも当然か」

「⋯⋯⋯取り敢えずはお互い不可侵という事でどうだい?キミも無駄な争いは好まないだろ?」

「ま、そうやな。表向きは不可侵。なにかわかったら情報共有って事でどうや?」

「乗った」

「交渉成立、やな。んじゃ戻るとするか」

想像以上にスムーズに交渉が終わった事に安堵する両名。二人とも眷属想い(似た者同士)なので当然といえば当然なのだが。

「そうだね。もし変な二つ名を付けてたら⋯⋯⋯⋯殺すか」

「おうドチビ。顔がマジすぎて笑えんで」

般若の形相のへスティアに軽く引きながら、2人は神会の会場へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────ギルド 掲示板

 

「二つ名⋯⋯⋯か」

ギルドの掲示板前、そこにはランクアップした冒険者達で賑わっている。神によって賜った自らの二つ名を確認しようと、そして自分と同期でランクアップを果たしたライバル達の姿を1目見るため、といった理由だろう。

「あ、アイズさんの名前もあるな⋯⋯」

確か前回の遠征でランクアップしたんだっけ。この賑わいはそれが原因の一つでもあるかもしれない。

「僕の名は⋯⋯⋯⋯あった」

──── 銀爪獣(シルヴァリアント)

異形の腕を持つ、僕に与えられた二つ名。

名前からして 銀の異形腕(シルヴァリアント)から取ったらしい。

「悪くないな⋯」

神の中には子供達にとんでもない二つ名をつけてそれを笑いの種にしている方々も居るらしい。その点、この二つ名は僕好みで、中々格好良いと思う。他の人はどんな感じなんだろ?少し気になったので色々見てみることにする。

配管工(マリオ)仮面兄貴(ジャギ)(ANAGOSAN)⋯⋯⋯なんか変わったのが多いな⋯」

ぶっちゃけ酷い。苦笑いしか湧いてこない位には酷いものばっかりだった。

「ん、へスティア・ファミリアのもあるな⋯」

へスティア様に会ってからあの店はなんやかんやで僕の行きつけだ。ダンジョンから帰った後に小腹を満たす為によく店に寄る。そしてついつい話し込んでしまう事もあった。

「そう言えば確か初眷属が出来たんだっけ」

あの日は大変だった。あまりの嬉しさに号泣するへスティア様を宥めたり、御祝いに夕食を奢ったらその体の何処に入ってるんだって量をかき込んでたのを止めたり⋯⋯そう言えば眷属の人には会ってないな。

「ついでに名前を確認しとこうか」

そのうち会うこともあるかもしれない。ファミリア名の下に記載された名前を見る。

「っ!」

────瞬間、僕は目深にフードを被りギルドを後にする。

(何で⋯⋯何で⋯⋯ここに居る?)

 

────フィリア・ジュノー

二つ名 『リトル・ヒロイン』

 

その名は、故郷での幼馴染の名前。もう二度と会うことは無いはずだった。

『ベル!遊ぼー!』

『ベル?どうしたの?』

『ベル!大好き!』

「っ」

幼かった頃の光景が脳裏に浮かぶ。可愛らしい茶髪の少女。村の子供達の中でも特別仲が良かった。

「⋯⋯⋯いこう」

僕は逃げる様にその場を後にした。

 

 

────薄汚れた僕の姿を、彼女に見られたくなかったから。

 

 

 

 

「ベル⋯⋯⋯?」

その姿を見覚えのある少女が見ていたことを、僕が知ることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────銀爪獣(シルヴァリアント)⋯⋯ですか。いい二つ名じゃないですか」

「正直白髪頭には仰々しすぎて似合わない気もするニャ」

「アーニャ、思っていても余計な事を言うものでは無い」

「つまりリューさんも似合わないって思ってるんですね⋯」

「あ、いや、そんなつもりは⋯⋯」

昼頃、『豊穣の女主人』に寄った僕はシルさん達に二つ名の事を話していた。⋯⋯⋯似合わないなんて言われると流石にショックだった。気に入ってるのに⋯⋯。

「あ、そう言えば義手新調したんですね」

「ん、あぁこれですか」

僕の身体の右側、そこには本来無いはずの銀色の腕が装着されている。ここに来る前にディアンケヒト様の下に寄って受け取ってきたものだ。

「でも前のと違って普通のやつニャ」

「そう言えばそうですね⋯」

ふと零れたアーニャさんの呟き。それに同調するようにリューさんもポツリと零す。

「ああ、これはですね

───牙を剥け、銀の獣(スイッチオン・アガートラム)

文言(キーワード)を唱えた瞬間、僕の右腕が淡い光に包まれる。光が晴れると、一瞬で鋭い鉤爪へと変貌した右手がそこにはあった。シルさん達は皆ポカンとした顔だ。

「こうやって文言(キーワード)を唱えると変化するんですよ。ディアンケヒト樣曰く、『つい張り切ってしまった』そうです」

一応変化に多少の精神力(マインド)を消費するらしいが微々たるものだ。寧ろ携帯性が高まったので僕的にはこちらの方が良い。

そこで、ようやく正気に戻ったリューさんが聞いてくる。

「⋯⋯それは戻るのですか?」

「勿論、

───牙を収めよ、銀の獣(スイッチオフ・アガートラム)

収納の文言(キーワード)を唱えて爪をしまう。ここで漸くシルさん達も再起動した。

そのまましばらく話し込んでいたのだが、

「ちょっと3人とも!お客さん待たせてるんだから早く戻ってきて!?」

「そうニャ!いい加減ミャー達だけじゃ過労死するニャ!?」

「⋯⋯⋯という事なので失礼します。行きますよアーニャ」

「ニャ!?何でミャーだけ!?」

「未来の夫婦の邪魔をするものでは無いですよ」

明らかにおかしいことが聞こえたのは幻聴だと思いたい。

「えっと、リュー達だけに任せる訳にも行きませんしそろそろ戻りますね」

「もっと話していたかったんですけど⋯⋯⋯⋯仕方ないですね。頑張ってください」

軽く微笑みながら告げると、顔を真っ赤にして「は、はい!」と勢いよく返事をして店の奥にパタパタと走って行ってしまった。かわいい。

そのまま待っていようとぼんやりしていると、再びパタパタとシルさんが走ってくる。その手には大きめの本が抱えられていた。

「あの、料理ができるまでまだ時間がありますから、良かったらどうぞ」

と本を差し出してきた。古めかしい雰囲気の、1目みて貴重だとわかる本だった。

「良いんですか?貴重そうに見えますけど⋯」

「他のお客さんの忘れ物ですし⋯⋯私って本は読まないので」

「⋯⋯じゃあ是非読まさせてもらいますね。ありがとうございます」

「はい!ごゆっくりどうぞ!」

礼を言われたのが嬉しかったのか軽くスキップしながら戻っていくシルさん。かわいい。

「⋯⋯暇潰しにはなるか」

僕は本を開いてその題名に目を通す。

『いでよ魔砲少女!リリカルマジカルブレイカー!

──目指せ魔王編』

⋯⋯⋯⋯つ、突っ込んだら負けだな。よし、次行こう。

『ゴブリンでもわかる現代魔法!これであなたも破壊神!』

「もう色々ダメだろ⋯⋯⋯⋯」

あれか?ゴブリンを破壊神にでもしたいのかこの本の著者は。

その後も読み進めて行くがまともな内容は書いていない。おふざけで書いたとしか思えない内容だった。

一応魔法について多少書かれていたもののリヴェリアさんから教わった事が殆どで目新しいものは無かった。

 

 

 

 

『────くはっ♪やっと介入出来たぜ』

「っ!?」

一瞬後、僕は何処とも知れぬ空間に立っていた。周りは一面の黒。ドロドロとした汚泥の様なものがそこら中に滴っている。

「ここは⋯⋯⋯?」

『ここは貴様の深層意識。あの本を通じて我々はこの領域に干渉している』

「っ!誰だっ!」

咄嗟に声の方向を振り返る。そこに立っていたのは、複数人の男女だった。ただし、人らしからぬ姿をした者もいる。

 

────黒い外套を身に纏う銀髪の女性。

 

────ハットとコート、更に黒い焔を身に纏う青年。

 

────髪の先端が無数の蛇と化した美女。

 

────デカい、象と見紛うほどのサイズを誇る大狼。

 

────大弓を携えた、痩身の大男。

 

────緑髪の、少女と見紛うほどの美貌の青年。

 

────身体中に無数の刻印を刻まれた少年。

 

 

────本能的に理解した。彼らは()()()()だと。その身に憎悪を宿す復讐者(アヴェンジャー)であると。

やがて、美女が口を開いた。

『フン、この様な小僧が復讐者とは⋯⋯世も末か』

『あら、神がロクでなしなのはよく知ってるでしょう?別におかしな事ではないと思うけど』

『貴様は黙っていろ尻軽め。あっさりとこの小僧に力を渡しておいて今更大物ぶるな』

『ハァッ!?私がショボイって言いたいわけ!?』

『寧ろそれ以外にあるのか?』

女性の口調が崩れ、美女と言い争いを始めた。一体どうなっている?彼らは何者だ?

『あー⋯⋯⋯取り敢えず説明いいか?』

「⋯⋯⋯どうぞ」

黒モヤの少年が口を開く。口調からして戦闘の意思は感じられないが油断は出来ない。僕は臨戦態勢を解くことなく黒モヤの少年を見つめる。

『そう怖い顔しなさんなって⋯⋯。俺達はお前を手助けしたいんだよ』

「⋯⋯⋯手助け?」

『そ。我らが後輩殿を助けたくなってね』

「⋯⋯胡散臭いな」

手助け?そんなものをして彼らにメリットがあるとは到底思えない。明らかに全員が僕以上の実力者だ。僕のような存在を気にかける義務もないのにこの提案は怪しすぎた。

「第1貴方の言っていることは真実なのか?ハッキリ言って信用出来ない」

『真実だ』

コートの青年が口を開く。その聞き覚えのある声に思わず目を見開いた。

「共犯者⋯⋯⋯か?」

『その通りだベル・クラネル。そしてあの力の大元はオレの力だ。それを貴様に与えた⋯⋯⋯と言うより伝授した様なものだ』

『そそ。俺達は君を放っておけなかった、君は力を欲した。だから力を貸したってわけだ。ちなみに魔法はアイツの宝具をアレンジした物だよ』

そう言って女性を指差す黒モヤの少年。

⋯⋯⋯⋯何というか、いかにもおちょくられてそうな人だな。こう、ベートさんと似た匂いがすると言うか⋯⋯弄られ役の匂いがする。

ギャーギャーと騒ぐ女性を他所に美女が口を開く。何処か、ロキ様達(神々)に似た雰囲気を感じた。

『さて、小僧。一つ問う』

「⋯⋯⋯何でしょうか」

『────憎いか?』

⋯⋯⋯その言葉を聞いた瞬間、身体の奥底からふつふつと湧き上がってくるものがある。

解る、これは憤怒。そして憎悪。何故かは分からない。が、今この場において不要な筈の感情が間欠泉のように湧き上がってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「────憎いか、だと?ああ憎いとも!両親を!祖父を殺したあの汚豚(オッタル)が!!忌まわしき女神を崇める愚者共(フレイヤ・ファミリア)が!!!

そして何よりも!!!僕から全て奪い、あまつさえ大切な人(シル・フローヴァ)を傷付けた美神(フレイヤ)が!!!!!!

────この憎悪はたとえ神だろうと否定させない。正しい復讐なんてほざくつもりもない。だから────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────たとえこの身が朽ち果てようと、僕は復讐を遂げる。絶対に」

 

 

 

 

 

 

 

────ニヤリ、と彼らが笑った様な気がした。

『は、クッハハハハハハハハハハハハハハ!!!!

そうだ!それでこそ復讐者(アヴェンジャー)!!我らが同胞足る資格を持つ者よ!!』

『アッハッハッハッハッ!!いいわ!それでこそ私の力を授けたかいがある!!貴方の憎悪に万雷の喝采を!!!』

『女神を憎む、か。なればこそ、力を授けるのに値する』

『僕は母さんに従うだけさ。ただ───家族を奪われた君の憎しみ、多少は理解出来るつもりだよ』

『⋯⋯狒々親爺(ゼウス)の義孫、というのが気に入らんが⋯⋯まぁいい。神に対する復讐と言うならば私の力を使え。神への憎悪は理解出来る』

『グルルルルル⋯⋯ヴォンッ!!』

『「人の身で有りながら獣の如き憎悪⋯⋯気に入った」だとさ。良かったな、随分と気に入られてるみたいだぜ?』

⋯⋯⋯あぁ、この人達は正しく復讐者。僕と同じように憎悪し、憎み、復讐を誓う、ある意味最も化物(ヒト)である存在。

『では小僧。私の(キュベレー)を貴様に授ける。精々使いこなすが良い』

「キュベレー⋯⋯?なんの事っ⋯⋯⋯ぎぃっ!!!!?」

────熱い。無くしたはずの左眼が、とてつもなく。まるで溶けた鉛を流し込まれている気分だ。

「う、がぁあああああああああああああああああっ!!!!?」

『耐えよ。其の程度で朽ちるほど容易い憎悪では無いはずだ』

「ぐっ⋯ぎっ⋯⋯⋯愚問、だっ⋯!!」

無茶苦茶痛いが復讐出来ずに死ぬよりマシだ。

でも痛い。気を抜けばショック死しそうだ。

『そのまま聞いていろ。我が名は『ゴルゴーン』。アテナに会ったら「必ず殺しに行く」と伝えておけ』

「言伝っ⋯⋯確かにっ、聞き届けた⋯!!!」

でもせめて先に言って欲しかったっ⋯⋯!痛みで返事を返すのに精一杯だ。

『⋯⋯おっと、そろそろ時間切れか』

黒モヤの少年が言った途端に辺りの景色が揺らぎ始める。それと同時に身体が引っ張られるような感覚に、この空間から引きずり出されようとしている事を理解した。ようやく痛みも収まってきた僕はゆっくりと彼らに向き直った。

『それじゃあベル・クラネル。暫しのお別れだ。お前の復讐の成功を祈ってるぜ』

「────一つ、聞きたい」

背を向けた彼らを呼び止める。これだけは、どうしても言っておかなければならない。

「────後悔、しているか?」

『『『『『⋯⋯⋯』』』』』

復讐を遂げた先で後悔はしたかと、本望だったかと、問う。が、どうやら愚問だったようだ。

『『『『『我らが復讐に後悔などない。唯、それが我らである故に』』』』』

「そうか⋯⋯⋯ありがとう」

彼らの迷い無き憎悪を、素直に賞賛したいとすら思う。彼らの言葉を聞いた僕は、ゆっくりとこの空間から消えていった────。

 

 

 

 

 

 

『迷うなよベル・クラネル。お前のその意思を見初めたからこそ、オレはお前はこの世全ての悪(アンリマユ)の器に相応しいと思ったんだから』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────ん!ベルさん!!大丈夫ですかっ!?」

「う⋯⋯⋯痛ぁ⋯⋯」

「ベルさん!?目が覚めたんですね!?」

「⋯⋯⋯⋯シルさん?」

おかしい。僕は確かにテーブルについていた筈だ。それが今は何故かぬいぐるみなどが飾られた女の子らしい部屋のベッドに寝かされている。窓の外を見れば既に日が沈もうとしていた。

⋯⋯随分と寝ていたみたいだ。

「シルさん、何があったんですか?状況を把握出来てないんですけど⋯⋯」

「⋯⋯ベルさん、本を読んでいたと思ったらいきなり倒れたんですよ?凄い高熱で、うなされてましたし⋯⋯⋯本当に良かった⋯⋯」

心配をかけてしまったらしい。シルさんの悲しむ顔を見ると非常に申し訳ない気持ちになった。思わず涙を溜めた目元に手を伸ばし、そっと指で拭う。

「あ⋯⋯⋯」

「ごめんなさい、泣かせてしまって」

「い、いえ!?私が勝手に泣いてしまっただけで⋯⋯!?」

「それでも、です」

軽く頭を撫でながら言う。恥ずかしいのか既に顔は真っ赤だ。何とも可愛らしい反応に思わず頬が緩む。

「⋯⋯っ痛!」

「べ、ベルさん!?」

────あるはずの無い左眼が痛む。それは、あのゴルゴーンと名乗った美女から受けた痛みと同じもので────

「⋯⋯シルさん。鏡を貸してくれませんか」

「え、はい、わかりました⋯⋯?」

シルさんが手鏡をポケットから取り出し、それを受け取って顔の前に持ってくる。

⋯⋯相変わらずの隻眼。左眼を縦一閃している傷がよく目立った。

⋯左眼の痛みは消えない。僕はゆっくりと失われた瞳を開く。そこには────

「⋯⋯⋯⋯」

「べ、ベルさんその()⋯!?」

────そこには、蛇頭の美女(ゴルゴーン)を彷彿とさせる紫色の瞳が輝きを放っていた。

 




例の本は当然フレイヤ様仕込み。結果、ベルくんのスペック更に上昇。


現在のベルくんスペック

身体能力:Lv2の上位

戦闘技術:Lv5クラスに劣らない腕前。

総合戦闘力:Lv3下位位なら充分倒せる。

総合戦闘力(各スキル発動状態):Lv5中位とタメ張れる。

【新型銀の異形腕(シルヴァリアント)
牙を剥け、銀の獣(スイッチオン・アガートラム)牙を収めよ、銀の獣(スイッチオフ・アガートラム)文言(キーワード)でオンオフが可能なタイプ。発動時に多少の精神力(マインド)を消費する。その他のアタッチメントは次話で。
ディアンケヒトとヴェルフが過労死するレベルで奮起して完成した力作。黄昏の館が2、3回程買える位の値段だが、ベルが最初にディアンケヒトに渡した宝石の価値が高すぎる為まだまだ足りない。




感想で誰か分からない復讐者がいるとの事なので一覧をば。
・竜の魔女
・モンテ・クリスト伯
・最も有名な蛇の怪物
・気高き狼王 ←個人的に1番ちゅき
・某マッマさんの息子
・ヘラ絶対ブッ殺すマン



サリエリ?知らない子ですねぇ⋯⋯。









真面目な話、この小説が出来た当初サリエリ実装されてなかったんですよねぇ。


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