八雪です。
「ねぇ、比企谷くん」
「なんだよ、雪ノ下」
「ゲームをしましょう」
「…え、ゲーム?」
雪ノ下の言葉は俺には予想外のものであった。
唐突だったこともあるが、それ以上に由比ヶ浜が居ないこの現状で雪ノ下がゲームを提案することが俺にとっては予想外だったのだ。
「…どうしたんだ、雪ノ下。熱でもあんのか?」
「…失礼ね、比企谷くん。確かに唐突であったことは認めるけれど、言うに事欠いて人を病気呼ばわりするなんて。あなたは本当に失礼ね、比企谷菌」
「だから、菌呼ばわりしてんじゃねーよ」
まあ、たしかに失礼だったかもしれないがレスポンスがハードなんだよなぁ。
なんなの、語彙力豊富すぎ…。
「ふふっ、ごめんなさい?比企谷くん」
「いや、別にいいんだけどよ…」
「改めて、ゲームをしましょう?」
「…ゲームつったって、二人ですることそんなにないだろ?」
一人ですることならストックがある。なんなら一人での方が遊べるまである。
「私が思い浮かべてるものを答えてみてほしいの」
「…どっかのランプの魔神かよ」
「おおかたああいうイメージで進めてくれたらいいわよ」
「つっても、あんま難しいものだと当てられる自信はねぇぞ?」
国語学年3位の力を持ってしてもユキペディアさんは超えられないのである。悲しいなぁ。
とは言え、ある程度自信はなくもないので、なんとか答えてみせたいものである。
「私が思い浮かべるものは簡単よ。私の好きなもの」
「なるほどな、既に答えが若干だが見えてきたわ」
かれこれ雪ノ下とはほぼ1年の付き合いである。好きなものと言えば大体絞れている。
パンさんとか、パンさんとか、パンさんとか。
「じゃあ、まずジャブ程度に質問いいか?」
「ええ、どうぞ」
「それは人ですか?」
「そうね、人よ」
どや顔で質問したはずがいきなり迷宮入りしたんだが。
いや、待てよ?雪ノ下が好きな者といえば由比ヶ浜あたりが正解なんじゃないか…?
「…じゃあ、次の質問いくぞ。その人はこの学校の生徒か?」
「ええ」
もう答えが見えてきているようなもんだが、それで外したら恥ずかしさで一杯になるだろうからもうすこし核心をつく質問をするか。
「その人は俺と同じクラスか?」
「そうね」
「じゃあ、答えは由比ヶ浜だろ」
どうだ、これで間違ってたら目もあてられない訳なんだが、由比ヶ浜がいない状況でこのゲームをするということは答えは由比ヶ浜で間違いないだろう。
「ふふっ、違うわよ、比企谷くん。不正解」
「なん、え、まじか」
雪ノ下とのゲームでドヤ顔解答で間違うのは二回目である。
学ばないのかなんなのか…。
「…え、じ、じゃ、その人は女性か?」
「いいえ、男性よ」
え、変な動悸が。雪ノ下が男を好き?
いや、でも、まあ、女子高生ではあるし、恋愛しててもおかしくはないんだが、いや、でも…。
「比企谷くん。質問をどうぞ?」
「あ、ああ。その相手は金髪か?」
「違うわよ、比企谷くん。私、金髪は嫌いなの」
…葉山ではない。
「じゃあ、その相手の身長は俺より大きいか?」
「身長はあなたくらいよ」
…戸塚でもなく、戸部でもない。
誰だ、雪ノ下が好きな相手っていうのは一体誰なんだ。
すごく、胸が締め付けられたような感覚になっている。
「…はぁ、鈍いのねニブ谷くん。すごい顔になってるわよ」
「いや、別に、そんな」
不意に雪ノ下の顔が俺へと近づいてくる。
ゆ、雪ノ下さん?近い、近いですよ。
て、いうか止まらないと当たるって、雪ノ下さん!!
距離が零になった。
俺にとっては時間がどれだけ経ったのか解らない。
脳が甘いいい匂いによって麻痺させられている。
距離が離れていく。
「おっおま!雪ノ下!?」
「好きなのはあなたよ、比企谷くん。私はあなたが好き」
「へ…?」
「私たちを傷つけないように守ろうとして自分から傷ついていくあなたが好き」
雪ノ下からの言葉は不意の告白であった。
「不器用でやさしい、そんなあなたが好き」
「なにを言って…」
「ねぇ、比企谷くん」
「私はあなたが。比企谷八幡くんが好きです」
「お、おれも…ゆきのしたが、雪ノ下雪乃が好きだ」
格好もつかない告白であった。
好きなものを当てるゲームの途中で、あんなことがなかったら自覚はしていなかっただろう。
…俺は雪ノ下雪乃が好きである。
気高く、賢く、綺麗な雪ノ下に憧れて、猫が好きで、たまにポンコツで、可愛い雪ノ下雪乃に俺は心底惚れてしまっていたのだ。
「ねぇ、比企谷くん。キスをしましょう。不意打ちではない、しっかりとした」
あまりにも格好の付かない始まりであったが、俺にはそれが丁度いいのかもしれない。
今始まった雪ノ下雪乃との関係はこれからもきっとこんなグダグダな感じで続いていくのであろう。
だって、俺の青春ラブコメはどこまでも間違っているのだから。
「ねぇ、比企谷くん」
◆蛇足
「よう、由比ヶ浜」
「あ、ヒッキー!やっはろー!」
「いらっしゃい、比企谷くん」
奉仕部はいつも通り続いている。
実はあの後一悶着があり、奉仕部崩壊の危機に陥りかけたのだ。
どうやら由比ヶ浜は俺が好きだったのだという。
信じられないだろ…?これ現実なんだぜ?
「おう、今日は依頼きてないのか?」
「そうね、いつも通りあなた宛に剣豪将軍からはメールが着ているけれど、他はないわね」
「なるほど、依頼はなしか」
由比ヶ浜が告白をしてきてくれ、それを俺が断った。
そっか、の一言に何が籠められていたのかは正直俺には解らない。
だが、それでもなお、今こうやって続いている関係は本物と言えるのではないだろうか。
「ねぇ、ヒッキー!」「ねぇ、比企谷くん」
「依頼が着たよ!」「依頼よ」
やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。