私が彼に持つ感情を言葉にするのなら、それは愛に他ならないと思う。
だってそうだろう?
何だってするし、耐えられるんだ。 一緒に居てさえくれるなら。
そう思えるほどの感情を、愛以外に私は知らないから。
「ん……」
「おや、お目覚めかい?」
「……キルケー……」
「食欲はあるかな?」
「少し……」
「ならどうぞ、大魔女特製キュケオーンだ。はい、あーん」
「それくらいは自分でできるから……」
「いいからいいから。病人は大人しく看病されるものだろう?さぁさぁ」
「……あーん……」
「お味はどうだい?」
「……鼻詰まっててあんまり分かんないけど、おいしいよ」
「それは良かった。そら、どんどん食べてくれ」
うん、おいしいって言ってもらえてよかった。彼好みの味付けにした甲斐があるというものだ。次からもこういう感じで作ることにしよう。
さて、どうして大魔女たるこの私がマスターにキュケオーンを食べさせることになっているのか。話は今日の朝まで戻る。
「マスターが風邪?!大丈夫なのかい?!」
マシュから知らされたのは予定していたレイシフトの前のブリーフィングの時だ。
「大丈夫です、そこまで酷いものではないようでした。先輩は『これくらいなら大丈夫だから予定通りレイシフトする』と言っていましたが、大事を取ってお休みしていただくことにしました。」
とマシュは言っていた。しかし心配だ。なにしろ英霊達が皆ダウンしたばかりだ。それと関係あるかは分からないが、もしそうだとするとこれからもっと酷くなるかもしれない。居ても立っても居られず、私はマスターのもとへ向かった。そして話は冒頭に戻る。
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末さまでした。ちゃんと全部食べられて偉いな。これで良くなることを大魔女が保証しよう」
「ありがとう、キルケー」
「なに、私の愛しいピグレットの為ならいくらでもするさ。さて、お腹いっぱいになったら眠くなっただろう?もう一眠りするといい、次に目が覚めた時にはきっとすっかり良くなっているはずさ」
「わかった。……ありがとね」
そう言って彼はまたベッドに戻り、すぐに寝息も聞こえてきた。この分ならきっとすぐに良くなるだろう。
そう思って、しばらく彼の寝顔を見ていた。こうしていると、年相応のあどけない顔をしているのに、しかし彼はひとたび戦場に出ると、決して諦めない勇気ある人間の顔をする。
このカルデアにいると、そんな彼のどちらの面も良く知ることになった。そしてその度に思う。
これ以上傷つかないでくれ、と。
だから何度も彼に言っている。『一緒に逃げよう、傷つかないでいいところへ』
でも彼は一度だってそれに頷いたことはない。
『諦めたくはないから』
と、そう言って。
だからきっと、私の願いは叶わない。彼はきっと傷付き続ける。
それでもなお諦めない彼だから、私は。
愛しいんだ、君が。
眠る彼の額に口づけをした。この愛しさを込めて。そして彼の部屋を出た。
彼が次に目が覚めた時、きっとすっかり元気になっているだろう。そしてまた、傷付き続けるだろう。
だからもし君がこの世界から逃げ出したくなったらすぐに言ってくれ。
2人で、2人だけの、傷つかないところへ逃げてみせるから。