ロクでなし魔術講師と吸血鬼   作:ユキシア

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夜の公園

夕日が沈み、星空が見え始める夜の時間帯にテラスはフェジテにある自然公園でルミアに拳闘を教えていた。

『社交舞踏会』のダンス・コンペに向けて練習している際にルミアから軍用魔術を教わりたいと頼まれ、拳闘と防御呪文だけという条件で妥協してその日から訓練は始まった。

まずは拳闘ということでセラから教わった拳闘+前世の格闘技を織り交ぜた独自(オリジナル)の格闘技をルミアに教えている最中。

「やっ!」

一通りの型を教えてその型通りに動くルミアの筋は悪くはないとテラスは思っている。

ただそれは今は虚空、相手がいない状態だからこそで実際の戦闘になればルミアがその拳を相手に当てられるかどうかと言われたら無理だろう。

ルミアは優しい。それこそ自分よりも他者を優先するほどに。

別段、テラスは誰かの為に誰かを犠牲になろうとするその考えを否定する気はない。

それは個人の自由だ。

それがルミアであってもそうならないように自分が動けばいいだけの話だ。

その為に特務分室に入ったのだから。

「テラス君? どうしたの?」

「ううん、なんでもないよ。ただ先生のお腹が大丈夫かなって」

「う~ん、大丈夫だと思うけど、少し心配だね………………」

グレンをダシに誤魔化すテラスにルミアは苦笑いを浮かばせながら心配する。

「システィーナにお弁当を作って貰う? 先生が倒れたら困るからってお膳立てして」

「あ、いいね。それならシスティもなんだかんだ言って作ると思うよ」

万年金欠のグレンとシスティーナを引っ付かせようと日頃から世話を焼く二人はグレンとシスティーナの二人の話に盛り上がる。

テラスはシスティーナがグレンのことを好いているのは理解している。

ルミアがこっそり告げ口してくれたから。

しかし、どうしてシスティーナがグレンの事が好きなのかわからない。

好きだということはわかっても、どうしてそうなった経緯がわからないテラスは世話を焼くついでに二人を観察している。

動き、言葉、行動、本人達の何気ない仕草まで観察して理解出来る部分はあった。

グレンがシスティーナ以外の女性と話をしている妙に機嫌が悪くなる。

それは嫉妬といわれる感情だと理解できる。

少なくともグレンに好意を抱いているからそういう感情が表に出てしまう。

(そもそも僕は今でもルミアが好きなのかどうかもわからないけど………………)

他人のことを観察しつつも自分のことは言えないテラスは今もその気持ちはわからない。

傍にいたいや守りたいとは思う。

こんな怪物に好意を向けている彼女(ルミア)。そんなルミアを守りたいというこの気持ちが愛や恋心というものなのか?

それともただ単に吸血鬼として彼女の血は至高だから。自分の餌を守りたいからなのか?

もしくはもっと単純にルミアに欲情しているからか?

じっとルミアを見つめる。

「?」

髪から足先までじっと見られて怪訝するルミアはテラスから見てもその容姿は優れていることはわかる。学院でも天使と名高いルミアの性格はまさに天使という言葉がよく似合う。

テラスも性欲ぐらいはある。そういう経験はないが、一度は経験してみたいは思ってる。

「………………………ルミア、少し抱きしめてもいい?」

「ええっ!? きゅ、急にどうしたの!?」

突然のことに驚くルミアにテラスはその理由を説明しようとするもルミアはテラスから少し距離を取って首を横に振る。

「だ、駄目! 今は、その、汗も掻いているし……………臭いって思われたくないから」

「別に気にしないけど?」

「女の子は気にするの!? 特に好きな人の前なら尚更だよ!」

(乙女心は複雑怪奇というものか………………)

そういえばセラからも似たようなことでデリカシーがないと言われたことがあることを思い出す。

テラスは別にルミアから変な匂いがしないことぐらい離れていてもわかる。

吸血鬼の嗅覚は些細な変化にも敏感。ルミアは臭くないと言い切れる。

しかしそれを口にしたらもっと怒ることぐらい想像はできる為に言わないが。

「………………………………ごめん、ルミア」

「え?」

一瞬でルミアの背後を取ったテラスはルミアの匂いを嗅いで我慢できなくなった。

「もう、我慢できない匂い…………」

がぶりとルミアの首筋に噛み付いて血を啜る。

「ん………………だめ………………」

口から甘い声を出してしまうルミアは離れようとするもしっかりと捕まれている為に逃げられない。

血を求める本能のままにルミアの血で喉を潤すテラスは満足してルミアを放すと、ルミアに睨まれてしまう。

「テ~ラ~ス~く~ん?」

「………………………ごめん」

怒るルミアに素直に謝るテラスにルミアは「もうっ!」と頬を膨らませる。

「私だからいいけど、テラス君はもっとデリカシーを知るべきだよ」

「とは言われましても………………………」

これでも学院では紳士的に振る舞っているつもりだ。という以前にこんなことをする相手はルミアぐらいしかいない。

「それじゃあ、私が教えてあげる。拳闘と魔術を教わっている代わりにね」

そう言って微笑む彼女のその笑みは楽しそうだ。

つい今しがたまで怒っていたのが嘘のように。

「それじゃお願いします、先生」

「はい、任せなさい」

本当にルミアは不思議な人だ。

前世では気味悪がれて両親も含めて誰一人、好き好んで近づこうとする人はいなかった。

それなのにルミアはこうして笑って近づいてくる。

眷属になって吸血鬼にしたセラや異能者で親に捨てられたヴィオロならまだ多少なりの理解はできるも、ルミアの好意はそれとは違うもっと別の何かとしか形容できない。

(本当に不思議だよ………………)

彼女のことを知れば知るほどに謎が深まる。この理解しがたい何かが人間の心なのかもしれない。

「さて、そろそろ帰ろうか。送るよ」

「うん、お願い」

ルミアを抱えて翼を羽ばたかせるテラスはルミアをシスティーナの家まで飛んでいく。

(でも、今はそれは置いておこう)

これからグレンを含めた特務分室が集まる会議がある。

天の智慧研究会『急進派』の『ルミア暗殺計画』を阻止することを今は第一優先にして考えなければならない。

人間の理屈ではない感情と心を、ルミアがテラスに抱く好意を、そしてテラス自身がルミアの事が好きかどうかという気持ちを知る為にもルミアを守らなければいけない。

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