【悲報】俺氏、死体に慣れる。   作:めんたんてん困難

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話は全然進まないし、短いし、この回いらないかなとも思いつつ、なんだかんだキリのいいところまで書き終えたので投稿します。


ふつかめ!②

 

 

 二本の線香の煙が宙に吸い込まれていくように、薄らいで消えてゆく。一本はまだ火をつけて間もないので長く、もう一本は短く、もう少しで燃え尽きそうだ。「小々波家之墓」と書かれた墓石の前で目を瞑り、両手を合わせる。頭に浮かぶのは最近の出来事。思いつく限り、片っ端から報告しようと思う。

 

 まず墓参りが久しぶりになってしまったことを謝るところから始め、次に大学を留年したことを謝り、そして俺が今置かれているこの状況について。

 

 気がついたら「名探偵コナン」の世界になっており、自分の周りにはその主要キャラクター達が沢山現れる事。なぜか自分の住んでいる街の住所が米花町になっていたこと。多分この事を知っているのはこの世界で自分だけだということ。そして世界が変わった事に気がついてから今日までの間に沢山の事件に巻き込まれたこと。あと、多分自分も主要キャラクターの中の一人になってしまったこと。

 

 ここ最近の出来事を全て包み隠さず、墓の中に眠る両親に報告した。

 

 —————なぁ父さん、母さん。俺、どうしたらいいと思う?

 

 勿論両親からの返事はない。いくらトンデモ世界に入り込んだからと言って、死者の声が聞こえるという演出は無いらしい。

 死者との対話、ちょっと期待したんだけどな。まあでもコナン達も作中で死者と話してるシーンなんて無かったしな。元々そういう世界観じゃないし、まぁ無理か。

 

 さて、長々と報告してる間に俺のあげた線香の火も消えて灰になったので、そろそろお暇しようか。

 

 そう言えばさっき気が付いたことなんだが、俺が来る前に誰かが来て花を添えてくれていたらしい。さっきの弁崎さんかとも思ったけど、花の枯れ具合を見る限り、昨日から一昨日あたりに添えられた物のようだ。

 

 きっとアイツが供えてってくれたのだろう。一昨日東京(コッチ)で試合があったし、その時にわざわざ来てくれたんだと思う。全く律儀な奴だ。メールかなんかで言ってくれれば良かったのに。まあ良い。後でこっちからお礼のメールでも送っておこう。

 

 で、そう、弁崎さん。さっきまでここでウチの墓に手を合わせてくれていた女性。彼女どっかで見たことあるし名前も聞いたことあるような気がするんだけど、全然思い出せない。彼女は俺が小さい頃に会ってると言っていたけど、なんかそれも引っかかるんだよな。俺の印象的に小さい頃に会ったっていう感じじゃないんだよなぁ。けど上手いこと思い出せないので何とも言えない。貴重な両親の生前の知り合いなのだからそこら辺はしっかりしときたかったのだが……。

 まあでも連絡先も交換したし、これからちょくちょく会って親交深めていくうちに思い出すだろう。

 

 さて、変な事件に巻き込まれる前にさっさと帰ろうとしたところで、俺の携帯に着信が入った。

 

 

 

———————————————————————————

 

 

 

「まさか貴方が彼に接触するとは思いませんでしたよ」

「別に良いでしょ。それに貴方もかなり彼の事気にしてたじゃない」

 

 月参寺付近駐車場、白いスポーツカー、RX-7に乗っている男女二名。運転席に男、助手席に女。

 

「それで、彼に接触してみてどうでしたか?」

「そうね。懐かしかった……かしらね」

「懐かしかった?」

 

 女は車の窓から、墓石に向かって両手を合わせている青年の姿を見つめ、目を細めて微笑む。

 あまり見ない彼女のそんな表情に、男は興味深そうに笑う。

 

「なるほど。ということは、あの墓石前での彼との会話は作り話でもなんでもなく、事実だったと言うことですか」

「ええ、そうよ。私が彼の両親と関わりがあったっていうのは本当。ま、彼は全然そんなこと知らないでしょうけどね」

「あぁ、そう言えば彼の両親って……」

 

 男の言葉を遮るように、女は人差し指を彼の口の前に立てる。

 

「もういいでしょう。早く車出してちょうだい。この車彼に見られたらマズイんでしょ?」

「そうですね。わかりました」

 

 男は女に言われるがままに、アクセルを踏んで車を走らせ、この場を後にした。

 

 

 

 

———————————————————————————

 

 

 

 

 午後の光がいくらか薄れ、あたりに夕暮れの気配が混じり始めた頃、俺は米花駅前の繁華街に足を踏み入れていた。居酒屋やバー、キャバクラ等、成人済みの大人が利用するための店が並んでいる。賑わうにはまだ早い時間のため、周りにはスーツを着た大人がちらほら、駄弁っているキャッチが数人程見られる。

 

 こちらに気がついたキャッチが近づいてきて居酒屋を勧めてくるが、もう決まっている店があるからと、断りを入れると素直に引き下がった。

 キャッチを上手く断る常套句ではあるが、別に嘘を吐いたわけではない。今日は久しぶりに店で酒を飲むのだ。

 

 両親の墓参りが終わった後、俺の携帯に着信があった。出てみると相手は高校の時俺がよくつるんでいた後輩だった。話を聞いてみると、どうも俺に相談したいことがあるとの事で、飲みに付き合ってくれないかとの事だった。

 マスコミから解放され、コナン達御一行が居ない今、気軽に外出できるようになった俺は迷う事なくノータイムでOKの返事を出した。

 

 ここ最近は飲みに行く機会が作れずご無沙汰だったが、俺は本来酒を飲むのは好きな方だ。去年とかはしょっちゅう飲み歩き、酔い潰れて路上で朝を迎えていた。酒は俺が留年した理由の一角を担っていると言っても過言ではない。留年以外にも酒で失敗した事は多々あるが、俺は酒をやめるつもりは一切無かった。

 勿論、前回入院した時に医者から酒を控えろと忠告を受けた事は覚えている。俺だってあれ以降は健康に気をつけようという気持ちも芽生えてきた。だから今日は飲みすぎない程度に嗜むつもりだ。本当だよ?

 

 三人目のキャッチを断ったところで目的地の居酒屋に到着した。時刻は待ち合わせ時間ぴったり。携帯には「先に中入って待ってます」という後輩からのメールが一件、五分前に届いている。

 待ち合わせ場所に先輩より早く来ておくとは、流石はできた後輩だ。

 他にも数件、別の人からメールやら不在着信が着ているのが目に入ったが、返事は後で良いだろう。

 

 店内に入り、対応してきた店員に合流だと伝えると奥の個室の席に案内された。

 

「よ、久しぶり」

「お久しぶりです先輩」

 

 席にはスーツを脱いだワイシャツ姿の大柄な男が一人、タバコを片手に座っていた。手元の灰皿には吸い殻が既に二本。コイツ、俺にメール送ってきた時間よりももっと前から店に来てたな? 律儀な奴め。

 

「ごめん、待たせたな」

「いえ、時間通りなので全然」

「てかお前ちょっと太った?」

「先輩はなんかやつれましたね」

 

 高校の頃のサッカー部の後輩。コイツに会うのは三、四年ぶりだろうか。メールや電話でちょくちょくやり取りはしていたが、実際面と向かって会うのは久しぶりだった。太った? なんて聞いたが、元からこいつは体格のでかい方だったし、最後に会った時からあんまり変わったという印象はなかった。一丁前に顎鬚を生やしてはいたが。

 

「すいません、呼び出しちゃって」

「いや良いよ別に暇だったし」

 

 上着を脱ぎ、席に座る。まだ客入りの激しい時間ではないのと、全席個室と言うのもあり、店内は静かで落ち着いた雰囲気を醸し出していた。店員からお絞りと自分用の灰皿をもらい、そのまま流れるような手際でタバコに火をつけ煙を吸い、吐き出す。

 

「暇って……。先輩、留年したらしいじゃないですか」

「いや、まぁ……」

「なんかだかすいません……。先輩も大変なのに相談乗って欲しいだなんて言ってしまって……。逆に相談乗りましょうか……?」

「うっせー! 俺のことはいいんだよ!!」

 

 相談に乗って欲しいなんて言うもんだから、元気が無かったり落ち込んでたりしてんのかと思ってたけど、結構元気じゃないかコイツ。少なくとも会って数分で俺のことを弄れるくらいには元気なのだろう。まったく。

 

「あぁすいません。まあ今日は俺が奢るんで好きなもん注文してください」

「いや後輩に奢られる先輩がいるかっての」

「でも先輩まだ学生でしょ? 俺もう働いてるんで」

 

 まぁ、確かに……。コイツは高校を卒業後すぐに角紅商事に就職したので、確実に今の俺よりは金を持っているだろう。

 コイツもこう言ってることだし……。

 

 ——————————うん、奢ってもらおう。

 

 先輩としてのプライド? 威厳? そんなもんが金になりますか? それで酒が飲めるんですか?

 

 あ、店員さーん。

 

「えっと、これとこれとこれとこれで。飲み物は生二つで」

「………」

 

 なんだよ! お前がなんでも好きなもん頼めって言ったんだろ! そんな顔でこっち見んなよ!

 

 

 

 

 

 

 

 先輩としての威厳を完全に失うというハプニングが起きたが、乾杯も済ませ、俺は久しぶりの飲み会(人の金)を楽しんだ。

 

 最初のうちは互いの近況について話し合った。コイツは最初から本題には入ろうとしなかったし、俺もこっちからその話を振るつもりはなかった。もう少し酒が入ってから、コイツが話し始めたいタイミングまで待つつもりだ。

 

 まあ近況を話し合うという事は必然的に俺の留年、ここ最近のダメ生活の話になってくわけで……。

 

「まさかあの小々波漣斗がねぇ……」

「な、なんだよ」

「いや高校の奴らみんな言ってましたよ? あの頃の見る影もない、落ちぶれたって」

「いや、そんなことないだろうよ……。最近だってほら、色々やってるし……」

 

 俺後輩達からそんなふうに言われてんの?

 まさかの事実に俺は精神的ダメージを受けた。

 

「色々やってるって、パチンコと競馬と麻雀でしょ? 友達がよく見るって言ってましたよ。あの人は酒、タバコ、ギャンブルのダメ人間三種の神器を揃えたって」

 

 なんだよダメ人間三種の神器って。つーかこの話って俺がコナン達に会う前の頃のだろ? 俺コナンたちに会ってから引きこもりのダメ人間になったと思ってたけど、俺が普通だと思ってたあの頃って側から見たらダメ人間だったの?

 まさかの事実に俺は精神的ダメージを受けた。

 

「あ、でもこの前、なんかの事件解決したんでしたっけ? 殺人トリック見破った大学生探偵〜みたいなの見ましたよ」

「あぁ、あれな……」

「探偵になるんすか?」

「いやなんねえよ。あん時はたまたまいろんなことが重なって結果的にああなっちゃったってだけで……」

 

 そう、たまたまである。間違っても自ら進んで事件に首を突っ込んだわけではないし、探偵になろうだなんてこれっぽっちも思っていない。全てはあの悪魔のような小学一年生が悪い。

 

「ふーん、まあ先輩昔から巻き込まれ体質みたいなとこありましたもんね」

「ほんとにな。この前も白バイに……」

「白バイ?」

 

 あ、やっべ。

 

「あぁ白バイといえば、謎の白バイ隊員っての今話題ですよね。あ、先輩まさか」

「え、あ、いや、違くて……」

「あの現場周辺にいたんじゃないですか? んであのカーチェイスに巻き込まれて轢かれそうになった! とか?」

「そ、そうそう! いやー危なかったわー。マジで死を覚悟したなーあん時は」

 

 あ、あっぶねー! うまいこと勘違いしてくれて助かった。

 しかしまあ普通に考えたら、顔の映ってないあの白バイ隊員と俺は結びつかないよな。あの低画質で尚且つ映りの悪い動画を見て、さらに背格好だけで俺だと特定できる奴は、洞察力がイカれてる一部の原作キャラか、相当俺のことが好きで常に俺のことを見てるような奴かの二択だろう。

 

 後者なんかいるわけないので、アレが俺だと一般人にバレるわけ無いのである。

 

 

 

 

 

 

 互いの灰皿が吸い殻でいっぱいになってきた頃、コイツも俺もいい感じに酔ってきた。店員が机の端な溜まっていた空いたジョッキと皿を回収していく。店内も客が増えてきたのか、少し騒がしくなり始めてきた。

 さて、そろそろ本題に入ってくんねえかな。話題が現状報告だと俺も色々とボロを出しそうで気をつけるの大変なんだよ。元々ポロリやすいというのもあるし、何よりアルコールのせいでいつにも増して口が緩くなっている。

 

 もう何杯目になるかわからない、ハイボールの入ったジョッキを空にし、目の前に座る後輩は表情を真剣なものへと変え、こう切り出した。

 

「それで先輩は今、江口先輩とどうなんですか?」

「美奈? まあ今も普通に仲良いよ」

「そうですか……いいですね……」

 

 なんでこのタイミングで美奈の話を持ち出したのかはわからないが、コイツのこの表情からして、そろそろ本題に入りそうな雰囲気だ。

 

「…………」

 

 しかしそこから先の話は出てこない。そのまま数分経過しても黙ったままだ。

 俯きながら片手でライターをいじっている。

 

 ふむ。少し促してみるか。

 

「相談、あるんだろ?」

「えぇ、まぁ」

「話してみろよ。俺でよければいくらでも力になるからさ」

「……ありがとう、ございます。そうですね、呼び出しといてこのままやっぱりなんでもありませんでしたは違いますよね」

 

 そう言って、俺の高校の後輩———————藤江明義(ふじえあきよし)は意を決したように話し始めた。

 

「あの、相談の内容なんですけど……」

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヨーコの、沖野ヨーコのことで……」

 

 

 ———————————ま、そうだろうな。

 

 タバコを一本取り出そうとしたが、箱の中身は空っぽだった。

 




※1/25主人公のイメージ図を第一話の後書きに追加しました。
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