そんな短編です。
私、篠ノ之束は自他ともに認める天才であった。
物心ついたころから、いや正しく言えば生まれたころからの情報は全て記憶しているが故に一概に一般とは違うのかはしれないが、その時から私は隔絶していた。周囲からではない、世界からだ。興味本位で人類の最先端の理論を調べて、苦労することなく理解できた。
それどころか大学で必死に研究していることへの問題点なんて簡単に分かった。勿論ある程度の実験は研究において不可欠だ。それでも何で少し考えればいいだけの事を一々調べるのかが理解できなかった。余りにも時間の無駄の様に感じたのだ。
他にも同い年の子供が何を言っているのかが理解できなかった。理論が破綻しているのだ。それこそ数秒でさっきと反対の事を言ってるだなんてざらにある。
もしかしたら周りの子供は感情や理論を司る脳の部分になんらかの乱数だとかを持っていて、私がそれを持っていない欠陥品なのかとも思った。けれど違った。彼らの理論を簡易化して、数式化してあらゆる公式を当てはめてもそこには何にも残らなかった。
その時に理解した。周りの奴らこそが欠陥品なのだと。彼らは何の理論も持っていなのだ。因果関係を理解できないのだ。
それどころか大人ですら表面上取り繕っているだけで結果は子供たちと何にも変わりはしなかった。何て有様だ。なんでこの程度のことが分からないのだ。
正直私は失望せざるを得なかった。
だから、探してみた。この欠陥品ばかりの世界で、私のような正常な人間かもしくは私ですら追いつけない何かを持っている人間を。
国家のデータベースに侵入して、何かしら彼らの目線から逸脱した人間を探した。まるで障子の様なファイアウォールにも失望したが、それ以上にそんな人間がどこにもいないことに何よりも失望した。私はこの欠陥品だらけの世界でただ一人で生きていかねばならないのだ。なんという孤独であろうか。
けれど世界はそう悪いものでもなかった。あるいはこう言うべきなのかな?神は私を見捨てていなかった、と。
何せ探すまでもなく、すぐ傍に逸脱者はいたからだ。それも
一人は織斑千冬、つまりちーちゃん!彼女は確かに他の人間と変わらない欠陥品の脳みそであった。しかしその身体性能、肉体スペックは常に最良のスペックを発揮できる私を優に超えている。
どう見ても私の様に常に全身の筋肉に適切な量の酸素と栄養素を届けている訳ではなかった。また特別優れた情報処理用のOSを組んで脊髄反射による自動反射ができる様にしている訳でもないのだ。
けれどちーちゃんは私以上に力持ちで動きに無駄が無くて反射神経が早い。人類の限界点を超えているのは間違いなかった。
そして、もう一人尾宮次郎、だからじーくん!
彼は理解できない。彼もちーちゃんと同じく欠陥品の脳みそだ。でも普通の人間の肉体しか持っていないし、特にこれといった特徴もない。
でも私の第六感が告げているのだ。彼は私以上の何かを持っていると。けれどそれが何かが理解できないのだ。
この私の観察眼と分析力でも違和感を感じる事しか出来なかった。だからこそ非常に癪だったけども、私は自身の第六感を信じてじーくんと一緒にいる。勘だなんてこんなもの情報を全て処理しきれない欠陥品だけの物だと思っていたのに。
でも本当に二人がいて良かった。彼らがいなかったら私はこの世界を孤独に生きることになっていただろう。
勿論箒ちゃんとかいっくんもいるけど、彼らは欠陥品だしね。同じ世界は生きられないもん。
☆
私はその日とてもウキウキしていた。
何故ならばついに量子変換収納装置が完成したのだ!これで宇宙開発において一番大変な大規模質量の打ち上げによる経済的、物質的問題を解決できる。
間違いなく宇宙開拓の第一歩になるだろう。それが嬉しくて、そして早く二人に自慢したくてワクワクしているのだ。
全く意味のない授業を聞き流しながら、放課後を待つ。全く欠陥品共は何でこんな真似をするんだ?こんなの教えてもらうまでもなく数分考えれば分かるだろうに。
わざわざこれ程の時間を掛けなければ理解できないなんて冗談にも程がある。少し賢い猿じゃないか、こんなもの。
次の装置の設計を考えながら待つこと数時間。やっと放課後になった。
すぐに二人を連れて裏山にある秘密基地に行った。
「で、どうしたんだ、束?そんなに機嫌を良くして見せたいものって」
ちーちゃんがどこか呆れた様子で聞いてくる。
確かに浮かれているし、機嫌もいい。自覚はきちんとある。でも興奮は冷めやらないのだ。
「ふふん!やっと初めの装置が完成したんだ!
良い?よーく見ててね?目を凝らしててね?」
「分かった分かった。見ててやるから早くしろ」
「うん!」
右手を突き出す。思考制御用のスイッチを入れる。
量子変換を解除して、右手にお菓子を出現させる。うまい棒が3本だ。
ちなみにコンポタ味である。王道こそが一番なんだよ。異論は認めない。
「なっ!!」
ちーちゃんは目を見開いて驚いていた。ふふーん!!
どう!?すごいでしょ?
半面じーくんはほほーと感心している。
あれ?もっと驚くかと思ったんだけど?
なんか反応がかなり薄い様な・・・。
「これ収納魔法を科学で再現したの?やっぱ束は頭がいいなー」
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・??
魔法?え、ちょっと待って。ま、魔法?
魔法ってあの魔法だよね?どういうこと?
この私が言葉を理解出来ない。いや言ってる内容は分かるんだけどもさ・・・・・。
「魔法って何それ!!!?????」
思わず大声が漏れる。そのままじーくんの肩を掴んでがくがくと揺らす。
そんなもの初めて聞いた。一切想像がつかない。
私の中で何かに火が付いた気がした。気になる!とっても気になる!
そこは未知があるのだろうか?宇宙の果ての様に、まだ誰も知らない何かがあるのだろうか?
見たい!とても見てみたい!
お願いしたらあっさりじーくんは魔法を見せてくれた。
何もない虚空から様々な物が出てくる。漫画やお菓子といった物から、明らかにどこにも隠しておけないような大きな像や車、何かの機械まで。
本当にどこからともなく、だ。
もう一度お願いして様々な観測機を付けた上でもう一度物質を出し入れしてもらった。
その結果分かったのは、いきなり空間が湾曲してどこか別の空間と引っ付いたということだけ。決して量子変換などではなかった。
鳥肌が立って、全身がぞくぞくとする。明らかに現状の物理にケンカを売っている代物だ。
だって空間の湾曲という現象
これだけでも異常なのにじーくんが認識した任意の物体以外は重なり合った空間を超えて異空間に行かないのだ。空間を埋め尽くす気体も、仕舞う間ずっと触れていた私の手すらも何にも触れることは無かった。
何もかもが異常だった。当然の様に物理法則が働いていない。
なんて滅茶苦茶。なんて出鱈目。
歓喜の余り笑い声が止まらない。
知りたい。知りたい知りたい知りたい知りたい知りたい・・・・・!!!
ムクムクと心の中で知的欲求が芽を出して急速に育っていくのが分かる。
魔法って何なの?一体どういう理論で動いているの?一体どんなことが出来るの?さっきの空間湾曲はISに応用できるの?
もっともっと疑問と欲求が湧いてくる。
「お願い!教えてじーくん!知りたくてもう堪らないんだ!」
初めて私が他人に教えを請うた。でもそんなことどうでもいい。
とにかく魔法に一瞬で私は魅せられた。
けれどじーくんの一言は私を打ち砕いた。
「え?魔法に理論なんてないよ?
全く束は馬鹿だなぁ。こんな無茶苦茶な力に理論なんて通用する訳ないじゃんか。
いいか?魔法ってのはな?
なんかすごい力だ!!」
「・・・・・え?
じゃ、じゃあ!どうやって魔法を使ってるの?」
「ふふふ・・・・、勘だ」
じーくんがドヤ顔で告げる。途方もない疲労感と絶望感が私を襲う。
勘って・・・、勘って何だよおおおおおぉぉぉ!!!!!
本当にふざけないでよ!?ここまで頑張った束さんの努力の結晶と同じものかそれ以上の物をすごい力の一言で済ませないでよ!!
てかここまで意味の分からない物を適当に使っていいの!?そのすごい力のことについてなんで興味が湧かないの!?
そもそもなんで使ってるくせに何も理解できないの!?
あああ、腹が立つけど仕方がない。じーくんには悪いが頭は欠陥品でしかないのだ。
代わりに私が調べるしかないか。
「じゃあじーくん魔法の使い方を教えてよ?」
「次郎私も頼む。正直興味が出てきた」
ちーちゃんも少し顔を赤くしてお願いしてた。そんなに恥ずかしがることは無いと思うけども。
間違いなく現行技術を凌駕する物なんだし、それを取得しようとするのは当然の事じゃん。
けれど希望はあっけなく打ち捨てられる。
「ん?だって二人とも魔法使う素質ないし無理だよ。ていうか世界でも魔法使えるの多分俺ぐらいだし。
まあ世界中探して運よく使える人が一人か二人居るかどうかくらいじゃない?」
むきゃあああああ!!!!!
これもダメなのか!!むぎぎぎぎ・・・・。
奥歯が強く噛み締めすぎたせいでギリギリとなってる。気になるのに、すごく興味を引かれるものが目の前に落ちてるのに・・・・。
こうなれば仕方がないか、私が一から調べるしかない。
「じゃあ、じーくん!実験対象になって色々と調べさせて!!」
じーくんの拒否権は認めない。
何が何でも調べさせてもらうからね♡
☆
━━あっさりと約2か月が経った。
色々と基礎的なことを徹底的に調べ上げた結果、分かったのは魔法が一切の物理法則に影響を受けないことだけ。
任意の物理法則だけに影響を与えることが出来て、それがどんなに他の物理法則を逸脱していようとも関係なく発動するのだ。
本当におとぎ話のような魔法そのままだ。
けれど、何かしらの法則性はあるに違いない。
一定の手順を踏めば同じように魔法は発動するとじーくんは言っていた。
つまるところ変数を決定すれば一定の答えが出るということ。ならば魔法は必ず式で表せるはずなのだ。
━━そのまま約3か月、計5か月が経った。
結論から言おう。魔法の解析は無理だ。諦めるしかないという結論に至った。
成程確かにじーくんの言う通りだ。こんな滅茶苦茶な物に理論なんて通じる訳がない。
このまま研究を進めて式で表せたとしよう。それで計算のできない無意味な式が一つ出来上るだけだ。
もしこの魔法を式にしようとすれば、破綻した理論を元に理論を組まなければいけないだろう。現実世界での起こるバグを式でプログラムするような物のかもしれない。
これはそうだな。現状の数学は全て1+1=2という式を基準に形作られているが、そこに1+1=1という計算式を無理やりはめ込むような物なのだ。
もっと言えば実数の性質をもった虚数であり、有限の個数で表せる無理数であり、そもそもが数字ですらない訳の分からない式だ。
どこまでも矛盾していながら破綻しておらず、この世に有らざる物の癖に全ての物質の性質を兼ね備えるそれ。
本当に滅茶苦茶がすぎる。
それともあるいはこう言い換えようか?何も知らない無知な子供の思考エンジンだと。どう見ても矛盾とバグだらけ、正しい式なんて一つもなく、同じ式でも片方は正解でもう片方は間違っていたりする。けれどもその式は成立するし、プログラムは正常に起動するのだ。
本当に、じーくんのそれは魔法であるとしか言いようがない。・・・私の完敗だ。
もはやこれ以上、魔法について分かることも得ることもないだろう。
非常に悔しかった。地団太を踏んで暴れまわりたい。大声をあげてこの胸に燻る思いを物にぶつけてしまいたい。
でもまだ負けたわけじゃない。私が魔法を覚えられず理解できなくても魔法を超えられない訳じゃない。
私はISでじーくんを超えるんだ!
☆
「じーくん、じーくん!!これ見て!!」
束が嬉しそうに謎の機械を見せてくる。なんかまたすごい機械なんだろうな。
ほんと頭いいよなー、こいつ。
「で?今度は何作ったんだ?」
「ふふふ、なんとその名もシールドバリアーだよ!!
どんな攻撃を受けても不可視のシールドで受け切っちゃうんだ!!」
すごい。つまるところ電気がエネルギーのシールド魔法か。
はえー、ほんと意味わからん物をぽんぽんと作るなぁ。さすがは束さんだぁ!
「その上、絶対防御っていってね?シールドバリアーが破壊されても搭乗者のダメージを肩代わりするシステムもあるんだ!
この二つで余程の集中砲火を食らったり、隕石の雨の中にでも突っ込まない限り傷一つ付かないよ!
まあ万が一傷ついても搭乗者の生態維持機能まで付けてるからね。絶対に安全なんだよ!」
しゅ、しゅごいいいいいい。
え、それめっちゃすごくない?そりゃあ束も喜ぶよな。
あれだよ、あれ。最早ノーベル賞物だぜ?
いやほんとすごいわ。
「だって、ほとんどアヴァロンみたいな物だもんなぁ」
束の笑顔が固まった。
びしりと氷の様に、一切の表情筋が動かなくなった。ちょっと怖い。
「あ、アヴァロン?ねえ、じーくんそれ一体どんなものなの?」
何故か固まったままの笑顔の束が、おずおずと聞いてくる。
うん?もしかしてアーサー王伝説とか好みだったのか?
分かるよ。かっこいいよね、アーサー王。
せっかく持ってるんだし、見せてあげよう!
「そう!これこそ最強のエクスカリバーの鞘、アヴァロンだ!」
そう言って王の財宝(増量ver)からアヴァロンを取り出して束に渡してあげる。いやー、やっぱかっこいいね。
きちんと効果だって説明してあげよう。
使用者を異界に隔離して6次元までのあらゆる物理干渉、魔法魔術異能を防げる上に傷ついても一瞬で全快させる最強の守り。例え世界を破壊し、再生する一撃ですら破れないのだ。
ふふ、どうだ?正しくアーサー王に相応しい最強の鞘だろ?
束は顔どころか体まで固まったままだった。そんなに感激してるのかな?
その気持ちはとっても分かるぞ。でもアヴァロンも綺麗だけどエクスカリバーとかこれ以上に綺麗なんだぜ?
どう見てみたい?
「うわあああああああああああああん!!!!!!」
束は泣いて走っていった。ありゃりゃ。まだエクスカリバー見せてあげてないんだけども。
それにアヴァロンも結構貴重なんだが・・・。まああんだけアーサー王が好きならばちょっとの間貸してやるか。
☆
「じーくん!これ見て!」
前回から数か月経って、また束がよく分からない機械を持ってきた。
多分これもすんごい奴なんだろうな。
てかほんとこいつ頭賢すぎるだろ。アインシュタイン超えたんじゃね?
「これね?PICって言って慣性制御システムなんだよ!!
どんだけ高速で動いてる状態から急停止しても人体に何の影響も与えないんだ!」
すげええええ!!!!
え?慣性とか制御できんの!?それがそもそもの驚きなんだけども。
しかもそれを無くすことまで出来るとか束さん魔法使いか何かなの?
でもこれ凄い便利だよなぁ。
例えば俺とかが超高速移動してる時とか自身に強化魔法かけて無理やり耐えてるけどそういうのが必要なくなるんだろ?
あれダメージはないけど、内臓が揺れて気持ち悪いんだよな。
やべぇ、この機械めっちゃ欲しい。
「という訳で一個譲ってくれない?
最近それが嫌で一々転移魔法使ってるんだけど、これが中々面倒くさくて」
束の顔が一瞬また硬直しかけたが、すぐに力が抜ける。
「うん、いーよ!・・・・・・そうだよね、異空間操作ができるならそりゃあまあ転移くらい出来るよね。
高速で移動する必要がそもそもないよね・・・・。
そうだ!ちなみにじーくん、どのくらいの距離まで転移できるの?」
何か束が気付いたように問いかけてくる。
ん?もしかしてどこかに行きたいのかな?よし、任せなさい。
俺は太陽系の中ならば数十秒、天の川銀河系を超えるとなると数分は調整が必要になるくらいかな。
地球上ならばどこでも1秒すらかからずに飛んでいけるぞ!
だから遠慮せず行きたい所があるなら言ってくれたら送っていってやるぜ?帰りも電話してくれれば迎えに行くし。
でも面白そうなとこだったら俺も一緒に行っていい?
すると何故か「世間はそんなに甘くないいいぃぃ」だなんて泣き叫びながら束はまた走り去ってしまった。
あれ?むしろ俺が思いっきり甘やかしてなかったか、今?どこでも旅行連れて行ってあげるって言ったじゃんか。
ううむ、天才の考えることはよく分からんな。
☆
「じーくん!今日こそはいけるよ!さあこれを見るんだ!」
そう言って束が持ってきたのは・・・・丸い機械の玉?
「これはね?ISのコアなんだよ。勿論機能はまだほとんど搭載してないんだけど、ついにAIが完成したんだ!
なんと自我を持ってるんだよ!!」
ほぎゃああああ!!!
すごい、やばい、すごい。キズ○アイとかミラ○アカリが真っ青になってしまうで。
それこそ天下のグーグルがおkじゃなくなるレベルの革命やんか・・・・・。
「今はまだ何の知識もない子供なんだけどもその内人類の新しい友達になるときが来るはずだよ!!」
束の目がキラキラと輝いている。すごい、もはやそこまで行ったならばSFの世界じゃないか。
つまりあれだろ?お星さま大戦争のR2D2君が出来るんだろ?しゅごいいいい。
いや、待てよ?人型でもいいのか。あのアンドロイドVSドロイド君大戦の2BちゃんとかA2ちゃんとかもありなのか!!
こ、これは素晴らしすぎる技術だ。
本当に束様には頭が上がらないな・・・。ぜひとも2Bちゃんの建造をお願いしなければ・・・。
って、何故か束様が身構えてらっしゃる?
「ねえ、じーくんも人工知能くらい作れるんでしょ?」
「いや、さすがに無理だよ」
そういうと束は目を見開いて、ほんと?って何度も訪ねて来るのだった。
あれ?そんな驚くこと?
「別に魔法も万能じゃないからね?
魔法で出来るのは人工的に魂を作って物に込めることまでだね。意識とか精神そのものだけを作るのはちょっと無理かな」
ぶっちゃけ魔法的な要素から考えると魂と意識、あるいは精神という物はほとんど同義とされているのだ。
それこそコーンスープにおいて、皿ごと含めるか含めないかという程度の違いでしかない。
魂という器に、意識や精神が入っているのだけれどこの二つは基本切って離せないので分ける意味がそもそもないのだ。
だからこそ、束の様に電子世界という本来なら入れることの出来ない器に合わせて中身を作り上げることは出来ない。
まあする意味がないからというのが大きい訳だが。そんなことせずとも器を用意した方が早いし。
そう説明するとむぐぐ・・・といった感じで束は唸り始める。
「むううう、むしろ魂の方がレベル高いじゃん・・・・・。
ちくしょううう、これで勝ったと思うなよおおおおお!!でも一矢報いた気がするしちょっと嬉しいぞおおおお!!」
そう言って束はまたまた走り去っていくのだった。
・・・・・なんかよく分からんが元気そうだしいいか。
あ、ちなみに人工的な魂で2Bちゃんを作らないのか?っていう疑問があるだろう。
けれど俺は絶対にそんなことを認めない。何故ならそれじゃあアンドロイドじゃなくなっちゃうじゃん?彼女は100%AIじゃないといけないじゃん?
ここは絶対に譲れない、譲ってはいけない場所である。
だから束さん早く2B作っておくれ。
☆
「じーくん!遂に完成したよ!ISが完成したんだよ!」
束が過去最高レベルのうっきうきぷりでやって来た。ISってなんじゃらほい。
まーた凄いものができたのか?
「そうだよ!今までの技術を全部合体させて、さらに他にも色々とした技術を詰め込んだんだよ!」
おほおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!????
超合体だと!?あの一個だけでも訳の分からない超技術を、全て盛り合わせパックだと!?
しゅごしゅぎない?やばしゅぎない?
「ふふふ、このISはね?パワードスーツとロボの中間みたいな物なんだ。
ISさえあれば自由に宇宙での活動を担えるんだよ!
今はまだ宇宙服を着てぷかぷか浮かんでるだけでしょ?ISがあれば自由に宇宙空間を飛び回れるんだ!
ハイパーセンサーではるか遠くを観測して、量子変換で鉱石を採取して、慣性制御で高速で宇宙を動き回れるんだ!
これがあれば人は宇宙で生きていけるんだ!!」
ほげえええええ!!!
ロマンだ!なんてロマンなんだ!!
きっと束には、心にでっかいチ○コがあるに違いない・・・。
こんなの男なら絶対に憧れちゃうよ。ロマンの塊だよぉ。
素晴らしすぎる・・・。最早束を崇拝するしかあるめぇよ・・・・。
うおおおおお、俺乗りたい!めっちゃ乗りたい!!
乗らせてください!束様!
「あ、ごめん。その、IS調整ミスって男の人だと乗れないんだ」
それはないですよ、束さん・・・・。
そりゃあないですよおおおおおぉぉぉぉ!!!!!
心が闇に沈んでいく。そこでお預けは駄目でしょう、束さん。
でも見たい・・・。
リアルロボがスクーターを吹かしながら空を飛んで行くのをこの目に焼き付けたい。真っ暗な宇宙空間を背景に進んでいく所とか超激写したい。
見てぇよぉ、めっちゃ見てみたいよぉ・・・・。
よし、見よう!!
自身が乗れないというのは身が引き裂かれる思いだが、その内束様がなんとかしてくれるだろう。駄目ならTS薬飲んででも乗ってやる。
しかし今はどうでもいいのだ。とにかく一刻でも早くISが見たいんだ。
よし、束さんや。今すぐISを装着するんだ。
そんで宇宙に行くぞおおおおお!!!!
うおおおおおおおおおお!!!!!
変!身!
オリジナルライダースーツが体の周りを覆う。
これであらゆる環境に適応できるからな。宇宙での真空とか太陽風とかはもう怖くもなんともないぜ!
さあ行くぞ束ー!!
「え、何そのパワードスーツ・・・・」
束さんはポカンと口を開けたまま固まっている。どうした!?
早く宇宙に行くぞ。ISを展開するんだ!
「え?じーくんそんなことも出来るの?
元々似たようなもの持ってたのにあんなにもISにはしゃいでたの?」
「違う!それは違うぞ、束!」
「え、うん・・・。・・・・何が?」
「何ってお前簡単なことじゃないか。
全く、・・・・これは変身スーツでISはロボだろ??」
「」
こんな簡単なことすら分からないだなんて。束はIQは高いけどどこか抜けてるなぁ。
すると何故かまたまたさらに「じーくんのばかああぁぁ」なんて叫びながら涙目で束が走り去っていった。
うん。束の言う通り馬鹿だけど?
でもISが見たいので束を捕まえる。
宇宙に行くぞおおおおおおおおおおおお、束えええええええ!!!