狭間に生きる   作:神話好き

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十話(ザウデ不落宮~ギルドの巣窟ダングレスト)

アスピオでの準備は滞りなく終わり、後は世界の行く末を。もっと言えばユーリたちが『ザウデ不落宮』の発動を阻止できるのか、それともアレクセイによって災厄が再び星を喰らうのか、その結果を待っていた。もしも後者ならば、ここアスピオに眠る『タルカロン』を目覚めさせ、僕は全ての人間の命を以て『星喰み』を打倒する。そう決めた。

「永遠など唾棄すべき妄言であるべきだ。どうか憧れてなどくれるなよ、盟主殿」

「愚問。我は永きに渡りその苦しみを目の当たりにしてきた。自ら望むなど、ありえぬ」

「自分の為なら、そうだろうさ」

海原を一望できる絶壁。『ザウデ不落宮』を襲撃した、撃退された際にフェローが負った傷は深く、僕はその治療に勤しんでいた。

「済まない。我が約束がそなたを縛ることになろうとは」

「盟主殿の判断に間違いはない。ベリウスもエルシフルも人との共存を謳ったんだから」

「我ら始祖の隷長の務めは世界を守護する事。災厄を招いておきながら、間違いがないなどとは言えぬ」

「……もしもの時は僕が全てに片をつける。歯がゆいのは分かるが、暫くは安静にしてるといい」

もしもの時は。あえてそう口にしたが、仄かな確信があった。千年前に目を背けた現実と、向き合うことになるという確信が。

「それに、いい機会でもある。このままいけば、遅かれ早かれ第二の『星喰み』が現れる。その前に人と始祖の隷長は決着を着ける必要があるから」

「ならば、相対する時に備えねばならんか……。もはや同胞も数を減らし、有力な者は僅かしかおらん。始祖の隷長は滅ぼされるが定めなのかもしれん」

「盟主殿に大見得を切った青年ならば、そんなものはクソくらえだ、と言うだろうな」

疲れ切ってしまったようなフェローを見ながら、ほんの数ヶ月の出来事に思いを馳せる。この短期間に、今までの生涯で最も多くの事が変化した。その総仕上げでもある戦いは、すでに佳境に入っていることだろう。

「青年と姫は、世界の命運を背負っての悪と戦う。これが勧善懲悪の冒険譚ならば、大悪党に僕はなろう。なにせ、人を滅ぼそうとしてるんだ、それくらいで丁度いい」

僕の独白と同時に、『ザウデ不落宮』から放たれた極大の閃光が天を貫く。ああ、やはりそうなってしまったか。

「盟主殿。僕はもう行く。やることが山積みなんだ」

「世界を頼む、トート。『星喰み』の前にして、我に出来ることは無いのだ……」

絞り出したようなフェローの声をしっかりと受け止め、僕は体を変異させると『ザウデ不落宮』へと向けて移動を開始した。

「宣戦布告の時は来た」

 

 

・・・

「な、なによ、あれ!?」

アレクセイの発動させた『ザウデ不落宮』は空を割り、禍々しい何かを呼び寄せた。色も形も雰囲気も、その全てが生理的な嫌悪感を覚えるほどに醜悪で、その場の誰もがあれは良くないものだと一瞬で理解させられた。

「どこかで見たことあるのじゃ……」

「あれは……壁画の……」

「災厄!?」

「『星喰み』か!!」

忌むべき名前が響き渡り、呆然自失としていたアレクセイが壊れたような笑い声をあげる。

「災厄は打ち砕かれてなどいなかった……。よりにもよって私の手でか!傑作だ。人を道化呼ばわりしてきた私こそが、誰よりも上手く道化を演じていたとは!十年を掛けて、ようやくたどり着いた先が破滅!これが、笑わずにいられるか!ははははははは!」

「ど、どういうこと!?」

「……旦那は満月の子の命を使っても『星喰み』を倒すことは出来なかったって言ってた。つまりは……」

「今まで、ザウデが封じてたっていうの!?」

「トート・アスクレピオスが忌避していたのは、『ザウデ不落宮』などではなかった……。スパイを送り込んでおきながら一向に行動を起こさないかったのは、私など最初から眼中になど入っていなかったからか……!」

哀れ。今のアレクセイはその一言に尽きるだろう。人類が繁栄するために、強大な力を求めた結果、手中に収めたのは確実な滅びなのだから。

「どこで間違えた……?十年前か?それとも千年も前に、人は誤ったのか……?我らは災厄の前で踊る虫けらに過ぎなかった!」

思考をそのまま羅列したかのような嘆きは、天空を総べる災厄の前に虚しく溶けた。もはや、満月の子などと言う問題ではない。今もゆっくりと脈動している『星喰み』は、そう遠くない未来に世界を等しく食らいつくすのだろう。しかし、それよりも恐れていたことが一つ。

「失敗、したんだろうねえ……」

「あんまり考えたくは無い話だけど、そう捉えるのが妥当でしょうね」

「トートが敵になるのかの……?」

「あの人は言った事は必ずやる人よ。心変わりや躊躇いは期待しないほうがいいでしょうね」

『星喰み』と同等の脅威について確認しながら、苦々しい顔をしているその時だった。急激な閉塞感が辺りを覆いつくし、体感する時間の流れが明らかに遅くなる。その場の全員の思考だけが引き延ばされ、呼吸もままならない状態に陥れたのは、ただ、彼がその場にいるだけでまき散らされる余波であった。人を殺せそうなほどの敵意などと言うが、これは別格だ。

「……僕はこれから、全人類の命を対価に『星喰み』を打ち滅ぼす」

優雅に舞い降りた異形。フレン以外は初めて見たが、それでもそれが誰なのかは一目で分かった。体が石のように固まっていなかったら、声を上げることが出来ただろうか。威圧で時の流れを狂わせるような埒外の怪物に対して、いったい、何を言えばいいというのだろう。

「当然、認められない事だろう。ならば僕を打ち滅ぼし、もう一つの方法を選べ。全ての魔導器を捨て、始祖の隷長を殺しつくし、その果てに正義があるというのなら、見事貫いて見せるがいい」

その宣言と共に、浮かぶ巨大な魔核へとトートの力が注入される。『星喰み』へ照準を合わせるためだ。封印を解いた時に放たれたのと遜色のない光線が発射され、『星喰み』の表面に壁画で見たのと同じ文字盤が顕れた。

「これで幾何かの時は稼げるだろう」

コツ、コツと一人の足音だけが辺りに響く。去ってしまうのを引き留めたいというのに、声を上げることが出来ない。

「次、相見える時は敵としてだ」

「待っ―――」

ようやく声を発することが出来た時にはすでにトートは去った後。その声すらも、崩落する『ザウデ不落宮』にかき消されてしまった。

「……冗談じゃないっての」

災厄を打倒する術を持った賢者が明確に敵に回った。その強大さと意思に、ユーリは人知れず眉根を寄せて、そう呟いた。

 

○○○

人同士で争っている場合ではない。そう考えたのは、何もユーリたちだけではなかった。ギルドの幹部や、騎士団の一部の人間。そして、一番多かったのは以外にもアスピオの魔導士連中だった。リタがアスピオで、この旅の出来事を公表すると、その全員が文句ひとつ言わずに協力に応じたのだ。

「しかし、意外だな。アスピオの連中ってのは、もっと秘密主義で頭でっかちな奴らだとばかり思ってたんだけど」

「確かに、ここに住んでるような魔導士はプライドが高くて、研究以外に興味ないのが殆どだわ」

「なら、どうしてなんです?」

「学長がそう言ったからよ」

それが常識、とばかりに言い切ったリタの言葉。先の言葉と矛盾しているような気がするが……。そういえば、ユーリたちが最初にアスピオに来たときも、トートの本を踏まれて本気で怒っていたか。

「身もふたもない言い方すれば、ここは本来みんなが好き勝手に研究して、そのお零れを帝国が軍事に転用する。そんな場所よ。自分に絶対の自信が無きゃ、アスピオでやっていくなんて夢のまた夢だから」

「だろうね……」

「…………」

余計なことを口走ったカロルを蹴り飛ばし、ついでに一冊の本を手元に置くと、何事もなかったかのように話の続きに戻る。

「アスピオにはそもそも学長だなんて役職存在しないの。私たちが勝手に呼んでるだけ」

「おいおい、ここの連中は自己顕示欲の塊だって話じゃなかったのか?」

「違うわ。現状を正しく認識するための話よ。あの人の前に立つなら、無知は致命的になるから」

ぱらぱらと捲っていた本を、あるページに固定し、それを見せつけるように机の上に置く。古めかしい装丁の本だが、術の心得がある人は術式の記述を、無い人は挿絵を見ておおよその意味を理解する。

「さっき、勇士で学長の家に特攻掛けて拾ってきた本よ。明記されている日付けは約千年前。今の私たちが使ってる術式だって、いろんな人が改良に改良を重ねた結晶だっていうのに、あの人はたった一人で練り上げた。それから千年。そりゃ時間も止めれるようになるってもんでしょ。実際、それに似たような術はおっさんも使えるんだし」

「でも、微々たるもんよ。とてもあの旦那に対抗できるとは思えないんだけど……」

「そのためにこれが必要なんですよね」

「りんご頭……?」

ローブからは水滴をしたたらせ、息も絶え絶えにリタの家に入ってきたのは、ウィチルだった。その手には半透明な結晶がある。

「それ、ひょっとして……」

「ザウデの魔核よ。破片しか見つからなかったのは残念だけど、これなら……」

「一応、術式の記述に破損は見られませんでした。とはいえ、理解できた範囲での話ですけど……。パッと見ただけで、あやうく脳が焼けつきそうになったのなんて初めての体験でしたよ」

「ようやく、光明が見えてきたってところかしら」

ウィチルから受け取った魔核に刻まれた術式を解読しながら、トートの行使した力に対する抵抗策を組み上げていく。

「一瞬でこれを書き込んだ……?。確実になんかやってるわね」

「僕もそう思います。恐らく、処理能力を補佐、または増強するような何かを……」

「よし。そうと決まれば、やることは決まったも同然ね」

「リ、リタ……?」

話に置いてきぼりを喰らっていた一同を代表して、エステルが困惑の声を上げる。

「私たちが今からやるべきことは、知る事よ。なぜ、学長が人を犠牲にする方法を取ろうとしているのか。あの人が他にどんなことが出来るのか。僅かな痕跡もかき集めて、真にトートと言う存在を理解するために―――」

再びウィチルの手に魔核を戻し、荷物を片手にドアを開け放つ。

「さあ、世界を回るわよ。たった一人を知るために」

 

 

・・・

ただ、守りたいと思った。守らなくてはならないと思った。信念のもとに生きて、その命を散らした僕の家族を、僕のようにしてはいけないと思ったのだ。

「懐かしいな。ここに来たのはいつのことだったか」

場所は、レレウィーゼ古仙洞。かつての記憶を思い起こしながら、物言わぬベリウスの聖核に優しく語りかけている。

「……僕は僕が大嫌いだ。達観してるようで何も知らない。全てを諦めたようでいて、その主張がコロッと変わる。なまじ力を持っていて、さらには不死と来た」

僕だけが輪廻を外れ、因果が成り立たない存在。生まれてから死に向かうことのないのは、最初から死んでいるということだから。僕にとって生と死は同義。自らの尾を飲み込む蛇のごとく、スタートとゴールに意味を見出すことが出来ない。この悪辣で優しい世界において、最も醜悪な何か。ほら、碌でもないだろう。

「少しばかり変わったと思ったが自虐の癖は治らなかったのか、トート」

「こればっかりは、染み付きすぎてどうにもね」

濃いエアルがふわふわと漂い、幻想的な雰囲気を作り出している中、洞窟の入り口から一組の男女がこちらへと歩いてきた。言うまでもなく、デュークとクロームだ。

「ここから先の争いは、僕の個人の問題だ。何も、着いてこなくてもいいんだぞ」

「お前がやらなければ、私がその決断を下していた。遅いか早いかの違いに過ぎない」

「そういうことです。我が父に比べれば足手まといかもしれませんが、どうか道を共にさせて下さい」

「……そうだな。有力な始祖の隷長である時点で、この先の争いに巻き込まれるのは確定事項と言っていい。クローム、フェロー、ベリウス、後は誰かのをもう一つ。計四つの聖核を用いて世界を救う。それが人の取るであろう道だから」

僕は、懐から『トートの書』を取り出し、ヨームゲンにあるテーブルと椅子を模したものを作り上げると、説明がしやすいように座るよう促す。

「『星喰み』はエアルでは倒せない。ならばエアルでないものを使えばいい。その点は僕も人も同じ。異なるのはその過程なんだ」

「人の命か始祖の隷長の命。人の天秤は、間違いなく人に傾くだろう。そして――」

「始祖の隷長の天秤もまた、人に傾きます。我らは世界の為ならば、この命を差し出すことを厭わないでしょうから」

「そう。フェローを始めとした始祖の隷長は、心から世界を愛している。自らのために命を散らすだろうね。でも、問題はその後だ」

自分でも分かるほどに嫌悪に顔が歪むのが分かる。

「聖核をエアルクレーネを用いて、その新たなエネルギーを生み出す時に副産物が出来る。現象の化身とでも言えるかな。使用した聖核に基づき、意思を持った理が生まれる」

「意思を持った理?」

「古代ゲライオス語で言うところの精霊が一番近いか。物質の精髄を司る存在と言う意味を持つ言葉だ」

「しかし。それは一概に悪いこととは言えないのでは?」

「確かに、進化と呼べるだろう。しかし、見方を変えれば、それは生き物ではなくなるということ」

「…………」

すでに察したようなデュークが、ほんの少しだけ顔を強張らせる。

「現象に成る。それは生の放棄と同時に死の放棄でもある。僕にはそれが許せなかった。数えきれない生命の輝くこの世界において、他でもない僕だけが持つ権利」

「なるほど……確かに、お前だけがそれを選択する権利を持っているだろう。ならば、友である私はあえて聞こう。お前はそれでいいのか、と」

「……選択はすでに済ませた。僕はお前たちの生涯を傍らで見ていたいんだ。時折、僕に構ってくるような変わり者がいて、そんなことを何度も何度も繰り返す。それが堪らなく心を温めてくれるから」

ああ、本当に僕にはもったいない友だ。言葉少なで、堅物で、それでも言わなければならない言葉は伝わってくる。願わくば、最期の時までこのままの関係で入れますように。

 

 

・・・

新たにフレンも同行することになり、アスピオ以外で唯一痕跡が残っていそうなダングレストを調べることにした。というのは建前で、実際は『翠玉の碑文』の図書館が目的な訳だが。

「にしても、何回見てもすげえな、ここは」

「辺り一面金ぴかで目が眩みそうなのじゃ」

きょろきょろと辺りを見回すユーリたちとは別に、ドアが開くなり華麗なスタートダッシュを決めた奴がいた。知識欲のままに黄金の本を積み上げていった。リタの周りに建立された黄金の塔を、レイヴンが顔を青くしながら支えている。崩せば、人生何回分かタダ働きしなければならなくなるだろう。

「よく見ると、いろんな本があるね」

「料理本、軍略本、童話、小説、設計図。よく分からないものも多いけど、さながら星の図書館ってところかしら」

「フレン、見て下さい!まだ出回っていない本が置いてあります!」

「良かったですね、エステリーゼ様」

「宝の地図はないのかのう!」

「お前ら、ここに来た目的忘れてるだろ」

各々物色を始め、収拾がつかなくなってきたそんな時、エステルが適当に手にした本の裏側にスイッチを見つけた。

「……?なんです、これ?」

「あっ!?」

少し、目を放していたフレンは止める事を叶わず。無垢なエステルは躊躇わずにそのスイッチを押してしまったのだ。無論、罠である。バルボスの件でここに来たときに仕掛けられた、対リタ用の凶悪トラップ。あの時は日の目を見ることなく終わったそれが、何の因果か今その猛威を振るう。

「あれは……魔導器?でも、なんの魔導器でしょうか」

咄嗟にエステルを庇う形で前に出たフレンの目の前に、あまり見た事のないタイプの魔導器が表れた。一見して害はなさそうだが、油断は出来ない。仕掛けた相手は、かの魔導王なのだから。

「ちょっと、ちょっと!いったい何の騒ぎよ。おちおち読書もしてらんないじゃないの」

「リタ、丁度良かった。あれが何なのか分かりますか?」

「録音魔導器でしょ。数はあんまりない貴重品だけど、特別な物じゃないわ。それにしても―――」

「『今日、ようやくアスピオに到着した。なんでも、学長とか言ってふんぞり返ってる奴がいるみたいで気に入らないけど、どうせたいしたことないに決まってるわ』」

「!?」

突如流れ出したトートの声に警戒を強めるが、暫くしてただ録音したものを再生しているだけだと気付き、構えを解く。リタ以外は。

「『今日、初めて負けた。大人にだって、私に敵うやつはいないと思ってたのに、あの怪物は余裕の表情で立ってた。いつかぶっ飛ばす。それよりもこの街、ネコがいないってどういうこと?今度、こっそり拾って来ようかしら』」

「あ、あ、あああ……」

「『今日、ネコ捕獲のついでにシゾンタニアの近くにある実験小屋にいると、来客があった。なんでも、エアルの異常について知りたいそうだ。寝ぼけ眼で対応していたら、ドアが開いて学長が入ってきた。この辺の魔物が凶暴化しているから、その注意喚起に来てくれたらしい。父親ってこんな感じなのかな?なんてね』」

誰一人口を開こうとしないのには、訳がある。なんと言えばいいのか分からないのだ。掛けた言葉全てが地雷になりかねない。

「『今日、新しい本を貸してもらった。少しは信頼してくれたの―――』」

「ファイヤーボール!ファイヤーボール!ファイヤーボール!」

「リ、リタ!その、なんていうか……何でもないです……」

「これは、えげつなさすぎる……。今まで見てきたトラップの中で、間違いなく一番凶悪よね」

リタが狂ったように火球をぶつけるも、その辺の対策は万全なようで、まったく止まる様子が見られない。

「意味不明な技術をこんなことに使うあたり、アスピオで崇められてるだけあるな」

「なんたって、レイヴンの友達だもんね……」

「ちょっと、少年。それどういうことよ」

「大丈夫です、シュヴァーン隊長。変人であろうとも、私は気にしません」

「……フレン君と嬢ちゃんが仲良いの、納得したわ」

真っ白に燃えつきそうなリタは暫くそっとしておいて、ユーリたちはトートの音読が終わるまでの間出来るだけ意識を逸らしておく為に、これからの方針について話をする事にした。

「次行くとしたら、ノードポリカか。んで、フェローに会ってヨームゲンって感じになる」

「フェロー……協力してくれるといいんだけれど」

「難しいでしょうね。皆の話から鑑みるに、始祖の隷長のために行動をしているトートを裏切るとは考えにくい。それが無くともアレクセイの件で、人に怒りを覚えていてもおかしくない」

「じゃあ、デュークは?はっきりと友達だって言ってたし、何か知ってるかもしれないよ」

「多分、あの二人……いや、クロームも入れて三人か。一緒に行動してると思うねえ。クロームなんて、旦那の事様付けで呼んでるみたいだし」

「……ったく、今は祈るしかねえか」

結局、当初の予定通りにするしかないという結論に至ろうとしたその時、エステルがパティの様子がおかしいことに気が付いた。そわそわと、言いたいことがあるけど言い出せない、そんな感じの表情で唸っている。

「パティ、どうしました?」

「……トートの友達はもう一人おるのじゃ」

「あら、ホントに?ドンにベリウス、デューク。よく聞く名前は出尽くしたと思ってたんだけど」

「初めて会った時に確かに言っていたからのう!間違いないのじゃ!」

興奮冷めやらぬまま、ぴょんぴょん飛び跳ねるパティ。

「それで、一体誰なんだ。俺たちも知ってる奴か?」

「もちろんじゃ!ここにいる全員が知っておる」

「全員が……?そんな人いたかしら」

旅を続けてきたメンバーだけならば分かるが、今この場にはフレンもいる。共通の知人と言うのはあまりいないはず。

「うむ。その名も、アイフリードじゃ!」

 




原作から少し外れました。

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