狭間に生きる   作:神話好き

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四話(VSバルボス~闘技場都市ノードポリカ)

「貴様がホワイトホースの切り札という訳か、魔導王」

「誰かの駒になったつもりはないがね」

バルボスの持つ剣を更に超える威圧感と圧迫感を放つ両腕をだらりと下げて、会話に応じる。きしきしと音を立てて機械と生物の中間のような腕が床に着くと、それだけで触れた部分が消滅する。

「お前の野望も野心もやり方も、僕は否定する気はないよ。どこまでも自分に忠実。実に人間らしい生き方だ」

「ならばなぜ、俺の前に立ちはだかる?」

「僕とあんたの闘争に、小難しい動機なんかいらないだろ。『翠玉の碑文』のボスとして、やられたらやり返す。それだけだ」

「違えねえ!アスピオの魔導王。頭でっかちの学者肌かと思ってたが、なかなかどうして面白えじゃねえか。ホワイトホースが気に入るのもよく分かる」

がはは。と豪気に笑うさまは、ドンと似通ったものを感じさせる。ドンとバルボス、二人の間に差はあれど、それはきっと僅差なのだ。野心と義そのどちらに惹かれる人が多かったか、要はそれだけの話。

「だからこそ、残念だ。貴様はここで死ぬ」

「こちらの台詞だ」

空気が張り詰め、バルボスの魔導器が轟音を上げたんのを合図に戦闘が始まる。

「まずは小手調べといこうじゃあねえか!」

こちら目掛けて飛来するエネルギーの塊。物に触れるまでは実態を持たない無敵の弾丸だ。しかし、そんな法則をこの『トリスメギストス』の前では容易く覆されてしまう。

「違うだろう。お前の力は、そんなおもちゃに左右されるものなのか?」

巨大なかぎ爪を横に一閃。目視すらギリギリの速度で行われたそれは、干渉不可の弾丸を何の問題もなくかき消した。

「なっ!?」

背後から驚きの声が上がる。武人からは無造作に振るった爪の速さに、魔導を知る者からは今起こった現象の理解不能さに、だ。

「エアルに干渉!?……いえ、術式に?どちらにせよ反則じゃない」

「……フレン」

「僕もかろうじては見えた。しかし、あれを剣で受けられるとも思えない」

羽虫を払うように不可視の弾丸を払った僕に対し、バルボスも一瞬眉を顰めたが、それだけだ。通用しないと分かると、魔導器を捨て、自前の大剣に持ち変える。

「……賢しい知恵と、魔導器で得る力など、紛い物にすぎん……か。所詮、最後に頼れるのは、己の力のみだったな。血沸き肉躍る、こんな気分は本当に久方ぶりだ!」

床が足の形に陥没するほどの強烈な踏込と共に、バルボスが迫る。放たれた袈裟切りを右爪で受け止め、その勢いで肩を入れて怯ませた。続けて空いている左爪を引き絞り、胸部を貫く軌道で繰り出すも、咄嗟に繰り出された前蹴りが僕の顎先を掠めていく。バルボスは残った四肢の内、自由な左手で顔面への一撃を狙うが、あえて一歩前に出て頬を裂かせる。そのまま前方に一回転するように倒れ込むと、背中から生える第三の手が、空中で自由の利かないバルボスを吹き飛ばす。どうにか自分で跳んでダメージを抑えたようだが、そう生易しい威力はしていない。

「化けもんが……!」

「その言葉は聞き飽きた」

手傷を負ったことを感じさせずに、再び踏み込んでくるバルボスは、その途中に投げ捨ててあった魔導器を拾い上げると、僕の喉元目掛けて投擲した。

「弾けろォ!」

撃墜しようと振り翳した爪があたる直前、魔導器は大爆発を起こし、黒い爆炎が煙幕のように広がる。先ほどの魔導器の軌道とぴったり同じ。襲い掛かる大剣を視認したときには、すでに目と鼻の先にまで迫っていた。普通ならば避けられないタイミング。あと数瞬の刹那には喉を貫き、勝ち誇ったバルボスがいるのだろう。そう、普通ならば。

「『トリスメギストス』」

命令と共に、背中から生えた第三の腕が床を砕き、アンカーのように自身を固定すると、ものすごい勢いで僕を引き寄せる。

「ちィっ!」

ほぼ床と並行になり、その真上には、攻撃を大きく外したバルボス。

「潰れろ」

両腕をしならせ、凶悪な両爪はバルボスを挟み込まんと躍動する。左右からの挟撃に対し、為す術もなくやられるような男でもなく、その手に持つ大剣を、今度こそ貫いてやるぞとばかりに、再三喉元を狙って投擲した。結果、片方の爪を防御に回さなくてはならなくなり、先の攻防の焼き直しのようにバルボスは傷を負いながらも距離をとった。

「次は僕の番だよな?」

仕返しだと言わんばかりに、第三の手をバネのように使って恐ろしい速度で跳びかかる。こちらの攻撃が当たる間際に、何処からともなく飛んできた銃弾のせいで、狙いが逸れてしまったが、持てる限り最高速で振るわれた爪は、薄皮一枚の接触だけで腕を一本もぎ取った。

「野郎ども!」

顔を歪めながらも、ひるまずに手下たちに号令を出す。自らの意思通り手足となり動くのならば、それは立派な武器だろう。達人が剣を振るうように、魔導士が魔術を行使するように、バルボスは統率を武器とする。

「まさか、文句はあるめえな?」

「そうだな。文句があるとすれば、最初からそうしろ、だ」

彼のその人生を象徴する忠実な手下たち。大剣などではない。『赤の絆傭兵団』こそがバルボスの持つ最大の武力と言っていいだろう。

「かかれ!」

その一言を境に一糸乱れぬ波状攻撃が僕へと襲い掛かる。一人を薙ぎ払うと、そのわずかな隙をついてもう一人が、銃弾を躱せば躱した先にはすでに照準が。一対一ならば、引き裂かれてそれで終わりになるだろう。そうさせないのは、偏に見事というしかない練度。騎士団のきっちりとした統率ともまた違う、荒くれ者同士の絆の為せるものだった。

「『赤の絆傭兵団』とはよく言ったもんだな。僕を相手取れるのは、正直驚嘆に値する」

「なら、そのまま死ね!」

合図もなしに波状攻撃が一斉に止み、見上げた空を覆い尽くすほどの魔術の群が浮かび上がる。

「時間稼ぎは終わりだ!いかに強大な魔導王といえど、この飽和攻撃からは逃れられねえだろう!」

流れ星のように、地水火風が押し寄せる。一部の隙間もなく、圧殺してやるぞと聞こえてくるようだ。だが――

「お前は王とは強大な力を持つ者、と解釈しているようだがそれは間違いだ」

ピタリ、と。時間が止まってしまったかのように、全ての魔術が停止した。

「バ、バカな!?これは!?」

「王とは、従える者のことを言う」

巨大なかぎ爪が付いた右腕を真上に掲げると、数多ある魔術が僕の意思に答えるように収束していく。

「『トリスメギストス』は僕が知覚している魔術を、意のままに操ることが出来る兵装。吸収、同化、消滅、そして奪取。例外なく、それが魔術であるのならば従える。それが僕が魔導王と呼ばれる所以だ」

千年の年月を超える研鑽の末に至った一つの境地。長くを生きることが出来ない人間にも、それを必要としない始祖の隷長にもたどり着くことが出来ない、僕だけの頂。

「我が身は創世の賢者にして月の現身。顕れるは五柱が一つ、偉大なる強さ。ここに帰依し奉る」

膨大な数の魔術が飲み込まれ、再構成されてゆく。天高く浮かぶのは、純然たる魔力の嵐。

「降神権能、コード・セト」

濃い、などと生温い表現では言い表せないほどの魔力の奔流がバルボスの誇る『赤の絆傭兵団』を真正面から打ち砕き、カルファロストをバルボスとその野望共々崩壊させていく。圧倒的な密度の嵐は、もはや質量を持っているに等しく、頬を軽く撫ぜるだけで鎌鼬のように肉を裂く。さながら、防ぐこともできない無数の剣をその身に受けるがごとく、巻き込まれた者から順にその身を削られていく。

「……悪くねえ気分だ」

微かに聞こえたそれが、バルボスの最期の言葉。抗うには強大すぎる暴風を前に、逃げる事だけは決してしない。意地でもあり、ほんの小さな、しかしそれはバルボスの根幹をなす矜持。どれだけみじめったらしく死のうとも、己を貫く。誰しもが少なからず持つそれだけを胸に、天災のごとき嵐に飲み込まれてその命を散らした。

「バルボス。誰が忘れようとも、僕はお前の事を覚えていよう」

術が収まり土煙が漂う中、たった一人残った僕は、噛みしめるようにそう呟いた。

 

○○○

一つの戦いは終わり、僕の術の余波で倒壊寸前だったガルファロストから脱出し、全員が大けがもなくダングレストまで帰還した。途中、隙あらば僕に対して治療を施そうとするエステリーゼのせいで、世界は人知れず危機に瀕したが、『トリスメギストス』を外し、両腕の欠損を知って気絶したことで事なきを得た。その後はドンの筋書き通りに事が進み、一連の事態は収束した。

「かと思ったんだけどな」

誰もが寝静まった深夜。ダングレストにある橋の上に人影が二つ。ユーリ少年とラゴウだ。

「その生き方の終点は、最後まで貫くか、もしくは破滅のどちらかしかないというのに」

過去にもそういう人間はいた。その全てが、英雄か大罪人のどちらかとして歴史に名を残している。はたして、彼の行く末はいったいどちらになるのだろうか。

「もう、少年とは呼べないな」

踵を返し自らの図書館へと引き返す最中、ラゴウが川へと落ちる音を聞いた。

「繰り返すのか先へと進むのか、それとも終わるのか。終わる事のない僕が見届けるとしよう」

 

 

 

・・・

ギルドと騎士団間に友好協定が結ばれた次の日、何の前触れもなくダングレストは未曽有の危機に瀕していた。

「魔物め、こっちに来い!」

結界魔導器をものともせずに襲来した、巨大な怪鳥型の魔物目掛けて、ウィチルが火球を打ち込むが、相手はそれを意に介してもいない。あれは本来、人間よりも上の位階の存在。まともにやりあっては勝ち目などほとんどない。しかし、この場にそれを知ってる者はおらず、騎士団はほぼ壊滅状態にまで追い込まれていた。

「わたしが……狙われてるの?」

中空から鋭い目でにらみつけられていることに気が付いたエステルが、その事実にたどり着く。その間に、あの魔物を知る騎士団長アレクセイが到着し、『ヘラクレス』の使用を即決した。

「忌マワシキ、世界ノ毒ハ消ス」

「人の言葉を……!あ、あなたは……!」

それ以上の会話がなされる前に、ユーリはエステルの元に駆け寄り、『ヘラクレス』が魔物へと向かって火を噴いた。ダメージは微々たるものだとしてもゼロではない以上、受けてやる義理もないと言わんばかりに飛び交う砲弾を見事に躱していく。

「ここにいちゃ危ないよ!」

戦争の一部を切り取ったような砲撃と、その中を優雅に飛び回る魔物。カロルは、逃げるなら『ヘラクレス』に気を取られてる今しかない、と考えたのだ。

「俺はこのまま街を出て、旅を続ける」

「え?」

「帝都に戻るってんなら、フレンのとこまで走れ。選ぶのはエステルだ」

「わたしは……わたしは、旅を続けたいです!」

「そうこなくっちゃな」

少女の小さな決断に対し、ユーリは手を差し出して応えた。そして、その直後、橋に流れ弾が飛来して着弾しそうになったが、そうはならなかった。

「連日でこいつを使うことになるとはな」

音が止み、見上げれば砲弾はぐるぐると同じ場所を回り続けている。

「フレン少年と話があるなら手早く済ませろ。この状態は人の目を引く」

こんなことが出来る人物は一人しかいない。トートだ。

「礼は言っとくぜ」

「別にいい。険しい道を選んだ若者への餞別だ」

「……あんた……」

「心配するな。吹聴する気もないし、そもそも、その生き方を否定する気もさらさら無い」

あまり表情を動かさずにそう言い切ったトートは、空を見上げ、今も飛び続けている魔物を見つめた。その視線からはこの事態を想定していたような落ち着きを感じる。相変わらず底の見えない男だな。それがユーリの抱いた素直な気持ちだった。

「さあ行け、その軌跡が真に世界に変革をもたらすものならば、僕らは再び出会うだろう」

何かを期待するようなトートの言葉に後押しされるように、ユーリたちは新たな旅路へと、足を踏み出した。

 

 

・・・

フェローは動いた。ならば僕も、魔導王としてではなく、始祖の隷長としての役割を兼任する頃合いだろう。所詮は端役に過ぎないが、それでもその場所に立っていたい。場合によってはパンドラの箱に、場合によっては機械仕掛けの神に。しかし、選ぶのは僕ではない。いわば、僕は意思を持つ舞台装置のようなものなのだ。

「なんてことを考えてるんだけど、お前はどう思う、ベリウス」

「その問いに答える資格を、妾は有しておらぬよ、トート」

ノードポリカにある闘技場の最奥の部屋で、二体の異形が言葉を交わしている。巨大な狐のような方がベリウス。そして、無数の蛇の尾と狒々の腕を持った巨大な朱鷺が僕だ。

「僕にとって、誰かの一生を見届けるのは本を読んでいる感覚に近いんだ。終わりのない物語よりは、尽きることない短編集を読んでる方がいくらかましだからね」

せわしなく動いていた蛇がその動きを止めると、一冊の本が出来上がっていた。遠い昔、僕の友であった誰かの記録。いつからかだろうか、それを本にしてベリウスへの土産話とする習慣が付いていた。人が好きで『戦士の殿堂』の統領をやってるだけあって、こういう人の輝きの籠ったものは大好きらしい。

「妾もいずれは一冊の記録となってしまうのは、仕方のないことと言えど口惜しや。叶うのならば、幼きより永くを共に過ごしてきた、そなたを一人にしとうはないのだが……」

「お節介が過ぎる。お前は僕の母親か何かか」

「そなたの方が歳は上じゃ。したがって心情的には妹の方が近いぞ」

「止めろ。普段老婆の姿してる奴の台詞にはふさわしくないことこの上ない」

昔の姿ならばいざ知らず、青年の僕が老婆に兄と呼ばれるのは、かなり奇異だ。あまり想像したくない。

「我ら始祖の隷長の人としての姿など幻影のようなもの。数百年を共にしたそなたは、妾にとって真に兄か父と言っても過言ではない存在じゃ」

「……まあ、肉親を知らない僕にとっても、唯一家族として過ごしたお前のことは妹のようにも思ってるけど」

というより、そう思ってるからこそしばしば足を運んでいる訳なのだが。

「なればこそ、そなたを残していかねばならんのが、どうしようもないほどに心残りだ。後に残される者達の気持ち十二分に理解しているだけに、な」

普段の威厳も成りを潜め、ただ、本当に悔しそうに顔を歪める。対峙する二人はこの時だけは、魔導王でも総統でもなく、ただの家族のように振る舞うのだ。いつまで続くは分からない、家族ごっこに過ぎないかもしれないが、僕はこの時間が好きだ。

「今の世界が落ち着いたら。少しだけ、昔のように旅をしようか」

唐突に、そんな言葉が口から漏れた。

「何のしがらみもなく、ただ気ままに生きていたあの頃のように」

段々と体が収縮し、元のトート・アスクレピオスへと戻っていく。

「それじゃあ、またな。ベリウス。今度来たときは旅の計画についてでも話そう」

「楽しみにしておるぞ、兄上」

懐かしい声、懐かしい姿。心なしか弾んだ声でそう言ったベリウスは、遠い日の思い出の中と同じ少女の姿をとって、僕を見送ってくれた。

 

○○○

ノードポリカを出発し、デュークがいるであろうヨームゲンあたりを目指して歩き出すと、地面にぽっかりと空いたくぼみから、海賊帽が生えているのを見つけた。あからさま過ぎる。穴の淵に、厄介事注意と書かれた看板が幻視出来るほどに。

「しかし……いや、あのマークは確かに……」

「おお!そこに誰かおるのか?聞こえてるなら、引っ張り出してくれんかのう?」

「少し待て。今引き上げる」

見覚えのあるマークの付いた海賊帽を引っこ抜くと、金髪の少女が現れた。

「アイフリード……」

まるで生き写しだ。アイフリードをそのまま小さくしたらこうなる、そういう表現がぴったり合うほどに似すぎている。

「す、すまんのじゃ!うちはさっさとここを去るから、気を悪くしないでほしいのじゃ……」

頭をよぎったある薬のせいで、思いのほか厳しい顔つきをしていたようだ。作った笑顔で怯えたように、目の前の少女が言う。

「そう怯えるな。僕はアイフリードとは友達だったんだ。世間の人間と違って、その帽子に悪い感情は持ってないよ」

「本当かの!?う、うちはパティ、パティ・フルール。もしよければ話を聞かせてもらえないじゃろうか?」

そこはかとなく、昔のベリウスを感じさせる話し方。のじゃのじゃ言われると、どうにも弱い。僕は意外と……いや、これ以上考えるのは止めておこう。

「トート・アスクレピオス。アイフリードの奴とは十年来の友だ。もっとも、あいつが生きてればの話だがな」

『トートの書』を展開させ、瞬く間に簡易のテーブルと椅子を作り出した。当の本人は記憶を失っているようだが、久方ぶりの再会だ。少しくらい話し込むのもいいだろう。

「おぬし、便利な業を使うのう!」

「それ、アイフリードの奴も同じ反応をしてたな」

パタリと本を閉じ、完成したテーブルの向かい側に座るように促す。ご機嫌で椅子を引く様も、初めてこの業を見た時の反応も、既視感と感じるほどに同じだ。記憶の方のアイフリードは、かなり厄介な性格をしていたが、それは見受けられない。どうしてこの子がああなるのか、多くの人間を見てきたけれど、てんで分からない。

「それで、何を聞きたいんだ?」

「うちはアイフリードについて、ほとんど何も知らんのじゃ……。出来れば、トートから何か話してくれんかのう」

「そうか……」

『霊薬アムリタ』。治癒の代償が記憶とは、なかなかどうして悪辣じゃないか。よくもそんな欠陥品を作ったものだ。

「一言で言うなら、あれは夢見がちな奴だったよ」

真剣な顔でこちらを見ているパティに面影を重ねながら、出会いを語りだす。

「世界中の不思議なものもきれいなものも、全部を見てみたいんだと本気で言っていたよ。僕と知り合ったのも、そんな航海の一つがきっかけだ」

「随分イメージと違うのう……」

「世間ではブラックホープ号事件のイメージが強いから。あいつを知ってる僕からすれば、あんなもの信じてる方がどうかしてると思うけどね」

ブラックホープ号の護衛を請け負った際に、雇い主や乗客を虐殺した。それ以来、アイフリードの名はギルドにとっても、それ以外にとっても忌避すべきものとなったのだ。

「海賊を名乗る以上、善人とは言えなかったが、あいつは決して外道じゃなかった。実際、僕と知り合ったきっかけも、僕の持ってる本を読ませろって、押しかけて来たからだし」

「なんと!トートはアイフリードが欲しがるようなお宝を持っておるのか!」

「ああ。だから、ぶっ飛ばして海に浮かべてやったんだ」

「……へ?」

あの時のことはよく覚えている。あんまりにもしつこいもんだから、気絶させた後に樽に詰めて海に放流していたのだ。その度に、海藻まみれになりながら僕の元へと戻ってきた。そして、何度もそんなことを繰り返すうちに、いつの間にか友と呼べる間柄になっていった。

「兎に角、麗しの星を探せ。それでお前の知りたいことは全部分かる」

事実は時として毒になる。だが、パティが僕の知るアイフリードと同じ心を持っているならば、それくらい軽く飲み干して、前に進んでくれることだろう。似合わないのは百も承知だが、友としての信頼というやつだ。

「ありがとうなのじゃ、トート!」

居てもたってもいられなくなったらしく、パティは目を輝かせながら、一目散に走り出した。

 




正直、バルボス美化しすぎた感があります。

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