伊吹萃香もどきが行く   作:葛城

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お久しウマ娘

幻影旅団ジェノサイド2、ちょっと他の話と比べて短めだけど、区切りよく

苦手な方は注意ね


第十五話: 蜘蛛の足(残り7本)

 

 

 

 

 『念』とは、己の内に流れているオーラ(いわゆる、生命エネルギー)を自在に操る力のことである。

 

 

 そして、この世界において、念と呼ばれている技術(あるいは、能力)が持つ力は、非常に強力なアドバンテージである。

 

 詳細を語ると長くなるので省くが、念を習得したかどうかで最も目立って変わるのは、身体能力の向上だろうか。

 

 どれぐらい変わるかって、素が同レベルの相手と戦った時、片方が『念』を修めていた場合……勝つのは100%、念を修めている方である。

 

 文字通り、桁が一つ変わるぐらいの実力差が生まれる。

 

 さすがに覚えたてではそこまで差が生じないにしても、それでも回復力や頑強さは跳ね上がるのだから、如何に念が強大な力を秘めているかが窺い知れるだろう。

 

 

 ……で、その『念』なのだが。

 

 

 まず、念には、初歩の初歩にあたる基礎的な活用法である、4大行というものがある。

 

 それは、『(てん)』、『(ぜつ)』、『(れん)』、『(はつ)』の四つ。

 

 これはボクシングで言えばグローブ、水泳で言えばゴーグル、野球で言えばボールに当たるぐらいの、念を習得するうえで絶対に外せない重要な土台でもある。

 

 

 ──『纏』

 

 それは、体内から外へと流れ出ている微弱なオーラを自身の周囲に留めること。

 

 

 ──『絶』

 

 それは、体内から外へと流れ出て行くオーラを完全に断ち、全て内に留めること。

 

 

 ──『錬』

 

 オーラを練り上げ、通常時とは比べ物にならない量のオーラを意図的に生み出すこと。

 

 

 ──『発』

 

 制御したオーラを自在に操ることであり、念能力の集大成。言うなれば奥義、必殺技がコレに当たる。

 

 

 基本は、この4つ。あとは、念には『系統』と呼ばれる属性みたいなものがあったりするが、念の基本は、この4つだ。

 

 

 そう、たったコレだけかと思う者がいるだろうが、全ての応用技の基礎は、この4つに集約する。

 

 念は奥深く、それこそ極めたという言葉が存在しない技術。見た目には現れない、秘匿された力。

 

 自称達人ではない、本物の念の達人と呼ばれる者の中には、だ。

 

 生身で銃弾を受けても軽い痛みを覚えるだけの超人も居れば、物理法則を逸脱した超常現象をも生み出す超人も居る。

 

 それほどの差が、『念』の習得によって生まれてしまうのだ。

 

 ゆえに、念能力者に対しては、同じ念能力者でしか相手にならないというのが、念を知る者たちの間では常識とされている。

 

 もちろん、全てが全て、そういうわけではない。

 

 超人のような力を発揮できるとはいえ、ピンキリだ。

 

 念を習得してはいるが、肉体を極限まで鍛え上げた相手に劣る時もあるし、念能力者だからといって、全員が銃弾を受けても平気なわけがない。

 

 いや、むしろ、全体的に見れば、それが可能なモノは極々少数。

 

 ほとんどの念能力者は、まともに銃弾を受けたら死ぬ。一般人より軽傷で済むにしても、負傷は避けられない。

 

 あくまでも超人は一握りであり、ほとんどの念能力者は銃で撃たれたら負傷するし、当たり所が悪ければ致命傷になるのであった。

 

 

 

 

 

 ……そういう前提を踏まえるならば、だ。

 

 

 今宵、自分たちに対してナメた態度を取った命知らずを追いかけたマフィアたちは……三つばかり、不幸であった。

 

 

 一つ目の不幸は、マフィアたちが『念』を知らなかったということ。

 

 

 いや、中には知っている者は居ただろうが、念能力者に該当する者は、残念ながら追いかけたマフィアたちの中には居なかった。

 

 まあ、仕方がないことだ。元々、『念』は一般には秘匿されている。

 

 仮に知り得たとしても、凡人が『念』を習得しようと思えば、その前の己のオーラを感じ取るまでに年単位の厳しい修行を必要となれば……ぶっちゃけ、銃を使った方が何万倍も楽である。

 

 

 そして、二つ目の不幸は……マフィアたちが追いかけていた命知らずが、凡人ではなかったということだ。

 

 

 それも、ただの非凡ではない。知る者からすれば、大金を積まれてでも相手を避ける盗賊集団、『幻影旅団』だったのだ。

 

 そう、幻影旅団は、念能力者の中では上位に位置する実力者ばかり。

 

 武装したマフィアが500人1000人居たところで、全滅までの時間が変わるだけという……それほどの使い手であった。

 

 

 Q.そんなやつらを相手に、非能力者のマフィアが銃器を手に挑んで、どうなるか? 

 

 A.相手の気が変わらなければ、挑んだ奴らは例外なく皆殺し、である。

 

 

 これが、三つ目の……何も知らなかったマフィアたちの不幸である。

 

 

 そう、彼らは運が悪かった。

 

 何故なら、幻影旅団は苛立っていた。普段なら、いちいち雑魚なんて相手にしていられないと考えるメンバーまでもが、苛立っていた。

 

 そのうえ、彼らの相手をしようとしていた男……戦闘狂であるウボォーギンは、その苛立ちを少しでも発散したいと考えていた。

 

 

 結果、追いかけていた彼らはどうなったか? 

 

 答えは、前述のとおり、皆殺しである。

 

 

 その光景は、ゴリラに踏み潰されるアリも同然であった。

 

 旅団一のフィジカルと頑強さを誇るウボォーギンを前に、彼らは例外なく非力であり、無力であった。

 

 いくら銃弾を叩き込んだところで、ウボォーギンの肌に傷一つ与えられない。貫通力に優れたライフルでも無傷、バズーカですらも、産毛を焦がすだけに終わった。

 

 対して、ウボォーギンの攻撃は、全てにおいて致命傷であった。

 

 張り手を放てば、首がへし折れる。殴れば、人の身体が紙屑のようにぐしゃぐしゃになり、掴んで振り回せば、人の身体とは思えないぐらいにあっけなく引き千切れた。

 

 もはや、それは戦いではない。

 

 ただの、虐殺であった。

 

 そして、先に到着していたマフィアたちが全滅しようとしていた頃。

 

 遅れて現地に到着したクラピカたちが、遠くより様子を伺っていた。そう、伺っているだけで、誰も加勢には動けなかった。

 

 

「──し、信じられねえ。人を、紙屑みたいに引き千切ってやがる……お、俺は御免だ、あんなの勝てるわけがねえ!」

「悔しいが、俺も同感だ。とてもじゃねえが、勝てる気がしねえ」

「だが、それでは任務を放棄する事になる」

「馬鹿野郎! そんなのキャンセルに決まっているだろ!!」

 

 

 何故なら、1人を除いて、誰もがウボォーギンのあまりの力に怖気づき、実力の違いに敗北を予測していたからだ。

 

 いや、それはもう、予測なんて生易しい話ではなかった。戦えば、確実に死ぬと確信を得ていた。

 

 

「──っ!」

「どうした、センリツ?」

「……心音が、何時の間にか増えているの」

「なに?」

 

 

 そんな中で、マフィアたちのボスである十老頭たち自慢の私兵である『陰獣(いんじゅう)』が到着する。

 

 

 一目で、クラピカたちは理解する。

 

 

 陰獣と呼ばれている彼らの実力は、十老頭が自慢するだけのモノであるということに。

 

 実際、心音を聞き分けているセンリツが、思わず『これが人間のモノなの?』と感想を零すぐらいで……だが、しかし。

 

 陰獣が、ウボォーギンの下へ向かうことはなかった。

 

 

「あんたらには悪いけどさ、アレは私にとっては先客だから……譲ってくんない?」

 

 

 何故ならば、ふわり、と。

 

 音も無く、夜の虚空より出現した彼女……二本角が、待ったを掛けたからであった。

 

 事情を知らない第三者から見れば、場違いなのは彼女の方に見えただろう。

 

 なにせ、彼女の背丈は低い。

 

 それ自体はセンリツと同じくらいだが、彼女の場合は顔立ちが幼く……角や手足に巻きついた鎖を抜きにすれば、迷い込んでしまったと思っただろう。

 

 しかし、この場に居る誰もが、そうは思っていない。というより、思える者はこんな場所に居るわけがなかった

 

 なにせ、誰もその出現に気付けなかったのだ。

 

 センリツすらも、霧になった彼女が実体化するまで、傍に来ていることすら気付けなかったのだから。

 

 ……で、だ。

 

 

「嫌なら、仕方がない……私とやりあってからになるけど、どうする?」

 

 

 もちろん、彼女には強制権などない。

 

 あくまでも、彼女とマフィアとの関係は、仕事を発注し、仕事を受注するだけの間柄。コミュニティに属しているわけではない。

 

 それは、コミュニティに属するノストラードの、その娘であるネオンの傍に居ても、変わらない。

 

 やりたいから、やる。ただ、それだけのこと。

 

 それを邪魔するならば、実力で跳ね除けるしかない。むしろ、我を通したければそうしろと、彼女は陰獣たちに言ってのけた。

 

 

「……アンタとはやり合うなって言われている」

「貴女とは駄目だって指示を受けているんだな、うん」

 

 

 対して、陰獣たちの答えは……全面的な譲歩であった。

 

 マフィアン・コミュニティに属する者ならば、大なり小なり耳にしている絶対的なアンタッチャブル。

 

 

 ──『二本角には手を出すな』

 

 

 それは、陰獣とて……いや、十老頭とて例外ではない。

 

 あくまでも、対等。

 

 意図的に敵対してこない限りは静観し、必要ならば格安で手を貸してやれ……それが、彼女とマフィアの関係であった。

 

 

 ……はたして、だ。

 

 

 明暗を分けたのは、どちらなのか。

 

 旅団一の肉体を誇るウボォーギンなのか。

 

 殺しが日常の一部になっている、陰獣なのか。

 

 それとも、それ以外なのか。

 

 まだ、この時点では誰にも分からないことで──いや、撤回しよう。

 

 

「え?」

 

 

 そう、思わず目を瞬かせたのは、誰が最初だったか。

 

 

 

 ──じゃあ、やらせてもらうね。

 

 

 

 代表する形で前に出た彼女が、ほんのり赤らんだ頬で笑うと、片手をウボォーギン──ではなく、その後方の崖の上に居る、旅団たちへと向けた。

 

 

 ──直後、ぎゅん、と。

 

 

 音も無く、1人の小柄な男が飛び出してきた──いや、違う。

 

 引き寄せられたのだ。正確には、彼女の『密と疎を操る程度の能力』によって集められたのだが……結果は同じだ。

 

 

 彼女の能力は、『念』とは違う。

 

 

 それ故に、念を発動する際の予備動作のようなものは一切無く、また、念による能力に対するガードも不可能。

 

 防ぐには、彼女へ直接攻撃して能力行使の邪魔をするか、この世界には存在しない霊力や魔力といった力で妨害するしかない。

 

 あるいは、念によって防御力を上げるぐらいであり……実際、引き寄せられた男……フェイタンは、状況が分からないながらも身を反転し、その先へと何本ものナイフを放った。

 

 

 けれども、無駄であった。

 

 

 たかがナイフでは、彼女の肌には傷一つ付かない。それ以前に、彼女の能力によって軌道を逸らされたナイフは一本の例外もなく、地面へと突き刺さった。

 

 残された旅団の仲間たちが、異変に気付いたウボォーギンが、救出に動こうとした──が、全てが遅すぎた。

 

 

「──今度は、逃がさんぞ」

 

 

 だって、今度の彼女は本気である。

 

 次に会う時は手加減されない……そうこぼしていた、旅団の団長の予測は……不運にも、真実であった。

 

 

「じゃあね」

 

 

 力を込めた、渾身の拳。

 

 

「──っ!!!」

 

 

 対して、フェイタンは──己のオーラを全て、防御に回していた。おそらくは過去や未来において、もっとも研ぎ澄まされていただろう。

 

 でも、無駄であった。

 

 今ならばバズーカを防げるぐらいの防御力だったとしても、彼女の拳は容易く念のガードを突き破り、その身体にぶち当たった。

 

 いや、当たっただけではない。

 

 着ているマントを貫通し、その下の衣服を貫通し、皮膚を破り、筋肉を破り、骨を砕き、内蔵を抉った。

 

 両腕のガードなんぞ、まるで意味を成していなかった。

 

 放たれた拳の余波は放射状に広がると共に、耐えられなかったフェイタンの身体は瞬く間に引き千切れ、四方八方へと──そう。

 

 断末魔すら上げる間もなく、幻影旅団の1人、『フェイタン・ポートォ』は──肉片へと姿を変え、彼女の前方へと飛び散ったのであった。

 

 

「なっ!?」

 

 

 あまりにも、一瞬の出来事であった。

 

 陰獣もそうだが、クラピカたちも驚愕するしかなかった。

 

 クラピカたちは、全員の強さは知らない。しかし、その強さの指標として、ウボォーギンをその目で見ていた。

 

 全員が同等かどうかは不明だが、仲間として共に動いている以上は、相応の実力者であるのは間違いないと思っていた。

 

 それを、彼女は一撃で仕留めた。

 

 それも、一切抵抗されないまま、ほぼ一方的に。

 

 この事実に、本来は相手取るはずだった陰獣たちは……1人の例外もなく、冷や汗を掻いた。

 

 相手が何であろうと、負けるつもりは毛頭無かったし、勝てる気持ちしかなかった。

 

 しかし、相当の実力者であることは分かっていたから、けして油断できない相手ではあるし、間違っても余裕で勝てる相手とは思っていなかった。

 

 そんな相手を、彼女は……二本角は、一撃で粉砕したのだ。

 

 それも、『念』を使わず。

 

 少なくとも、陰獣たちは二本角が念を使ったところを確認出来なかった。隠しているのではなく、本当に使っていないのだということだけは分かった。

 

 

(し、信じられねえ……マジモンの化け物か、コイツは……!!)

 

 

 思わず、そう内心で吐き捨てたのは、誰が最初か。

 

 ゴクリ、と。

 

 思わず唾を呑み込んだのは、誰が最初か。

 

 陰獣は、実際に彼女が戦ったところを見たことがなかった。クラピカを覗いたメンバーも、そこまでハッキリ目撃した事はない。

 

 だから、心のどこかで、彼女に対する不安というか、もしかしたら本当はそこまで……という疑念があったのは否定出来ない。

 

 けれども、もうそんな疑念は、この場に居る陰獣はおろか、誰の目にも無かった。

 

 むしろ、これ程に強い彼女が味方に居るという事実に、安堵感すら沸き起こるのを抑えられなかった。

 

 

「──てめぇ、あの時のか!!」

 

 

 ただ、それはそれとして、気付いたウボォーギンよりギロリと睨まれてしまえば、その安心感も一瞬で吹き飛んでしまったけれども。

 

 近くで見れば、その大きさがよく分かる。念能力を抜きにしても、相当な威圧感を与える大男だ。

 

 身長は、2mを優に超え……30、いや、40以上はある。その背丈に見合う、分厚い筋肉で覆われた身体は屈強の一言だろう。

 

 そんな男が、時速3桁という人外染みた速さで接近してくるのだ。

 

 例えるなら、牙をむき出しにした恐竜が迫ってくるようなものだ。如何な念能力者とはいえ、身構えるし恐怖を覚えて当然である。

 

 

「おや、そっちから来てくれるのか」

 

 

 けれども、それでも、だ。

 

 

「それは、手間が省けるってものさね」

 

 

 彼女を怖がらせるには、不十分であった。

 

 

『 鬼符:ミッシングパワー 』

 

 

 そう、彼女が念じれば、変化はすぐに現れ──彼女の身体は巨大化する。

 

 その勢いは凄まじく、驚き飛び退く陰獣たちとクラピカたちを他所に、メキメキと地面を陥没させながら、瞬く間に数十メートルほどになった。

 

 

「──っ!?」

 

 

 これには、初見であったウボォーギンは目を見開き──しかし、ここで足を止めるのは悪手であると判断したのか、そのままの勢いで彼女の足元へ接敵すると。

 

 

「うっ、ぉぉぉおおおおおおお!!!!!」

 

 

 渾身の──右ストレートパンチを叩き込んだ。

 

 それは、ウボォーギンの必殺技。

 

 

 名を、『超破壊拳(ビッグバンインパクト)

 

 

 ずば抜けたフィジカルに、相性が良い強化系の念能力、その二つを極限まで高めた……防御を一切捨てた、一点集中のパンチである。

 

 その威力は、小型ミサイルにも匹敵する。地面に撃てば局地的な地震を起こし、巨大なクレーターが生じるほど……だが、しかし。

 

 

「──っ!」

 

 

 驚愕に目を見開くウボォーギン……残念ながら、旅団内最強の破壊力を誇る一撃でも、彼女にダメージを与える事は出来なかった。

 

 あの時よりも、威力がある。あの時よりも、破壊力は増したと思っていた。

 

 それなのに、全く通じていなかった。僅かばかり、巨大化した身体を動かすだけに終わった。

 

 その事を、ウボォーギンは理解し……直後、防御を一切捨てた報いを──その身を持って思い知る事になった。

 

 

 具体的には……掴まれたのだ。

 

 

 巨大化した、彼女の手に。まるで人形のように動けなくされてしまったウボォーギンは──直後、鬼の怪力によって握り締められた。

 

 その瞬間、ウボォーギンは抜け出そうと抵抗はしたのだが、当然ながら、抵抗になどなってはいなかった。

 

 バキバキ、ベキベキ、ボキボキ、と。

 

 文字通り、全身の骨をへし折られたばかりか、内蔵まで傷付けられたウボォーギンは、ゴフッと鮮血を噴いて……そのまま、動かなくなった。

 

 ──直後、いや、ほぼ同時に──瞬時にして崖の上にいる旅団たちの眼前へと距離を詰めた彼女は、垂直にチョップを放った。

 

 

「──っ!?!?!?」

 

 

 逃げられたのは──というより、余波で遠くまで吹っ飛ばされたので、結果的には追撃をされなかった2人。

 

 

 1人は、ちょんまげに着流しという特徴的な恰好をしている、ノブナガ・ハザマ。

 

 1人は、藍色の髪をポニーテールにした、マチ・コマチネ。

 

 

 この2人だけは、直撃コースから外れていたこともあって、衝撃波やら何やらで軽く負傷はしたが、命には別状なかった。

 

 

 ……だが、直撃したフランクリン・ボルドーは致命傷を負った。

 

 

 避けようとはしなかったのか……いや、避けようとしたのだ。位置的に悪いわけでもなく、負傷していたわけでもない。

 

 直撃する直前、彼女に引き寄せられたのだ。

 

 時間にして、コンマ何秒。ふと、思った瞬間にはもう通り過ぎているその一瞬……フランクリンは、体勢を崩された。

 

 

 そうなればもう、フランクリンがやれることはほとんど無い。

 

 

 己の念能力で迎撃しようと構えた時にはもう、直撃している。かといって、左右に逃げる事も出来ない。

 

 だから、フランクリンは、フェイタンと同じく、渾身の力を込めてガードしようとした──が、無駄だった。

 

 受け止めた両腕は完全にへし折れ、骨と肉が突き出た。それでもなお止められず、そのまま頭に当たり、頸椎をへし折り、背骨が折れて、その身体は大地の中へと押し込められた。

 

 辛うじて、それでも肉体は人の形を留めてはいた。

 

 だが、誰もが一目で助からないと判断するような状態であり、事実として、攻撃を終えて10秒後には……息絶えたのであった。

 

 

 ……時間を合計しても、1分にも満たない。

 

 けれども、その1分で旅団が3人死んだ。オークション会場のそれを合わせても、2分にも満たない……あ、いや、少し違う。

 

 

「……げふっ」

 

 

 彼女が掴んでいる、ウボォーギンだけは……まだ、辛うじて生きていた。

 

 まあ、全身の骨を砕かれ、内蔵が破裂したり、折れた骨が突き刺さったり、治療を施しても生存できる保証は無いが……まだ、ギリギリ死んでいなかった。

 

 

 ……どうして、殺していないのかって? 

 

 

 それはひとえに、クラピカたちの事を考えて、である。

 

 本音を言わせて貰えばこのまま握りつぶすのが楽だが、これはまあクラピカたちの仕事を邪魔している状態だ。

 

 先客だったとはいえ、譲ってもらったのは事実。

 

 1から10までこちらがやってしまえば、クラピカたちのメンツが立たないのでは……と、思ったわけである。

 

 

(ん~……でも、コイツって尋問しても話せるのか? 逃げたどちらかを捕まえた方が良いかな?)

 

 

 ただ、今すぐ死んでもおかしくない状態で引き渡すのは……とも思ったので、コイツではなく、他の2人にしようかなと彼女は目を向けた。

 

 

「──二本角さん! 貴女に電話よ」

 

 

 と、その時であった。

 

 

 後方から……車の窓から身を乗り出したセンリツが、大声を出しながら近寄って来たのは。

 

 運転しているのは、スクワロだ。他のメンバーも乗っているようで、車を止めればゾロゾロと全員が降りてきた。

 

 ちなみに、他の陰獣たちも来ていた。こっちは彼女にというより、掴んだままのウボォーギンの様子を見に来たといった感じだが……話を戻そう。

 

 

『な~に? 誰から?』

 

 

 普段ならともかく、今は身長差が相当にある。しゃがんで顔を近付ければ、両手でメガホンを作ったセンリツは、力いっぱい声を張り上げた。

 

 

「リーダーから、今すぐ戻って来て欲しいって! なんでも、ボスが襲われる可能性が示唆されたってタレコミがあったみたいなの!」

『え、マジで?』

 

 

 思わず、彼女は目を瞬かせた。

 

 冗談かと思ったが、今の己は何よりも嘘を嫌うしソレが分かるので……センリツが嘘を言っていないのはすぐに分かった。

 

 

 

 ──こうしちゃ、いられない! 

 

 

 

 近寄ってきたクラピカたちへウボォーギンを渡した彼女は、『ミッシングパワー』を解除して小さくなると、地を蹴って──空へと飛んだ。

 

 霧になって移動するよりも、飛んで移動した方が速いから。

 

 幸いにも、今は夜だ。彼女がまだ『彼』だった時の前世とは違い、この世界では飛行機がそんなに飛んではいない。

 

 高度を取れば、露見して騒ぎになる可能性は低く……移動の邪魔になる問題が生じることもなく、彼女は超特急でネオンの下へと向かったのであった。

 

 

 

 

 

 




頭脳のシャルナーク、特攻隊長のウボォーギン、拷問のフェイタン、証拠隠滅のシズク、けっこう代用が利く影が薄いフランクリン

ヤバいね、機動力めっちゃ削れたね
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