MHXXのクエストの依頼主のお話です。
頭悪い系お話です。このNPCが好きな人はごめんなさい。
MHXXのG4クエスト「無心にて森羅万象を断つ」の依頼主。
以下、ゲーム中の依頼文
すべてを断つには、無心であれ…それが拙者の至った境地だった。だが世は広い。《でいのばるど》とかいう御仁は、獰猛に怒りつつすべてを断つ剣を振るうと聞く。無心とは何か? 怒りとは何か? 是非にも見極めとうござる!
剣を振るい続けて幾星霜。
師の元を離れ、常に己を研磨し続けてきた。いつしか剣の達人と呼ばれる次第に至った。
稀に弟子入りを志願する者がいるが、拙者はまだ他人に指導できるほどの境地に至っていない。ここ最近で感じたことである。
達人と呼ばれるほどの腕前で、そのようなことを言うのは謙遜でなく嫌味ではないか。心なきものはそう罵りもした。だが拙者の思いは変わらぬ。
おそらく数年前の拙者なら、己が力に自信を持ち、新たな流派を開いていたであろう。
だが今は違う。何故なら拙者、世界の広さを知った次第ゆえに。
すべてを断つには、無心であれ……それが拙者の至った境地だった。
しかし、でいのばるど、とかいう御仁は、獰猛に怒りつつすべてを断つ剣を振るうと聞く。
拙者とは真逆の境地。
今まで怒りとは、剣の道に置いては雑念他ならないと考えていたが、改めねばなるまい。
試しとばかりに、己が心を怒りに染めてみたがうまくいかない。
友人に拙者を怒らせてくれと頼んでみた。友人たちは面白がって拙者の青年期のころの日記を、大衆の前で、大声で音読をしてきた。確かに心は怒りに染まったが、剣を振るうことは叶わなかった。
出来たことといえば、泣きわめきながら両腕をぐるぐる回して叩き付けることしかできなかった。ぐるぐるぱんち、と呼ばれるものらしい。
とても剣を振るえる余裕などなかった。
そのような検証も行い、考える。何事にも噂には尾ひれがつくというもの。
であるならば、この目で見極めてみせようぞ。そう思いたち、シキの国から海を越え、遠路はるばるベルナ村まで旅をしてきたで候。
聞けばでいのばるど殿については、はんたーずぎるど、という集団が知っているそうな。
心優しい村人たちにはんたーずぎるどの場所を案内してもらい、そこの看板娘にでいのばるど殿に会いたいと申し出たのだが、会わせることはできないと返答をもらった。
確かに、約束もせず急に客人が来られても、でいのばるど殿には迷惑である。
ならばと思い、伝言を頼む。
すべてを断つには、無心であれ……それが拙者の至った境地だった。しかし、でいのばるど殿は、獰猛に怒りつつすべてを断つ剣を振るうと聞く。
無心とは何か? 怒りとは何か?
是非にもでいのばるど殿とともに見極めとうござる!
と言った内容を、看板娘に伝えた次第。娘は拙者の言葉を用紙に書きとっていた。まだ若い歳であろうに、しっかりとした娘である。
そしてはんたーという使者を、でいのばるど殿の元へ送り出すそうな。
でいのばるど殿はさぞお忙しく、やんごとなき御仁なのであろう。間に何人もの人を挟まねば、言葉ひとつ送るのも難しいお方。
少々気おくれをしてしまう。拙者は剣しか知らぬ身。そのような身で、文武両道であろうでいのばるど殿に馴れ馴れしくしすぎてしまったのではないか。しかしここまで旅をした身。今更背に腹は代えられぬ。看板娘に此度のことをしかとお願いするため、深く頭を下げたのであった。
数日後、でいのばるど殿を討伐したという知らせが届いた。
まことに解せぬ。
知らせを聞き、何かの間違いではないかと拙者ははんたーずぎるどに問い合わせた。
しかし、確かに討伐したとの返答のみ。いったい使者との間に何があったのか。
剣のこと以外にあまり使わぬ頭を働かせて、真相を追及した。
そして拙者はひとつの答えに辿りついた。
でいのばるど殿は怒りの剣の使い手。使者に対して怒り暴れたのではないか。
そしてその際、返り討ちにあったのではないか。
そう考えると、討伐したという答えは納得がいくものだと思えた。だが、やはり珍妙な点があることに拙者は気づいた。
獰猛に怒り、すべてを断つ剣の使い手である、でいのばるど殿がそう簡単に討伐などされるであろうか。
もしや、表向きには討伐されたということにし、体よく拙者を追い返そうとしているのではないか。だとするならば、目の前の看板娘に怒りをぶつけるのは甚だ見当違いもいいとこ。
彼女はただ上のものから言わされているだけであろう。
彼女の目を真剣に見つめながら、小声で尋ねた。
「もうし……でいのばるど殿は、まだご存命であられるのではないか……? あいや、小声で結構。誰にも漏らさぬことを約束するでござる。故に、真実のことを教えてほしいでござる……」
「は、はぁ……? そりゃディノバルドは他の地域にも存命? していると思いますよ?」
「やはりか……! その言葉に感謝……! 其方の言、必ず墓まで抱えると約束するでござる!」
「は、はぁ……」
上から押さえつけられていながらも、真実のことを教えてくれた娘に深く感謝する。
しかし、そうなると、でいのばるど殿は拙者と会うことを避けている他ならない。
拙者の目的は怒りの剣の境地を知ること。これではその目的が叶うことが難しい次第。
信のある娘に幾度も頼るのは情けないことかもしれぬが、拙者にとってこの地は完全に未知の土地。故に彼女に再度尋ねることにした。
「この辺りで、人様に迷惑をかける輩はおらぬか」
「え? えっと、そうですねぇ……」
でいのばるど殿と会うことは難しい。かといってこのまま指を咥えて待っていては武人の名折れ。
もう一度、怒りの剣を振るえぬか試してみたくなったのである。
迷惑な輩と相対すれば、自ずと怒りも沸こうもの。そしてその怒りのままに、誅を下すことができれば世のため人のためというもの。
「えっと……最近、人に尻尾でフンを投げつけるババコンガが出没してて……そのモンスターくらいですかね……」
「ばばこんが、でござるか。あいわかった。其の者に誅を下してこようぞ」
人かと思えばモンスターである。
だがこれは好都合。迷惑を被った方々には申し訳ないが、好都合に感じてしまった。怒りのままに剣を振ることができてしまえば、相手の命をも奪いかねないのでは、という懸念があったのだ。
モンスター相手なら、そう簡単に命を奪うことはあるまい。それに人様に迷惑をかけているのであれば、やむなし。
「では行ってまいる!」
「え!? あ、ちょっ……!!」
兵は迅速を尊ぶ。近隣のうんこ、あいや、うんうん被害の場所を探しだし、悪戯者たるモンスターを懲らしめるのだ。
しばらくして、うんうん臭い桃色の獣と遭遇した。きっとこの者がばばこんがであろう。
拙者個人の恨みはないが、成敗してくれよう。
だがその前に、うんうんをぶつけられねばならぬ。真の目的は、怒りに染まり剣を振るうことなり。
怒りのため、打算があるが、それでもうんうんをぶつけられれば、拙者の心激しく怒りに染まろうぞ。
そう思い、対峙をつづけては見たが、この獣。
全くうんうんを投げないのである。いったい何故投げないのか、話によれば尻尾を用いてうんうんを投げるらしいが。そう思い、その尾をよくよく見てみると、器用にも尾で茸を持っているではないか。
なるほどあれでは尾を用いてうんうんを投げるなど叶わぬ。
理由わかれば話は早いというもの。その尾を少しばかり痛めつけて、茸を落とさせるのみである。
しかしなかなかこの獣。動きが激しく、尾に刀を当てるのは至難。集中しなくてはならない。
怒りに染まるその前に、雑念捨てて無心に至る。無心の境地に至った拙者の剣は、これでも人に達人とうたわれしものなり。
「チェストォォッ!!」
自然と身体が動けば、まさに狙い通り。かの獣の尾を断つことができたのだ。
あ。
尾がなくなってしまっては、うんうんを投げてもらえぬではないか。
拙者としたことが、峰打ちを仕損じるとは、やはりまだまだ未熟な証……
自省に駆られている間にも、獣は拙者に襲いかかってきた。
尾を斬られてなお闘志が揺るがぬとは、この獣、相当な強者。天晴と思うが、それゆえに残念で仕方ない。手負いの獣となってなお闘志煮えたぎるのであれば、見逃すことはできない。人様にその凶刃を向ける前に、拙者のこの手で仕留める他あるまい。
―――うんうんを人にぶつけなければ、お主は強き獣として名を馳せたであろう……さらばだ……
物悲しさを覚えながらも、雑念を捨て、再び無心の境地に至る。そして永訣の斬撃を強き獣に見舞った。
結局、怒りに染まることがなかった。その残念な気持ちのままに村に戻れば、あの信強き娘にお怒りの言葉を受けた。いったい何故拙者は怒られたのか。なんでもはんたーと呼ばれる者が、あの獣を退治する仕事だったのだとか。ということは拙者ははんたーの仕事を奪ってしまった。しかしはんたーとは使者であった気がするが。
しかし過ぎたことはどうにもならぬ。
次に何を為すか、それが肝心であろうというもの。
此度の反省を活かし、次の行動を考える。
そもそも拙者は焦り過ぎなのではないだろうか。
怒りに染まった剣を振るう。そのために怒りを宿したいなどと考えていたが、只人の怒りで、すべてを断つ剣に繋がるだろうか。いいや、繋がらぬ。
拙者の怒りは只人と変わらぬ怒り。怒りにも道はあるのだおそらくは。
であるならば、怒りの達人たるものを探す。一見、遠回りのようだが、これこそ一番の早道なり。
異国の地で拙者は物知らぬ身。ここは信の強く、かつ情報通な娘の助力を願うのが一番である。
「は、はあ……怒りの達人、ですか」
「さよう。拙者、訳あって今は怒りの極意を探しているのだ。凄まじい怒りを見せてくれる者はおらぬだろうか」
「……教えた途端に、ババコンガの時みたいにいきなりモンスターのもとへ行かないって約束できますか?」
「知ってるでござるか!? ならば約束は必ず!」
「……怒りの極意とかはよくわかりませんが、凄まじい怒りっぷりと言えばラージャンなんかですかねぇ」
「ふむ、らあじゃん、であるか」
「はい。怒りだすとまるで変身したかのように変わるそうですよ」
「なんと! それはたいそう凄まじい怒りでござるな!」
「ですねぇ。その時金色に輝くことから、金獅子という異名もついてるんです!」
「異名まで! ということはさぞかし名の通った御仁なのでござるな!」
「名の通った? まぁ、そうですね?」
聞けば聞くほど、らあじゃん殿に一度会ってみたいものだ。ひとたび怒れば、阿修羅のごとく変貌。異名、通り名までつくほどの怒りの達人。しかし突然面談を求めても、でいのばるど殿の時のようになるかもしれぬ。
だがこの高ぶる思いを偽り誤魔化すことはできぬ。多少無理をしてでも会いにいこうぞ。
「して、その御仁はどこに住まわれているのであろうか」
「……さっきした約束覚えてます?」
「もちろんでござる。モンスターのもとに行くつもりは毛頭もござらん。拙者は人に会いたいだけでござるよ」
「なんで今の流れで人が出てきたんだろう……。今のところは……原生林に出没してるみたいですね」
「さようか! むっ! 原生林行きはあの船でござるな! 情報かたじけない!」
「え!? あっ、ちょっと!?」
あいるーと呼ばれる小さき者が持つ立て札に『原生林行き』と書いてある船が丁度出ようとしているではないか。この期を逃せば数刻は待つことになるであろう。逸る気持ちを抑えることなど出来ぬ。
娘が何やら慌てていたが、問題なかろう。拙者はモンスターの元へ行くわけではない。らあじゃん殿の元へ行くだけなのだ。
原生林たる場所に到着したはいいが、いかんとも表現しがたい。
果たしてかような地に、人が本当に住まうのだろうか。
いや、今のは失礼であった。住めば都という言葉があるのだ。この地に住む人にとっては素晴らしい場所なのだ。拙者の勝手な価値観を押し付けるなど、無礼極まりない。
しかし、住居らしきものが見当たらぬ。
少しばかり、礼節に欠けるがやむをえなし。
「失礼承知で申し上げる!! 拙者はシキの国より足を運びし剣士なり!! らあじゃん殿はおられるか!!」
大声でらあじゃん殿を探す。
勝手に押しかけて、大声で喚くなど無礼とはわかっているが、見つからぬのだ。いざ仕方あるまい。
「らあじゃん殿ー!! おられぬかー!!」
しかし返答はなし。
「…………ふぅむ、留守であろうか」
どうしたものか、思いふけろうとしたとき、近くから強い殺気を感じその場から跳躍する。その刹那、立っていた場所に巨大な岩が落ちてきた。
何奴、もしや、らあじゃん殿か。そう思い殺気の方角に視線をやればそこにいたのは黒い猿であった。
「お主が先ほどの殺気の持ち主か……その角、ただの獣ではあるまい。
目の前の畜生は、未だに強い殺気を放っている。そして再び近くの巨木を拾い上げ、凄まじい速度で投げつけてきた。このような力任せの技に、拙者がやられるはずもなし。無駄な動きすることなく、紙一重の位置で身を躱す。
しかし、らあじゃん殿の住居をこうも荒らすとはこの畜生、無礼者にもほどがある。
らあじゃん殿はただでさえ怒りの達人なのだ。住居が荒らされたと知っては、拙者と話をすることも難しくなるほど怒り狂うのではないか。そうなっては拙者は何のためにここまで来たのか。
そうならないためにも、この畜生には誅を下す。
「他人の住居を荒らす不届き者よ。家主に代わり、拙者がお主を成敗してくれようぞ!!」
刀を抜き、肉薄する。
やはりこの畜生、以前の桃色の獣に比べるとはるかに強い。その剛腕から振るわれる拳は当たれば岩をも粉砕するであろう。無論、当たらなければ何の意味もないが。
激しい動きに、どう刃を入れるか悩んでいたところで気づく。
この畜生、尾がある。
このままただ成敗するのは簡単である。だが、折角なら己の腕を研磨するために、少しばかり工夫をしてもいいかもしれない。
思いだすのは、桃色の獣との立ち合い。
あの時、尾を峰打ちできなかった。
ならば今度はこの畜生の尾を、峰打ちしてみせようぞ。
無心に至るその前に、刃の向きを変えておかねばなるまい。これならば無心であっても峰打ちになるというものだ。
しかし向きを変える前に、奇妙な光弾が畜生の口から飛んできた。
なんとも面妖な技である。そしてその弾に込められた力は凄まじいもの。面は食らったが、躱すこと自体は容易いものだった。
しかし流れ弾がまたも、らあじゃん殿の住居を破壊する。
そうであった。ここはらあじゃん殿の住居。なのに拙者は何を悠長に、峰打ちの練習などしているのか。
慌てて刀を構える。
そして至るは無心の境地。一切の雑念消し去り狙いは畜生。
「ズェアァァアア!!」
自然と身体が動けば、まさに狙い通り。畜生の尾を断つことができたのだ。
あ。
狙い通りではないではないか。桃の獣のことを無心ながらも引きずってしまっていたようだ。未練がましく尾を狙ってしまうなど、やはり拙者はまだまだ未熟の身……
尾を断たれた畜生は、一瞬金色に光ったかと思ったが、その身は黒い毛並みのまま。
またも口からあの面妖な弾を出そうとしたのだろうか。だが不発のようであった。
それはそうとこの畜生。相も変わらず闘志は萎えてなく、未だに破壊をもくろむ様子。
その姿、まさに破壊の申し子と言われるに相応しいものである。
再度刀を用いて一閃。
此度の永訣に、物悲しさはない。この畜生は手負いの獣では収まらぬ。きっと取り逃していれば、破壊と滅亡の申し子とうたわれる存在となったであろう。そう思わせるほどの強い殺気のこもった目を最後までしていたのだ。
死骸に背を向け、破壊されたらあじゃん殿の住居を見やる。
せめて少しでも誤魔化し、いや、修繕できればよいものだが……。修繕に使えそうなものがないか、探し回ると奇妙なものを見つけた。
金色の毛が数本、落ちているのである。
辺りにかような毛の存在は見当たらない。
落ちている場所は先ほどの畜生のすぐそば。以前から会ったのであれば、あの争いの余波で吹き飛んでいるはず。にも関わらず、ここにあるということは。
「この金色の毛はもしや……らあじゃん殿……!?」
なんということだ。
らあじゃん殿は怒りに染まれば金色に輝くという。摩訶不思議すぎて、話を盛られているのではと思っていたが、この毛を見れば偽りではなかったのだろう。
つまり、らあじゃん殿は金の毛の持ち主なのだ。そしてここにあるということはそれすなわち
「らあじゃん殿……先ほどの戦い、どこかで見ておられたのか!!」
しかし見ていたのならば何故姿を現さなかったのであろうか。
らあじゃん殿ほどの怒りの達人となれば、自身の住居を踏み荒らされているとなれば、怒りに染まりながら現れそうなものである。
にも関わらず、姿を見せないということは……
ああああああああ、なんてことだ。拙者はひどい思い違いをしていたのだ。
らあじゃん殿は怒りの達人。故にすぐに怒りに身を任せ、飛び出してくるという考えがそもそも間違っていたのだ。
怒りの達人だからこそ、己の怒りを理解しているのだ。
姿を見せれば自制が効かず、暴れて取り返しのつかないことをしてしまうかもしれない。そういう懸念から、先ほどからの無礼を放置しているのだ。
そう思えば、このような地に住んでいる理由も自然とわかるものだ。
他者をむやみに傷つけない。怒りの達人らあじゃん殿は、心優しいお方なのだ。
「らあじゃん殿……! 其方はなんと、奥ゆかしい御仁なのだ……! 拙者は自分が恥ずかしい!」
らあじゃん殿を勝手に推し測り、わかった気になっていた拙者はなんとあさましいことか。これではそこで躯を晒している畜生となんら変わらぬではないか。
そんな我ら畜生に、らあじゃん殿ほどのお方がお会いしてくれるはずもない。
「拙者、必ずや精進いたす……! いずれ貴殿と並びたてるようになってみせようぞ! らあじゃん殿!!」
きっと聞いてくれているであろう、らあじゃん殿に宣言をする。たとえ聞いてなくても、これは誓いなのだ。己を高めるための、誓いなのだ。
しばらくして、はんたーずぎるどの迎えの船がやってきた。
何故かやたらと怒られた。そういえば運賃未払いではないか。怒られるのも当然である。
「まことに反省している。だが、勝手ながら、らあじゃん殿にお伝えしてほしいことがある」
先ほど言うのを忘れていた、大事な言葉だ。
「貴殿のおかげで拙者はより高みを目指せる……故に、深く感謝を……と」
実ははんたー志望なのでは、狩った相手に感謝って結構古風なはんたーね、などという声が聞こえてきたがなんのことやらさっぱりわからん。
怒りの奥深さの片鱗を知ることができた。
此度の原生林への遠征は、まこと有意義なものであった。
しかしこうなれば、もはや疑いようがなくなったというものだ。
怒りの剣もまた、すべてを断つ剣なのだ、と。もはや尾ひれのついた噂などではない。でいのばるど殿を幾許か疑っていた己の心が恥ずかしい。やはり拙者は井の中の蛙であったのだ。
まだまだ未熟の身ゆえ、怒りの剣は拙者が会得することは遠い先であろう。
だが一目でいい。この目でその剣を見てみたい。
らあじゃん殿に見せてもらった怒りの極意、その真価を用いた剣術を。
しかし、でいのばるど殿は拙者と会わぬようにしている。ならば如何とするべきか。
「強引にでも、押しかけるのみ……!!」
そのためにもまずは何処におられるか、それを知らねばなるまい。
「というわけで頼む。拙者には其方しかいないのだ……!!」
「は?」
ベルナ村で最も拙者が頼りにしている娘に深々と頭を下げる。
年下の娘と言えど、拙者にはこの者しか頼れるものがいないのだ。
「あの、いきなりそんなこと言われても困るんですが……」
「無論、困らせるということはわかっていた……だが、それでも! 其方に迷惑をかけないよう、気持ちを誤魔化すなど……拙者には、この気持ちを偽ることはできんのだ!」
なにやら周囲が騒がしい。きゃーきゃーと姦しい場所だ。今はそのようなことはどうでもいい。目の前にいる娘はどこかひきつっているような表情を浮かべている。やはり、迷惑だろうか。
だが、でいのばるど殿に一目会いたいという気持ちはもう、抑えることはできんのだ。
「いや、あの……その、ですね……」
「頼む! でいのばるど殿は今どこにおられるか、教えてほしいでござる!!」
「古代林ですけど、私たち、まだ知りあったばかりですし…………は?」
「古代林でござるな! かたじけない!! この御恩は必ず!!」
「え? ちょっ、おまっ……!!」
丁度『古代林行き』という立て札を持ったあいるーがいるではないか。その者の荷車に乗せてもらう。此度はちゃんと運賃を払うのは忘れず。
でいのばるど殿、果たしてどのような御仁であるか。胸が躍るとはこのことか。
古代林たる場所に到着したはいいが、いかんとも表現しがたい。
果たしてこのような地に、人が住んでいるのであろうか。
そこら中に獣や巨竜がいるのだ。いくら住めば都という言葉があろうと、限度と言うものがあるのではないか。
いや、拙者は何を言っているのか。らあじゃん殿とのことを忘れたのか。今の考えは失礼極まりない。拙者などには到底想像もつかぬ意味があるのだ。
さてさて、原生林では大声を出して、らあじゃん殿を探した。だが、怒りの極意たるらあじゃん殿の気遣いゆえに、姿をまみえること叶わなかった。でいのばるど殿もまた怒りの極意極めしもの。さすれば大声で探しては駄目であろう。人と会えば傷つけるかもしれぬ、そのような思い宿りし業なのだ。怒りの極意とは。
未だ片鱗しか見たことのない怒りの極意について、わかったように考える拙者はやはり未熟なのだろう。
だが、境地に至るとはそういうことなのだ。
無心の境地も、怒りの境地も、どちらもきっと人を孤独にさせる力なのだろう。
妻も、拙者の元から離れていった―――
ある日修行から家に帰ると、『生活費を一切稼がない、弟子を取れば授業料を取れるのに弟子を取らない、いつも汗臭い。もう我慢なりません。さようなら』と書置きがあった。
強さとは、孤独に至る諸刃の剣なのだ。
とにかく、でいのばるど殿に存在を悟られれば、会うことは叶わずとなるだろう。
であれば大声は出さない。でいのばるど殿を足で探すのみである。
しばらく歩き回って奇妙な場所に辿り着いた。
何かで斬られたかのような巨木があちこちにあるのだ。
明らかに自然で出来たものではない。となればここは、でいのばるど殿の修行場か、寝床か。
切断面を見ると、まるで荒々しくも力強い、そう感じさせるものだった。まるで人には背負えぬような巨大な剣を用いて、力任せに切断したかのようだ。
これを人の手で行ったというのか。拙者には到底できそうにない。拙者の刀ではこの巨木を半ばまでしか届かぬであろう。長さ的に。それ以上長い刀は上手く扱える気がしない。
断面こそ綺麗とは言い難いが、これが怒りの剣の片鱗……恐ろしいものよ。
ふと気づく。
ただ切断されているのではない。少し焦げているのだ。
まさか、斬撃と共にその摩擦で火を起こしたというのか。
怒りの炎、という比喩がある。それを比喩でなく、直喩のごとく表現するのか。怒りの剣は。
これは到底拙者では辿りつけぬ境地。
いったいどのようにすればこうもできるものか、皆目見当もつかない。
ああ、もはや会得は叶わず、されど、拙者の無心の境地と、でいのばるど殿の怒りの境地、どちらが上か競いたい。好奇心はネコをも殺すと言うが、拙者も剣士の端くれ、強者を見ては高ぶることもあるのだ。未熟ゆえの高ぶりかもしれぬが、それでもこの気持ちは抑えれぬ。
となれば、でいのばるど殿が来るまでここで待つのみ。
果たして、でいのばるど殿は拙者と剣を交えてくれるであろうか。交えてくれるのであれば、嬉しいことこの上ないというもの。
期待で柄にもなく、わくわくという気持ちになっていた時であった。
突然感じた鋭い剣気―――
咄嗟にその場を離れると、その刹那、そこには巨大な青鈍色の尾があった。
その尾の持ち主は、大きな竜。
「……竜よ。言ってもわからぬと思うが、即刻この場から立ち去ってはくれぬか?」
無駄であろうが、言葉を聞かせる。ここはでいのばるど殿の、おそらくお気に入りの場所。ここで暴れられてはでいのばるど殿が困るであろう。そして、拙者も。
すぐさま斬って捨てるという考えも出たが、らあじゃん殿の優しい心を思いだしたのだ。そのまま心のままに、剣を振るうなど畜生もいいところだ。故に忠告を行う。
「拙者はこの場所の主、でいのばるど殿に会いに来たのでござる。貴殿を害そうなどという意思はないでござる。互いに見なかったことにせぬか?」
その言葉の返事は、強大な尾による叩き付けであった。
やはり竜とは相容れぬものか。であるならば、拙者も遠慮はせぬ。とはいえ、命をいきなり奪うなどはせず、その暴れている尾を斬り落とすことを目標とする。
尾を斬り落とされれば、尻尾を巻いて逃げるやもしれぬ。逃げるのであれば、むやみに追う必要もない。
そこでふと気づく。
かの竜が自身の尾に噛みついているではないか。
いったい何を思ったのか、全く見当もつかない。だが、よくよく観察してみれば、その牙を用いて尾を研磨しているではないか。
研磨された尾はまるで熱く輝く。打たれたばかりの刀身のように、美しく、武骨に。
「ま、まさか……」
そしてその尾を用いて周囲を薙ぎ払う竜。薙ぎ払われた跡を見ながら、『まさか』が『やはり』と心の中に芽生えた考えが確信に変わる。
この竜は尾を剣と見立てて攻撃に用いているのだ。
そして実際に、剣として機能している。周囲の大木が切断されたのだ。それもただ切断されているのではない。焦げ臭い香りが鼻につく。つまり、斬ると焼くを同時に行っているのだ。
信じられないことだが、目の前の事実を飲み込まねばなるまい。
この竜は、この竜こそが、でいのばるど殿の一番弟子なのだ。
でいのばるど殿も怒りの剣の境地に至り、弟子入りを志願されたのであろう。そして拙者とは違い、弟子を取ったのだ。
でいのばるど殿は身分の高いお方。表立って流派を構えるのも難しいのだろう。故にこのような辺境におられたのだ。そして、この地で弟子を取ったのだろう。
なるほど、このでいのばるど殿の一番弟子の闘志、実に心地よいものだ。これほど強い闘志の剣士はそういない。本気で相手を叩き斬ることのみを考えている。
それに竜であるにもかかわらず、この剣技。でいのばるど殿の教えの賜物か、技術は人と比べ拙いものだが、竜としては天賦の才というに相応しいものではないだろうか。
そして、文字通り自らを研磨し、高みを目指している姿も好感が持てる。
さらには約束なく師匠に無礼にも会おうとした不届き者を、一番弟子として成敗しようとしているのだ。なんと凄まじい敬愛っぷりか。
「なるほど、さすがはでいのばるど殿の弟子でござるな。だが、無礼を押して通るぞ! 貴殿では拙者の相手にならんでな!!」
頭上から襲い来る尾の斬撃を迎え撃つように、一閃。
宙に舞うはその尾の断片である。
やり過ぎたかもしれぬが、これほどの剣気の持ち主。峰打ちなどの生ぬるい手段では止まるまい。
「勝負、あったでござるな」
確信して言い放った。弟子を下したのだ。次はその師が来るであろう。周囲を見渡しても、それらしき影はない。どこか水汲みにでも行ってるのであろうか。
「でいのばるど殿がどこにおわすか―――何!?」
弟子に聞こうと意識を向けた時、目の前に迫りくるは、尾による叩き付け。
刃部分を破壊されてなお、その闘志は衰えないというのか―――
そして気づいた。
拙者はいったいどこまで愚かなのかと。
拙者はこの、でいのばるど殿の一番弟子を格下だと見下していたのだ。それに勝手に勝負がついたと見切りをつけた。なんという傲慢なことか。なんという油断大敵なことか。まことに度し難い未熟者とはこのことだ。
眼前の竜を、一番弟子を見てみるのだ。
相手に武器を破壊されようと、攻撃が何度放ってもかすりもしなくても、その剣気一切衰えず。
心で負けた時点で、その者に勝利はないのだ。そう言ってるかのような強い視線。
「あ、あああ……」
そうだ。
拙者はこの者に、心の在り様で完全に負けているのだ。いくら腕が立とうと、剣士として相手を敬わぬ者が勝者と認められていいものか、否。
「まことに、まことに済まなかった!!」
こんな未熟者が、でいのばるど殿に会おうなどと烏滸がましい。この弟子殿の足元にも及ばないのだ。
気づかせてくれたことと、そして見くびっていたことへ深く詫びる。
許されぬことをしてしまったのだ。
されど、願わくばこの者と共に、でいのばるど殿から剣を学びたい。そう思えるほど、この竜は気高く、そして親しみを覚えた。
「まことに申し訳ない!! この通りだ!!! そして、身勝手だと思うが、でいのばるど殿とお会いしたい! 拙者を弟子にしてほしいのだ!!」
土下座。
拙者が知る深い謝罪方法。これ以上となると切腹くらいしか思いつかない。切腹は未練が残る。でいのばるど殿とまだ会えてないのだ。
それに、この竜と互いに研磨できるような、兄弟弟子関係になりたいと、強く思えてしまったのだ。
「なにとぞ!! なにとぞ!!!」
とはいえ、この竜殿は怒りで満ちているであろう。
だがその怒り、受け入れなければならない。拙者はそれほど酷いことを行ったのだ。
竜殿が近づいてくる。
ああ……駄目であったか。
そう思った刹那、竜殿が吹き飛ばされた。
「この人が要救助者!? 間一髪!?」
「助けにきましたよ! すぐに私たちがディノバルドを狩猟します!」
様々な武器を持った四人組が拙者の元に駆け寄ってきた。
あっけにとられている間に四人がかりで竜殿を攻撃していく。
5分もしないうちに、竜殿は息絶えてしまった。
「もう大丈夫ですよ」
「腰が抜けたんかな。動かない……」
「そりゃ目の前まで迫られてたしな……」
何か言っているがよくわからない。わかることができない。
「竜、どの……」
脳裏には竜殿と互いに研磨した日々が、あったかもしれない日々が流れていく。
竜殿と師匠の料理を作り、失敗しては竜殿と説教を受け、互いに手合わせをして高め合う日々。
そんな夢のような日は、もう、来ない。
竜殿は目の前の四人組によって、屠られたのだ。
「あ、あああ、ああああああああ!!」
「ど、どうしたんですか!?」
「このおっちゃんどうしちゃったの!?」
心が怒りに染まっていく。
ああ、竜殿。そしてでいのばるど殿、今一度だけ、怒りの極意、拙者に教えてくだされ―――!
「てめぇらの血は、何色だァァア!!」
「うわっ!?」「ひっ!!」
泣きわめきながら、両腕をぐるぐる回して四人組を叩いた。
「こ、こわい! 泣きながらぐるぐるパンチするおっちゃんこわい!!」
「うわっ、こっちきた!?」
「うわああああああああああん!!! うわわああああああああああああああああん!!」
しばらくして、はんたーずぎるどの迎えが来た。そして拙者は取り押さえられたのだ。
反省室から出ることが叶ったら、拙者はもう、シキ国に帰ろうと思う。
でいのばるど殿の弟子を、見殺しにしてしまったのだ。会わせる顔などない。逃げだとはわかっている。だが、拙者は帰るのだ。
泣きながら漏らしたことがもうこの村に広まってしまったのだ。
帰る以外に、道はない。