陽乃さんを素直にすると、かなり、強敵かもしれない件 作:A i
休日開始
雪ノ下、由比ヶ浜の二人と分かれると、俺は陽乃さんに引きずられるようにして学校を出た。
その間、何度か「陽乃?」と呼びかけてみたが全く取り合ってもらっていない。
何か気に触ることでもあったのか?と疑ったが、彼女の横顔を見る限り、どうやら怒っているわけでもなさそうである。
流石に、俺のことを無視して心に傷を負わせようとしているわけでもないだろう……ない、よな?
もう一度、チラリとその横顔を窺う。
しかし、そこには実に楽しそうな微笑みを浮かべる陽乃さんがいる。
まるで、小さな子が大好きなオモチャを買ってもらえると知って、居ても立っても居られない時のようだ。
それに、これから遊びに行くと言っていたがどこへ行く気なのだろうか?
彼女の喜びようから考えるにとても楽しいところなのだろう。
だけど、残念ながらあの二人のことを思うとそれも素直に楽しめそうにない。
これから、どのように彼女達に説明すればいいのか検討も付かなかった。
少し途方に暮れて、ため息を吐く。
「はあ……」
「どうしたの?八幡」
そこで、初めて陽乃さんが口を開いた。
しかし、歩調を緩める様子はなく依然俺は引っ張られている。
「いや、あいつらにこの後どう説明しようか考えてると、少し鬱になってきまして」
俺が正直に言うと、彼女はあっけらかんとした様子で言う。
「あの子達、今頃焦ってるかな?」
「そりゃ、焦るでしょうね。部員が知らぬ間に陽乃と付き合ってたなんて知れば」
「本当に、そんな理由かな?」
何か含みを持たせた言い方。
「何が言いたいんです?」
「べっつにー?なーんにもないかな〜」
「いや、何かあるでしょう?言ってくださいよ」
少し棘のある言い方に、陽乃さんがクスリと笑う。
「君には素直にならなくちゃ、だもんね?」
「ええ、まあそれもありますね」
そう言われて、少し冷静さを取り戻す。
だが、次の陽乃さんの一言で俺はその冷静さを手放すことになる。
「まあ、八幡がそう言うなら言うけど、あの子達どっちも君のこと好きだよ?」
「な……え!?」
あまりにも、スンナリとそう言ったので、俺は一瞬理解できなかった。
「あはは。なに、その反応?本当に気がついてなかったの?」
そこでようやく、俺の腕を放す陽乃さん。
お腹を抱えて、可笑しそうに笑っている。
「いやいや、あいつらが俺なんかに惚れるわけないですよ」
爆笑している陽乃さんに俺はムッとしてそう言い放ったが、その瞬間、ギラリ!と彼女の瞳が怪しく光る。
「あのね、それ本当に言ってる?」
「はい」
俺がそう応えると彼女は何か反論しようとしたが、すぐにその口を閉ざす。
「……ま、いっか。八幡がそうしたい、って言うのなら、それでも。でも、とりあえず、今は私と遊ぶことに集中して欲しいな。いい?八幡」
にこり、と笑いながら俺に近づく陽乃さん。
その笑みは、場違いなほどに可愛らしく俺はぽりぽりと頰を掻いた。
まあ、たしかに陽乃さんの言う通り、今あいつらのことを考えていても仕方がない。
それに、陽乃さんの前で下手に気を散らして仕舞えば、どうなるか分かったものではないしな。
とりあえず、今は彼女(仮)の陽乃さんの機嫌を損ねないことを最優先にしよう。
「ね、八幡?」
そう言って、右腕にギュッと抱きついてくる陽乃さん。
上目遣いにどきりとした。
「集中するもなにもどこへ行くかすら知らないんですが」
腕に抱きついてくる陽乃さんに、俺は顔を背けながらなんとかそれだけ言う。
陽乃さんはそんな俺の様子を見て、可笑しそうに笑った。
俺も釣られて笑みを浮かべるが、頭の中は実際それどころではなかった。
なにがとは言わないが、腕にムニムニと柔らかいものが当たってる。
やばい。
なにがヤバイって、感覚が研ぎ澄まされてきてどんな形かとか、どれぐらいの大きさだ、とか容易に想像できてしまうことだ。
クッ……!長年のプロぼっち生活で鍛え上げた想像力がこんなところで仇となるとは。
これが持つものの苦しみというやつか……。
いや、これはただの変態だな、うん。
そんなことを考えている俺の顔を陽乃さんは満足そうに見つめていたが、すぐに腕を引き、歩き出す。
「わわ、陽乃!?結局、どこへ行くんだよ!」
慌ててそう聞くと、彼女は綺麗なウィンクを決めて微笑み、こう言った。
「私の……お、う、ち」
「……へ?」
間の抜けた声を上げた俺をさらに強い力で引っ張り連れて行く陽乃さん。
その彼女の横顔は、少し朱色に染まっているのだった……。
少し遅くなりました。
旅行から帰ってきてから、書いてたので、疲れもあってかかなり短いかもです笑笑
これから、いろんなヒロインとイチャイチャさせていくつもりなので、よろしくでーす。