陽乃さんを素直にすると、かなり、強敵かもしれない件 作:A i
ハルさんとの電話です。
どうぞお楽しみください。
「君、私の彼氏になりなさい」
「は?」
俺はあまりの驚きに、間の抜けた声を漏らしてしまった。
え?俺が誰の彼氏になるの?はるのさん?
いやいや!!
だって、あの、完全無欠の超絶美少女の魔王、陽乃さんだよ?
絶対俺みたいな捻くれぼっちに自分の彼氏になれなんざ、天地ひっくり返ってもありえないだろ?
おそらく、聞き間違えだな、うん。
そうに違いない。
どうにかこうにか自分を納得させた、俺は一応もう一度聞く。
「あの、聞き間違えてしまったと、思うんで、もう一度……」
「だから、私の彼氏になりなさいって言ったの,しっかりと聞いてよね、比企谷くん。女の子にこんな恥ずかしいこと二回も言わせたらダメなんだぞ?」
メッ!と冗談めかして言う陽乃さんだが、こっちはそれどころではない。
「いやいや、なんでですか!?おかしいでしょ!!」
「何にもおかしいことはないわよ。君が私の彼氏になるのがそんなにおかしいことかな?普通泣いて喜ぶと思うんだけど。あ、わかった!比企谷くん、雪乃ちゃんのこと好きだから嫌なのか!」
合点がいった、とでも言わんばかりに嬉しそうな声をあげる陽乃さんに、俺は敢然と否定する。
「いや、それは違います!」
「え、じゃあ、ガハマちゃんかな?浮気は許さないよ?」
声の高さは変わってないのにめちゃくちゃコエー!!
「いや、それも違いますし。それよりも俺が聞きたいのは、なんで俺が雪ノ下さんの彼氏にならないといけないのか、です。」
「ありゃ、嫌なの?」
キョトンとした調子で言うはるのさんに、俺も言い返す。
「嫌、とか嫌じゃないとか以前にわからないんですよ。俺なんかと付き合おうと思う理由が」
「比企谷くんのことが好きだから、じゃダメかな?」
クスリ、と蠱惑的に笑うはるのさん。
それが本当の理由じゃないことは、その笑いからも明白だ。
「からかわないでください」
自分が思ってるよりも低い声になり、少し驚いた。
「ありゃ、怒っちゃった?」
「いえ、怒ってはないです」
「あはは。ごめんね。つい、比企谷くんと喋ってると楽しくなっちゃうからさ」
楽しげに笑うはるのさん。
彼女にはもはや呆れるしかない。
「じゃあ、なんで急にこんな話したのか、そろそろ教えてもらっていいですかね?」
俺がため息交じりにそう問うと、陽乃さんも笑いを引っ込めて答える。
「うん、そうだね。でもさ、こんな話、電話ですることでもないから今からご飯、食べに行かない?」
「え、今からですか?」
時計をチラリと伺うと、18時を回っている。
「結構遅いですけど、雪ノ下さんは大丈夫なんですか?」
「ありゃ、私のこと気にしてくれてるの?ありがと。でも、大丈夫だよ。大学生って結構ルーズだからさ」
「はあ、まあなら、大丈夫ですよ」
「じゃあ、今から迎えに行くし。速攻でスーツに着替えてね?」
「え!ドレスコードあるとこ行くんですか!?」
てっきり、サイゼはなくても、その辺のレストランぐらいかと思ってたぞ。
そんな俺に、ケラケラと笑う陽乃さん。
「まあ、私服でも良いけど、ダサいのはダメだよ?」
はるのさん相手に、ダサくないの、とかハードル高すぎる。
「なら、スーツで行きます」
「よろしい。じゃ、30分後には着くから、準備、しっかりしててね〜」
そう言うと、電話はプツリと切れてしまった。
「陽乃さんなんて?」
ソファーの上で寝転ぶ小町が上目遣いにこちらを伺う。
「ちょっと、出かけてくるわ。夜飯も食べてくるから」
「はいはーい。楽しんできてね〜」
ぷらぷら〜と、手を振る小町に「楽しめねーよ」と言いつつ、俺は親父の部屋へスーツを着替えに行くのだった。
また、3話でお会いしましょう〜