陽乃さんを素直にすると、かなり、強敵かもしれない件   作:A i

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reason

 「乾杯」

 

 そう言うと、俺はグラスに注がれた、飲み物に口を付けた。

 

 「これは……」

 「たぶん、ライムね。うん、おいしい」

 

 陽乃さんがそう言うのだから、おそらくそうなのだろう。

 もちろん、カクテルなんかではなく、ジュースだ。

 

 「ま、飲酒運転になっちゃうからね、お酒飲んだらさ」

 「そうですね」

 

 ナチュラルに心を読まれたが、人ってすごいな。

 もう慣れたぞ……。

 

 いや、そんなことは今どうだって良いな。

 

 俺はグラスを置き、陽乃さんの様子を伺う。

 

 陽乃さんもグラスを置いたタイミングを見計らい俺は、ようやく本題を切り出した。

 

 「で、陽乃さん」

 「ん?なあに?」

 

 クリンと可愛らしく首をかしげる陽乃さん。

 

 「本題なんですけど……なんで、俺を彼氏にしたいだなんて言ったんですか?なにか事情があるんでしょ?」

 

 俺がそう聞くと、あごに手を触れさせ、少し考える仕草を見せる陽乃さん。

 その仕草は雪ノ下とよく似ている。

 

 「うーん、そんなに知りたいの?理由」

 「そりゃ知りたいですよ。なんの理由もなくそんなお願い聞けません」

 「そっかそっか……」

 

 なぜかにこやかに笑う陽乃さん。

 

 「実は、私に今、お見合いの話が来てるんだ」

 「え……お見合い?」

 「そ。お見合い。なんか、どこぞの御曹司様らしいから、ありきたりな言葉で言うと、政略結婚に近いかも知れないね」

 「そ、そうなんですか……」

 

 雪ノ下の親は県議会議員だと聞いたことがある。

 

 しかし、現代にまだ、お見合いで結婚するなんていう風習があるなんて知らなかった。

 

 それにしても、お見合いだなんて、この自由奔放な陽乃さんに、あまり似つかわしくない気がする。

 彼女は嫌じゃないのだろうか?

 

 「嫌なんだよね、そのお見合い」

 

 ハッとして陽乃さんの方向へ視線を向けると、艶やかな髪をクルクルといじりながら、唇をとがらせている。

 

 「なんか、写真見てもパッとしないし、まず、顔が私の好みじゃない」

 「はは、手厳しいっすね」

 「まあ、お金は持ってそうだけど、生憎、お金には困ってないのよね」

 「そりゃそうでしょうね」

 「でも、私の好みの問題ってだけじゃ、その縁談を断れるわけもない。家の事もあるしね」

 

 そこまで聞いて俺はようやく、話の大筋をつかんだ。

 

 「そこで、俺だと言うわけですか?」

 「そ。勘が良いね、比企谷くん。君の想像通り、私に彼氏がいれば、その縁談のお話もさすがになくなる。そこで、君に彼氏役になってもらって、母を納得させる。今回の依頼はそういうことなのよ」

 

 ニター、と意地悪そうな笑みを浮かべてこちらを見つめる彼女に、俺は深いため息をつく。

 

 「なにも、俺じゃなくても良いでしょうに。他にも、陽乃さんなら、いくらでも宛てがいるでしょう?そいつらに頼んだらどうですか?」

 「誰でも、良いって訳じゃないのよ。それに、君の方が扱いやすいし」

 「いや、本音出ちゃってるじゃないですか」

 「あはは、ごめんごめん。でも、もちろん、それだけじゃないよ?」

 「まだあるんですか?」

 「それはね、比企谷君。君の事を私が気に入ってるからだよ」

 

 ジッと真剣なまなざしで俺を見つめる、陽乃さんに、俺は不覚にもどきりとした。

 彼女が本心からそう言っているように思えたから。

 

 「冗談はよしてください」

  

 俺は、どうにかそれだけを絞り出すと、陽乃さんはクスリと蠱惑的に笑って言った。

 

 「冗談じゃないんだけどね」

 「…………!」

 

 全身にぞわりと悪寒が走った。

 

 その笑みを見ていると、あまりにも、甘美なその言葉の意味に身を任せて、どこまで落ちていきたいと、思わされてしまいそうだ。

 

 だが、俺は百戦錬磨のステルスぼっち。

 負けることに関しては俺が最強だ。

 

 だから、ヒエラルキーのトップもトップ。

 誰もが認める、最強の女性、雪ノ下陽乃が、この俺を気に入ること。

 その意味を取り違えてはならない。

 

 断じて、彼女が、俺に恋愛感情を抱いていることなんてあり得ない。

 言ってしまえば、俺は彼女の退屈を紛らわせる、玩具の一つに過ぎないのだと思う。

 

 その、意味に於いて、彼女は少しばかり俺に愛着を持ってくれている。

 それだけの、理由だ。

 

 そこまで考えた、俺はようやく冷静さを取り戻すことができた。

 

 「まあ、とりあえず、ありがとうございます。気に入っていただけて」

 「ふふふ。ホントすごいね、君は。今までの男の子なら、今ので即落ちなのに」

 「即落ちって……」

 「やっぱり、君は理性の化け物だね。これなら、更に安心だよ。やっぱり、君にしか頼めないな。こんなことは」

 「そうですかね?誰でもつとまると思うんですけど」

 「ま、そうかもね。でも、私は君がいいの。この私の依頼受けてくれるよね?比企谷君」

 「前向きに検討って感じじゃダメですか?」

 「ダメ」

 

 ピリリ、とした空気感を纏い出す陽乃さん。

 

 やばい、まじで怖い。

 つーか、これ俺に拒否権無いのね。

 まあ、分かってたけどさ。

 

 「分かりましたよ。その依頼受けましょう」

 

 俺がそう答えると、パアッと顔を華やがせる陽乃さん。

  

 「ホントに!!ありがとう~。恩に着るよ~」

 

 めちゃくちゃ嬉しそうにそう言ってくれると、少しこっちまで嬉しくなってしまう。

 少し、照れくささもあって、それをごまかすために、事務的な話に持って行こうとする。

 

 「でも、具体的には何をするんですか?」

 「え~、そりゃ、こんなところでは言えないようなあんなことやこんなことまでしちゃうよ~」

 「あの、陽乃さん。それは冗談ですよね?」

 「え、ホントだよ?」

 「なら、やっぱり、この依頼は受けられませんね」

 「もう!比企谷君ってばウブなんだから。冗談よ冗談」

 「陽乃さんが言うと冗談に聞こえないんですよ」

 「あはは、ごめんごめん。でも、まあ、デートとかはしてもらうかもね」

 「デートですか……?」

 

 自分が陽乃さんとデートしているシーンがあんまり、想像が付かないんだけど。

 

 「たとえば、いっしょに映画見に行ったり、ゲームセンターでプリクラ撮ったり。あ、あとはデステニーランドなんかもいっしょに行きたいね~」

 「はあ……」

 

 もっと、すごいのを想像していただけに、なんか思っていたよりはずいぶんと楽そうだ。

 

 「まあ、そんなことで良ければ、つきあいますよ」

 「ふふふ。ありがとね。よし、じゃあ、今この瞬間から君は私のボーイフレンドね」

 「はい、陽乃さん」

 「うーん、やっぱり、陽乃さんじゃなくて、陽乃って呼び捨てにしてほしいな」

 「それはちょっと……」

 「ね?」

 

 うるうるとした瞳で上目遣いにこちらを見つめる陽乃さん。

 いつもの、魔王っぷりはどこへ行ったのかと言うほどに、小動物のような愛らしい顔をしている。

 

 くっ!卑怯な。

 この人、こんな顔も使い分けられるのかよ……。

 

 しかも、チラリと横を伺うと、ウェイターさんが、こちらのテーブル、主に俺の方を向いて、うんうん、と頷いているのが見える。

 

 おい、立ち聞きしてんじゃねーよ、ウェイター!

 気を遣うという文化を知らないのかよ。

 

 いや、陽乃さんに気を遣ってるのか……。

 

 もはや、逃げ道無しなんだけど……。

 

 「はあ……」と俺は大きくため息をつき、頭をがしがしと掻く。

 そして、できるだけ素っ気なく言うことに決めた。

 

 「陽乃、これからよろしく」

 「…………」

 

 おい、結構覚悟を決めていったのに、まさかの☆MUSHI☆

 

 ヤバい、声気持ち悪かったかな?

 そうだったら、もう俺生きていけないよ。

 

 そう思って、ちらりと彼女の様子をうかがうと、そこには、今まで見たこともないぐらい顔を真っ赤にした陽乃さんがいた。

 

 「え、陽乃?」

 

 俺が驚きの声を上げると、彼女はようやく、硬直から回復した。

 

 「……え、あ。うぅん!いや、比企谷君に名前呼びされるのって、こんな感じなんだ、って思っちゃって」

 「はあ……そうですか?」

 

 なんか釈然としないので俺は首をひねる。

 

 「じゃ、こっちも、名前呼びにしないとおかしいよね、八幡?」

 「いや、それは良いんじゃ……」

 「ね?八幡?」

 

 やべー、これは首を縦に振らないと一生続く奴よね?

 

 「はい、もうそれで良いです」

 「ふふ、照れてるね~」

 「照れてないですよ……」

 

 そんなやりとりをしていると、先ほどのウェイターが近づいてきた。

 

 「こちら、前菜になります」

 

 小鉢に入ったオサレな料理をテーブルの上に置くと、また、立ち去っていく。

 

 しかし、その立ち去る瞬間そのウェイターさんが一言「彼女さん喜ばせてあげてくださいね?」と小さく俺にだけ聞こえるように、言ったので、どきりとした。

 

 「うん?八幡、なにか今言われなかった、あの人に」

 「いや、なんでもないよ……」

 「顔赤いよ?」

 

 楽しそうに笑いながら聞いてくる彼女に、俺はぶっきらぼうに言う。

 

 「なんでもない」

 「ふふ、ま、そういうことにしとこうかな」

 

 陽乃さんはそう言うと、そこからは普通にディナーを楽しみだした。

 この、料理おいしいね、とか、今度はこういうお店行こっか、などと、他愛もない会話を交し、時間が過ぎていく。

 

 しばらくして、陽乃さんは何かを思い出したかのように「あ……」と小さく呟いてこちらを見てきた。

 

 「どうしましたか?」

 「私のお願い聞いてくれる代わりに、一つ君のお願い聞いてあげても良いよ」

 「え……」

 

 そんなこと言われるなんて想像もしていなかっただけに、全然何も思いつかない。

 

 「エッチなのでも良いからね?」

 「そんなこと言えるはずないでしょ?」

 「あはは」

 

 楽しそうに笑う彼女の笑顔を見ていると、一つだけ思いついたことがある。

 しかし、これは彼女にとって、難しいことかも知れない。

 だけど、これは、これからつきあっていく上で、一番お願いしたことだった。

 

 「一つだけあります」

 「ん?なにかな?」

 

 「俺にだけは、素直になってください」

 「へ?」

 

 ぱちくりと瞳を瞬かせて、こちらを見つめていた陽乃さんだったが、突然プッと吹き出して爆笑しだした。

 

 「ぷっ……!あはははは!君にはいつも、驚かせてもらってばかりだよ、ホント」

 「まあ、ひねくれてるんで」

 「知ってるよ。でも、今回ばかりはホントに驚いたよ。まさか、そんなことをお願いするなんてね。でも、私が素直に言ってるかなんて、君には分からないでしょ?素直に言ってるつもりでも言ってないかもよ?」

 「まあ、それはそうかも知れません」

 「ふふ、だまされるかも知れない、と分かっててそれを言うんだ」

 「はい」

 

 俺がそう答えると、彼女はまた笑い出す。

 

 しかし、すぐにその笑いを収め、俺に柔らかなほほえみを見せた。

 

 「いいよ。私の本心。君にだけ見せてあげる。でも、覚悟しててよ?私の欲求ってすごいんだから」

 「知ってますよ」

 「ふふ、じゃあ、まあ、改めてよろしくね八幡」

 「こちらこそ、よろしく陽乃」

 

 こうして、素直な陽乃さんと八幡の間違ったラブコメは始まるのであった。

 




いかがでしたか?
ようやく、八幡と陽乃さんがイチャコラできる、状況に持っていけました笑笑
これからは、奉仕部の面々なんかも、加えていくつもりですので楽しみにしていてください〜。
ではまた、次のお話で会いましょう!
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