陽乃さんを素直にすると、かなり、強敵かもしれない件 作:A i
ディナーを終え、俺たちは車に乗り込んだ。
しかし、どうやら、陽乃さんはまだ出発する気は無いようで、シートベルトもしてないし、エンジンもかけていない。
俺もそれに倣って、とりあえず、背もたれに体を預ける。
美味しい料理だったので、ついつい食べ過ぎてしまい、少し苦しい。
もしかしたら、陽乃さんも同じ理由でまだシートベルトしてないのかもしれないな。
「ふぅー美味しかったね〜」
陽乃さんが、お腹をさすりつつ、こちらに視線を向ける。
しかし、本人は気がついていないようだが、若干逸らした腹部に、ドレスが張り付き、ラインがくっきりと浮き出ていた。
この人、お腹のラインまじで綺麗だな……。
視線がグイグイとそっちに持っていかれそうになりながらも、なんとか、堪える。
理性の化け物兼自意識の化け物舐めんじゃねーぞ!!
心の中でそんなことを叫んでいると、クスクスと笑い声が聞こえてくる。
「陽乃さん、どうかしましたか?」
そう聞くと、陽乃さんは、ニヤリと笑みを浮かべて言う。
「八幡、今、私のお腹見てたでしょ?」
「え、バレて……」
そんな、俺の痴態をクスクスと、可笑しそうに笑う陽乃さん。
やばい、恥ずかしすぎて死ねる。
「私のお腹そんなに見たかったの?」
嗜虐的な笑みを浮かべ、傷口を抉ってくる陽乃さん。
そんな彼女に俺は土下座さんばかりに平謝りする。
「あの、すみません。謝るんで、もう勘弁してください」
すると、陽乃さんは笑いながら手を振る。
「別に謝らなくていいよ。私、別に見られても嫌じゃないし、むしろ、八幡に見られたら嬉しいし」
「そ、そうですか。それはその、なんというかその……」
予想外の返しに、しどろもどろになってしまう俺を見て、また、陽乃さんは声を上げて笑うので、なんとか、苦し紛れに反論を試みる。
「というか、俺は悪くないですよ。陽乃のお腹が綺麗すぎるのが悪いんですよ、多分!」
「お、逆ギレか〜?このこの〜!!」
「うおっ、やめて!脇腹突かないで!こそばいし、食べたばっかりだから出ちゃう!出ちゃうから!」
「あはは」
俺が、脇腹の攻撃に悶えると、もう、楽しくて仕方がない、という感じで、より激しく突いてくる陽乃さん。
いつのまにか、そんな彼女に釣られて、自分の口元にも笑みが浮かんでいることに気がつく。
しかし、冷静に考えると、なんだこの、バカップル感。
本当のカップルよりカップルっぽくないか?
そんな、素朴な疑問が頭をよぎったが、目の前の陽乃さんの笑顔を見ていると、なんだかどうでもよくなってくる。
しかし、このままやられっぱなしというのも癪だ。
少し、やり返してやろう。
俺はそう考えると、陽乃さんが突いて来ようとした指を掴み、離さないようにした。
「お、八幡も本気になったのかな?」
「ふっふっふ。陽乃よ。この俺を本気にさせたことを後悔するが良い」
「ふふ、助手席でノリノリだね?」
「なんか、もう吹っ切れましたよ!」
「そっかそっか。でも、何して反撃するつもりかな?」
口元にニヤニヤとした笑みを浮かべて、こちらを見つめる陽乃さん。
大したことなんてできやしない、とタカをくくっているのだろう。
……。
やばい、なんも思いつかない……。
「ありゃりゃ?八幡どうしたの?やっぱり、できないのかな?」
陽乃さんが、からかうようにそう言ってくる。
「じゃあこっちから、やらせてもらうよ!」
「……!」
陽乃さんが、グイッとこちらに体重かけてきたその時だった。
ちょうど、俺も指を離そうとしていたタイミングで力が入らず、陽乃さんの体がこちらに倒れてくる。
「きゃっ!」
「危ない!」
胸にトスンという軽い衝撃。
見おろすと、そこには陽乃さんの顔がすぐ近くにある。
「大丈夫ですか……?」
「え、あ、うん。大丈夫、かな?」
「そ、そうですか。じゃあ、少し離れてもらっても……」
「嫌」
「え?」
「嫌なの。少しだけ、このままでいてくれないかな?」
大きな瞳を潤ませてそう言う陽乃さんに、俺は無言で頷く。
静寂が、車内を包み込む。
これは、非常にまずかった。
喋らなくなると、感覚が研ぎ澄まされる。
陽乃さんの、甘酸っぱい匂いであったり、服の上からでもわかる、しっとりとした、肉感であったり。
それら、全てがかつてないほど感じられて、今にもおかしくなりそうだ。
「八幡」
「はい!」
突然の呼びかけに、俺の声が裏返る。
しかし、彼女はそんなこと、気にするそぶりもなく、静かに俺の胸に耳を当てている。
そして……。
「八幡の心臓、すっごいドキドキいってるね」
「……!!」
そう言って見上げてくる、陽乃さん。
俺の心臓が、ドキリ、と跳ね上がったのが自分でもわかった。
「あ、あの、陽乃……?」
「うん?」
「さ、流石にもう、離れてくれません、か?」
俺の心の底からのお願いに、彼女は名残惜しそうに体を離す。
「うーん、もう少しこのままが良かったけど、ま、いいや。八幡のそんな顔が見れただけで十分だよ」
「くぅ……」
「あはは、そんじゃ、そろそろ帰ろっか?」
そう言うと、陽乃さんは、エンジンを掛ける。
「また、明日、放課後に会えるかな?」
チラッとこちらを伺うような視線を投げかけて、そう言う陽乃さんに、俺は苦笑する。
「まぁ……時間作れば会えますよ」
「ふふ、約束だよ?」
「まぁ、また、連絡ください、いつでも基本的には空いてるので」
「お、珍しくやる気じゃない?どうしたの、八幡らしくもない」
驚いた表情になる陽乃さんに俺は苦笑して言う。
「一応、あなたの、ボーイフレンドでしょ?なら、それぐらいやりますよ」
「そっかそっか。嬉しいなぁ。じゃ、また明日もよろしくね!今夜また連絡するよ」
「ええ。よろしくお願いします」
「よーし、それじゃあ、帰るぞ〜!」
そう言って、アクセルを踏み込んだ陽乃さんの横顔は、今まで見てきた笑顔の中で、一番、可愛らしいもののように思えた。
今回から、イチャイチャ度高めでいきました!
次の話もイチャイチャさせまくるつもりですので、楽しみにしていてください。
ほんとはもっとエッチいのも書きたいんだけどね笑
では、また次の話で会いましょう〜。
あ、あと感想くれると嬉しいです。