陽乃さんを素直にすると、かなり、強敵かもしれない件 作:A i
「で、これはどう言うことなのかしら?」
雪ノ下がこちらを睥睨して、問いかける。
いや、問いかけるというよりも、問い詰める、という言葉の方がより的確かも知れない。
「ヒッキー……」
対して、由比ヶ浜の方はまるで捨てられた子犬のように哀しそうな顔でこちらを見つめてくる。
ヤバい。なんかすっげー罪悪感なんだけど。
まだ、冷たくさげすまれる方が、由比ヶ浜に関しては楽かも知れない。
いや、待て。
それはそれで怖いな。
「ヒッキー、最悪……死ねば?」とかって、由比ヶ浜にマジのトーンで言われたら普段とのギャップも相まって破壊力が半端じゃない。
なんかもう怖すぎて逆に変な趣味に目覚めてしまいそう。
それはそれでありかも知れないな、うん。ありかも。
などと、少し現実逃避しているとやはり氷の女王は見逃してくれない。
「聞いてるのかしら?この私が目の前で聞いているのに上の空とは、良い度胸ね?」
雪ノ下がほほえみながら言う。
だから、その笑顔怖いんだっての。
とりあえず、二人のことを落ち着けようと、俺は弁解を試みた。
「いや、上の空というわけでは……」
「ねえ~、八幡。早く、遊びに行こうよ~」
その甘えるような声に、場が凍りついた。
二人の視線は俺に向いている……。
のではなく、その少し横。
具体的には、俺の右腕にしがみついているモノを捉えている。
それは、暖かくて、モッチリとした弾力を俺の右腕に与えてくれており、それだけを考えるのであれば実に幸せなのだが、今のこの状況は、全く幸せではない。
なので、俺は半ば諦めつつも、右腕にひっついている人物に言ってみた。
「あの、陽乃さん?」
「…………」
呼びかけたが、返事がない。
「陽乃?」
「なあに?八幡!」
どうやら、呼び捨てじゃなかったのが嫌だったみたいだ。
「さすがに、離れてくれませんか?」
「いや!」
「はあ……」
そう。今俺の置かれている状況は、陽乃さんが、俺の腕に抱きついている様子を雪ノ下、由比ヶ浜に見られ詰問されているという状況だ。
まあ、軽く言えば、詰問ナウっていう感じ。
ウケルw……いや、全然ウケない。
二人に対してちゃんとした説明をするはずが、どうしてこんな事になってしまったのかと言うと、話は三十分ほど前までさかのぼる。
帰りのホームルームが終わり、部活に行く奴は友達とわいわい楽しくおしゃべりしながら、特にそういった用事のないものは、そそくさと教室を後にする。
ちらりと、教室の後ろ側を伺うと、どうやらまだ由比ヶ浜はおしゃべりに興じているらしい。
わざわざ、その邪魔をしてまでいっしょに行く必要は無いだろう。
そう考えた俺も、皆の流れに乗るようにして、サクサクッと荷物をまとめ、教室を出ると一人奉仕部の部室へと向かった。
奉仕部の部室がある特別棟へと向かう廊下は、いつも人気が少ない。
それもそのはずで、特別棟にはこれと言ったモノもない。
だから、まあ、普通の奴ならばこんなところに放課後わざわざ来るはずもない。
来るとすればよっぽどの物好きか、やることがなくて暇しているぼっちか、恋人と陰でイチャつきたいクソバカリア充どもか、のいずれかであろう。
俺も奉仕部に入っていなかったら、きっとこんなところ通りもしなかった。
だが、不思議なもので今となっては、この閑散とした廊下を通ることが日常であり、もはや見慣れた風景の一部となっている。
時の移ろいとはかくも人の心を変える。
いや、むしろ、人の心の本質というのは、とにかく変わりやすいモノなのだ。
ちょっとしたきっかけですぐに心の持ちようは変わるし、それに伴って人間関係も変化する。
昨日まで、友達だった奴が、次の日学校に行くと、いじめっ子グループに混ざり自分の事をいじめてくる、なんてこともあるかも知れないし、今愛を囁き合っている恋人同士も、次の日には、何かがきっかけで別れ話をしているかもしれない。
不安定で、曖昧。
確かなものなんてそこには無いのかも知れない、とすら思う。
しかし、俺は、彼女達に自分の求める「本物」を垣間見た気がしたんだ。
もちろん、それは勘違いかも知れないし、自分の願望が生み出した幻かも知れない。
だけど、彼女達を大切に思っている気持ち。
それは、本物だ。
いや、本物であると、自分が決めたのだ。
平塚先生に諭され、醜い自分のエゴを彼女達にぶつけ、ようやく得たその一つの解は今も、薄らぐことなく自分のなかに確かにある。
だからこそ、今日、伝えるんだ。
できる限り、誠実に、本当のことを伝える。
昨日、夜通し考え続けてもやっぱりそれしか無かった。
なら、やはりこれが俺の答えだ。
柄にもなく、緊張している。
もう少し時間が欲しい気もしたのだが残念ながらすでに、部室の扉が見えている。
扉前に立つ。
「ふぅー……」
大きく、一つ深呼吸して、気持ちを落ち着かせる。
「よし」
覚悟を決めて、俺は扉に手を掛けた。
「あれ、開かない……」
フン!と何度力を入れても、ぴくりとも動かない扉。
中に人はいるのか確かめるべく、耳を澄ますが、なんの物音もしない。
どうやら、今日は俺が一番乗りだったようだ。
「しゃーねえ。鍵、取りに行くか……」
なんだか気合いを入れていた分拍子抜けした気分だが、まあ、丁度良い。
もう少し、考える時間ができたと思えば良いだけのことだ。
そう考えた俺はポリポリと頭を掻きつつ、職員室へと向かうのであった。
「お、比企谷じゃないか。どうした、珍しい。私に会いたくなったのか?」
職員室に行くと、平塚先生が出迎えてくれた。
なんかいつもよりも、上機嫌である。
いつもそうしてたらもう少しかわいげが出て、モテるんじゃないだろうか。
いや、知らんけど。
「あ、先生。部の鍵いただけますか?」
「ああ、いいぞ。ちょっと、待ってくれ」
そう言うと、平塚先生は「か~ぎ、かぎかぎかぎ、か~ぎ」と、妙な節を付けて口ずさむ。
なんでこんなに、機嫌が良いんだろ?
怖い、逆に怖い!
一人でがたがたブルブルしていると、平塚先生が「あれ?」と声を上げた。
「どうしたんですか?」
俺がそう問いかけると、平塚先生は首をかしげてこちらを見る。
「おかしいな。奉仕部の鍵がない。もう誰かが持って行ったのか?」
平塚先生が首をかしげて思案していると、後ろの太ったおじさん教師が声を掛ける。
「ああ、平塚先生。それなら、さっき、OGを名乗る女性が持って行ったよ」
「OGを名乗る女性?」
「あ~、あのほら。あの、美人の。えーと、名前を確か……あ!そうだ。思い出した。雪ノ下さんだ」
「また、あいつか……。まったく、いつのまに来てたんだ」
「陽乃さんが持って行ったんですか?」
「ああ、どうやらそうらしい。あ、田中先生ありがとうございました」
「いえいえ」
平塚先生が丁寧にそのおじさん教師にお辞儀をすると、デレデレッと相貌を崩した。
あのおじさん教師、平塚先生に気があるな……。
まあ、平塚先生にその気は全くなさそうだけど。
いや、そんなことよりも陽乃さんがこの学校に来て、しかも、奉仕部の鍵を持って行ったって嫌な予感しかしないんですけど……
もはや、確信といっても過言ではないほどの嫌な予感に俺はげんなりしたが、とりあえず平塚先生にお礼を言う。
「それじゃあ、ありがとうございました。とりあえず、部室に行ってみます」
「ああ、悪いな。陽乃にはあとで、きつく言っとく」
「はは、まあ、ほどほどに。では」
軽く会釈をして、職員室を後にした俺は、早足で部室へと向かう。
部室に着く頃には軽く息切れを起こしていた。
扉を開ける前に、深呼吸をして息を整える。
さっきとは全く別物の緊張感を感じている。
「まあ、なるようになるだろ……」
小さくそう呟いて扉に力を込めると、先ほどとは打って変わり、すんなりと扉は開いた。
「はっちまーん!」
「うわっ!」
扉が開くと同時に、何か柔らかい生き物が胸の中にストーンと収まる。
視線を下ろすと、そこには、爛爛と輝く瞳をこちらに向ける陽乃さんの姿があった。
「陽乃!?」
「えへへ、八幡に会いたくてきちゃった」
舌をぺろっと出してあざとく首をかしげる陽乃さんだったが、俺はそんなことよりも気になることがあった。
それは……。
「なんで、制服着てるんですか!?」
「え、良くない?結構いけてると思うんだけど」
そう言って、俺から離れると、くるりとワルツでも踊るかのように一回転してみせる陽乃さん。
ちい!見えそうで見えない!
絶妙な、スカートコントロールだぜ。
って、そうじゃねーな。
「いや、まあ、似合ってるか、似合ってないかで言えば、めちゃくちゃ似合ってるんですけど」
「え、ありがとう!そんなに褒めてくれるなんて!」
ポッと、両手で頬を押さえる仕草を見せる陽乃さんに俺は突っ込む。
「いや、そうじゃなくて!」
「ん?なに?他に言うことがあるの?」
「いや、なんで、そんな格好して、学校来ちゃってるんですか?」
「え、さっき、言ったじゃん。八幡に会いたかったからだよ。ちゃんと聞いててよね」
「まあ、聞きましたけど……それだけですか?」
「それだけだよ。他になにか理由っている?」
「いや、まあ、いらないかもしれないですけど」
「ほらね?」
あまりにも毅然とした態度で陽乃さんが言うので、なんだか論破されそうになっている、が。
「とりあえず、中は入りましょう。こんなところにいると、誰に見られるかわかんないですし」
「えー、なんか言い方がヤラシイ感じがするな。お姉さん、ついに貞操の危機かしら」
きゃー、と口を押さえ、一人盛り上がっている陽乃さんの背中をためらいつつ押し、なんとか教室へと入らせる。
「八幡、何する気?」
「特になにもしませんよ。本読むだけです」
期待のまなざしを向ける陽乃さんに素っ気なく俺はそう応えて、いつもの定位置へと座る。
「むぅー、つまらないなあ……」
そんな俺の態度が気にくわなかったのか、むくれていた陽乃さんだったが「あ」と声を上げたかと思うと、椅子をもう一つ引っ張り出して、俺の隣に設置した。
「なにしてるんですか?」
「えー、別に何もしてないよ。ただ、八幡がどんな本読んでいるのか気になっちゃって」
「そうですか」
何がそんなに楽しいのか、俺が読書している横顔を鼻歌混じりに眺めてくる陽乃さん。
やばい、めっちゃ近いし、めっちゃいい匂いだし、めっちゃ見てくるしで、全然集中できない。
さっきから、三回ぐらい同じところ読み直している。
「八幡……八幡ってば」
「……な、なんですか?」
「さっきから、全然進んでないね?」
クスクスと可愛らしくほほえむ彼女に俺は少し不満げに言う。
「そりゃ、こんだけ、見られたら誰だって、集中できないですよ」
「ふふふ、そうだね」
それだけ言うと、陽乃さんがジッと俺の顔を見つめる。
「な、なんでしょうか?」
「私に、素直になれって言ったのは君だよね?」
「はい。そうですね」
「じゃあさ、今、君に抱きついても良いかな?」
「…………へ?」
言葉の意味が一瞬理解できず、生返事を返す。
「なんか、今すっごく君とくっつきたいの。もうだめ……くっついちゃおう。えい!」
「……………………」
あまりにも、心地良い感触に言葉を失う。
やばいやばいやばい!!
柔らかい柔らかい、いい匂い、柔らかい!!
全力で右腕の感触に集中していると、「ん……」という、妙になまめかしい声が聞こえる。
視線をそちらにスライドすると、そこには、猫のように目を細めて幸せそうにほほえむ陽乃さんの姿があった。
正直、控えめに言ってもその陽乃さんの顔は可愛かった。
いつもの不敵な笑みではなく、純粋に安らいでいる表情とでも言おうか。
どこかあどけなさを感じるその顔を見ていると、自然と彼女の頭を撫でている自分がいた。
「あ……」
「あ、そのこれは……」
「やめないで……気持ちいいから」
そう言って、目をとろんとさせている彼女を見ると、どうにもやめられずまた優しく彼女の頭を撫で始める。
始めはおそるおそるという感じで。
しかし、しばらくすると慣れてきて、彼女の気持ちよさそうなところも分かってきた。
どうやら彼女はうなじから、耳の裏、ぐらいを優しく撫でてもらう事がお好きらしい。
そこを、ゆっくり、撫でてあげると、「ん……んぁ……」などと、甘い声をあげて頬を緩める。
そんな様子がたまらなく愛おしくて、時間も忘れて、撫で続けていた。
それが最大の過ちとも知らずに。
がらら!
扉が開く音が、静寂を破る。
その音にハッとして、扉のほうへ視線を向けると、そこには呆然とこちらを見つめる二人の姿があった。
「え!ヒッキー!?と陽乃さん!?」「……比企谷君、姉さん。そこでなにをしているのかしら?」
「いや、これは……」
「ねえ、お話聞かせて貰えるかしら?」
「はい……」
こうして、ゆきのん&ガハマプレゼンツ、ドキドキ!八幡裁判!が幕を上げたのだった……。
うん、こりゃ死ぬかもね!てへぺろ!!
本日の投稿遅くなり大変申し訳ありません。
まあ、決めているわけではないんですが毎日登校するつもりでいたので、若干反省中。
ちょっと、分量多めになってしまったのも反省しています。
しかし、いつもよりも、少し内容面は充実してたんじゃないでしょうか?
どうでしょう?笑
どうだったかは、感想で教えてくださ~い!
では、また明日~