陽乃さんを素直にすると、かなり、強敵かもしれない件   作:A i

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最強キャラはやはり……。

「で、まず、姉さん」

 

頭痛でも感じているのか、こめかみに手を当てる雪ノ下。

 

「ん?何?」

 

全く悪びれる様子もなくそう返事する陽乃さんにため息を吐く。

 

「はあ……。何?じゃないわよ。全く……」

「……?」

 

陽乃さんはキョトン顔である。

 

おい、その顔かわいいな!

 

でも、今その顔しちゃダメ!

雪ノ下キレちゃうから!

 

と思っていると、案の定氷の女王は大層お怒りである。

 

「まず、どうして、姉さんがこの学校にそんな制服で来ているの?あなたは既卒者なんだから、そんなもの着てくる道理がないわ。あと、この部室で比企谷くんとその……卑猥な行為に及んでいたのもなぜ?二人っきりであんなことしていたら勘違いされてもおかしくないわよ?」

 

底冷えのする響きを纏った声で、そう言う雪ノ下はまさしく氷の女王そのものである。

 

となりの由比ヶ浜も腕を組み、アホの子っぽい感じでウンウン頷いている。

 

しかし、あなたはほんとご立派なものをお持ちで……。

どこがとは敢えて言わないが、組んだ腕によって押し上げられて、もにゅっと柔らかそうに変形しているのが否応無しに目にとまる。

雪ノ下の味方であるような顔してるけど、そこだけは完全に雪ノ下の敵なんだよな〜。

まさに、伏兵である。

 

「…………」

 

ヤバイ!

雪ノ下が、死ぬほど冷たい目でこっちを睨みつけている。

 

だから、なんで俺の考えていることが分かるんだよ!!

お前はエスパーなのか、そうなのか!?そうに違いない!

 

一人、心の中で雪ノ下に突っ込みを入れていると、陽乃さんがよりいっそうギュッと腕にしがみついてきた。

 

え?何?

恥ずかしいんですけど……。

 

そう思ったのも、つかの間。

 

ニヤリと笑みを浮かべた陽乃さんがとんでもないことを口にしだす。

 

「なぜ、制服を学校に来ているのか、そして何よりも、比企谷君とこうして愛を確かめ合っているのかが聞きたいというとね、雪乃ちゃん?」

愛を確かめ合うとか……恥ずかしい!

「ええ、後半が少し違うけれど、概ねそうね」

 

雪ノ下が少し怪訝そうに頷く。

 

すると、雪ノ下の方を挑戦的な目で見つめたままの陽乃さんが俺の方に顔を寄せてきた。

 

と思った瞬間……。

 

チュッ

 

「え……」

 

頬に柔らかいものが当たった感触。

 

隣を見ると、少し頰を赤く染めた陽乃さん。

 

え、今のってもしかして……。

 

ニヤリと蠱惑的な笑みを浮かべた陽乃さんは、俺の頭を胸に抱きしめて、二人に向かってこう言い放った。

 

「比企谷君と私は、ついにおつきあいすることになりました~!!」

 

「え!」「え〜!!」

 

雪ノ下、由比ヶ浜の二人とも、目を大きく見開き、口元に手を当てて驚いている。

 

当の本人である俺もびっくりだ。

 

しかし、陽乃さんは満足そうに微笑むと、俺の腕を引っ張り、部室の外へと向かう。

 

「よし、これでお話終了!行くよ、八幡!」

「え……え!ちょちょ、陽乃!?」

「何?」

 

チラリと俺の方に視線を向ける陽乃だが、依然として腕を引っ張り続けている。

 

男の俺が引きずられるってどんな力だよ!?

この人、ほんとに化け物じゃないのか?

 

そんな恐れもあり、少し窺うような感じで聞く。

 

「いや、あれで話終わりですか?」

「終わりでしょう?ほかに何か言うことある?まあ、具体的に八幡の手がどれだけ気持ちいいかとか腕の感触がどうだ、とか言っても、あの子達にとっては辛いだけでしょ?」

 

いや、あいつらだけじゃなくて、そんな話されたら俺のメンタルも辛いです、ええ……。

 

しかし、おそらくだけどもう一つの意図が彼女にはあるのだと思う。

 

それは、由比ヶ浜の存在だろう。

雪ノ下は家族だからまだしも、由比ヶ浜は完全に陽乃さんからしたら、部外者。

もしかしたら、お見合いだのなんだのという家の事情を曝け出すことには抵抗があるのかもしれない。

 

そう考えて、陽乃さんに視線を向けると、バチコーン!とウィンクを決められる。

どうやら、正解らしいな。

つーか、もう心読まれることに、なんの抵抗もなくなってしまった自分が素直に凄いと思う。

 

「ま、待ちなさい。まだ話は……」

 

雪ノ下が慌てて、俺たちを引き止める。

だが、その様子は先ほどまでとは打って変わり、非常に心細げに見える。

 

陽乃さんがその隙を見逃すはずもない。

 

「あら、雪乃ちゃん。何?私と八幡のイチャイチャっぷりがもっと知りたいのかしら?」

 

意地悪そうな声でそう言う陽乃さん。

 

「そ、そう言うわけでは……」

「なら、もう私に話すことはない。さっき、伝えたこと。それが、全てよ」

 

ピリッとした緊張感がこの部室を襲った。

 

久しぶりに聞いたこの陽乃さんの声。

何人たりとも近づけない、絶対の隔絶を感じさせる声だ。

 

やはり、さすが雪ノ下陽乃。

 

最近は丸くなってきたのかもな、と思っていた俺が馬鹿みたいだ。

むしろ、いつもの甘えた調子とのギャップでより鋭さを増している。

おそらく、そこまで計算に入れた今までの立ち振る舞いだったのだ。

 

彼女の底知れなさに、俺は人知れずブルリと震えた。

 

あいつらも、ついに陽乃さんに何も言えない。

 

それを確認した陽乃さんは、つまらないものでも見たかのように感情のない瞳をしたが、すぐに切り替わる。

 

「さ!八幡。これでようやく、遊びに行けるね。行くよ!」

「え、す、すまんお前ら。また、連絡する!」

「うん……」「ええ……」

 

こうして、俺と陽乃さんは部室を後にする。

 

陽乃さんは隣で楽しそうに、「どこ行こっか?」などと言って、スキップさえしている。

 

だけど、俺はさっきのあいつらの悲しそうな顔が脳裏から離れなかった。

 

 




評価お気に入りありがとうございます!
あと、誤字訂正もありがとうございました!

少しずつ、点数も伸び、今や、ルーキー日間10位も目前となりました。
読んでくれた皆さん。
どうもありがとうございました!
これからも頑張ります。

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