ようこそマイナス気質な転生者がいるAクラスへ   作:死埜

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26話目 豪華船旅行 十日目 その後

 その後、時間はどんどん過ぎていき最初のグループからの報告がチャットに書き込まれた。

 そこには私と有栖が予想していたことと、疑問点に対する解決法が書き込まれていたようにも思えた。

 

・各クラスの同じ時間帯に説明を受けるメンバーが同じグループになること

・指定された時間に各グループで一定時間話し合いを行うこと

・グループは十二支を模したものであることと、チャットの方の集合時間の数から12グループであるということ

・優待者が各クラスに何人か割り当てられており、試験はその優待者が重要になるということ

・試験の解答は試験終了後の決められた時間内であること

・試験の結果は4通りであること

 1.優待者の所属するクラス以外の全員の回答が正解していた場合、優待者を含む全員にプライベートポイントが支給される

 2.優待者を当てることに誰か一人でも失敗した場合、優待者のみにプライベートポイントが支給される

 3.試験終了を待たずに優待者以外のものが学校に答えを送信して正解していた場合、当てられた優待者のクラスからクラスポイントが引かれ、当てた生徒のクラスにクラスポイントが支給され試験が終了になる。なお、優待者のクラスメイトからの解答は無効となる

 4.試験終了を待たずに優待者以外のものが学校に答えを送信して不正解となった場合、答えを送信した生徒のクラスからクラスポイントが引かれ、優待者のいるクラスにクラスポイントが支給される。結果3と同じように不正解となった段階で試験は終了し、優待者のいるクラスからの解答は無効となる

 

 大体こんなところだろう。

 初日に予想したグループワークと似ているようで、その実態は全く異なるものだ。

 グループワークをしたいのなら、裏切り者が解答を送るという前提を無視しないといけない。このルールだとクラスポイントを得るためには裏切り者になるか、()()()()()()()()()()()()()()

 

 今回の特別試験では、康平、有栖の派閥関係なく優待者は名乗り出ることにした。

 優待者に何らかの法則性があった場合、片方の所属している派閥のみが優待者を知っていることでAクラス全体の不利益が生じることを考慮したためだ。

 各クラス優待者が3人だと仮定して、Aクラスの優待者全員が名乗り出れば有栖のように頭の回転が凄まじい人ならば法則性を見出すことも可能だろう。

 

 逆に他のクラスが同じようなことを行った場合、Aクラスだけ優待者をお互いに把握していないどころか互いに疑心暗鬼な状態では勝てるものも勝てなくなる。

 これは、有栖も康平も同じ気持ちだったようだ。

 

「明日の午前8時に優待者に選ばれた人はメールが届くようですね」

 

「みたいだね。…優待者の予想は?」

 

「これだけでは何とも。()()()で分けたというところが露骨すぎるぐらいでしょうか?」

 

「同じく。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことから、法則性があるなら確実に関わってると思う。ミスリードの可能性もあるが、無人島行きの時のアナウンスもヒントを隠すような形だったから無視することはできなさそうだ」

 

 12グループに分けるからと言って、わざわざ十二支を用いる必要性はない。

 1~12でナンバリングすることも可能だし、アルファベット順に並べる方が妥当だろう。いや、それだとクラスと混ざるから配慮した可能性もあるか。しかし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 グループに分けて本気で話し合わせたいのなら、一クラス2人ずつの8人グループが限界だろう。正直それでもかなり厳しい。グループワークの適正人数は基本的に5~6人だ。

 1グループに14人もいたのでは話し合いが円滑に進むことは極めて困難になる。

 全員が一斉に話し出したら話し合いにはならないし、1人ずつ話していたら時間が圧倒的に足りなくなる。その上、まとめ役がいないと成果が出ることはまずない。少なくともまとめ役になれそうなAクラスのリーダー二人を同じグループにしている段階で、グループディスカッションを真面目にさせる気があるようには到底思えない。

 

「ところで有栖、他のクラスの名簿とかって持ってる?」

 

「持ってはいます。そう遠くないうちに必要になると思いましたので」

 

「お願いがあるんだけど」

 

「貸し1つでどうですか?」

 

「じゃあそれで。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 既に私との個人チャットに各クラスの名簿を流してくれている有栖に向かって、へらへらとした笑みを顔に貼り付けながらそう言った。今の私は怪我を負うことができない。そのことがあったので、へらへらとした笑みで()()()()()()()()()を隠してしまいたかった。

 しかし、その言葉を聞いた瞬間の有栖の表情は楽しそうなものとは一転して、憤怒しているような()()()へと変わっていた。

 

「…そのようなことは絶対に言わないので安心してください。それと、冗談でもそのようなことは言わないでください。前科持ちの零君が言っては冗談で済みません」

 

「…悪かった。ちょっと口が滑った」

 

「軽口を叩くのは勝手ですが、他の人を心配させるようなことは控えてください。私も、他のクラスメイトも心配します」

 

「悪かった。肝に銘じておくよ」

 

 どうしても慣れない心配されるという状況に違和感を覚えながらも、()()()()()()()()()()()()()に蓋をした。過負荷(マイナス)とはまた違った、本心から自分のことを気持ち悪く思っている感じだ。

 客観的に見ても主観的に見ても、女の子に心配されていることが嬉しいと思っている男なんて気持ち悪いのだろう。私がそう思っているように。

 青春なんて前世(当の昔)に終えたつもりなのに、現実では高校生になったばかりだ。本当に今更だが、違和感を拭いきれていない。もしかすると、時折電池が切れたようにベッドに倒れ込んで昼まで寝ているのは大学生活で何もない日にそうしていたことが原因かもしれない。

 それに加えて過負荷(マイナス)全開だった幼少期時代の嫌われようも、自分の自己評価が低いことに拍車をかけていることは自覚している。前世の時から高くなかった自己評価は、過負荷(マイナス)を言い訳に地の底まで潜り込んでいる自覚はあった。

 

 だけど、今はそんなこと(私には)気にしている暇はない(関係ない)

 だって、今はそんなことどうでもいいから(私はそれでいいから)

 

 

「後2時間もすれば私達の番になるけど、夕食はどうする?」

 

「先に軽く済ませてしまいましょう。それと、説明会を終えた後で葛城君を含めた3人でカフェに寄るということでどうでしょうか?」

 

「じゃあ、それで康平にも伝えとく」

 

 そう言って携帯を取り出し、康平に『説明会が終わったら有栖と三人でカフェに寄るぞ』と送っておいた。返答が返ってくることも確認せず、有栖の杖をついていない方の手を引く。

 今まではあまり意識していなかったが、有栖の手を取った時に有栖の顔が少しだけ赤くなっていた。

 だが、今の私にはそれがどういうことなのかすら、わからなくなってしまっていた。

 

 

______________________

 

 

 食事を終え、時間まで店の中で談笑をした。

 その後、20時20分頃に店を出て指定された部屋に向かう。

 有栖の手を取って歩くことにも慣れつつあったが、手を通して伝わる柔らかい手の感触が自分のそれとはまるで違って、それだけがなかなか慣れなかった。

 有栖に合わせて歩いていたからか、早めに出たはずなのに先客が廊下を陣取っていた。

 

 そんな中で、見覚えのある丸い頭と見たことのない長髪の不良が廊下のど真ん中でガンを飛ばしあっている。

 ヤクザとホストがシマの取り合いで揉めていると言われても納得できるような絵面だった。

 

「俺はお前の非道(ひど)さを許すつもりはない」

 

「あ? 非道さ? いったい何のことだよ」

 

「まあまあ、二人とも落ち着こうよ。他にも人がいるんだぜ?」

 

 そう言って康平と不良君の間に割り込んだ。

 有栖にはアイコンタクトを取ってあまり目立たないように伝える。

 

「誰だテメェ?」

 

「Aクラスの生徒で、同じ20時40分に集まる、康平の友達さ」

 

 恐らく同じグループであろう不良君に軽い自己紹介をすると、彼は私を嘲笑うかのように蔑むような声を発した。

 

「誰かと思えば、葛城の金魚の糞かよ。Aクラスは辛いよな? 媚びを売ってないと生き残れないもんな?」

 

「そんな日常にも面白さを探すのが人間さ。康平行こうぜ、有栖も待ってる」

 

「…そういうことだ。失礼する」

 

 そう言って私は康平と一緒に指定された部屋に向かう。ふと見ると有栖の姿が見えなかったことから、彼女は他の生徒に見つかる前に移動したのだろう。

 歩いている途中で何か康平が言いたそうな顔をしていたが、目を合わせるとバツが悪そうに顔を逸らした。

 後ろから感じる威圧感も、有栖のそれに比べれば大したことはない。何よりも言動が不良のそれだ。印象的には噛ませ犬とか、小物みたいに見える。

 それにしてはポテンシャルがあるように感じたが、恐らく普通(ノーマル)の域を出ていないただのエリート。何処のクラスかはわからないが、グループで話し合う時にそれはわかる。まさか違うグループの生徒が突っかかってきたわけではないだろう。

 他に集まっていた人たちも私の方を見ると、驚いたような顔をしている人が何人かいたような気がした。恐らく、無人島での特別試験の結果発表の時にでも私を見たのかもしれない。

 露出狂だと思われていなければ良いなーなどと思いながら、彼らを後目に私と康平はその場を後にした。

 結局私と康平の間で部屋に入るまで言葉を交わされることはなかった。

 

 

____________________

 

 

 

「落としどころを決めよう」

 

 説明を聞き終えた後、有栖と康平の三人でカフェで作戦会議をしていた。

 私の言葉に、二人とも呆けたようにこっちを見ている。

 

「どうしたんだい? そんなに呆けちゃってさ」

 

「言いたいことがよくわからない。詳しく言ってくれ。以前から思っていたが、零は言葉が足りないと思う」

 

「…言いたいことの予想はつきますが、同じです」

 

「じゃあ補足で――明日優待者の名前が割れるだろ? 恐らく、有栖や康平ならそう時間がかからないうちに検討を立てられるはずだ」

 

「そう評価してくれるのはありがたいが、実際にどうなるかまでは保証できないぞ?」

 

「そうだとしても、単純に今回の特別試験の方針を決めるだけでもしておくべきだ。わかりやすく言うなら、クラスポイントを取りに行くか、クラスポイントが関わらないように結果を持っていくかね」

 

「私と葛城君に聞いたところで、結果はわかりきっているのでは?」

 

「だから落としどころを決めたいって言ったんだ」

 

 そこまで話すと納得したように二人は頷いた。

 端的に言うとこのままでは()()()()()とも言える、康平と有栖の方針の違いによってAクラスが分裂する。

 現状、康平の派閥が規模を縮小しつつあるが、有栖の派閥にAクラスの全員が所属しているような状態ではない。あの時、康平が頭を下げたときに康平の方を睨んでいた人も、既に有栖の方に心変わりしたわけではないだろう。

 鞍替えするにしても、まだ前回の特別試験から一週間と経っていない。

 それに有栖のヘイトコントロールがあったとはいえ、()()()()()も要因の一部と言える。その上、自らの非を認めて謝罪する姿勢は男なら心が揺さぶられてもおかしくないくらい綺麗なものだった。

 そう遠くないうちに有栖が仕切るとはいえ、今回の特別試験では康平の影響力はまだ残っている。

 だから有栖も康平と私の三人で話し合いをすることにしているのだ。夏休みが終わるころには康平が落ち切ったとしても、今は必要だから参加させている。

 

 とは言っても、私には関係ないことだが。

 

 

「一応、名実共に未だAクラスのリーダーは康平だ。片方が落ちただけでもう片方が何の力も見せていない。機会がなかったからね。

 それに、前回の特別試験からまだそう時間も経っていない。裏で手を回しても、正面切ってぶつかるにしても、意見が合わない二人が代表格なんだ。どこかしらで落としどころを決めるのがセオリーだろ?」

 

「…ええ、その通りです。早めに決めておかなければ、Aクラス内で行動がばらばらになってしまうことも考えられます」

 

「そういうことか。だが、落としどころはどのようにして決める? この特別試験ではクラスポイントにかかわる結果を出すには、クラスポイントを減らすリスクを抱え込むことにもなる」

 

「案はある。それに乗るかどうかは君たち次第だ。乗らなかったら乗らなかったで他の手を探すことになる」

 

「話してみてください。それを考慮に入れて考えます」

 

「同じくだ」

 

 二人の言葉に、私は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()彼らに提案することにした。

 これが通れば、私の()()()()()の大半はスムーズに進むだろう。

 

「まず、クラス全体には康平が主導で進めてもらう。だから、基本的には康平がメインでクラスメイトに指示をしてもらうことになる。この時に康平には、こういう風にしてほしいが最終的には自分たちで決めてほしい。前回の失敗がある俺を無理に立てる必要はない、という趣旨の文を付け加えてもらう。

 次に、それを言質に取った有栖たちが()()()()()()()()()()()。と言っても、だれに投票してもらうのかを有栖から私達に教えてもらうし、するのは3グループが限度だ。確定できて説明できるほどになれば別だけど、それ以上はリスクが大きすぎる」

 

「だが、それで優待者を外したら結局クラスポイントが減ることになる」

 

「どっちにしろ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「私もそう思います。ですが、葛城君が主導でやる必要性はありますか?」

 

「優待者を外しても康平の責任になる。当てても有栖たちが当てたと言えば有栖たちの利益になる。康平からしても、それを考慮したとでも言えばそう悪いことじゃない。仮に外したとしても、Aクラスのことを考えて行動してくれたことを嬉しく思う。とでも言っておけば大きく落ちるようなことにはならない」

 

「だが、クラスポイントを減らすリスクを冒してまで行動する必要はあるのか?」

 

「Aクラスを維持したいなら、落としたポイントをどこかで拾い上げないといけない。今回の特別試験での最悪は、Aクラスがポイントを全部落としてBクラスがポイントを全部拾うことだ。

 DクラスかCクラスならまだしも、目下一番の敵とも言えるBクラスに後れを取ることだけはあってはいけない。ただでさえ、前回の特別試験で差を縮められたんだ。

 それに逆に聞くけれど、この三年間で穴熊を決め込んだままAクラスを維持できると思うかい?

 特別試験と称したクラスポイントの変動を推奨しているこの学校で」

 

「…だが、今そこまでして動く必要性はないだろう?」

 

「今日を生きないものに、明日は来ないんだよ。明日やろうっていう時の明日は来ない。

 明日って今さ! なんていう名台詞もあるしね。

 失ったポイントをどうやって補完する?

 テストを地道に乗り越えるのも手だ。他のクラスも同じようにしてポイントを伸ばすけどね。部活で優秀な成績を出す? 他のクラスも同じことができるね。Dクラスの須藤君なんて、もうバスケのレギュラー入りしているみたいだぜ?

 前回失ったポイントを()()()()()()()()()()()()()()()()()()には、同じ特別試験しかないことぐらいわかるだろう? それが学校側の意図したことだとしてもね」

 

 しゃべりすぎて喉が渇く。

 テーブルの上のカフェオレが入ったコップを口に運んだ。苦みと甘さがちょうどいい感じのカフェオレは、喉を潤すと同時に心も少し満たしているような気がした。

 

「それはそうだが、取り戻すためにポイントが減ったらさらに落ちることになる」

 

「問題はそこなんだよね。私は有栖なら優待者の法則を見つけられると()()()()()()。学校側が何の法則性もなしに優待者を決めているわけがない、ということも確信している。でも、他の人がそう思わないのも当然だ。あくまで私の考えだしね。だけど、穴熊に閉じこもったままでは好転しないのも事実だ。将棋じゃあるまいし。

 だから落としどころなんだよ。最低でも150clしか稼げない。逆にいうと運が良ければ150clは稼げる。前回の失敗を帳消しにするぐらいにはなるだろう。

 他の優待者全員を把握できるなら完全に決め打つって言う手もあるけどね。それには、最低限私と康平にロジックを説明してもらいたいんだけど、それぐらいはいいよね?」

 

「…ええ、私も直感に頼って優待者を決めるようなことはしません。私はクラスポイントを増やしたいと思っていても、減らしたいとは思っていませんので」

 

「だが、坂柳が優待者の法則を見つけられる保証はどこにもない」

 

()()()()()()()()()()()

 Aクラスの中でもトップの頭脳を持つ、有栖が見つけられないような優待者の隠し方を学校側がすると思うかい?

 完全にランダムで優待者を選ぶと思う?

 グループで話し合いの場を設けるのは優待者の尻尾を探すためだけだと本当に思う?

 十二支でグループを分けた意味は?

 わざわざ10数人にグループを分けた意味は?」

 

「…坂柳、優待者を本当に見つけられるか?」

 

()()()()()()()()()()。後は、明日優待者の方が名乗り出ればほとんど確定できるかと」

 

「…落としどころか。わかった。俺は構わない。零の案に乗ろう」

 

「ありがとう康平。有栖はどうだい?」

 

「私は…」

 

 そう言うと彼女は黙り込んでしまった。私はそんな彼女から目を離さない。

 康平は私と彼女を見守っている。

 私は有栖がこの提案に乗ると()()している。だが、この提案は有栖からすれば()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 乗ろうが乗らまいが、()()()優待者を当てればいいだけの話。だが、康平が主導で進めてしまうと優待者を勝手に指定した時に反感を買いやすい。康平側から有栖側に移ろうか考えていた人は考え直してしまいかねない。

 この案に乗らなかった場合、康平は普段通りの方法を取るだろう。つまり無人島での特別試験同様、優待者当てなんかに参加しない。最悪Aクラスの生徒には話し合いをさせずに、無言無反応を貫き通させることもできる

 だが、落ち目の康平に既に勝者となっている有栖が無理に合わせる必要もない。

 この特別試験を逃そうが、そう遠くないうちに有栖がAクラスを掌握することは確定事項であるからだ。それでも、有栖なら売られた喧嘩から逃げるようなことをしないと確信していた。

 

 尤も、有栖が提案に乗ろうが、他のクラスが優待者の法則を見つけないという前提がある。

 もしかすると、Dクラスの()なら見つけられるかもしれない。クラスで見た最悪はBクラスの一人勝ちだが、個人的な最悪は()()()()()()()()()だ。破滅へのカウントダウンとも言える。

 そのためには手をこまねいている暇があれば、さっさと優待者の法則を看破して貰って他の誰かが気付く前に試験を終了させる方がいい。

 

 だけど、Dクラスの彼に対する布石は、私の意図していないところで()()()()()()()()

 

 

「…わかりました。零君の提案を受けましょう」

 

「ありがとう、有栖ならそう言うと思ってたよ」

 

「ただし、きちんと優待者の法則を見つけることが出来れば、全部の優待者を当てるということに二言はないですね?」

 

「勿論。有栖ならそれができるって信じてるよ」

 

「……」

 

「零はなぜそこまで確信を持って言える? 確かに坂柳の頭の回転は速いが、確実とは言えないだろう?」

 

「単純に有栖よりも頭の回る1年生を私が知らないっていうのが一つ。有栖が私達よりも遥かに優秀な情報網を持っているっていうのが二つ。有栖が既に多くの答えを予想していて、それを考え続けて考え抜くだけの強さを持っていることで三つ。ダメ押しに、精神力が常人のそれよりも強いってのが四つ目だ」

 

「他に答えを導き出せる生徒がいない。優待者に法則があるのであれば、一年で一番優秀とも言える坂柳なら当てられるということか?」

 

「要約するとそうなるね。他のクラスに私の知らない優秀な人がいる可能性もあるけど、それに有栖が遅れを取るんだったらどっちにしろAクラスはお終いだよ。何せ、その人がいるクラスにこれから三年間の特別試験で負け続けることになる。

 Aクラスだって胸を張って言いたいんだったら、有栖が答えを出してそれを康平が利用してやるぐらいの気構えがないと、とてもじゃないけど生き残れないと私は思うよ」

 

 私はそう締めくくった。私の言葉に康平と有栖は納得したように頷いた。

 だけど、有栖が少しだけ不満そうにしていることはわかりきっているし、康平の方も自分が既に落ち目であるという自覚はある。

 私が言ったことが全て正しいなんてわけがない。過負荷(マイナス)の言うことが全て正しいなんて妄想は持っていない。

 ただ、そうかもしれないと思わせられれば、人はわかりやすい結論に飛びつくものでもある。

 二人がどこまで私の話を鵜呑みにしているのか、裏で何を考えているのかまではわからない。だけど、ある程度は私の思うように進んでいる。後はグループでの話し合いの時が、過負荷()として一番振る舞いやすい時だろう。

 真剣にクラスで争っている彼らの姿は美しいものであると頭では認識しているはずなのに、私の目にはそれが()()()()()()()()()()()()()

 

 だって、別にAクラスが(私には)勝とうが負けようがどうでもいい(関係ないから)

 

 ニコニコへらへら笑っていても、友人たちの力になろうと奮闘しているように振る舞っても、他の人に媚びを売っているように見えても、私と君たちは所詮は他人だ。

 有栖に私が勝てればそれでいい。クラスのことなんかどうだっていい。康平が死のうが興味がない。有栖が辱められようがどうでもいい。茂が不登校になろうが私には関係ない。クラスメイトが退学になろうが半年もすれば忘れるのが人間だ。私も同じようにいずれ忘れるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

「ところで零、なんで龍園に金魚の糞呼ばわりされた時に否定しなかったんだ?」

 

「龍園ってあのホストっぽいやつ?」

 

「その言い方はどうかと思うが、それで合ってる」

 

「別に私を甘く見ているならそれでいいと思ってたからね。大したことじゃないし」

 

「…そんなことがあったんですか?」

 

「大したことじゃないって」

 

「零の悪い癖だ。謙虚は美徳だが、卑屈は醜いものになる」

 

「その通りです。初めて葛城君と意見が合った気がします」

 

「いや、大したことじゃないって」

 

「友人を馬鹿にされたんだ。思うところがあってもおかしくないだろう」

 

「…そういうものなの?」

 

「そういうものです」

 

「そうなんだ…。まあ、私はそこまで気にしてないから明日会ってもそんなに喧嘩腰にならないでね」

 

「相手の態度次第だ。Aクラスのリーダーとして、不適切な発言は咎めるべきだろう」

 

「葛城君と同じというわけではありませんが、相手の態度次第です。相手がAクラスを侮るのであれば、それ相応の処置をします」

 

「……(同じじゃないのか?)」

 




 一番最後のセリフだけの部分は今回だけにする予定です。
 キリが良く終わったと思って読み返していたら、入れ忘れていた上に間に挟むのも難しかったので最後に付け加えたものになっています。あまり気にしないでください。

 今回で主人公が語っているのは、あくまで主人公の持論です。
 原作では坂柳さんは自分が参加していなかったので、Aクラスを陥れるようなことをしても彼女に何の影響もありませんでした。
 ですが、この作品では参加しているのでクラスポイントが下がるような真似をしてしまうと、葛城君が仕切っていても坂柳さんがいたのに下がってしまったとなってしまうことが考えられます。

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