スクフェスのバレンタイン編曜ちゃん、メッチャ可愛いですよね。
……引ける訳が、無かったのだ…………っ!

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バレンタインDEヨーソロー

「ふう……」

手作りチョコを丁寧に包装しラッピングを施した梨子は、額の汗を拭った。

目の前に並ぶのは、八つのチョコレート。形は様々で、丸や四角、星型やひし形、中にはハート型もあった。

Aqoursのメンバーそれぞれの個性に合わせたラッピングに、梨子本人も満足していた。

だが、

「型が一種類ずつしか無かったからみんなバラバラになっちゃったけど、気付いたら曜ちゃんだけハート型に……」

どのチョコが誰へ、とは特に意識していなかったのだが、ラッピングを終えて眺めてみると、船長帽と船のラッピングが可愛いチョコだけが、ハート型になってしまった。

「……い、いや、別に深い意味なんて無いし。普段お世話になってるお礼っていうか、ただの友チョコだし。気にする要素何一つ無いし。うん」

ぶつぶつ独り言を呟く梨子は、これ以上変な考えが出ないようにとチョコをまとめると冷蔵庫にしまった。

 

 

 

 

翌日、

「りーこーちゃーん! おーはーよー!」

小学生のような挨拶を玄関からされた梨子は、呆れながら家を出た。

「はいはい、千歌ちゃんおはよ」

「おはよー、今日も寒いね〜!」

「その割には元気よね。……あれ?」

梨子はふと、いつも隣で敬礼をしてくる人物がいない事に気付いた。

「曜ちゃんは?」

「曜ちゃんは今日日直だから、先に行ったよ」

「あ、そうだっけ……」

そういえば昨日の帰り道、そんな事を話していたような気がする。

「忘れてたわ……。とりあえず千歌ちゃんチョコはい」

「わ、梨子ちゃんからチョコだー! ありがと〜……って、何か渡し方雑じゃない?」

不満顔ながらもしっかりチョコは受け取る千歌。当の梨子はあまり聞いていなかった。

「千歌ちゃんと一緒にさりげなく渡せば、それで済むと思ってたのに……。日直は想定外だわ」

「私もチョコ作っておくんだったかなー。今ミカンしか持ってないんだよね〜。梨子ちゃん、ミカンいる?」

「いや、教室着いたらササッと渡せばそれでいいはず……。そうしよう、うん!」

「お、じゃあミカンあげる! やっぱりこの時期はミカン美味しいよね〜」

千歌から唐突に手渡された梨子は、右手のミカンを見つめる。

「……何でミカン?」

 

 

その後、教室に着いた梨子は、

「あ、曜ちゃん発見!」

千歌の声につられてその方向を見た。

「お、千歌ちゃん梨子ちゃん、おはヨーソロー!」

「曜ちゃん、おはよ……ええっ⁉︎」

挨拶をしながら曜を見た梨子は、驚きの声を上げた。

彼女の机に積まれた、チョコ、チョコ、チョコ。大量のチョコレート。

「え、曜ちゃんそれは……」

「あ、これ? なーんか色んな人に呼び止められちゃってさー。今年は特に多くて、教室着くまでに持ちきれなくなるかと思ったよ〜」

開いた口が塞がらない梨子に、

「うーむ流石は曜ちゃん。学校中の人気者の曜ちゃんは、バレンタインになると毎年凄い数のチョコを貰うのだ」

千歌が腕を組みながら誇らしげに説明。

「今年は間違いなく記録更新だね〜。ちょっと羨ましいぞよーちゃん!」

「さっき、千歌ちゃん探してる子もいたよ」

「え、ホント⁉︎ どこどこ⁉︎」

「一年生の__」「ちょっと行ってくる!」

「え、名前聞かなくていいのー? ……行っちゃった。まあ、生徒数は少ないからすぐに会えるかな?」

苦笑いする曜のすぐ横で、梨子は山と積まれたチョコを眺めていた。その表情は、若干険しめ。

「あのチョコレート、沼津駅前で売ってた結構高価いチョコだったような……。よく見たら、手作りも多い……しかもかなりクオリティ高いし……」

自分の鞄、その中のチョコレートを思い出し、

「こんな私のを渡しても……普通過ぎてガッカリされちゃうかな……」

渡すのを躊躇ってしまう。

「そういえば梨子ちゃん、何か用事ある感じしてなかった?」

「えっ? う、ううん! 何でもないよ!」

何も言っていないはずなのに、この親友のカンの鋭さには驚かされる。梨子は無意識に鞄を背中に回す。

「ふーんそっか。じゃあ私からはこれ!」

そんな梨子の心境など露知らず、曜は駆け寄ってくると小さな包みを手渡した。

「これは……?」

「バレンタインチョコ! 梨子ちゃんみたいにオシャレじゃないし、普段あんまり作るモノでもないからちょっと不恰好になっちゃったけど……頑張って作ったから受け取って欲しいな!」

「あ、ありがとう」

曜からチョコレートを受け取った梨子は、

「もうすぐ千歌ちゃんも戻ってくるし、どの道Aqoursのみんなにあげるつもりだし……曜ちゃんにだけあげなかったらきっと怒っちゃう……」

自分に選択肢なんてなかったと思い出す。

梨子は意を決して鞄の中に手を入れると、

「よ、曜ちゃん!」

「ん?」

「これっ!」

「おわっ?」

振り向いた曜にチョコを突き出した。

あまりの勢いに思わず身を引いた曜は、

「これって……チョコ? 梨子ちゃんから、私に?」

「う、うん……」

喪失していた自信から目を伏せていた梨子は、

「ありがとう梨子ちゃん! うわー、すっごく嬉しい!」

はしゃぐ声に顔を上げた。

「その……いいの?」

「何が?」

「だって、曜ちゃんそんなにたくさんチョコ貰ってるのに、今更私から貰ったって……」

「いやいや、無茶苦茶嬉しいよ! 何となく、梨子ちゃんがくれるチョコって特別って感じがするんだよね」

「えっ……それってどういう」

意味、と続けようとした梨子の声を、

「チカもチョコ貰えたぁーっ!」

心底元気な声が遮った。

「おー、千歌ちゃん良かったね〜。しかしなんと、曜さんも梨子ちゃんからチョコ貰ったのであります!」

「それならチカも貰っ……曜ちゃんのチョコがハート型だ! 何かズルい!」

「特別なんだって!」

「いや、私はそんな事は……」

訂正しようとした梨子だったが、

「今年のバレンタインは、最高に嬉しい! 梨子ちゃんありがとうねっ!」

屈託ない笑顔でハート型チョコを片手に敬礼した曜を見て、

「もう……深い意味なんてないからね!」

少しだけ染まった頬を隠すように、笑って言った。



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