鋼の錬金術師 錬金術師も神に縋る   作:章介

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というわけで『鋼の錬金術師』やっていきます!


プロローグ 原点

 

 

 

 

 

――――アメストリス国。世界有数の錬金術先進国家であり、軍事国家でありながら国民からの不満度が低いという稀有な国だ。軍部最高責任者にしてアメストリス国国家元首、キング・ブラッドレイ大総統の神懸った政治手腕によって、周辺を敵性国家に囲まれながらも高水準の国民所得及び食料自給率を誇る、本当に色んな意味で稀有な国家である。

 

 

 アメストリスと言えば、と問われて真っ先に飛び出すのは、先程も上がった錬金術であろう。この錬金術とは何かと言えば、早い話が『過程を経ずして結果を得る』技術だ。錬成陣と呼ばれる独自の紋章を刻み、それに手を翳すことで様々な奇跡を起こす。例えば、地面に敷き詰められたコンクリートの形状を自在に操りくいの平原のようにして攻撃したり、大量の鉄屑と弾薬の火薬を使って大砲に変じてみせたり自由自在だ。

 

 

 しかし当然問題もある。錬金術の肝は『理解』『分解』『再構築』の三つなのだが、これらの過程と結果を決定づけるのが錬成陣なのである。この錬成陣の図形は線の一本から点の一つまで意味が籠められており、ほんの少しでも配分に誤りがあると望んだ結果が出来ないか、はたまたとんでもなく効率の悪い成果になるか、最悪致命的なズレの対価を自身の身をもって贖う羽目になるのだ。

 

 

 また、錬金術の使役者の素質によっても結果が異なる。『分解』は錬金術の根幹を成すものなので陣さえ書ければ最低限機能する。ところが再構築については何を、どれだけの幅を持たせて、どのような結果を求めるかで作成すべき陣が全く異なってしまう。広範囲をカバーするような構築式を組んでも強力な破壊力が無ければ役に立たず、特化し過ぎて汎用性を失えば『人間兵器』として成り立たない。

 

 

 他にも、『理解』については使役者の力量に大きく作用される。錬金しようとする物質についてどれだけ理解できたかは本人の知識量によって異なるため同じ錬成陣であっても効果は異なる。それにどんな結果を求めるかについて明確なイメージが無ければうまくいかず、どこまで精密性を突き詰められるかでもクオリティは大きく異なる。つまり何が言いたいかというと、この技術は才能の有無が物凄く重要になってくるのだ。

 

 

 そういう技術を国家の象徴としているせいなのか、この国では錬金術に関する知識を誰でも持つことが許されている。勿論錬金術を商売に用いたり金銭が生じる契約に用いるのは相応の免許が必要になるが、唯学ぶだけであったり、日常生活に用いたりしても何のお咎めもないのである。それどころか、優秀だと評価されれば軍にヘッドハンティングされることすらある。近所の肝っ玉母さんが実は凄腕のモグリ錬金術師だった、なんてこともあるくらい、錬金術や錬金術師はこの国では身近な存在だった。

 

 

 

 

 

 

 ――――彼、ウィリアム・エンフィールドもそんなモグリの錬金術師の家に生まれた。彼の母方の家系は機械工学に明るく、その中でも変わり者であった母が『たとえ現在の技術では作れない部品でも錬金術を使えば作ることが出来る』というとっても俗物的な理由で錬金術師の門を叩き、同門でガチガチの探究者体質であった父とどういう訳か上手くいった結果授かった一人息子が彼だ。快活で適度に世俗にまみれていた母と、真理の探究者として生きながら父としても接してくれた父に囲まれ、幸せに暮らしていた。

 

 

 

 しかしそんな暮らしは長くは続かなかった。ある日、父が何者かに殺された。片田舎で慎ましく暮らしていた彼らには誰かに恨まれる理由はなく、地元警察の懸命な捜索にもかかわらず事件は迷宮入りした。その日を境に母は狂ったように研究に没頭し続けたが、ある日研究成果をウィリアムに託し研究所に入ったきり行方不明となった。後に施設内に入るとそこには複雑な錬成陣が一つ描かれていただけだったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 相次ぐ不幸に見舞われたウィリアムは唯一の親戚である叔母を頼ってアメストリス東部に位置するリゼンブールへと訪れた。彼の新しい家族となる一家、ロックベル家を目指して。

 

 

 ロックベル家に身を寄せて暫くの間、ウィリアムはとても聞き分けの良い優等生として過ごした。まだ10にも満たない年齢で両親を失ったにも拘らず泣くことも塞ぎ込むこともしない。だが、それが無理をしているのだというのは誰が見ても明白であり、ロックベル夫妻たちは彼を心から心配していた。幸い彼にとって姪に当たる、ロックベル家の一人娘や後に彼を実の兄のように慕うとある兄弟の影響もあり、彼は立ち直ることが出来たようだ。

 

 

 彼はロックベル夫妻の助手やオートメイル技師であるピナコ・ロックベルの手伝いをして見聞を広めていた。が、最も精を出していたのは兄弟の父を師と仰いでの錬金術への没頭だった。勿論最初はにべもなく断られたが、彼の凄まじい熱意に根負けしたことと、彼の素質から下手に何も教えないのは却って危険と考え、本を見ればわかるレベルのものに限定してだが、彼に教えを施すことにしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 ウィリアムは普段師の奥方の手伝いや子供たちの世話を焼き、僅かな時間錬金術の授業を受けるのが日課となった。彼にとっては明るく騒がしいロックベルの団欒も居心地がよかったが、どちらかというと此方の方が性に合っていた。『手先が器用になると生きるのが不器用になる』を地でいく師匠が亡き父を思い出させ、そんな師に不満そうにする兄弟の反応が自分とあまりにも違うのでひどく新鮮に感じただろう。

 

 

 

 ウィリアムが弟子入りしてから半年が経過しただろうか。この頃になると基礎は余すところなく制覇してしまったので、約束通り彼は教えを乞うことを辞めた。それでも変わらずエルリック一家の世話を焼く彼に、師匠は駄賃代わりに自身の蔵書を自由に覗かせてくれていた。また、入門編までとはいえ師弟関係にあった少年を放り出すのも忍びない。そういった理由で知り合いの信頼のおける錬金術師を紹介してやろうとも思っていた。

 

 

 ウィリアムを交えた円満な家庭によってますます研究に精が出ていた彼はこの時久しぶりに外の世界に目を向けたのだ。もし電話帳だけでなく地図まで取り出していなければ、この地で何が起こっているか気づかなかっただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある日、ウィリアムの師は詳細を何も伝えることなく旅立った。幼い兄弟にはもちろん、妻や弟子にすら。しかしウィリアムは師を止めることはしなかった。その双眸の決意は並大抵ではなかったこと、そして断腸の思いであることが見て取れるほど思いつめた表情で『トリシャと息子たちを頼む』と言われたからだ。

 

 

 

 こうして一人欠けたエルリック家を支えるべくウィリアムは奔走した。そのあまりの甲斐甲斐しさは『お兄ちゃんを取られた―!』とロックベル家の御嬢さんが飛び込んでくるほどだった。

 

 

 特に彼が手を焼いたのは兄弟の兄の方のメンタルケアだ。彼は父親が自分たちを捨てたと傷ついていた。無理もないことだと思う。彼らは小さく、まだまだ親の庇護と愛情が不可欠な年頃だ。そんな時に姿を消されては情を疑ってしまうのも仕方がないだろう。それがどれだけ大切な事かなど関係ない。幼い彼らからすれば、自分達以外のものを選んだ、という意味では相手が愛人だろうが世界の危機だろうが同じこと。彼の言葉を否定することなく師匠のフォローを入れたいと思っても、ウィリアムも肝心なことは何も知らないため二人の仲を取り持つのは至難の業だった。

 

 

 

 

 

 

 

そんな彼らの生活に追い打ちをかける事態が起きてしまう。師匠の奥方であり、兄弟の母親が流行病に罹り、看病の甲斐なくこの世を去ってしまったのだ。この一番大事な時に行方の知れない師をウィリアムは心の内で呪った。これで彼らの仲は修復不可能かと頭を抱えたが、驚いたことに兄弟は母の葬儀後父親の書斎に籠ることが多くなった。ピナコは彼らの行動を、父親の足跡を辿ることで寂しさを紛らわそうとしているのだと解釈し時間が解決してくれるまで支えていこうと判断したが、ウィリアムはそれを危険な兆候であると考えた。

 

 

 

 入門編で足踏みしているとはいえ、ウィリアムも錬金術師の卵である。錬金術の禁忌については師に聞かされている。――――即ち、『人体錬成』死者の蘇生、生者の創造のことだ。彼らはそれに魅入られているのではないか、同じく家族を失った自分にはその気持ちが痛いほどよくわかる。だが、それだけは駄目だ。そこは絶対に踏み越えてはならない領域だ。けれど彼らを理屈で止めることなど不可能。どうしたものかと思案に暮れていた彼らの元に、ターニングポイントとなる出会いが訪れる。

 

 

 

 

 

 

 

 エルリック兄弟の師匠となる女傑、イズミ・カーティスとの出会いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ウィリアム

 

 

 

 

 

「さて、荷造りは済んだかい?忘れ物なんかしたら大変だよ。セントラルから此処へ帰ってくるにはちょっと距離があるからねぇ」

 

 

十分な着替えと必需品をトランクに詰め終え、一息ついた頃にピナコおばあちゃんが部屋に入ってきました。

 

 

 

「ばっちりですよ。大事なものは持ちましたし、まあ何か足りないものがあれば行きがけに買い足しますよ」

 

 

「そう。けど良かったのかい?あの人の度量はなかなかのもんだ。本当は一緒に行きたかったんだろう?」

 

 

「そうですね。あれほどの達人から教われるエドたちが羨ましくない、と言えば嘘になります。でもあの子たちだって男の子ですからね。大事な勝負所に甘えられる人がいるのは好ましくない。じゃあ我慢の一つや二つ、なんてことないですよ。なんたって『お兄ちゃん』ですからね」

 

 

「・・・・本当にあんたは昔から『良い子』だねえ。最近はますます磨きが掛って来たけど、あんまりよい男になって妹分泣かせるんじゃないよ」

 

 

 

 ははは。昨日も首を縦に振ってもらうのに一晩中かかりましたからね。正直今凄く眠たいです。

 

 

 

「我慢しな。エドたちに続いてあんたまで出ていくんだ、あの子からすれば弱り目に祟り目だよ。まったく家の知り合いの男どもはどうして勝手なんだろうねえ。若い内から申し訳ないだとか思うもんじゃないってのに」

 

 

 

「耳が痛いですね。でも一人の男として養われるだけじゃみっともないでしょう?僕にもオートメイル技師の才能があれば良かったんですけどね」

 

 

「・・・・あんだけ手先が不器用じゃ口が裂けても筋が良いとは言えないねえ。なんで図面を引かせたらピカイチなのに、スパナ握らせたら『名状しがたいナニカ』が出来上がるんだい?」

 

 

 

 そんなこと僕に言われても・・・。設計図書いたりとかは思い描いた通りに出来るのに、なぜかそれを実践してみるととんでもないことになる。この前もより軽量化した義手の制作に取り掛かったら、いつの間にか八本の触手型の腕になってたし。しかも失敗作ならともかく、お箸を小豆が拾えるレベルで使い熟せるほど精密に動かせるんだから何とも言えない。そういえば押し入れに入れておいたはずがいつの間にか作業机に出てきていた記憶が・・・・こ、この話は止めよう!うん。

 

 

 

「まあ良いさ。大の大人が子供の将来にとやかく言うのも野暮ってもんだ。男子三日会わざれば括目せよ。でっかくなって帰ってくるんだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして僕は第二の故郷を飛び出した。いつまでも居心地の良いところにばかりいられない。特に育ちざかりの弟たちがいるからね。負けたくないって気持ちもあるし、やっぱり自分にしか出来ないことを探したい。あそこに行けば錬金術に関する文献もたくさんあるだろうし、何より学費が免除されているというのが一番大きい。

 

 

 

「目指すはセントラル。出世にはあんまり興味ないけど、親孝行目指して頑張りますか」

 

 

 

 

 

 

 




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