鋼の錬金術師 錬金術師も神に縋る   作:章介

11 / 26
第九話 凶報

 

 

 

 

 

 

場所:軍法会議所

 

 

 

 

「―――クソッ!何がどうなってやがる!リオール、イシュバールそして・・・・。錬金術はサッパリだが、ここまでヒントがありゃ俺でもわかる。どこのどいつだ、こんなこと考えやがるのは!?」

 

 

 

 マースヒューズ中佐は混乱の極みにいた。アームストロング少佐から秘密裏に情報を得た彼は、特に大規模となった事件を洗っていた。賢者の石にウロボロスといった錬金術の要素からの先入観が功を奏し、彼はおそらく人類で二番目に早くこの計画に辿り着いた。

 

 

 

(どうする?ロイ・・・直接は駄目だ、ヤバすぎる。時間は掛るが暗号化してアイツが送ってくれた伝手に流すしかない。少佐に鋼の・・・・論外だ!どっちも腹芸が出来る質じゃない。大総統・・・無理だ、たかが一佐官が直通で繋いで貰える訳がない。十中八九途中で感づかれる。どうする、マジでやばいぞ!!)

 

 

 

 中佐はエドワードの計らいで病院からすぐに出たため大総統と顔を合わせることが無かった。そして元々鋼の錬金術師との接点も薄かったこともあり、現在特に怪しまれてはいない。しかし、大総統からの掣肘が無かったためこの事態がどこまで軍を侵食しているか分からず袋小路に陥っていた。

 

 

(あの猪突猛進が服着て歩いてるエドが妙に慎重だったからつられちまったが正解だったな。周囲の目も相当気にして情報を集めたから多分まだばれてない。だが時間の問題だ、こんなとびっきりの爆弾抱えて普段通りになんて振舞えねえよ!?正直、今の俺じゃあ愛しの家族と天気の話もまともに出来そうにねえ。)

 

 

 

 どうすれば良いのか、せめて家族だけでも無事でいられるようにするには・・・。思考を巡らせるが答えは出ない、あまり書庫に長居するのも怪しまれる。結果妙案は浮かばず、とりあえずマスタング大佐への情報の送信と帰宅の為に退館した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼のこれまでの対応は完璧といって相違なかっただろう。しかしここは軍法会議所、謂わば『彼ら』が今まで行ってきた悪事の資料館といっても過言ではない。そんな場所に『目』が配置されていないはずが無く、況してやそこから不審な様子で去っていく人物が目を付けられないはずが無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで良し、と。はあ、早く受け取ってくれよロイ」

 

 

 

 エドワードとの通話で老婆心が湧いたマスタング大佐から送られてきた、極秘の連絡手段を利用した後、ヒューズ中佐は表通りへと戻ってきていた。マスタングに届くのが何時になるかは分からないが、自分が出来るのはここまでだ。

 

 

さしあたっては、滅多に飲まない度数の高い酒を沢山飲んで風邪を引いたふうに見せかけて休み、そのまま家族と共に姿を晦ます。目指すなら北だ、もし次に惨劇が起きるとしたらあそこしかない。幸い総司令官であるアームストロング少将は頭も切れるし、自分が持つこの情報の重要性をきっと理解してくれる。半ば中央と切り離されている『北壁』でなら隠れ家の提供はさほど難しくないはずだ。

 

 

 

 

 ―――決して油断はしていなかった。しかし僅かに下りた肩の荷に付けこむ最悪のタイミングでそれは起きた。向かい側から何故かこんな遅い時間に迎えにやってきた愛しい妻に違和感を覚える前に、カバンの裏から見えた拳銃の凶弾を受けてしまう。

 

 

 

「があッ!?な・・何がどうなってやが・・・?」

 

 

「何がどうなって?はっ!あれだけ写真ばら撒いといてよく言うよ。お陰で簡単に不意打ち出来たよ。無駄に騒がれないよう一発で仕留めてやろうと思ったのに、変に躱そうとするから痛い思いをするんだよ。本当はさっさと仕留めておきたいんだけど、一発しか撃っちゃいけないからさ、可哀そうだけどそこで苦しみながら死んでもらうよ?」

 

 

 

 口調とは裏腹に心底楽しくて仕方ないという風に笑うが、ヒューズの耳には入ってこない。今思考を一杯にしているのは、妻の姿から突然別人へと姿を変えた非現実的な光景しかない。

 

 

 

「ああ、安心してよ?あんたの家族には手を出してないから。流石に軍人一家皆殺しは騒ぎが大きくなりすぎるからさ。あんたがこのまま大人しくくたばってくれれば、の話だけどね」

 

 

「・・・・・・・・・くそったれ・・」

 

 

「へー、それがあんたの人生最後の台詞?冴えないねえ、じゃ、バイバーイ」

 

 

 

 ヒューズが諦めたように全身から力を抜いたのに気を良くし、嘲笑いながら襲撃者は姿を消した。

 

 

 

「・・・あとは任せたぜ、ロイ。エ・・リシ・・・・・グレイ・・・・・ア・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――翌日、マース・ヒューズの訃報がセントラルを駆け巡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所:南方司令部

 

 

 

 

「ぬぅおおおおおおおッ!!」

 

 

 エドワード・エルリックは只管爆走していた。弟と震えながらも、人体錬成について、そして自身を鍛え直すために師匠の元へとやってきていた。ところが、よりにもよってそんな時に、まだ国家錬金術師の査定を受けていなかったことを思い出し、南方司令部まで飛んできていた。そして――――。

 

 

 

「おおっ!久しいなエドワード・エルリック!相変わらず息災のようで吾輩感動ッ!!」

 

 

「ギャアアアアッ!!!!?」

 

 

 

 ―――まったく嬉しくない熱い抱擁を味わっていた。

 

 

 

 

 

「―――これにて査定終了!これからもがんばりたまえよ、鋼の錬金術師君」

 

 

「なんつーいい加減・・・いや、早いのは凄く有難いんですけど」

 

 

 

 大総統の鶴の一声により、エドワードの査定は手続き一切省略のスピード解決を果たした。実は汽車内で必死に書き上げたレポートが日の目を見なかったことを気にしていたが、口に出すのは野暮だと流すことにした。

 

 

「――む?随分慌てておるようだが、何か急ぎの用事が?」

 

 

「いや、早く帰らねえとアルの身が(組手的な意味で)もたないだろうから」

 

 

「・・・本当に凄い方なのであるな、そなたの師匠は(姉上と意気投合しそうな方だ)」

 

 

 

 少佐と嫌な汗をかきながら帰り支度を進めるエドワード、しかしそこで大総統が待ったをかける。

 

 

 

「エドワード君。もし君が良ければなのだが、これからエンフィールド君と『エメス』の第2機関が演習を行う。見学がてら、彼らの成果について外部からの忌憚ない意見を聞きたいのだが」

 

 

「え、ウィル・・・じゃなくて、技術大佐が?前東部に来てた時は土木建築してたって聞いたけど・・・」

 

 

「それは第6機関であるな。『エメス』はそれぞれ専門分野を抱えた6つの機関で構成されておる。今回の第2機関は生体錬金術、医療分野を専門にした―――」

 

 

「是非見学させてください、お願いします!!」

 

 

 

 ・・・この時、エドワードの優先順位は、探究心>>越えられない壁>>弟の安否 となっていた。アルフォンスは泣いて良い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ウィリアム

 

 

 

「―――とにかく医療錬金術で大事なのは、患部を正確に把握することです。意外に思うかもしれませんが医療錬金術って実は錬成に限って言えばほかの分野より簡単なんですよね。だって腫瘍や血栓は形質が異なるだけで、構成している要素はほとんど変わりませんから。すぐそばに錬成先の見本もたくさんありますし。一番の問題点は、どこに異常があるかを把握する手段、そして精密な錬成方法のノウハウがあまりなかった点でした。しかし、我々『エメス』が開発した精密作業用の錬成陣と超音波検査器、そして内視鏡がこれらを解決します。今回は事前に公募した200名の皆様にご協力いただき研究成果を実践していきたいと思います。どうかよろしくお願いいたします」

 

 

 

 

 ――――ねむい。4日前に飛び込みの要件があった所為で予定が滅茶苦茶になりました。そのせいで昨日完徹させられた挙句、次の日に遠征&即講演会とか殺人スケジュールにも程があるでしょうに。まあ十分な収穫があったので良しとしましょう。

 

 

 えーと、まずはデモンストレーションに僕が末期ガン患者の治療を行うんでしたっけ。今回が最終試験の様なもので、認可が下り次第国内に幅広く普及させる予定です。ちなみにこの講演会は国内の錬金術師ならいつでも無料で参加できます。大総統閣下様々ですね。

 

 

 

 最初の一発目は度肝を抜けとの要請なので、目の前の簡易ベッドに横たわる患者の上に手を置き、医療器具を使わず且つ切開もせずに錬金術を行使します。がん細胞は正常な細胞が特定の傷がつくことで異常化してしまった細胞なので、ガン細胞を一つ一つ分解するのと同時に正常な細胞を複製していきます。施術が済んだ後にレントゲンを撮ると、ガンの影が全て消え失せました。

 

 

次に、全身に深い火傷跡を負った女性に術を施します。傷跡は皮膚へのダメージが深く達したことで正常な皮膚が形成できないために起こります。要は故障しているせいで欠陥品しか作れない機械と同じようなものなので、変質した部分を分解し正常な細胞に置き換えてあげれば、傷一つない何処にでもいる淑女に早変わりしました。

 

 

 

 何か凄いことをしたかのように表現しましたが、これ僕じゃなくても少し才能があれば器具を用いて全く同じ成果が出せます。というよりそのための機関ですから。今まで出来なかったのは、構築式を広く公開するという文化が無かった事が最大要因だったからですし。

 

 

 

 僕の出番はこれにて終了、後は機関のメンバーの補助に回りましょう。序列1ケタの精鋭は機材を用いた直接の治療を、それ以外は傷跡の修復や手術の手伝いに回します。この調子なら昼までに終わりそうですね。

 

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・すげぇ。どんどん人が治って、錬金術ってこういうことも出来るのか!」

 

 

「ほう、最年少国家錬金術師が太鼓判を押すなら、私も全面的に支援した甲斐があった。しかし見事なものだ、あそこにいる連中の殆どが、かつて無能の烙印を押されていたとは到底思えん」

 

 

 大総統の一言にエドワードは驚愕する。あそこにはたくさんの救いと喜びがある。自分たち兄弟には羨ましくて仕方がない彼らが、これまで日の目を見なかったなど信じられなかった。

 

 

「アメストリスは軍事大国故か、武断的な判断が優先されやすい。現に彼らの多くが国家錬金術師の試験を落ちている。今この光景があるのも、技術大佐とその御母上のお陰だな。大佐は母の研究成果から、『最巧の錬金術』を確立したらしい」

 

 

 アームストロング少佐の補足を受け俄然興味が湧いたエドワードは、講演が終了し此方にやってきたウィリアムを早速質問攻めにする。しかし半分夢の世界に入っている彼が真面に応えられるはずもなく、憤慨するエドワードを少佐や機関の面々が微笑ましそうに眺めていた。

 

 

 

「実に見事な公演であった、エンフィールド技術大佐。非の打ちどころのない成功で誠に結構。これからもよろしく頼むよ」

 

 

「はっ!恐悦至極に存じます」

 

 

「うむ、しかしあの一種崇拝さえ感じさせる感謝の眼差しを見ると、君と仕合った時のことを思い出すよ。さて、次の予定が入っているのでな。また会おう、エドワード君」

 

 

 去り際にまた爆弾を置いて去っていく大総統に頭を抱えるウィリアム。気のせいでなく足元からの視線が強くなった。

 

 

「ウィルお前、大総統とやり合ったことあるのか!?結果は!!?俺試験で槍ぶった斬られたんだけど―――」

 

 

「待った、待った。落ち着いて下さい。本当に眠くて頭が回ってないんですよ、後しれっととんでもないことやったんですね、君」

 

 

 一旦エドワードを落ち着かせた後、部下にコーヒーを用意して貰い話を再開した。

 

 

「『エメス』を立ち上げて直ぐにちょっとゴタゴタしちゃいましてね。元々が国民への人気取りで立ち上がったような物なんですが、ちょっと評判を集めすぎて高官連中に目を付けられちゃったんですよ」

 

 

 内戦に人手を取られた農業へのテコ入れ、医療の発展への貢献、科学技術の躍進。どれもこれもが国民の生活に直結しているため、『エメス』に対する評判は飛躍的に上昇し、権威の様なものにすらなっていた。

 

 

しかしアメストリスは独裁政治、いわば専制政治のような国家体制であり、君主を差し置いて権威を得ては今後に大きな禍根を残す、早い内に禍の芽は詰むべきだという声が軍部において強くなってしまった。それが20代で機関長へと出世したウィリアムへの嫉妬や恐れから来るものであっても、放置しては何かと面倒な事態になりかねない。

 

 

そこで、あくまで『エメス』は国家の駒の一つであり、真に頂点に立っているのは大総統であると国民に改めて認識させるため、御前試合という形で対戦カードが組まれたのである。

 

 

 

「結果がどうだったかについては聞かないでくださいよ。好き好んで恥を晒す趣味は無いですから。でも、そうですね。君たちが元の体に戻れた時、お祝いの席の肴になら話してあげても良いですよ?」

 

 

「言ったな!?俺達も師匠のところでヒントを掴んだんだ、そう遠くない内に吐かせてやるから、今の内に思い出しとけよ!」

 

 

「そういえば今はカーティスさんのところでお世話になってるんですよね?もう結構な時間ですけど、早く帰らないと夕方になりますよ。修行に来ておいて寄り道とかしてたら怒られません?」

 

 

 

 ・・・その後、来た時と同じくらい全速力で帰ったエドワードであったが、師匠の鉄拳制裁を逃れることは出来なかった。

 




ここまでご覧いただきありがとうございました!感想・質問等いつでも大歓迎です!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。