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―――アルフォンス・エルリックの誘拐。査定と関係ない理由で遅く帰ってきたため師匠に一通り折檻を受けたエドワードはその知らせに飛び上がった。・・・隣の部屋で育まれている筋肉の友情を見ないようにしながら。
そして続けて語られた下手人の特徴に、今度は同席していた大総統とウィリアムが目つきを鋭くする。
「――手の甲にウロボロスの入れ墨をしたグリードという男だ」
エドワードは師匠と2,3言葉を交わした後、アルフォンスを取り戻すため『デビルズネスト』と呼ばれる酒場へと向かった。残された大総統一行も店を出てゆっくりと歩を進める。
「これは憂慮すべき事態だな、エンフィールド技術大佐」
「ええ、アルフォンス・エルリックは資格こそ取っていませんが、もし試験を受けていれば最年少国家錬金術師記録をさらに引き上げたであろう逸材です。何処の誰とも知れない組織の手に渡って良い人材ではありません」
「加えて、エドワード・エルリックとの強い絆は、少し調べれば誰でもわかること。国家錬金術師の凄まじさを鑑みれば、そのレベルの実力者を、明確な意図をもって脅迫しようとした時点でただの無頼とは到底呼べますまい」
「・・・現刻をもって、『デビルズネスト』とやらに潜む連中を国家不穏分子と認定する。田舎町に凶悪なテロリストが潜んでいたなどと、近隣住民を不安にさせるのは避けたい。精鋭をもって即刻切り捨てる。技術大佐、南方司令部はすぐに動かせるかね?」
「既に連絡は入れておきました。此処までなら凡そ30分もあれば到着するかと」
「では、1600時よりテロリスト鎮圧作戦を開始する。各自準備を急げ!」
「「了解!」」
―――彼らには突然の事態であっただろう。一切の警告無くばら撒かれた機関銃の掃射により、店のフロアにいた人間は一人残らず全滅した。そして南部軍が次々と店内に入り込んで――――――来ることは無く、入り込んできたのは一人だけ。
本能で店奥に隠れられた『合成獣』達は猟銃や己の肉体を駆使して迎え撃つ、がまるで歯が立たない。誰かが銃火器を構えた瞬間、眉間ど真ん中に風穴を開けられ、他はそもそも近づく前にこの世から退場させられる。
例え所有する武器が拳銃一丁であろうとも、ウィリアム・エンフィールドが持てばリボルバーも機関銃と変わりない。弾丸が放たれた端から薬室に薬莢が再装填されるためシリンダーが回転し続ける限り発射は止まらない。
「こんなところですか。しかし、まさか離反したホムンクルスが居たとは驚きですね。是非一度お話を伺いたかったですが、やはり大総統は一目散に奥へ行ったようなので無理そうですか。まあ、お陰で情報収集は捗りそうですが。・・・聞こえていますね、『ヴリーヒトイヒ』、まだ体が慣れないでしょうが、盗み聞きくらいは出来ますね?」
動くものが視界から消えたところで、誰もいない方へ声を掛ける。勿論返事は帰って来ないが、気にすることなく奥へと進む。
―――天井裏から一匹の忠犬が奇襲を仕掛ける。当然玉砕覚悟だ、音に聞こえた『翆煉の錬金術師』がこんな見え見えの手に気付かないはずが無い。一番良いのはギリギリまで隠れていたロアが白兵戦を仕掛けられる距離まで近づくこと、この男が肉弾戦で功績を立てたという記録はない。仕込散弾程度ならロアは怯まず突っ込むことが出来る。尤もあの早撃ちが来なければ、の話であるが、彼らにとっては最悪グリードとマーテルを逃がすことが出来ればそれで良い。
ところが、ウィリアムは迎撃するどころか、まるで差し出すかのように左腕を突き出す。困惑しながらも、ドルチェットは見事左腕を切り落とした。ロアの渾身の一振りこそ回避されながらも、予想だにしない戦果に二人は訳が分からない様子だった。
「こいつ、態と腕を切らせやがった。何を考えてやがる!?」
「・・・・・何をって、整備不良を起こしてないか確認するのは技術者の基本でしょう?」
「―――ッ!?ウルチ、後ろだ!!」
本能で察知したロアが叫ぶが、後方で様子を窺っていたトカゲの『合成獣』は切り飛ばされたはずが何故か背中に張り付いている左腕に『分解』され、まるで解体されたかのように無傷の臓物を腹から撒き散らかした。そして左腕は独りでにウィリアムの元まで戻り、何事もなかったかのようにくっ付いてみせた。
「いや、人目がある所為で中々試せなかったんですよね。お陰で問題なく機能することが分かりました。ご協力感謝しますよ」
「な、あ・・コイツも『合成獣』・・・なのか・・?」
「いやいや、あんな元に戻すのが手間な出来損ないと一緒にしないでください。一昔前はお偉いさんに頼まれて研究しましたけど、拒絶反応のない人外の細胞構築以外何の役にも立ちませんでしたし」
ウィリアムは、神経節のような機構を左腕に仕込んでおくことで腕に万一のことがあっても、逆に奇襲に利用できるようにしたのである。昔とある研究所にいた時、偶々虫と上手く混ざることが出来た『合成獣』の細胞の構造から着想を得て自身に施術してあったのだ。
「・・・だからって自分に仕込むかよ、普通!?」
「安全策作っておいて自分に仕込まない方がおかしいでしょう。弄るだけで切るわけでも混ぜた訳でもなし。寧ろ親から貰った大事な体だからこそ長く使える様にという子供心なんですが」
予想の斜め上な回答にドン引きするロア達。研究所で散々学んだが、やはり極まっている学者というのは変態しかいないらしい。
「―――ところでその距離は僕の間合いですけど、どうします?もう貴方たちに興味もありませんし逃げるのであれば追いませんよ?」
聞き終わるより前に二人は建物の地下へと走っていった。奇襲に失敗して距離を取られた以上勝ち目は皆無。ならば全力で逃走した方がまだ希望がある。何よりこれだけ騒いでいたにも拘らず増援が一切来なかった事態が、彼らの不安を煽りボスの元へと急がせた。
「・・・本当に一目散に逃げていきましたね。ま、良いでしょう。外に出ても南部軍の方が片づけたでしょうし、そうしなかったところを見るに放っておいても大総統閣下が始末してくれるでしょう」
そもそもが過剰戦力である上に、一番興味のある敵を上司に取られたためウィリアムのやる気は最底辺であった。粗方始末したことを確認した後は特に動くことなく、部下からの報告を待っていた。
数時間と絶たずに酒場は制圧された。騒動に慣れていない住民達はこの事件に興奮を隠せないでいたが、テロリストの首領が大総統の手により捕縛され、近くセントラルにて処罰されると報じたのを最後に軍が引き上げたこともあり、今はもうそんな騒ぎが無かったかのように鎮まり返っている。
エルリック兄弟は大総統に詰問こそされたが、深く追及されることもなく解放された。ただし、兄弟の消耗具合から残党による報復を避けるため、護衛としてウィリアムが残ることとなった。エドワードは(師匠夫婦だけで過剰戦力なので)丁重に断ろうとしたが、誘拐未遂にあった国家錬金術師を民間人に丸投げするのは軍の面子に関わるとのことで押し切られた。急な話に勿論宿等とっていなかったウィリアムは、イズミの厚意に甘えて世話になることとなった。
「―――それにしても、初めて会ったときはエドたちと変わんないくらいだったのに、随分出世したねぇ。流石マリアとクラッサの忘れ形見なだけはある」
「おや、僕の両親を御存じなんですか?」
「ウチの師匠があの人たちの師匠と竹馬の友だった縁でね。結婚式じゃ司会だってした仲だよ。周りからは凸凹夫婦なんて言われてたけど、近くで見ればお似合いの夫婦だってわかるよ。そうだ、一つとっておきのネタがあるのよ!研究莫迦のクラッサが『おしどり夫婦とは何をすれば呼ばれるのかね?』なんて聞いてきてね。つい冗談で『人前でも構わずハグしてればいつの間にかそう呼ばれてる』って答えたら本当に実践してマリアに照れ隠しにスパナの錆にされたのよ」
「うわぁ・・・・全然想像できませんね。あの堅物が服着て歩いていた父が・・・」
エドとアルが外に出て話し込んでいる間、イズミとウィリアムは昔話に花を咲かせていた。意外な繋がりに改めて世間の狭さを感じるばかりであった。
「それにしても・・・小さいあんたにあれだけ釘を刺されていたのに止められないなんて、本当に師匠失格だよ」
「いえ、あの子たちを人体錬成に走らせたという意味では僕も同罪です。たぶん、御母堂の件だけなら踏み止まれた筈ですから」
「ああ、聞いてるよ。幼馴染のご両親が亡くなったんだったね。どうして不幸って奴はぶん殴れない所からネチネチと仕掛けてくるかね、しかも決まって弱ってる人ばかり」
「・・・・・」
***
「―――すみません、カーティスさん。エド君たちの修行の件で相談したいことが・・・」
「あら、あなたは・・・・。悪いけど自分も連れてけってのは出来ない相談よ。流石に3人は面倒見きれないし」
「いえ、そうじゃありません。あの子たちが錬金術を学びたい本当の目的についてです」
「ああ、何か隠してるのは見ればわかるけど本人達が話さないことを―――「人体錬成です」――ッ!?・・・どこでそれを?」
「・・・母が居なくなる直前までそれを研究していました。あの子たちの目はあの時の母によく似ているんです」
「あ・・・、あのバカ・・(ボソッ)。それで相談って?」
「あ、はい。相談というか、お願いになるんですけど・・・」
***
「―――今にして思えば、あんたもあの時から物騒な性格してたわね。『死者の蘇生なんて現実逃避できる余裕もないくらい絞ってくれ』なんてさ」
「・・・そんな物騒なこと言いましたっけ?」
イズミ・カーティスと一頻り話をした後、今度はエルリック兄弟の元へと顔を出していた。
「――大丈夫ですかアル?エドもですが、君たちは人の死、とりわけ殺害に関しては見慣れていないでしょう。何かあれば必ず相談してくださいね、心の傷に錬金術は無力なんですから」
『・・・ありがとう、でも大丈夫。何とか割り切れそうだから』
声に疲れこそ混じっているが、沈んだ様子はない。どうやら本当に大丈夫そうだと判断したウィリアムはそれ以上言及しなかった。その後エドワード達は自分たちがグリードなどから聞いた情報をウィリアムにも伝えた。
「―――なるほど、不老不死ですか。それで君たちに近づいたんですね。しかし、伝説ではホムンクルスは久遠の時を生きると聞きましたが、それで足りないというんですから名前通り強欲ですね」
「だよな。ったく、良い迷惑だぜ!あ、それからウィル、病院に大総統が来たとき軍上層部で不穏な動きがあるって言われたんだけど何か知らないか?今回の件も腑に落ちないことが多いし」
何でもないことのようにしれっと聞いてきたことにウィリアムは頭を抱える。いや、信頼の証なんだろうが、一応その上層部の端くれである自分にそんなにストレートに聞くのは如何なものか。
「・・・エドはもう少し腹の探り合いというものを学びましょうよ」
「?何でウィルとそんなことしなきゃならねえんだよ。つか、ぜってぇ負けるし」
『ウィル兄さんのポーカーフェイス鉄壁過ぎて何考えてるか分かんないときあるしね』
「・・・・・あれ、幼馴染にさり気無く胡散臭い呼ばわりされてる?まあ良いですけどね。僕から話せることはほとんどありませんが、そんな答えで納得してくれる君達じゃありませんからね。代わりにちょっとしたアドバイスで勘弁してください」
そう前置きして、懐から取り出した手帳に記述しながら話を続ける。
「まず一つ、ホムンクルスは決して自然発生的に生まれません。必ずグリードを作った人物がいます。そして2つ目、1匹いれば36匹はいる、とまでは言いませんが他にもホムンクルスが存在することを念頭に動いておくべきです。そして3つ目、君たちが貴重な人材であり殺せないということは他の手段で止めるしかないという事です。例えば人質や見せしめなどでしょうか。なので身の回りに注意することは勿論ですが、見方を変えればそういった事案はほぼそいつらの仕業であると判断できます。山を貼れれば尻尾を掴む機会は必ずできます」
そう言ってメモをエドワードに渡して話を切り上げた。それから3日程経過し、全快した二人を見届けた後、ウィリアムは兄弟と別れてセントラルへと帰った。本当は着いていってウィンリィの様子も見ておきたかったのだが、予定外の滞在で、またもや遠征のレポートや溜まってしまった書類の始末を急かす連絡が来てしまったために断念することとなった。
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