鋼の錬金術師 錬金術師も神に縋る   作:章介

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第十一話 躍進と影

 

 

 

 

 南部から帰還した後、積み上げられた書類を片付けたウィリアムの耳にある情報が流れてきた。

 

 

 

 

―――マリア・ロス少尉、マース・ヒューズ准将殺害事件の犯人と断定。

 

 

 

 

「・・・・どういう風の吹き回しかな?他の件と違ってこの事件は『彼ら』が直接手を下しています。蒸し返すより他の事件を利用して目を逸らす方が得策でしょうに。普通こんな中途半端なタイミングで身代わりを立てますかね?」

 

 

「推測の域は出ませんが、マース・ヒューズ准将に関連した何かで敵対勢力に尻尾を掴まされた可能性が濃厚かと」

 

 

「・・・つまりは身代わりの餌ですか。うわぁ、餞別程度に考えてたアドバイスが早速活きてきそうだ。ヒューズ准将に所縁のある要注意人物・・・まあ間違いなくマスタング大佐ですね。問題は彼が掴んだ蜘蛛の糸が何なのか、ですね。ここ最近の騒動といえばリオール、“傷の男”、第五研究所。うーん、もう少しヒントが欲しいところですね」

 

 

 執務室にて副官であるレーヴ中尉と問答を交わす。ここ最近セントラルから離れる機会が多く、中尉に代わりに情報を集めさせているが、立て続けに事が起こり過ぎている。できれば『彼ら』も万難を排したいのだろうが、事件の殆どに『貴重な人柱』若しくはその候補たちが絡んでいるのだから頭が痛いことだろう。つくづく軍上層部が人柱を用意できなかったことが悔やまれる。彼らが約束を守れていれば、計画に一切の狂いが無かったに違いない。

 

 

 

「――それで、如何致しましょうか?こちらに要請は来ておりませんが」

 

 

「・・・今回は静観します。『彼ら』には『約束の日』を必ず遂行していただきますが、その過程がぐだぐだになるのはむしろ好都合です。『ヴリーヒトイヒ』に監視をさせておくだけで十分です、精々マスタング大佐のご手腕を拝見させてもらいましょう」

 

 

「仰せのままに、局長閣下」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――夜、留置所にて脱走事件が発生し2人の人間が脱獄した。一人は不法滞在で連行されたシン国の青年、リン・ヤオ。そしてもう一人が話題の渦中にいる人物、マリア・ロス元少尉。

 

 

 ウィリアムのアドバイスから、近年の事件について調べていたエルリック兄弟は彼女がヒューズ准将殺害の犯人にされていることを新聞で知り、居ても立ってもいられずホテルを飛び出した。僅かな時間ではあるがアームストロング少佐やブロッシュ軍曹から話を聞き、何とか少佐相当官の権限で使途不明の銃弾に関する弁護を請け負おうと留置所へと向かった。

 

 

そして―――裏切り者として『焔の錬金術師』に焼き尽くされた無残な姿と再会することとなった。

 

 

 

「―――どういう事だよ大佐!ロス少尉が拘束されたのが昨日、碌に捜査もせずに決めつけられた報道だぞ!?まさかそんなものを信じてこんな事したってのかよ、説明しろ!!」

 

 

「・・・ヒューズを殺したマリア・ロスには射殺命令が出ていた。それだけだ」

 

 

「てめぇ――――」

 

 

***

 

『―――そして3つ目、代替手段・別の解決法に乗り換えた振りをして騙す。小細工ではあるが、今より確実にヘイトは下がるだろうな』

 

***

 

 

「―――どうした、鋼の。君の事だから頭に血を登らせて掴みかかってくるかと思ったが」

 

 

「・・・くそっ!これがあの時言ってた『助言の詳しい部分』なのかよ!?」

 

 

「ほう、良く覚えているじゃないか。お互いやることが次から次に増えるせいで暇じゃないが、今度『ちゃんと詳しいことを教えてやる』から大人しくしていろ」

 

 

 話についていけてないアルフォンスは訳が分からなかった。普段なら間違いなく噴火しているはずの兄が落ち着いているのも良くわからなければ、大佐らしくない性急な対応も分からない。

 

 

 だが、次の行動は良くわかった。人目が増えてきて発火布を外したのを見計らって、エドワードが大佐に猛スピードで突っ込んでいった。勿論油断していた大佐に成す術はなく、左手で強かに張り飛ばされてしまう。

 

 

『ちょっ!?兄さん何やってるの!!?幾ら納得いかないからって一応上官だよ!!』

 

 

「うるせぇ!この位やんねえと『俺らしくない』、そうだよな大佐?」

 

 

「ぐっ・・・た、しかに猪みたいに扱いにくいのが君達だからな。ただし、これは相当デカい貸しだぞ」

 

 

『む、無茶苦茶だなぁ(そういえば何で左で叩いたんだろう?)』

 

 

 この後憲兵隊が駆け付け事情聴取を受けたが、遠目でこの騒動を見ていた住民の証言、そしてマスタング大佐の頬の打撲跡と上官に対する暴力行為などという軍属にあるまじき(といっても正式に軍役についているわけではないので軍機では処罰できない)行為を鋼の錬金術師が行ったという状況から、責任者のダグラスは焼死体がマリア・ロス少尉のものであると信じて疑わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、エドワードが少佐に誘拐されリゼンブールへと向かっている頃、マスタング大佐一味は『釣り』に興じていた。餌は『バリー・ザ・チョッパー』、ヒューズの死と軍上層部の闇の具体的根拠を齎したこの男に目立つ行動をとらせれば必ずや口封じに動くという大佐の予想は的中し、今は刺客として送られたバリー(の肉体)を追跡していた。

 

 

 

 

 ――――その後方から、車と同等の速度で二重尾行をしてくる影に気付かないまま。

 

 

 

ホムンクルスの襲撃という予定外の事態が発生したが、シン国の二人が請け負ってくれたため一行はアルフォンスを連れて第三研究所へと潜入していた。

 

 

 

 

「『ソラリス』・・・何でここに!?」

 

 

「ひどいわあ、ジャン。私とのデートをすっぽかして何をしてるのかと思えばこんなところに来て」

 

 

 

 二手に分かれたマスタング大佐とハボック少尉は、少尉が最近付き合いだした女性、ソラリス―――改めラストと遭遇していた。そして明かされるホムンクルスと賢者の石の存在、そしてヒューズの死に大きくかかわっているという事実。彼らがぶつかり合うには十分すぎる理由だった。

 

 

 

「それにしても・・・少し人間の力を借り過ぎたかしら。いつもならワーカーホリックみたいに出張ってくるあの男が居ないだけでここまで良い様にされるなんてね」

 

 

「・・・やはり貴様は私が知りたいことを良く知っているようだな。力尽くでも吐かせたいところだが、此処の守りを任せられるような奴相手に手心を加える余裕はない。ハボック、こうなった以上女のことは忘れろ」

 

 

「はっ、俺って本当に女運が悪ぃ・・・」

 

 

 

 その後、奇襲を仕掛けられ発火布を湿らせられるという事態に陥ったが、可燃ガスによる爆発で反撃し、吹き飛ばすことに成功した。しかし彼らはホムンクルスに対してあまりにも無知であった。例え全身を粉々に吹き飛ばされようとあっという間に再生してしまい、賢者の石を少し消費すれば人が到底居られない土砂の中ででも息を潜めることが出来る。

 

 

 

 連続して不意を討たれてしまい、二人は地に伏せることとなった。

 

 

 

「―――クソッ!何があっても私より先には死なせんぞ、ハボック。・・・この手は使いたくなかったが背に腹は代えられん。幸いこの国ほど傷痕治療が進んでいる場所はあるまい、歯を食いしばれハボック!!」

 

 

 自傷防止に布をかませ、手の甲にガラスの破片で錬成陣を刻み付けたマスタングは、一切の迷いなく自身と部下の身に焔の錬金術を行使した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「があッ!?あの傷と出血で・・どうやって・・・」

 

 

「焼いて塞いだ!2、3度気絶しかけたがな・・・!!」

 

 

 

 傷口を焼き潰して復帰したマスタング大佐は部下の窮地に間一髪間に合い、そこから怒涛の連続爆破を喰らわせた。こいつらに死の概念は無く、唯賢者の石を消耗するのみ。しかしこの世の物質である以上限界は必ずある。石のエネルギーを枯渇させるべく、大佐は焔を浴びせ続ける。

 

 

 

 だが、ラストも黙って焼かれ続けるはずが無く、一心不乱に大佐の首を落とすべく突撃する。それでも冷静に爆炎を続けるが吹き飛ぶどころか怯みすらせず距離を詰めてくる。そして鎧すら紙の様に貫く黒い爪が伸ばされて行き、大佐の眉間へと突き刺さる直前―――後方から投げ込まれた一本のスローイングダガーが逆にラストの眉間を刺し貫く。

 

 

 

 予想外の衝撃、しかも脳を物理的に破壊されたために出来た隙を逃すことなく、焔の錬金術は遂に賢者の石を焼き尽くした。

 

 

 

「・・・完敗よ。あの男の狙い通りに踊らされたのは癪だけれど、貴方『達』のような男に殺られるなら悪くないわ。・・・その迷いの無い真っ直ぐな目が・・歪むところを見ら・・れないのが・・・・残念ね・・・・・・」

 

 

 

 こうして『色欲』のホムンクルスはこの世から完全に消え去った。それを確認した後すぐにマスタング大佐は後方へ目を向ける。そこにいたのは、異形の黒い影であった。全身を真っ黒の襤褸布が覆い隠しているため背格好は不明。顔も骸骨をあしらった仮面で隠しているため人相も分からない。ただ、燃やし尽くしてしまったため確認できないが、一瞬見えたあのナイフが記憶に引っかかる。

 

 

 

 黒尽くめは敵意を見せること無く、ホムンクルスの死を確認するとすぐに姿を消し、緊張の糸が切れた大佐はそのまま崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 




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