鋼の錬金術師 錬金術師も神に縋る   作:章介

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第十二話 発覚と露見

 

 

 

 

 

 場所:病院

 

 

 

 

 

 

「それにしても、よくよく考えてみれば『巡り合せ』の運が凄いよな、お前さんたち」

 

 

 

 ラストとの戦いが終わった後、マスタング大佐とハボック少尉は即刻入院させられた。ホークアイ中尉と東部から帰還したブレダ少尉、そしてアルフォンスが護衛兼見舞いにやってきていた。

 

 

「そうだよな。幼馴染とその祖母が凄腕の機械鎧技師で、国家錬金術師に誘ったのがタッカーみたいな外道じゃなくて大佐と中尉だし、全くの別件で東部にいったらドクターマルコーに会えたんだろ?」

 

 

『あー、言われてみれば凄く周りの人に恵まれてるね、僕たち』

 

 

「それに比べて俺は・・・。どっかの鬼畜上司のせいで彼女に振られるは、馬鹿上司の命令で行ったお見合いじゃあ、御令嬢に会って三分で振られたり、好みドストライクの『ソラリス』はハニトラだったしで、もう散々」

 

 

 

 全身から滲み出る負のオーラに笑うか慰めるか悩む一同。原因の鬼畜上司は隣で大爆笑して腹の傷口が開いていた。勿論誰も心配しない。

 

 

 そんなまったりした空気の中で一人、アルフォンスだけ神妙な雰囲気でぶつぶつと呟いていた。

 

 

 

「あら、どうしたのアルフォンス君。何か引っかかることでも?」

 

 

 

『いや・・・『ソラリス』って名前に聞き覚えが・・・・あっそうだ!兄さんがマルコーさんを追いかけた後にウィル兄さんが電話してた時だ!!』

 

 

 

 ―――思いも寄らない人物の登場に、全員の空気が張り詰める。特に馴染のブレダ、ハボック、ホークアイの三人は何かの間違いであって欲しいという感情がありありと出ていた。

 

 

 

「・・・・アルフォンス君。その話、詳しく聞かせて頂戴」

 

 

 

『え、でも特に変わった話じゃなかったよ?確か・・・度数の高い酒を飲み逃げした・・・えっと、アーツトさん、だったかな。その人を見かけたから代金を取り立てておいてほしいって』

 

 

 

 その言葉にマスタング大佐、そして語学に明るいブレダ少尉が目を見開いた。特に少尉は完全に顔面蒼白状態になっている。

 

 

 

「・・・アルフォンス・エルリック。西の国の言葉で『アーツト』というのは『医者』を意味する言葉なんだ。そしておそらく度数の高い酒というのは『エリクシル』のことだろう。上手い手だ、プライベートな話題を装えば早々又聞きされることもないからな」

 

 

『え・・・ちょ、ちょっと待って!?『エリクシル』って、賢者の石の別名!!?しかも『医者』と賢者の石ってもしかしなくても・・・』

 

 

「そう、ドクター・マルコーだ。君たちは未成年でしかも錬金術に没頭していたから外の文化にも疎い。目の前で話していてもばれないと踏んだのだろう。勿論これがかなり強引な推測であることは私も分かっている。しかし軍上層部の一員である男が『ソラリス』と呼ばれる人物と連絡を取り、しかも内容は賢者の石絡みだ。これを偶然と切り捨てるのはあまりにも危険だ」

 

 

 

 

 その時、外からノックをする音とともにフュリー曹長が顔を見せる。その表情にはありありと困惑が見て取れる。

 

 

 

「すみません、大佐。ハボック少尉にお客様が来られているそうです」

 

 

「・・・客?家族以外に態々見舞いに来るような奴はいないはずだが・・」

 

 

「それが・・・ウィリアム・エンフィールド技術大佐です。何でも御家族の方が『エメス』に治療の依頼を申請していたみたいで・・・」

 

 

 

 今まさに話題に上がっていた人物からの不意打ちに、病室は騒然となった。

 

 

 

 

 

 

Side ウィリアム

 

 

 

 

 

 ・・・・・何この状況。物凄く空気が重いんですけど。こう、僕の行動の一挙一動見逃さないぞという気迫というかなんというか。まあ気にしていても仕方がないのでとりあえずハボック先輩の症状を見ていきますか。ふむ、火傷は表皮の最も浅い部分のみ、それでいて完璧に止血できている。これなら態々傷の修復はせずともすぐに後は消えますね。流石は焔の錬金術師、という訳ですか。

 

 

 

 おっと、早く治療に移りましょう。男の裸を熱い視線で見ていたなんて噂を立てられたら社会的に死んでしまいます。とりあえず内視鏡を突っ込んで脊髄の様子を確認します。ふむ、刺突による損傷、ですがかなり鋭い獲物だったお陰で傷ついてない部位も残ってますね。モデルがちゃんとあるなら修復は問題ありませんね。

 

 

 

 一応念のため同意書を書いてもらおうと渡したら、舐め回すように検閲されてしまいました。あの自分の事に関してはテキトーなハボック先輩が。・・・これ、もしかしなくてもばれましたかね?ヘマをやらかした覚えはありませんが、どれ、カマかけてみますか。

 

 

 

「しかし最近物騒ですよね。皆さんの怪我もそうですけど、僕の知り合いの女性も今行方不明でご家族の方も心配されてましてね」

 

 

 

 ・・・・はいアウト。先日のラストさんとの戦闘がトラウマになってるっていうのはともかく、怯えだけでなく敵意まで滲ませるのはいけませんね。まあ、彼らの満身創痍具合なら致し方ないでしょうが。この空気にも納得です。多分彼らは僕が皆さんを始末しに来たとでも思っているのでしょう、心外な。

 

 

 

「―――さて、こんな所でしょうか。無傷の箇所があったことと、軍の定期検診のデータがあって幸運でしたね」

 

 

「・・・・・エンフィールド技術大佐、ということはハボック少尉はまた歩けるようになるのか?」

 

 

「大丈夫、問題ありませんよ。ただ、治したというより新しく神経やら何やら作り直したという方が正しいですね。暫くはリハビリ生活になりますが、その後は軍務にも復帰出来ますよ。こちらからも施術結果を上に出しておきます。休職申請は問題なく通るでしょう」

 

 

「・・・・・そうか・・・はは・・俺、戻ってこれるのかよ。ありが―――」

 

 

「これで少しは信用して貰えますか?心配しなくても『知り合いを殺されたからといって変なことはしませんよ』」

 

 

 

 何かもうこの空気が面倒臭くなったのでこちらから切り出しましょう。よくよく考えてみれば彼らに発覚したところで特にデメリットもありませんし。

 

 

 

「・・・マリア・ロスの件か?彼女は――」

 

 

「とぼける必要はありませんよ。大佐たちが昨日殺した、爪の手入れが素敵な妙齢の女性の事ですよ」

 

 

 

 ここまであからさまに挙動不審にしておいて今更言い逃れする必要はありませんよ。うん?先輩方の反応が変ですね。・・・・ああ、ロス先輩には士官学校時代かなりお世話になっていたからでしょうかね。

 

 

 あの人のことは心配してませんよ。中央ではあまり知られていませんが、マスタング大佐はアメストリス軍きっての謀将、グラマン中将の薫陶を受けている切れ者です。あんなあからさまな餌に釣られるほど安くはない。そして外面はともかく、中身はアームストロング少佐やエドたちに負けないくらいの御人好しだ。僕が何もしなくてもきっと無事なのでしょう?

 

 

 

「・・・お見通しという事か、ならば余計解せない。なぜ我々を始末しない?君の腕なら動けない私を殺すことなど造作もあるまい。それどころか、半身不随となった部下の治療まで」

 

 

「勘違いしないで頂きたいのですが、僕と『彼ら』は同志ではなく単なる雇用関係です。仇討なんてナンセンスですし、彼らが欠けても計画に支障はありませんから」

 

 

 

 そう、極端な話彼らが居なくても人柱さえ揃えておけば問題ない。寧ろ彼らが万全であることの方が問題です。計画が成ってしまえば僕の利用価値は消滅します。『彼ら』にとって人間など精々賢者の石の素でしかないのですから、むしろ余計なことを知り過ぎた無駄に技能のある不安材料は率先して排除する。会ってみて良く分かりましたが、彼らに信賞必罰などという人間らしい価値観は期待できそうにありませんし。

 

 

 

『でも、どうして?人体実験やヒュ-ズさんの件を見ても、その『彼ら』って人たちが碌でもないことは分かる。ウィル兄さんは何故その人たちに協力してるの?』

 

 

「簡単な事ですよ。彼らがやろうとしていることは他の誰にもできず、且つ僕の望みにも不可欠だからです」

 

 

 

 これ以上追及されるのも面倒ですのでお暇しましょうか。話せることは話しましたし、ここで敵認定されても和解する手土産は確保してますから特に問題ありません。

 

 

 

「そうだ、言い忘れてました。ヒューズ准将から大佐宛にお預かりしていた資料があります。ここまで来た貴方方なら渡しても大して問題ないでしょうから後ほど執務室に送らせていただきますね」(バタン)

 

 

「なっ!?待て、ヒューズは誰に・・・くそっ!!」

 

 

 

 これで良し。僕の情報網に引っかかってきたヒューズ准将の遺産、どう処分したものか頭を抱えていましたが上手く引渡せてよかった、よかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――数日後

 場所:セントラル 住宅街

 

 

 

 

『こちら4班、3人目の“傷の男”と交戦中!至急救援を!!』

 

 

『こちら8班!“傷の男”と思わしきイシュバール人と・・・うわ、何をする!やめ・・ぎゃああああッ!?』

 

 

 

 ・・・・・えーと、何だこのカオス。あの後中央司令部に出頭したら大総統から『鋼の錬金術師君がまた妙なことをし始めたから、ちょっと見てきてくれたまえ』と命令を受けたので街を散策していたらこの騒ぎ。はあ、また厄介ごとか。

 

 

 

 たしかレーヴ中尉に聞いたところ、エドたちが急に修理のボランティアをし出したらしい。あの子は直情的だけど結構理屈っぽいところもあるから妙な正義感に目覚めたとかじゃないとは思いましたが、まさか“傷の男”を誘き出す為とはまた思い切ったことを。

 

 

 実力で言えば決して兄弟は見劣りするわけではありませんが、如何せんカーティスさんの『生き残るための戦い方』と“傷の男”の『戦場で研磨された殺すための戦い方』は相性が悪い。格上、というよりも圧倒的不利な戦いの経験値も段違いですし急がないと。確かこの辺でいつも作業をして・・うわぁ、これは酷い。まさしく戦場といった壊れ具合ですね。音の方角からして此方に―――。

 

 

 

「―――返してよッ!!お父さんとお母さんを返してッ!!!」

 

 

 

 ――――は?

 

 

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

―――久しぶりに兄さんがエドたちと帰ってきたとき、どうして戦ってる姿が見たいなんて言ったんだろう。憎しみ・悲しみ・怒りで気が動転していたウィンリィはそんな場違いなことを考えていた。

 

 

突然知らされた両親の末路、衝動的に落ちていた銃を拾い向けたが撃つことが出来ない自分、そしてそんな自分のせいで家族に等しい幼馴染が窮地に陥った時、後ろから飛んできた無数の弾丸が“傷の男”を退け、アルフォンスの追撃により見えない位置まで後退していった。

 

 

「怪我はない様ですね、ウィンリィ。エドも無事で何よりですが、さっきのは少し無謀すぎますよ。あの男に同じ経験がなければ諸共に死んでいましたよ?」

 

 

「同じ経験って・・ウィル、“傷の男”のこと知ってるのか!?」

 

 

「イシュバールで直接殺し合った仲ですよ。しかし彼が叔父さん達の・・・。薄々そんな気はしていましたが、因果は巡る物ですね。彼の家族を奪い、殺しかけた所為で叔父さん達が殺されるとは」 

 

 

 

 エド達はその言葉に見ていられないという様に顔を背けたが、ウィンリィだけは兄の表情に違和感を感じた。悲しんでいるというより悲しみたいというか、悲しいと思いたいとでもいうような、言葉に出来ない何かを感じ取った。

 

 

 

「それでは、僕はアルの加勢に向かいます。エドはここでウィンリィについてやって下さい。あ、技術大佐権限による命令ですので、破って着いてきたら厳罰物ですよ!」

 

 

「え、ちょッ!?ウィル、待ち―――」

 

 

 

エドワードはウィルを制止しようとしたが、先程の会話を聞いていた憲兵たちに抑えられてしまい、そのままウィンリィと共に安全な場所へと護送された。

 

 

 

 

 

 




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