鋼の錬金術師 錬金術師も神に縋る   作:章介

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 無い知恵振り絞って悩みましたが、北で書くことが思いつかなかったので一気に話を進めてしまいます。それでは、どうぞ!


第十六話 終わりの始まりと切られる火蓋

 

 

 

 

 

 

 

 

Side ウィリアム

 

 

 

 

 ―――グリードは予想通り離反し、グラトニーはプライドに食われ、そのプライドも東で足止めを喰らっている。エンヴィーは北で容れ物を壊され――尤も、あの性格なら生きていれば口八丁で帰ってくるだろうが――ラースも列車を落下させられ、健気に全力疾走で帰っていることだろう。ホムンクルス勢は壊滅状態であり、しかもセントラルに残っているのはスロウスのみ。

 

 

 

 ただし、彼らにとっては残念なことに、『約束の日』は来てしまいました。事ここに至っては、人柱がアメストリス国内にいればすべてが事足りる。『フラスコの中の小人』は保有する戦力に邪魔をさせなければ悲願に手が届きます。

 

 

 

 ようやっとここまできました。最初は少しでも彼らの牙城を崩せればとだけ思っていた方々が、一騎当千の活躍で飛車角落ちまで持って行ってくれるとは。

 

 

 この後の流れは・・・間違いなく『小人』はひきこもる。師匠という最大の難敵をおびき寄せ、確実に封じ込めるためにも中心から離れるわけにはいかない。

 

 

 大総統は邪魔ものの排除、プライドはあと一つの空席を埋めるために罹りきりになるでしょうね。最初は僕を当て込んでいたようですが、一人だけ50人分という桁違いの真理を覗いたことと、かなり色々弄ってしまったせいで人柱にするのはかなりリスクが高いのだとか。まったく、人生何が味方するか本当にわからないものですね・・・。

 

 

 

Side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――遂に反攻の狼煙が上がる。先陣を切るはマスタング隊、それに呼応するように続々とブリッグズ兵がアームストロング邸から飛び出していく。マスタング隊は死者を出さない戦い方をしているため、直に中央兵に足止めされてしまうが想定内だ。

 

 

彼らが見据えているのは戦後統治。殆どの中央軍が『約束の日』に関与していないため、また世間には到底出せない内容であるため今日ここで起きた真相はほぼすべて闇に葬られる。つまりでっち上げられた事実が歴史となるわけだがそれにどれだけ真実味を持たせられるかが今ここでの行動にかかっている。

 

 

 

―――悪漢どもの野望を防ぐため、泣く泣く同胞と矛を交えた。それでも己の務めをただ忠実に果たしているだけの兵たちを殺すことなどできなかった。足手纏いになることを覚悟の上で大総統夫人を弾雨の中守り通したのも正義感故―――英雄譚としてはちょうど良い塩梅だろう。

 

 

 

 しかし英雄的行動はすぐに行き詰ってしまう。碌に補給線も持たない少数精鋭では、物量作戦は圧倒的に分が悪い。マスタング大佐に消耗が無くとも銃弾等の物資はすぐに底をついた。

 

 

 

 まさしく詰みの状況、しかし英雄が英雄たる由縁は武力や叡智だけではない。窮地に在って活路が開ける豪運もまた重要なファクターである。一台のトラックが中央兵の封鎖を突き崩し、彼らの前に躍り出る。しかもただの車ではない、人材はともかく、武装に関しては間違いなく最新式であるはずの中央兵の軍用ライフルすら弾き、タイヤに打ち込んでもびくともしない。おまけに積んである兵器はどう考えても時代を間違えて存在しているとしか形容できない変態武装ばかりであった。

 

 

 

 想定外の救援に驚く大佐であったが、乗っていた人物にさらに驚愕させられる。東部軍所属のレベッカはまだわかる、しかしシンにいたはずのマリア・ロスまで姿を現したのだ。どうやって間に合わせたのか問うと、運転席に座る忍者のような恰好をした男の仕業だという。

 

 

 

「シン国所縁の方ですか?御助勢感謝します、私はロイ―――」

 

 

 

「―――堅い挨拶は抜きにしましょうや、俺と大佐の仲でしょう?」

 

 

 

 聞き覚えのある、いや此処に居るはずのない男の声に全員が動きを止める。覆面を取った先には、未だベッドの上の住人であるはずの顔があった。

 

 

 

「愛されて80年、あなたの町のハボック雑貨店!パンツのゴムから装甲車、最近はとある違法ルートまで開拓し、外骨格強化スーツから国家機密レベルの試作銃まで幅広くお取り扱い、電話一本でいつでもどこでもお届け参上!!―――で、お支払いは?」

 

 

「出世払いだ、ツケとけッ!」

 

 

 

 ―――解散して約半年、マスタング隊が全員セントラルへと帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第二の狼煙は外では決して分からない形で上がることとなる。オリヴィエ・ミラ・アームストロング少将が完全に手薄となった上層部に対して反旗を翻した。可能なら最大の障害となるウィリアムの消息を確認してから行動に移りたかったのだが、これだけの騒ぎになっても未だ表に出てこない。周囲の罵声から事前に取り決められた行動ではないと察した彼女はプライドだけの腐った連中を挑発によって間合いに招き、即座に利き腕を切り裂き、残りは拳銃によって始末した。

 

 

 

 だが狼煙とはこのことではない。ウィリアムが上層部によって作らされた人形兵、それらを起動するトリガーこそが本当の狼煙である。

 

 

 起動した人形兵は、ウィリアムが仕込んでいた通りにその場の人間たちを皆殺しにした。上層部はこれを切り札に当て込んでいたが、その実全く異なる存在へと書き換えられていた。

 

 

そもそもこの人形兵はターミネータ遺伝子の調整によって半日と絶たず機能停止するよう設計されている。また、負の光走性を付与されており、内側へ、暗い方へと動いていくため、外に漏れる心配もない。凶暴性については一切手を加えていないが、これは軍の腐敗がどこまで進んでいるのかわからないため、とりあえず襲わせておこうと判断したからである。中央へと向かっているエドたちにも危険な存在であるが、彼らがこんな玩具にやられるはずが無いという、嬉しくない信頼でスルーされてしまった。

 

 

 

 ―――尤も、人形兵の最大の役割は、ホムンクルス達から僅かでも賢者の石を手放させ、混乱に乗じて回収することにあるのだが・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所:会議室前 廊下

 

 

 

 

 

 ―――まさしく死闘、という状況にあった。アームストロング少将の始末を命じられたホムンクルス・スロウスと戦い満身創痍となったところに追い討ちを掛けるように現れた人形兵。何とかその場にいた中央兵をなし崩しに指揮下に入れることで互角の戦いに持ち込んでいたが、大量の杭に串刺しとなっていたスロウスが復活したことで再び形勢が大きく傾いてしまった。

 

 

 

 窮地に立たされた姉弟であったが、彼女らを殺させまいと奮起した中央兵たちによって間一髪救われることとなる。そのまま血路を開き二人を逃がそうとするが今度こそ自身の戦場から逃げまいと少佐は立ち上がる。その咆哮に応えるかのように救いの手が現れる。

 

 

 

 恐らく現勢力で錬金術・白兵戦の総合力で言えば間違いなく最強と言える人物、エルリック兄弟の師である『主婦』イズミ・カーティスとその夫、シグがブリッグズ兵からの要請で駆け付けた。

 

 

 

 彼女たちは姿を見せるや否や人形兵たちを薙ぎ倒し、生き残った軍人たちの安全を確保すると最大の脅威であるスロウスへと向き直る。そして中央兵を振り切ったスロウスを迎え撃とうと構えた瞬間―――突如足元から崩れ落ち、頭から突っ込んできたため慌てて回避することとなった。

 

 

 

「・・・あらあら、こんなにも賢者の石を消費してしまって。貴重な資源の無駄遣いをする位なら潔く主の糧となりなさいな」

 

 

 

 イズミたちからは巨体が死角となって見えなかったが、向こう側に一人の女性が立っていた。その手にはスロウスから抜き取ったと思われる賢者の石が握られており、そこから再生しようと骨や筋肉が構成されようとしたが、女性が握り締め錬成光がしたかと思えば構成途中の物質は霧散し、スロウスは完全に消え去ることとなった。

 

 

 

「・・・貴様、エンフィールドの子飼いの――」

 

 

「数か月ぶりでしょうか、少将?そちらはイズミ・カーティス様ですね。お初にお目にかかります」

 

 

 

 その女性とは、数か月前までブリッグズに滞在していたウィリアムの副官、ラビ・レーヴ中尉その人だった。ただしその様相はだいぶ異なっているが。

 

 

 

「・・・なるほど、通りで幾ら経歴を洗っても出てこん訳だ。まさか奴の副官が合成獣だったとは」

 

 

「まさか。あのような後天的に歪められた出来損ないと一緒にしないでください。勿論子を成すことも、錬金術も行使出来ないホムンクルスのような欠陥品でもございません。あえて名乗るとすれば『ゴーレム』とでも呼んでください」

 

 

 その姿は、腰の部分から無数の茨が天井や地面へと巻き付き、背中からは蛾とも蝶とも取れる翅が生え鱗粉をまき散らしていた。

 

 

 

「――――はあ、随分な有様だねえ。あの男は命を冒涜するような奴じゃないと思ったんだけど」

 

 

「その認識で間違いありませんよ、ミセス・カーティス。―――あなた、御子息はいらして?」

 

 

 

 その発言にシグは憤怒の表情で詰め寄ろうとするが、イズミはそれを手で制して止めた。彼女からは揶揄や挑発の雰囲気がなく、表情も至って真剣そのものだったからだ。

 

 

 

「・・・ああ、居たよ。不甲斐ない所為で産んであげられなかったけど」

 

 

「そうでしたか、大変失礼をいたしました。ですが、私たちも同じかそれ以下の存在なのですよ。生まれるはずの無かった命、誰にも誕生を望まれなかった試験管ベビー。かつて『エメス』が外聞を気にする上流階級に向けた中絶処置を名目に、未だ胎児ですらなかった私達に奇跡の業を施し、複雑な機械に繋いで産み落とされたのが我々なのですよ」

 

 

 

 思いも寄らない出自にその場にいた全員が驚愕の表情を彼女に向ける。特に『望まれなかった命』という言葉にイズミは表情を酷く歪めた。しかし、敵として立ち塞がる以上、しかもウィリアムがこの土壇場で送り込んできた存在に手心を加える余裕など彼女らにはない。

 

 

 

「さて、意味のない昔話はこのくらいにしましょう。いま私の同胞が人形兵から賢者の石を抽出している所です。このまま貴方達を野放しにしては人形とその中の石が破壊されてしまうでしょう?錬成陣が起動するまでの間、わたくしと踊って下さいな。あ、前金ではありませんが、此方を差し上げます。十分今回の企みを知っていますし、吐かせるなり戦後に利用するなり御随意に」

 

 

 

 そういって上層部メンバーの一人であるエジソン准将をアームストロング達の下へ放り投げる。イズミは僅かに目を閉じ気を落ち着かせると、何時もの不敵な笑みを浮かべ腕を鳴らして前に躍り出る。

 

 

 

「―――上等ッ!ご主人様と一緒にぶん殴られる覚悟は出来てんだろうねッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所:中央司令部 正門

 

 

 

 

 少し時間が進んだころだろうか、此方でも死闘が繰り広げられていた。司令部の九割がブリッグズに落とされ、勝利を確信した一瞬を狙ったかのように宣言される『主の帰還』。大総統キング・ブラッドレイが戦場へ舞い戻り、まさしく鬼神の如き活躍に中央兵は息を吹き返し、抑えの要であった戦車を潰されたブリッグズは窮地に立たされていた。

 

 

 

 ―――しかし、ここでも救いの手が伸ばされる。

 

 

 

「――激情に任せて吠えたところで、得な事なんざありゃしねえッ!!・・・だけど何でかねえ、見捨てる気になれねえんだよな、そういうの」

 

 

「・・・・・あのまま黙って逃げておればよいものを。今一度切り捨てられに戻ったか」

 

 

「生憎底なしの強欲なんでね、お前の命も欲しいんだよ、ラース。それに、あんたの首が欲しいのは俺だけじゃねえみたいだぜ?」

 

 

「―――ほう、裏でコソコソ動くかと思ったが、貴様もここへ来たか。エンフィールド技術大佐」

 

 

 

 まさしく一触即発、そんな雰囲気でありながら向かってこないグリードを妙だと感じたが、扉を開いて現れた男に納得する。確かに自分と相対するのであれば、これ以上ない助っ人であろう。

 

 

 

「契約を反故にした、という訳ではなさそうだな」

 

 

「ええ、もちろん。人柱とその候補が全員この司令部内にいる以上、もう我々にすべきことなど無い。なら、僕が姿を見せなければ心配性の皆さんは落ち着かないでしょう?なら、こうやって誰にでも分かる位置にいることこそ契約に沿うというものです」

 

 

「・・・ではなぜ反逆者らを討たん?計画を妨げる全てを排除することが君の務めだ」

 

 

「つまらないことを言わないでください。彼らが今更陣の起動をどうにかできるはずが無いでしょう?であれば僕が関与する対象ではありませんし、彼らはことが成った後で重要になる人材です。貴方にスパスパ切らせるわけにはいかないんですよ。それと最後に、反逆者も何も、貴方方『約束の日』以降の統治なんて考えてないでしょう。義務を放棄した王からそれらを引き継ごうとする彼らは反逆者などでは無く、どこに出しても恥ずかしくない立派な後継者ですよ」

 

 

 

 言いながら間合いを調整するように歩き、懐から愛用のロングバレル・リボルバーを、そしてもう一丁大型のリボルバーを左手に構える。この場にそれを知る人間はいないが、かつて学生時代に却下され、長らくガラスケースのオブジェとなっていた逸品である。

 

 

 

「まあ、そんなことは些細な事です。今この場で重要なことは、ホムンクルスという超越者でありながら、60年間一度も胡坐をかくことなく己を磨き続けた真正の怪物である貴方に無傷でいられては、何もかもをひっくり返されかねないという事だけです。如何ですか、大総統。嘗ての御前試合の決着、この大一番でつけておく気はありませんか?」

 

 

 

「くっはは、はーーっはっはっはッ!!面白いッ!全身全霊を賭して足掻いてみせよ、人間ッ!!」

 

 

 

 ―――その言葉を最後に、正門前の戦いは人外が凌ぎを削る地獄と化した。

 

 

 

 

 

 




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