鋼の錬金術師 錬金術師も神に縋る   作:章介

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 二話連続投稿です。


第一話 陽だまりと凶報

 

 

 

Side ウィリアム

 

 

 

「――――それではアメストリス士官学校公認課外活動、『下手物倶楽部』第19回を開会します!!」

 

 

『『おぉ―――ッ!!』』

 

 

 

 はいどうも。初端から何トンチンカンなことやってるかと突っ込まれそうですが、これは純然たる課外授業、つまりは部活動です。まあ士官学校なせいで若干物騒なお題目の部活ですが。ちなみに創設者は僕です。ちゃんと学校の認可は降りているのでご心配なく。どんな活動をしているかというと――――。

 

 

 

「いよいよこの活動も19回。今までも色々お披露目してきましたが、いよいよあのお題を叶える品が出来上がりました!」

 

 

「おおっ!企画をぶち上げてから随分かかったじゃないか。期待してるぜ!」

 

 

「『最強』って一口に言っても何に比重を置くかで答えが大分変わるからな。はやくみせてくれよ」

 

 

「それではさっそく。これが今回僕が作ったとっておきです!!」

 

 

 ――――軍の備品を錬金術を用いて魔改造してみよう、という活動です。ちなみに今回のお題は『自分にとって最強の拳銃』です。こんな酔狂な活動に何故か乗ってくるノリの良い人たちが多く、気付けば中々の規模になってしまいました。ここまで漕ぎ着けるのに紆余曲折ありました・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事の始まりは2年前、晴れてこの士官学校に入学し勉学と訓練に勤しむ中、国立図書館への無料入館権があるのを良いことに錬金術の進展に全力を注いでいました。そしてある程度発展型を修めたあたりで大きな壁にぶち当たりました。それは僕が国家錬金術師としての素質に乏しい、という事です。

 

 

 気付いたのは郊外で錬金術の試し撃ちをしていた時。錬成したものの質は申し分ありませんでしたが、錬成する規模が広がるにつれて、出来上がりが極端に悪くなることに気づきました。『両の手で持てる物以上の質量』や『地面を覆い尽くすような広く浅く』を条件に入れるとその劣化は顕著でした。これが意味するところは、国家錬金術師に求められる『人間兵器』としての側面が果たせない、ということです。戦闘能力が国家錬金術師の絶対条件ではありませんが、その代わりハードルがとてつもないレベルで跳ね上がります。それこそ世紀の発明レベルでもないと取得できず、しかもそれと同等の成果を上げ続けないと容赦なく資格を剥奪される。この国が錬金術師に何を求めているかがよくわかることでしょう。

 

 

 

 自分は錬金術師として大成できないというのは良くわかりましたが、さりとてここまで来て今更諦める気にもなれず、どうしたものかと途方に暮れていた僕に光明を齎したのが、今は亡き母の研究成果でした。今までは難解すぎて碌に理解できませんでしたが、リゼンブールに居た頃とは比べ物にならないほど錬金術の知識に触れたおかげで少しずつですが解読していくことが出来ました。どうやら母は錬金術に真理など求めておらず、人の技術を超えたオートメイルを作ることを目的としていたようです。義手を作るのに大規模破壊など不要でありむしろその逆、より軽量且つより精巧な成果を求めた錬金術を目指していた。謂わば『最巧の錬金術』とでもいうべきでしょうか。まさしく僕の目指すべきものであると言えるでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 方針が決まった以上寄り道は無駄以外の何物でもありません。今必要なのは知識ではなく経験。とにかくより繊細、より巧みな錬金術を目指して、とりあえず身の回りの物を片っ端から手を加えていったのですが、これが一部の同期の反感を猛烈に煽ってしまったのです。唯でさえ主席入学などという悪目立ちする入り方をしてしまったため、中央の温室育ちの坊々に目を付けられていたようですが、そこに来てさらに錬金術というエリートの代名詞のような物を使用しているのだから彼らの僕に対する敵意は並大抵のものではありませんでした。

 

 

 

 それからの彼らのやっかみは相当なものでした。やれ『国家錬金術師にもなれない出来損ないの技術で点数稼ぎをしている』だの『高尚な技術を隠れ蓑に着飾って粋がっている田舎猿』だの、しまいには『錬金術師を騙る詐欺師』とまで言い出す始末。正直言いがかりにもほどがあるでしょうに。そもそも一般軍人の人事考課に『錬金術』がない以上、医療用錬金術でもない限り趣味以上の評価などある筈もない。よって点数稼ぎの仕様がないのですが彼らには知ったことではないようでした。しかも質が悪いのは、人を陥れる方法に熟知しているのか、僕を知らない人はつい信じてしまいそうなプロパガンダを吹聴して着実に評判を落としてくることです。鬱陶しいことこの上ない。

 

 

 

 

 しかしそんな状況にも転機が訪れました。あれは夏ごろでしたか、白兵戦の訓練用にサバイバルナイフ(刃挽き済)が支給された時の事です。せっかくの貰い物なので良い訓練教材になると柄や刃渡り、刃の密度や硬度など色々錬金してカスタムしていたらいつも通り連中が嫌味を吐きにやってきました。ここまでならいつも通りの光景ですが、ここに偶然ある人物が通りがかりました。

 

 

 その方は数少ない国家錬金術師の一人であり、現在大佐の地位にあられるバスク・グラン大佐です。連中はこれ幸いとあることないこと大佐に吹き込みますが、大佐は一言『その件の一振りを見せてみろ』とだけ言い放ちました。僕としても自身の技術に引け目など無かったのですぐに応えました。

 

 

 連中はこれから起こることが楽しみで仕方がない、という表情でした。彼らの脳内では、身の程知らずの猿が本物の錬金術師に自身の未熟をこれでもかと罵られる光景がありありと浮かんでいたのでしょう。

 

 

 ところが大佐はじっくりとナイフを見定めると、あろうことか「見事な柄細工だ。これを錬金術でやってのけたとは驚きだ。刃の出来は意地にかけて遅れは取らぬが、この繊細さは私には不可能だ」と僕を称賛しました。そして続けて「私は彼が錬金術と呼ぶのも憚られる詐欺師だとたった今聞いたところなのだが、これでは私は下より、『鉄血』の錬金術を戴くグラン家が無能に劣ると罵られたわけだ。もしこれが嘘だというのなら、その者はあろうことか上官を謀ったことになるのだが、誰か心当たりはないか?」と彼らを睨みつけた後部下に連行させました。その後彼らをこの学び舎で見ることは二度とありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 正直夢でも見ているのかと状況についていけなかった僕にさらに驚くような話が飛び込んできます。グラン大佐に初めて出会ってから数日後、学長閣下から呼び出しを受けました。内容は『イシュヴァール内乱が当初の予定以上に泥沼化し人的資源の損失が深刻な数字となってきている。よってこれ以上の被害を抑えるためにも兵の生死を分ける装備の向上は急務である。その大役を貴官に一任する。成果については逐一報告し、上層部に通った武装はグラン大佐指揮下の部隊に試験的に実装する』というものでした。色々突っ込みたいところがありますが、とりあえず入校1年未満の学生に課すものではないと思うのですが・・・。

 

 

 

 校長室を辞した後、とりあえず元凶であるであろうグラン大佐に面会を希望しました。大佐は僕が来ることが分かっていたのでスムースに通され、事の次第を説明してくれました。

 

 

 

 大佐は国家錬金術師であるため、現時点では内乱に参加することが出来ません。しかし何世代にも亘って軍部を支えてきたグラン家には分家や門弟が多く存在し、日夜彼らが戦場に散っている情報を耳にし心を痛め、少しでも助けになろうと開発部門をせっついても成果が出ず焦っていたようです。あのとき学校で出会ったのも、民間や見込みのある学生から開発の協力が得られないかと上層部に直談判を行った帰りだったとか。

 

 

 

 そんな時、僕の錬金術を見て今回の案件を思いついたそうです。生産分野の錬金術を専門とする人間と若く柔軟な発想が出来る人間を組み合わせれば、既存の常識にとらわれない発明が出来るのではないか。そうすれば今まで無能呼ばわりされていた錬金術師にも名声が与えられたり、行き詰っている技術開発に追い風を吹かせられるのではないか、と。

 

 

 

 とはいえ、前線が深刻化しているなどという情報は候補生たちに余計なプレッシャーをかけ、肥大化した噂が世論を不安にさせるため、表向きは錬金術に心得のある生徒が自身の技術を活かす場を作るべく学校に部活動の要請を行ったら通ってしまった、という体で行くとのこと。最初からダメでもともとの計画なので気負わず、錬金術師らしい探究心を満たすべく邁進してくれたらそれで良いと言われてしまいました。あの、僕の両肩に掛かるプレッシャーについてはもう少し考慮していただけませんか・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあ、そんな事情が絡んで始まった部活動『下手物倶楽部』。当初はこんな怪しい活動に加わる奇特な人間はいないだろうと思っていたのですが、意外と多くの人が参加してきて驚きました。件の嫌がらせ事件で、自身も目を付けられかねないのに庇ってくれたり世話を焼いてくれたロス先輩やハボック先輩、他にも理論関係はプレダ先輩、テスターにはホークアイ先輩やカタリナ先輩が協力してくれました。特にハボック先輩はイシュヴァールの内乱がきっかけで軍に入ってきた人なので殊更熱心に参加されていましたね。

 

 

 

 発足してからしばらくは、とにかく使用者の生存率向上に重きを置いた物に取り掛かることになりました。例えば植物の『セルロース』という物質の構造を弄って高密度にした物を軍服に編み込んで強化したり、非常に強力な鎮痛効果のある薬物から配列を変えずに毒性や中毒性のみ分解して副作用を減少させた麻酔や鎮痛剤を開発したり、ネズミ取りから着想を得た、誰でも患部に当てるだけで使える瞬間止血帯なんかも作ってみました。

 

 

 特に軍服は絶大な効果を齎したそうです。わが軍の正式採用銃はともかく、アエルゴ製のちゃちな銃弾なら完璧に防いで見せたことから発注が相次ぎ、3か月くらい栄養ドリンク片手に缶詰めになっていた時がありました。あれはもう二度とやりたくないです。

 

 

 

 今は頼まれた品は全て届け終わり、特に追加の依頼もないので割と趣味に走った研究も取り扱っています。一応部活動なんですから、真面目すぎるのも良くありませんし。

 

 

 

 そういう訳で、思い切り話が横道にずれましたが今日の集まりの本題に入っていきましょう。今回僕が持ち込んだのは1丁のリボルバー形式の拳銃です。そのうちの一つは非常に重厚で、丸型の筒が多い一般的なリボルバーと異なり長方形の四角い形状の銃筒になっています。

 

 

 

 

 

「ではこちらを。南の方で作られた『マテバ』という銃をベースに改造したものです。元の銃から全体的に巨大化させてあります。全長39センチ、重量は6キロ。弾はは60口径の専用弾を使用します!」

 

 

 

 僕はこの傑作を生み出せた感動をぜひ分かち合いたいと満を持してお目見えしたのですが、反応は真っ二つでした。威力至上主義のイカれた(褒め言葉)方々やハボック先輩のようなロマンを解する人は興味深そうに見ていますが、プレダ先輩やホークアイ先輩のような常識人枠の人は『なにやってんだ、こいつ』といわんばかりの表情をしています。

 

 

 

「60口径ってたしか、対戦車ライフルとかに使われるサイズだよな?一発撃ったら壊れるんじゃないか?」

 

 

「強度に関しては以前開発した炭素繊維を高密度で圧縮したものを使っているので問題ありません。専用弾についても対戦車のような貫通力と威力に重点を置いた物ではなく、とにかく衝撃力に重点を置く仕組みを採用しました。未だ実践使用がされていないため正確なデータはありませんが、掠るどころか真横を通るだけで肉体を吹き飛ばせる仕様となっています。対多数用の面制圧用拳銃を目指しました」

 

 

「・・・てことはこいつが弾を吐き出すたびに人間の挽肉が出来上がるってことか?」

 

 

「何それグロイ」

 

 

「まあ、戦意を折る分には有効・・・なのかしら?」

 

 

「あとこの銃の最大の特徴は、リボルバーにフルオート機構を採用していることですね」

 

 

「は?装弾数6発にフルオートは無駄じゃないのか?」

 

 

 

「言ったでしょう?これは『僕にとって』最強の銃だと。僕なら左手に弾丸または鉄屑を入れた袋を持っていれば、分解と再錬成で薬室に弾を補充することが出来ます。なので弾切れどころかリロードすらせずに撃ち続けることが出来るんです!」

 

 

「ほう・・!けどオートマチックじゃ駄目なのか?」

 

 

「オートマは薬室を排莢しちゃいますからね。バネが隙間を埋めてしまうので再錬成がとても難しいんです。なので薬室が残るリボルバーが一番適してますね」

 

 

 

 なんて説明していると皆さん好意的に見てくれるようになってきました。うんうん、やっぱり自分にとって良いと思える品が評価されるのは気分が良いですね。・・おや?

 

 

 

「ホークアイ先輩、どうかしましたか?」

 

 

「・・・・ねえ。確かに機能美や素材は凄いと思うけど・・・・・・・これ、片手で撃てるの?」

 

 

 

―――――――あっ。

 

 

「まず撃てないよな、これ」

 

 

「機能や性能に拘り過ぎて、実用性がすっぽ抜けちゃったのね」

 

 

「くうぅ・・・」

 

 

 

 

 ・・・・傑作は日の目を見ることなくショーケースの飾りとなりそうです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――まったく、自分の稼いだ銭を人にやるもんじゃないよ!!しかもあんなにふざけた額を送ってくるなんて。とうとう孫が犯罪に手を染めたかと肝を冷やしたよ』

 

 

「いやー。ごめんなさい、おばあちゃん。僕もいきなりあんなもの貰って動転してしまいまして。学生があんなの持ってても碌なことにならないだろうからつい・・」

 

 

「まあ、そりゃそうだけどねぇ・・・・」

 

 

 

 

 しばらく会ってない祖母から何を叱られているかというと、ちょっと引くくらいのお金を振り込んでしまったんですよね。

 

 

 

 下手物倶楽部の集まりから数日後、またまた校長室に呼ばれたので言ってみたら、僕らにとっては雲の上の御方がいらっしゃった。この国の頂点に君臨しているトップ、キングブラッドレイ大総統その人です。

 

 

 

 

「君がエンフィールド君だね。グラン大佐から聞いているよ。とても前途有望な錬金術師の卵だと」

 

 

 

―――あの人何言っちゃってるの!?僕は一般軍人の候補生としてここにいるんだから、そっち方面ではあまり持ち上げてほしくないんですが・・。

 

 

 

「今日ここに来たのは、君の成した功績を正しく評価するためなのだよ。君らの発明品は前線の被害を確実に減らしている。未だ内乱が収まる気配がないことと、学生の身に過分な称賛は良くないという理由で大それた表彰が出来んが、信賞必罰は軍の倣い。せめてもの誠意として労いに来させてもらった。まあ儂の様な老骨に褒められるより勲章や出世の方がよほど良いだろうがね」

 

 

 

 いえ、正直畏れ多すぎて卒倒しそうです。

 

 

 

「あと、君の口座にささやかだがこれまでの貢献に対しての報酬を振り込んでおいた。戦費が拡大する一方だからと秘書官がうるさくてな。額面に対する愚痴は家族の方に頼む」

 

 

 

 いえ、不眠不休で缶詰にされた精神的な負担はともかく、只管手を物品に翳すだけだったので肉体的負担はほとんどなかったんですが。しかも試験関係皆免除して貰えたので寧ろ有難かったというか・・・。

 

 

 

 それからも2,3言続いたのだが、正直一杯一杯だったので覚えてません。あと、色んな方にご協力と迷惑を掛けたので、できれば参加した人全員を労ってほしかったです。罪悪感が凄いです。まあ、とても口には出せませんでしたが。

 

 

 

 何とか気力と根性で校長室を退室した後、とりあえず通帳をのぞいてみたら、とんでもない額が入金されてましたので、何も考えずにおばあちゃんに振り込んだらすごい剣幕で連絡が来た、という訳です。

 

 

 

 その後、とりあえず就職するまでは預かっておくから、しっかり錦を飾りに帰ってくること、それから帰ってきたらみんなで盛大にパーティをするので、楽しみにしておいでといわれました。久しぶりの電話でしたが、本当に家族というのは良いものですね。

 

 

 

 なんて感傷に浸りながら過ごした夜、寮長からまた電話だと呼び出され向かったら再びロックベル家からでした。何か伝え忘れでもあったのかと出てみれば、意外な人からの電話でした。

 

 

 

「おや、ウィンリィちゃんでしたか。どうしましたか?こんな夜更けに」

 

 

『―――ごめんなさい。おばあちゃんには伝えるなって釘刺されてたのに、どうしても不安で・・・・・・』

 

 

 てっきり自分が出られなかったことに拗ねてかけてきたのかと思いましたが、切羽詰まった子供らしくない深刻さに嫌な予感を覚えました。

 

 

 

「何かあったんですか?おばあちゃんやエド君たちにまさか・・・」

 

 

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お母さんたちが、イシュヴァールに行ったきり帰ってこないの』

 

 

 

 その一言に、僕の頭は真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、いた!ホークアイ先輩!!」

 

 

 

「きゃっ!?何だ、ウィリアム君じゃない。そんなに焦ってどうしたの?」

 

 

 

「先輩、来週からイシュヴァールに向かうんですよね?」

 

 

 

「・・・ええ、上からの命令で。それが何?」

 

 

「志願兵の申請、まだ打ち切られてませんでしたよね?」

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 




ここまでご覧いただきありがとうございます!次回から戦闘回に入っていきます。感想等お待ちしています!!

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